魚の寝床
「『魚の踊り、魚の寝床が知ってるよ』……ってことは、さっきの蝶みたいに、魚の寝床を探せばいいのよね?」
レオンが少し考えて口を開いた。
「蝶の寝床が蝶の集まる場所なら、魚の寝床も魚の集まるところだろ。浅瀬と深瀬の境目とかだな。マルク、そういう場所を知らないか?」
「おお、レオン様、昔取った杵柄ってやつ?」
私がニヤニヤして突っ込むと、レオンが照れくさそうに頭を掻く。
「そんなんじゃねぇって……昔、孤児院で川遊びをしていた時、魚がそういう場所に集まるのを見ただけだ」
「なんや、レオン様、魚マスターやんか!男の子はみんな釣り好きやもんな!さあさ、行きまひょ!」
マルクが手を叩いて案内を始める。
湖と川の境目に着くと、水面がキラキラと反射し、小魚がピチャピチャと跳ねていた。
水中に顔を近づけるとたくさんの色とりどりの魚が流れに逆らって泳ぎ、岩陰に隠れ、それぞれの様態で草をついばんでいた。
「俺が潜って見てくる。ここにあるはずだろ」
レオンがズボンをまくり上げて水に飛び込む。
「気をつけてよね、ドジっ子剣士!また沼みたいに沈むんじゃないわよ!」
と、からかいながら叫ぶ。
「うるせぇ!沈まねぇよ!」
とレオンは、水しぶきを上げてどぷりと潜っていった。
そうして小石を積んだり、近くの草を観察して古書の薬草ページとにらめっこして待つ。
しばらくして、レオンが顔を出した。
「おい、リナ、マルク!川の底に魚の形をした石像があったぞ!触ったら何か出た!」
少し遅れて水面が揺れて、鱗を生やしたトカゲのような青年――リザードマンの幻が現れ、水面を切るように、優雅としかいいようがない踊りを始めた。
腕を振って波を切り、尾を振ってステップを踏む姿が格好良い。
レオンが水から上がって髪を振る。
服を脱いで水気を絞り、荷物を持つ。
草陰で着替えをしてくるようだ。
「俺は踊らねぇからな!リナ、頼んだぞ!」
「任せなさいよね!星の魔女様の踊りを見せてあげるわ!」
私は、ノリノリで前に出て幻の動きを真似る。
「こうやって、腕を振って……ステップして……!」
とやってみるが、腕が大げさにバタバタ、足がガクガクで全然違う。
マルクと草陰から見ていたレオンが肩を震わせて笑う。
「あんたたち、笑うくらいなら踊りなさいよ!」
と脅し、私が再挑戦するが、腕を振った拍子にバランスを崩してまたしても「うぎゃっ!」と変な声を上げてしまった。
爆笑の中、私が何度も練習して、やっとリザードマンっぽい動きに近づいてきた。
腕を滑らかに振ってステップを踏むと、魚の群れが水面で跳ねた。
「できた!見て見て、レオン、マルク!」
私は胸を張る。深緑のマントがふわりと揺れた。
「魚の寝床もクリアやなぁ!魔女はん、笑いも踊りも抜群のセンスやで」
マルクもレオンも拍手してくれた。
「まじで、ほんとに、次があっても絶対踊らねぇからな。潜るとかそういうの担当だぞ俺は。」
レオンが濡れた髪を拭きながら念を押してくる。
「適材適所。そういうのは任せるし、言われなくてもこんな楽しい役目、譲るわけないわ!次は……」
私は、瓶に耳を当てて考える。
「『お昼寝』だって!どうなるか楽しみね!」
「『たまにはお昼寝、草たちもそっと囁く』……次は草がいっぱいある場所かしら?」
私は、マルクを伺う。
なんだかんだで、マルクが接待してくれているような気がして、謎解きがスムーズに進んでいる。
「せやなぁ、迷宮の奥に草むらがあって、そこで休む場所があるかもしれんで。蝶と魚の次は草や!」
「まだ謎解きかよ……お前らが楽しそうだから付き合ってやるけどさ」
レオンだって、まんざらでもない顔をしているし、楽しんでいる癖に。
素直じゃないやつだ。
「こんなにワクワクする謎解きってないじゃない?」
「わてもこの旅、楽しすぎて離れられへんわ!」
「お前ら、ほんと騒がしいやつらだな。」
レオンが呆れ顔で笑う。
私たちは、蝶の導きで再び歩き出す。
魚の踊りを思い出して、レオンがまたもやからかってきた。
「リナ、あのカエルみてぇな飛ぶ踊り、もう一回見せてくれよ」
「あれは芸術!やすやすと見せませーん。」
「せやで、芸術的なカエルやで!」
「ちょ?!マルクーーー?!」
マルクまで私達の定番になってきたおふざけに加勢して、私たちは笑いながら次へと向かう。
旅は賑やかで、絆を深めているのを感じた。
謎解き
歌の内容はこちら
♬
星の涙が歌う
耳長の祭りにいらっしゃい
魚に踊りを見せてから
魚の踊り
蝶の寝床が知ってるよ
ひらひら舞う秘密
魚の踊り
魚の寝床が知ってるよ
海の底でお勉強
魚の踊り
たまにはお昼寝
草たちもそっと囁く
涙の歌は終わらない
魚も聞きたい 涙の歌
星の声が響き合い
祭りの道が呼んでいる
♫




