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蝶の寝床

「あ~もう!きれいなこえも何にも分からないと憎たらしいわ〜」


森の奥深く、星実の木々が青白い光を放つ迷宮の中を、私たちは蝶を追いかけて進んでいた。

湿気を帯びた空気に、蝶の鱗粉がむわんと頭をぼうっとさせる鱗粉を漂わせる。


回らない頭で星涙花の瓶を耳に当て、謎を考え込んだ。


「リナ、何か分かったか?」

「全っ、然。『星の涙が歌う、耳長の祭りにいらっしゃい』って……本当に答えなんてあるのかしら、これ?」


私は、瓶を振ってみる。

すると、マルクがニヤリと笑って割り込んできた。


「魔女はん、そら星涙花せいるいかやで!嘘はつかへん。蝶でも魚でも、解きさえすれば導いてくれるんや!レオン様なら分かるやろ?」


「俺に振るなよ。歌なんて聞いても、すげー綺麗な歌ってことしか分かんねぇよ……」

レオンも頭を抱えているようだ。


「とりあえず、蝶についていくしかないよね!ほら、あそこ!」


私が指差すと、青と金の翅を持つ蝶が、円を描きフワッと飛び立っていく。

早く追いかけねばと足を向けたら慌てたレオンの声がした。


「あっ!リナ、待てって!また迷うぞ!」


「ええやんええやん!迷うのも楽しさや!」


マルクはそんなことも気に留めずノリノリでついてくる。

私の似たような性格なのが伺えて少し親近感が湧いた。



しばらく蝶を追いかけると、丸々と穴の開いた星実の木の周りに、花が咲き乱れる場所にたどり着いた。


木の洞には巨大な花が鎮座している。

薄紫の花弁から蜜がトロリと滴り、蝶が数匹、入れ替わり立ち替わり花に止まって、翅をパタパタさせていた。


「見ろよ、これ……蝶の寝床じゃねぇか?」

「見るからに蝶の寝床ね!この光景、なんて可愛いの〜!」


花の根元に目をやると、小さな蝶の置物がちょこんと置かれている。

不思議に思って触れると、パッと光が弾け、蝶の羽を生やした子供の幻が現れ、くるくると踊り始めた。



「わっ!踊ってるわ!まさかこれが『魚の踊り』?」

「正解や魔女はん!『覚えろ』っちゅうことやな。気張り所やで、魔女はん!」

「踊るの!?うれしいわ、私、得意なのよ!」


私は、ノリノリで両手を広げ、ステップする。

しかし、レオンは即座にずずずず、と、後退した。


「え゛、踊るのかよ……俺はパスだ。こういうのは、リナの仕事にしてくれ!」


と、ボイコット宣言。


「レオンもサボらないで踊りなさいよ!」


私は、腰に手を当てて睨みつけるがレオンの表情は変わらない。


「俺は、剣を振ることしか出来ねえんだ!」


レオンが剣をチラッと見せるが、錆びついた刃がカタカタと揺れて、逆に情けない。 

今はその剣も、あんまり振れてないじゃないという言葉を飲み込みぷうと頬を膨らませた。


埒が明かないので、私は幻の子供の動きを真似始めることにする。


「こうやって、くるっと回って……跳ねて……!」


ステップを踏むが、バランスを崩して「うわっ!」とよろける。


すると、マルクが腹を抱えて笑いだす。


「なんや魔女はん、その動き、蝶じゃなくて地面のムシやんか!」


「子供の方が100倍上手いぞ。見てみろよ。あいつ、めっちゃ軽やかだ!」

レオンが指差してクスクス笑う。


「大真面目なのよ!あっレオンまでバカにして〜。キャッ!?!ハハハハ!見てて、今度こそ!」


私が再挑戦するが、また足が絡まって「うぎゃっ!」と変な声を上げる。


「魔女はん、そら踊りじゃなくて転がりやで!」


「転がりでもいいのよ!気持ちが大事でしょう!」


私が立ち上がってドヤ顔をすると、レオンが肩を震わせて笑う。


何度も挑戦して、私の動きがやっと幻に近づいてきた。

くるっと回ってステップを踏み、最後に「えいっ!」とポーズを決めると、不思議と集まっていた蝶が一斉に飛び立った。


「できた!見て見て、レオン、マルク!」


私は、胸を張る。

「蝶の寝床クリアやな。やるやん、魔女はん。」

マルクが拍手した。


「楽しそうでよかったな。俺に絶対踊らせんなよ?」

レオンが念を押すと、私がニヤリと笑う。


「次も私が踊るから大丈夫!ね、マルク?」


「踊りたい方に任せたらええ、得意なことはそれぞれ違うんや。次は魚やで!楽しみやなぁ!」


レオンは少し申し訳なさそうに、だけど嬉しかったのか「おう」と呟いてマルクの背中をドンと叩いた。

前回の歌の内容はこちら

星の涙が歌う

耳長の祭りにいらっしゃい

魚に踊りを見せてから

魚の踊り

蝶の寝床が知ってるよ

ひらひら舞う秘密

魚の踊り

魚の寝床が知ってるよ

海の底でお勉強

魚の踊り

たまにはお昼寝

草たちもそっと囁く

涙の歌は終わらない

魚も聞きたい 涙の歌

星の声が響き合い

祭りの道が呼んでいる

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