涙のうた
「そういえば、迷宮ってエルフの里に繋がってるの?」
「せやで。ちょうどええ。星涙花の瓶、持っとるやろ?」
マルクが私の瓶を指差す。
「うん、持ってるよ」
「ほら、星涙花の液体は、星の欠片から生まれたものの声を聞けるんや。耳を当ててみ?」
「え、本当?」
私は、瓶を耳に近づけた。
鈴が鳴るような声が、詩を歌い始めた。
♬
星の涙が歌う
耳長の祭りにいらっしゃい
魚に踊りを見せてから
魚の踊り
蝶の寝床が知ってるよ
ひらひら舞う秘密
魚の踊り
魚の寝床が知ってるよ
海の底でお勉強
魚の踊り
たまにはお昼寝
草たちもそっと囁く
涙の歌は終わらない
魚も聞きたい 涙の歌
星の声が響き合い
祭りの道が呼んでいる
♫
私は、目を丸くした。
「レオン、すごいよ。聞いてみて」
「なんだ、これ?歌?何の役に立つんだ?」
レオンも瓶を受け取り、耳を当てる。
「なんかよく分かんねぇけど、いい声だな……」
レオンは、気に入ったようで、何度も瓶に耳を当てている。
「これが、エルフの里への行き方やで。もうすぐ祭りやしな」
眼鏡の奥の目が、細く笑う。
「え、どういうこと?魚の踊りって?」
「まーじで意味が分からん。」
歌は気に入ったらしいレオンだが、歌詞は私と同様、よく分からないようだ。二人で首を捻る。
「謎を解く楽しさがあるやろ?」
マルクは、意地悪く笑う。
多分、からかっているのだろう。
「リナ、何か分かるか?」
「まったく、さっぱり」
私はお手上げでーすと、バンザイポーズして空を見た。
「せやなぁ、自分で気づくのが面白いんやで。ほら、きばりやぁ!」
「もう!教えてよ!」
「魔女はん、頭が良いからすぐに分かるはずや。レオン様も、一緒に考えたってや」
「お前ら、楽しそうで何よりだ」
レオンは呆れた顔でこちらを見る。
ずいぶん他人事だ。私より早くもう考えるのを放棄していたようだ。
「ねえ、マルク。魚の踊りって何!?教えてよ!」
「しゃあないなぁ、ヒントや。とりあえず、分かるところに行けばええんちゃう?」
「聞いてみたけど、さっぱり分からないわ!」
「俺も」
「なんや、二人とも。根性ないなあ。まあ、進めば分かるやろ」
そう言って、マルクは歩みを進める。
「迷宮に行けば分かるで」
「マルクの言う通り、迷宮に行くしかないか」
「うん、エルフに会いに行きましょ。蝶……魚……?一体、何なんだろう」
私は、上の空で呟く。
「お兄さん、お嬢さん。ほな、案内するで!」
マルクは、重たい革鞄を担ぎ上げた。
「マルク、ありがとう」
「なんや、おおきになぁ!お嬢さんはええ子やなぁ!」
「迷宮、楽しみだね!」
にっこり私が笑うと、レオンも控えめに笑い返す。
そのとき、蝶がフワッと現れ、森の奥へと飛び立っていった。
「あ、蝶だ!」
「迷宮への道が開くで!行くで!」
マルクが早足で追いかける。
「レオン、行くよ!」
レオンがやれやれとついてくる。
旅は、少し騒がしい客人を迎え、さらに賑やかな様相を呈してきた。
私は、胸がいっぱいになり、足取りまで踊り出しそうな気分だった。




