ぷりんぷりん
しばらくして、マルクは自分の傷をじっと見つめ、尋ねてきた。
「なぁ、お嬢さん。ええ薬を持っとるなぁ。どこで手に入れたん?」
「自分で作ったんだよ」
「なんやて!自分でか!?薬師さんやったんか!」
「まあね。薬作りはちょっとだけ好きなの」
少し照れる。
「お前、いつも変な薬ばっか作ってるよな」
「変じゃないわ!ちゃんと役立つのよ」
「せやな、さっきの薬、めっちゃ効いたで。傷が一瞬で治ったんやもん」
感心してマルクが頷く。わたしは誇らしく胸を張る。
「でしょ?ポーションって、便利なのよ」
「便利すぎて、逆に怖いぜ」
「すごいって言ってよね!」
からかうレオンをそこそこに、エルフの商人ーーマルクがこちらを伺ってきた。
「そやそや、お嬢さんはええ薬師さんやなぁ。ほんで、どこに行くつもりなん?」
すこし言い出しにくいがあわよくばという気持ちで声を掛ける。
「実は、エルフの血を探しに森を抜けようとしてたんだけど……」
「エルフの里がどこにあるのか分からなくてな。なあ、マルク。血を少しだけ分けてくれねぇか?」
言い出しにくかった私の願いを、レオンが代わりに伝えてくれた。
「エルフの血!?ほぉ、そらけったいやなあ。血が必要なら、協力したいところやけど……。もっと若くて、健康で、プリンプリンの血を持っとるエルフが里にぎょうさんおるで!そっちのほうがええやろ!」
「プリンプリン?」
私が首を傾げる。
「せや、里の若いもんはプリンプリンやで!長老が一番ぷりんぷりんやけど……。まあそんなん言わんでも、他のやつのがわての血なんかより、ずっとええ!ほら、わては旅でボロボロやしな!」
「へぇ、そうなんだ。プリンプリンって、面白いね」
「なんや、お嬢さん。プリンプリンを気に入ったんか?里の若もんを見たら、びっくりするで!」
「プリンプリンってどういう事だ?」
レオンが呆れたように尋ねる。
「若くて元気な感じや!レオン様も、昔はプリップリやったんちゃうか?」
マルクがまた茶化す。
「うるせぇ!なんかわかんねぇけどバカにされてる気がする!!」
レオンが虫を払うように手を振った。
なんだか、マルクに会ってから、レオンの新しい一面をたくさん見ている気がして楽しい。
「マルク、レオンをからかうのはやめてあげて。私だけで十分だから」
私が笑う。
「そやな、お嬢さんのツッコミだけで十分おもろいわ!」
マルクがパンと手を叩き、光る森を指さす。
「今、木が光る時期なんや。この木は、星実の木っていうて、エルフの里を守っとるんや。光ると力が弱まって道が開く。そしたら、迷宮が現れて、蝶が案内してくれるで。入り口で見たやろ?」
「迷宮?入り口?」
私は目を丸くした。
「そうや、エルフの里に続く迷宮や」
「へぇ、すごいね。蝶が案内してくれるんだ」
「せやで。蝶は可愛いし、迷宮もおもろいで。未熟な実はよく跳ねる良いおもちゃやしな。いろんなものが光る時期やから、今しか見れん景色やな」
マルクが笑う。
「ああ!あの変な実!これのだったのね」
「つーか、また迷うのか……」
レオンが呟く。
「蝶なら、可愛いからいいよね。楽しそう」
「せやな。お嬢さんはええ子やなぁ。迷宮に行ったら、蝶に導かれる感じが楽しいで」
「可愛いって、大事なんだよ。ね、レオン?」
「あれが可愛く見えるなら大したもんだよ。ビビってた癖にな」
レオンが呆れた顔でこちらを見てきた。
「いや、分かるで!可愛いもんは正義や!お嬢さん、気が合うなぁ!」
「でしょ?レオンもそう思うでしょ?」
「うるせぇ」
レオンがまたうっとおしそうに手を払うのを、マルクがすかさず突っ込む。
「なんや、レオン様、また変な顔になっとるで!おもろいなぁ!」
「そやけど、お嬢さん。レオン様、なんだか楽しそうやなぁ。エルフの血で何をするつもりなん?会話の途中やさかい、流したけど。えらい物騒やんか。血ぃ吸う種族には見えへんし」
「エルフの血が必要なのはね、エリクサーを作るためなの。まだ、材料が一つしか集まってないんだけど」
私は、軽く星涙花の小瓶を見せる。
「エリクサー!?ほぉ、そらすごいなぁ!薬師のお嬢さん、そんなもん作ろうとするなんて、やるやん!」
マルクは、出会ってからずっとテンションが高い。
お世辞かもしれないが、自分の誇りを肯定してもらえて、少し鼻が高くなった。
「まあ、変わった旅だよな」
「変わってないわ!大事な旅だよ!」
「ほんま、おもろい二人やなぁ。エルフの里なら、迷宮を抜けたら行けるで。今がチャンスや」
「迷宮、楽しみだね」
「楽しみって……お前、迷うのが好きなのか?」
「レオンと一緒なら、大丈夫だよ」
「なんや、ええコンビやなぁ。ほな、わてもちょっとお二人さんに興味が出てきたで」
エルフの商人は、重たい鞄をガシャガシャと鳴らしながら、軽快についてくる。
鞄の音は、私とレオンの胸の高鳴りを、さらに加速させてくれるようだった。