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英雄の終わり

全財産と持てる交渉術を全て注ぎ込み、俺は新しい剣を手に入れた。

安物の刃とは比べ物にならない、とずっしりとした重み。

魔法も切れる傑作だと言う。

鋭い輝きが俺の決意を物語っていた。


逸る気持ちを抑え、村へと駆けつけた。

しかし、そこに広がっていたのは、変わり果てた光景だった。


魔物に蹂躙され、家々は崩れ落ち、人の気配は微塵も感じられない。

瓦礫の山を前に、あの頃の記憶が走馬灯のように蘇る。

老婆の温かい手、子供たちの無邪気な笑い声、そして、分け合ったスープの温もり。 



膝から崩れ落ち、溢れ出る涙を止めることができなかった。


守れなかった。俺は、遅すぎたんだ。


失意の中、壊れた家屋の隙間で一枚の紙を見つけた。

それは、村人たちが家族に宛てた伝言だった。 

「魔物が来る前に、少し離れた街へ避難する」と、そこに書かれていた。


紙を握りしめ、希望の光が再び灯る。

そうだ、まだ間に合う。

俺は、あの村人たちに会いに行かなければ。剣を手に取り、再び歩き始めた。



魔の入り口は、すぐそこにあった。

巨大な穴から黒い霧が立ち込め、蠢く魔物たちの姿が垣間見える。


穴の縁は、まるで生き物のように脈打ち、異様な光と不気味な音を放っていた。


剣を構え、呼吸を整える。

その時、一匹の魔物が俺に襲いかかってきた。口から放たれた業火が肩をかすめ、革鎧を焦がす。


「痛ぇんだよクソ野郎ぉおお!!!!」


俺は、咆哮を上げ、剣を振り上げる。

研ぎ澄まされた刃が業火を切り裂き、魔物の首を刎ねた。


血飛沫が飛び散る中、別の魔物が爪を振り下ろしてきた。

俺は、体を横に倒し、それを回避する。


その時穴から放たれた青い光が、雷霆のように剣を貫いた。


腕に痺れが走り、剣を握る力が一瞬失われる。

光が消えた瞬間、俺は穴の縁に走り、剣を叩きつけた。


「……くそっ!」


硬い。

しかし、魔の入り口にヒビが入る。


抵抗するように穴は反撃を開始した。


黒い霧が渦を巻き、新たな魔物が次々と現れる。

俺は、ひたすら駆けた。


「ハァぁああああ!!!!!」

一匹の爪を剣で弾き、そのまま首を斬り落とす。

血が顔を濡らした。


背後から別の魔物が迫る。

俺は振り返り、剣を突き刺す。魔物が倒れる。


荒い息、滴る血。


穴の中心が眩い光を放ち、青黒い光が膨張していく。俺は、再び咆哮を上げ、剣を振り上げた。


光と剣が激突し、衝撃が爆発する。


体が宙に舞い、地面に叩きつけられた。

剣が手から滑り落ちる。


俺は、這いつくばって剣を拾い上げた。

穴のふちに近づき、最後の力を振り絞る。


「これで……これで終いだ…………っ!!!」

剣を振り下ろす。


刃が岩を貫き、轟音が轟いた。

穴が崩れ落ち、魔物が霧と共に消えていく。


次の瞬間、穴の中心から小さな光がいくつか飛び出した。


ものすごくキラキラしている。

初めて見たが、あれは魔の入口を構成していた星の欠片だとすぐに分かった。

それは、遠くの空に弧を描き、遥か彼方へと消えていった。


「……終わったのか?」


買ったばかりの剣は、見る影もなくボロボロになっていた。

刃こぼれした箇所に、星の欠片の残り滓が薄く光っている。


俺は、膝をついた。

血まみれで、息も絶え絶えだ。

体が重い。意識が遠のきそうになる。


それでも、俺は立ち上がった。村人たちが避難した街へ、彼らの安否を確かめに行くために。




ーーそして、街に着いた時、俺を覚えている人はいなかった。


「魔の入り口?なんだ、それは?」と首を傾げるばかりだ。

避難の理由も曖昧で、魔物の記憶は綺麗さっぱりと消えていた。


俺は、ただの孤児、いや、もう大人だから、ただの孤独な男になっていた。

生きていたことにはホッとしたが、守ったはずの村、慕ってくれた笑顔、すべてが幻のようだった。


虚しさが胸を埋め尽くし、痛みだけが身体に残った。

俺は、酒に溺れた。酒瓶を手に、頭を鈍らせて生きるようになった。


剣の刃こぼれに残る星の光だけが、優しく俺を見守っている気がした。


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― 新着の感想 ―
童話みたいで綺麗なお話ですね。ネーミングも美しさが連想出来るというか。でも、せっかく皆を守ったのに忘れられちゃってレオンさん可哀想ですね…。 短編も読ませて頂きました。絵が具現化する…というのは面白い…
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