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英雄への道

森の夜は静かに更け、焚き火の揺らめく光が、俺の膝に置かれた剣を照らしていた。


刃は酷く傷つき、かつての鋭さは失われている。

しかし、柄だけは高級な輝きを放ち、遠い過去を物語っている。



俺は目を閉じ、あの日のことを思い出していた。

すべてが始まった、孤児だった少年時代の記憶を。



俺は孤児だった。


みすぼらしい服をまとい、飢えを抱えながら孤児院の片隅で生きていた。



ある日、魔の入り口を塞ぐための人員募集が耳に入った。


報酬はわずかだったが、孤児院を出て一攫千金を狙う男たちが集まっていた。

俺は、考えるよりも先に手を挙げていた。


今思えば、生まれた街から遠く離れた魔の入り口を急いで塞ぐ必要などなかったのかもしれない。

それは、口減らしのための口実だったのだろうと、後に気づいた。



出発前夜、街の男たちが集まり、俺を囲んで最高の食事を振る舞ってくれた。

焼きたてのパン、脂が滴る肉、スープの温かい湯気。

孤児院の薄い粥しか知らなかった俺にとって、それは生まれて初めての贅沢だった。



男たちは、杯を掲げる。

「もうすぐ街を出る俺たちに乾杯だ」

「お前も頑張れよ」


だれもが俺の肩を叩き、励ましてくれた。

その温かい言葉、心遣いに、俺は胸が熱くなったものだ。

心の奥底に灯がともり、初めて誰かに必要とされた気がした。



旅は想像を絶するくらい過酷だった。


男たちと森を抜け、山を越え、魔の入り口を目指した。


しかし、近づくにつれて魔物の気配が濃くなり、仲間たちは一人、また一人と減っていった。


何人かは諦めて別の街へ去り、何人かは魔物の爪に倒れた。

俺は剣を手に戦った。


安物の剣は重く、刃こぼれもしていたが、俺の手に掛かれば魔物の首を一閃で落とすことができた。見た人皆が天才的な剣技だと言う。


しかし、金はなく、装備は貧弱で、自分の身を守るのが精一杯だった。

仲間が減るたびに、俺の心は重くなっていった。



魔の入り口に近づくと、とうとう俺は一人になった。そこには、小さな村があった。

村人たちは、「レオン様!」と呼び、俺を慕った。


苦しい生活の中でも、俺を手厚くもてなしてくれた。

貴重な薬草で傷の手当てをしてくれ、粗末なスープを分けてくれた。


ある夜、村の老婆が涙ながらに俺の両手を握り、「あなたが来てくれて本当に助かった」と言った。

その瞬間、俺の中で何かが弾けた。

誰かを守る誇り、誰かに必要とされる喜びが、俺の心の空虚を埋めていった。



俺は村のために全力を尽くした。

防衛に必要な壁を仲間と共に築き、魔物除けの結界を遠出して買ってきた。

結界は法外な金がかかったが、村人たちが少しずつ持ち寄った金と俺の交渉で、なんとか手に入れることができた。


俺は、それらを村に残し、思った。

このままでは魔の入り口を破壊する力はない。

もっと強い装備が必要だ。全財産を注ぎ込んで、最高の剣を手に入れよう。


そう決意した夜、村の灯りが小さく揺れ、俺の胸に希望の灯がともったのだ。


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