絶品ピヨピヨうさぎ。
罠を木の枝に仕掛け、しばらく待つ。
しかし、ピヨピヨウサギの「ピヨピヨ!ピッピ!」という鳴き声が遠くで聞こえるだけで、なかなか姿を現さない。
私たちを嘲笑ってるようだ。
「遅い!朝食が昼食になっちゃうじゃない!」
「腹が減ってイライラしているのか?」
「もう限界なのよ〜〜〜〜!」
私の悲痛な叫びも何処かにかすみ、時間がどんどん過ぎていく。
太陽が真上に昇った頃、ようやくピヨピヨウサギが罠にかかった。
「ぴ、ぴい…ぴよ…ぴっぴ……………………………」
「お、かわいいな。なんかちょっと可哀想に思えてきたぜ。」
羽をバタバタさせて網に絡まっているピヨピヨうさぎ。何ともかわいらしい様相だが…。
「だめ、この子は今日のごはんよ。」
「ピギィ!ギャアアアアアアアス!」
最初は媚びを売るように可愛い声で鳴いていたピヨピヨうさぎ。
離してくれないと分かるとギザギザの嘴の中身を剥き出しにして威嚇する。
「うおぉ、なんかやべえ顔してるぜ…さっきまであんなに可愛かったのによ」
レオンはその様子に引き気味だ。
羽をバタバタさせ、さらに網に絡まっていく。
しっかりと捕まえられているようだ。
逃げだそうとするさまは醜悪で、可愛らしい見た目とは裏腹に、やはり魔物だと実感した。
「なにはともあれ、やったぜ!捕まったな!」
「もうお腹がペコペコで、捌く気力もないわ。レオン、お願いできる?」
レオンは剣を手に取り、ピヨピヨウサギを網から外した。
「ふふふ、俺の剣技を見せてやる。」
ふざけた口調でいたずらっぽく笑うと、レオンは短剣(おそらく自前の採集用だろう)を素早く動かした。
あっという間に、首と羽が切り落とされた。
すぐに水をかけて血抜きをし、またもや素早い手つきで身を綺麗に分ける。
ピンク色の肉は、繊維が綺麗に断ち切られているのに、まだ動いている。
綺麗に洗われた臓器も、まだドクドクと脈打ち音を立てていた。
おそらく、切られたことにまだ気づいていないのだろう。
私は目を丸くした。
「え、ええ?!」
「昔は一人で旅をしていたからな。こういうのは慣れているんだ。」
「凄い特技ね、レオン!私も張り切らなくちゃって思えるわ。まってて、美味しく調理してあげる。」
捌いたピヨピヨウサギを調理することにした。
「こんなに綺麗な肉なら、作り甲斐があるね。」
焚き火に鍋をかけ、薬草袋からハーブを取り出す。
「ハーブと塩でシンプルに味付けし、薬草の効果でふわふわに仕上げるの。」
ピヨピヨウサギの身にハーブをまぶし、塩を揉み込み、焚き火でじっくりと焼く。
しかし、火加減が難しく、手間取っているうちに、あたりはすっかり暗くなってしまった。
「朝食が夕食になっちゃった。」
「リナ、本当に大丈夫か?」
「もうすぐできるから、大丈夫。」
本当はかなりしんどかったが、レオンが笑うと私も少し笑顔になった。
ふんばりどころだ。
そうしてピヨピヨウサギがようやく焼き上がった。
ピヨピヨウサギのハーブ焼きは、綿菓子のようにふわふわで、鍋から取り出すと、甘いハーブの香りがふわりと広がった。
肉は柔らかく、焼けた表面はほんのりと黄金色に輝いている。
「はい、ピヨピヨうさぎの、ハーブ焼き!できたわよ。いただきます!」
「熱っ!んーんぅ!美味しい!」
つぎはやに食事の挨拶をし一口かじる。
肉が口の中でシュワッと溶け、濃厚な旨味とハーブの爽やかさが口いっぱいに広がった。
「うまい!なんだ、このふわふわ感は。菓子みてぇだ。ツマミばっか食べてたからこんなん初めて食ったぞ」
「これは、この辺りでは有名な料理よ。よっぽど食生活が乱れていたのね。」
レオンは目を丸くして、バクバクと肉を頬張った。
「凄いな、リナ!肉が溶けるぞ!香りも良いし、五臓六腑に染み渡る。うめぇぇえ〜〜〜〜。」
「栄養満点よ。ハーブが肉の脂と混ざり合い、旨味が倍増しているの。何より、んんふぅーーっ!空腹のおかげで最高に美味しい!」
私もバクバクと肉を頬張り、ふわふわとした食感に笑みがこぼれた。
焼けた肉の表面はサクッと軽く、中はふわっとした弾力があり、噛むたびに甘い汁がジュワッと溢れ出す。
身体もポカポカと温かくなり、心まで満たされていく。
「朝食が夕食になっちゃった。」
「次は、ちゃんと朝に食べような?」
からかうように笑われたが、
「昨日の狩りの失敗は誰のせいだったのか、忘れたわけじゃないでしょうね?」
ポンコツ剣士に言われたくは無いと、私はレオンの足を軽く蹴る。
私たち二人は笑い合い、夜はさらに更けていった。