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落語【声劇台本書き起こし】

落語声劇「八五郎坊主」

作者: 霧夜シオン
掲載日:2024/09/06


落語声劇「八五郎坊主(はちごろうぼうず)」


台本化:霧夜(きりや)シオン@吟囁亭喃咄(ぎんじょうていなんとつ)


所要時間:約25分


必要演者数:4名

      (0:0:4)

      (4:0:0)【性別準拠人数比率】

      (3:1:0)

      (2:2:0)

      (1:3:0)

      (0:4:0)


※当台本は落語を声劇台本として書き起こしたものです。

よって性別は全て不問とさせていただきます。

(創作落語や合作などの落語声劇台本はその限りではありません。)


※当台本は元となった落語を声劇として成立させるために大筋は元の作品

 に沿っていますが、セリフの追加及び改変が随所にあります。

 それでも良い方は演じてみていただければ幸いです。



●登場人物


八五郎:自分の事をつまらん者だという男。

    親兄弟なし、嫁なし、子供なし、家なし、

    仕事なし、そしてそれをどうしようという知恵もなし、と

    のたまって、いっそのこと坊主(ぼうず)にでもなろうと懇意(こんい)の仲の甚兵衛(じんべえ)

    に頼み込む。


甚兵衛:八五郎(はちごろう)と親しい仲の人物。出家(しゅっけ)したいという八五郎(はちごろう)の願いを叶(かな)え

    るべく、懇意(こんい)な仲のずく念寺(ねんじ)の住持(じゅうじ)に出家(しゅっけ)を依頼する手紙を書く

    。


住持:ずく念寺(ねんじ)の住職。親しい仲の甚兵衛(じんべえ)からの依頼で、八五郎(はちごろう)の出家(しゅっけ)を

   執(と)り行う。


伴僧:ずく念寺(ねんじ)の伴僧(ばんそう)。伴僧(ばんそう)とは法事などで、導師につき従っている僧(そう)の

   ことを指す。


竹公:八五郎(はちごろう)の友達その1。


芳公:八五郎(はちごろう)の友達その2。


語り:雰囲気を大事に。


●配役例


八五郎:

甚兵衛・語り・枕:

住持・竹公:

伴僧・芳公:



枕:えー、しばらくの間、一席(いっせき)お付き合い願います。

  わてら日本人は漢字、ひらがな、カタカナを主(おも)につこて、今日(こんにち)まで

  生活してました。

  日本語の難解(なんかい)な所、おもろい所に、同じ言葉やのに漢字が違(ちご)うたら

  意味もちゃう、ちゅうものがあるんで。

  この八五郎坊主(はちごろうぼうず)も同類項(どうるいこう)ちゅうたぐいの噺(はなし)で、読みは同じでも意味や

  字はまったく異(こと)なるものがいくつか出てくる。

  ある所に、家族も仕事も家すらあれへん、八五郎(はちごろう)ちゅう男がおった。

  どういうわけか一念発起(いちねんほっき)し、仲のええ甚兵衛(じんべえ)さんの元を訪(おとず)れるとこか

  ら、話の幕が上がろうちゅうわけで。


八五郎:甚兵衛(じんべえ)はん、こんにちわぁ。


甚兵衛:あぁ八五郎(はちごろう)はんかいな。こっち入んなはれや。


八五郎:だいぶに涼(すず)しなりまして。


甚兵衛:しのぎやすなったなぁ。

    ここまで来たら、あとへぶり返(かえ)すようなこたないと思うで。


八五郎:結構(けっこう)なこってす。


甚兵衛:あぁ、結構(けっこう)なやっちゃ。


八五郎:あのぉ…わてちょっと聞いたんですけど。

    つまらん奴(やっこ)は坊主(ぼうず)になれちゅうことをばね。


甚兵衛:ああ、「つまらん奴(やっこ)は坊主(ぼうず)になれ」なぁ。

    そんなことわても聞いた事があるなぁ。


八五郎:よぉ考えてみたら、わてがそのつまらん奴(やっこ)やと思うんでね。

    いっそのこと坊主(ぼうず)になったろか思うんですけどね。

    どこぞに心安(こころやす)いボンサンおまへんやろか。

    心安(こころやす)ぅいボンサン。


甚兵衛:これこれ、汚(きたな)らしそうにボンサン、ボンサン言うねやないがな。

    しかしながら、おまはんはつまらん奴かい?


八五郎:えぇつまらん奴でんがな。

    考えてみたら、わてほどつまらん者おまへんで。

    親はなし、兄弟はなし、嫁はんはなし、子供はなし、家はなし、

    仕事はなし、またそれをどぉしょうという知恵もなし…。

    もうこの上はいっそのこと坊主(ぼうず)にでもなって…。


甚兵衛:これこれ、坊主(ぼうず)、坊主(ぼうず)と言うねやないがな。

    まぁ、悪い思案(しあん)でもない。昔からええ事が言うたぁる。

    「網代(あじろ)の駕籠(かご)に乗って道中(どうちゅう)でけんのは医者か出家(しゅっけ)や」

    てなことが言うてあるよってにな。

    おまはんが出家(しゅっけ)してボンサンになるちゅうのは、結構(けっこう)なこっちゃ。


八五郎:そうですか。

    どこぞに心安(こころやす)いボンサンおまへんかな?


甚兵衛:そうやなぁ…下寺町(したでらまち)の「ずく念寺(ねんじ)」さんやな。

    わい向こうのお住持(じゅっ)すぁんとは心安(こころやす)ぅさしてもろてんねんで。


八五郎:さよで。

    ほなひとつ、手紙一本書いてやってもらえまへんかいな。

    「この男、明日から一味(いちみ)の手下(てした)にしてやってくれ」

    っちゅうことをね。


甚兵衛:これこれ、盗賊(とうぞく)の仲間入りすんねやないがな。

    「一味(いちみ)の手下(てした)にしてやってくれ」っちゅう奴があるか。

    おまはんは一旦(いったん)言い出したら、あとへ退(ひ)かん男やよってな。

    よっしゃ、これから手紙一本書いたるさかい。


八五郎:ひとつ、よろしゅうお頼申(たのもう)しま。


甚兵衛:わかった、ちょっと待ってなはれや。

    あぁそうそう、手紙を書いたら、あとに封(ふう)をせなならん。

    糊(のり)を切らしてるで、ご飯粒(はんつぶ)持って来といてもらいたいねん。


八五郎:あぁ、台所でっしゃろ。

    勝手(かって)知ったる他人の家や…お、あったあった。

    おひつの蓋(ふた)を……


    わ、わぁ~…湯気(ゆげ)がぬくぬく~っと上がったるがな。

    うまそなご飯やなぁ、ピカピカっと光ったるなぁ…。

    ここんとこ、これというもん食うてないわ…。

    よっしゃ、ちょい呼ばれたろ。


    はふ、はふ、熱(あ)っつぅ~、むぐ、むぐ、うんまぁ~…


甚兵衛:【↑の語尾に被せて】

    これ! 何してなはんねん!?


八五郎:!あ~…ちょいとお櫃(ひつ)が見あたりまへんねんけど。


甚兵衛:ほぉ~、嘘(うそ)つかんかい。

    こっからよぉ見えたるがな。


八五郎:……見えとりますか。

    バレてもうたらしゃあない。

    …どうぞ。


甚兵衛:おまはんはアホか、手紙に封(ふう)するだけやんけ。

    一粒二粒(ひとつぶふたつぶ)あったらえぇねがな。


八五郎:あぁ、さよか。

    こんなぎょうさん要(い)りまへんのん?

    手のひらに山盛り…これお櫃(ひつ)に返してきまひょか?


甚兵衛:お櫃(ひつ)に返してきまひょかて、おまはん手は綺麗(きれい)か?


八五郎:あ、今までティンティン触(さわ)っとった。


甚兵衛:んなアホなこと言うねやないがな!

    んなもんお櫃(ひつ)に返されてたまるかいな!

    みんな食べてまいなはれ。


八五郎:ほな頂戴(ちょうだい)します。

    むぐ、むぐ…

    いま言うたんみんなウソなんや。

    あない言うたら食うてまえ言うやろ思て…、引っかかったなぁ。


甚兵衛:騙(だま)さんといてな!

    で、ひと粒(つぶ)残したんか?


八五郎:あ、みな食うてしもた。


甚兵衛:そういう男や、頼んない。

    早(は)よこっち持ってきなはれ。


八五郎:はい、どうぞ。


甚兵衛:…今度は早かったなぁ。

    こういうもんは半粒(はんつぶ)もあったらええので、

    後の半粒(はんつぶ)はわてが食うてまお。

    むぐ。


八五郎:…あんた、食べなはった?

    うわぁ、今のん食べなはった!?


甚兵衛:なに喜んでんねん。


八五郎:それ、猫のメシでっせ。


甚兵衛:何じゃ、生臭(なまぐさ)いと思(おも)たがな…!

    ま、気づかう事ないで。

    昔、和泉(いずみ)の郷(くに)の飯野佐太郎(めしのさたろう)いうお人はな、

    お便所に落ちとるご飯粒(はんつぶ)を、もったいない言うて食べるような

    暮らしをして、一世一代(いっせいいちだい)の分限者(ぶげんしゃ)になられたんや。

    猫のメシいただくぐらいは結構(けっこう)なこっちゃ。


八五郎:ほな、もっと持ってきまひょか?


甚兵衛:これ、アホなこと言いな!

    …ま、なんじゃかんじゃ言うてるうちに、手紙が書けたでな。

    これ持って行(い)といなはれ。


八五郎:おおきに。

    で、場所はどこでしたかいな?


甚兵衛:下寺町(したでらまち)のずく念寺(ねんじ)さんや。

    大きな銀杏(いちょう)の木があるさかい、それ目印(めじるし)に行きなはれ。


八五郎:ほな、そうしますわ。

    おおきにー。


語り:とまぁおもろい男があったもんで、紹介状を一本懐(いっぽんふところ)へ入れて

   下寺町(したてらまち)へやって参った。

   お目当(めあ)てのずく念寺(ねんじ)を、おっきな銀杏(いちょう)の木(き)ぃ頼りにすぐ見つけ出す

   。

   尊(とうと)いお寺は御門(ごもん)からちゅうのを表(あらわ)すかのような立派な山門(さんもん)を入ると

   、片方(かたえ)には釣鐘堂(つりがねどう)、板石(いたいし)が敷(し)き詰(つ)めてありまして石畳(いしだたみ)、

   左右には鶏頭(けいとう)の花が真っ赤に咲(さ)いとる。裏手(うらて)へ回ると台所。

   寺ではこれ庫裏(くり)と申しまして、一間半(いちげんはん)一つ折(おり)ちゅうおっきなガラガ

   ラ格子(ごうし)。

   八五郎(はちごろう)、無遠慮(ぶえんりょ)にガラガラ、ガラガラ、と開けまして、


八五郎:こんちわァ…ごめんやす。


伴僧:なまんだぶ、なまんだぶ、なまんだぶ、なまんだぶ…。

   !おや、どなたさんで?


八五郎:見ての通り人間じゃ。


伴僧:どちらから参られた?


八五郎:あちらから。


伴僧:どないして来られた?


八五郎:歩いて。


伴僧:はは…おもろいお人(ひと)じゃなぁ。わては当寺(とうてら)の伴僧(ばんそう)じゃ。


八五郎:晩(ばん)僧(そう)が昼に出てくるとはこれいかに?


伴僧:ははは、おもろいお人(ひと)じゃ。


八五郎:おじゅっすぁんは?


伴僧:お住持(じゅうじ)は在宿(ざいしゅく)じゃ。


八五郎:はぁ、どこの在所(ざいしょ)へ?


伴僧:在所(ざいしょ)ではない在宿(ざいしゅく)、宿(しゅく)にござる。


八五郎:どこの宿屋(やどや)へ?


伴僧:宿屋(やどや)ではない、奥で書面(しょめん)をしたためてござる。


八五郎:ほお、おじゅっすぁん、淋病(りんびょう)でんな。


伴僧:何でじゃ?


八五郎:奥でしょんべん調べてる。


伴僧:なにアホな事を…そらおもろない。

   なんしか、付いて来(き)なはれ。


語り:奥へ通りますとお寺のおじゅっすぁん、

   上等(じょうとう)の置物(おきもの)みたいに座布団(ざぶとん)の上へ丸(まる)うにちょこんと座ってなはる。


住持:甚兵衛(じんべえ)さんのとこからのお使いとは、自分さんかいな?


八五郎:当寺(とうてら)のおじゅっすぁんとは、自分さんかな?


住持:手紙を拝見(はいけん)いたしましたぞ。

   文末(ぶんまつ)に「この男、少々愚かしい」てあるんやけど、こらぁ?


八五郎:ええ、少々愚かしいねん。

    皆がそう言うてくれまんねん。

    なんやったら近所で聞いてみてくれへん。


住持:わても嘘(うそ)やとは思えへんが…。

   出家得度(しゅっけとくど)をしたいとあるけど、心発願(こころほつごん)やらかいな?


八五郎:アホらしもない、当座(とうざ)の融通坊主(ゆうづうぼうず)でんがな。


住持:何にしても結構(けっこう)じゃ。

   「一人(いちにん) 出家(しゅっけ)をとぐれば九族天(きゅうぞくてん)に招(しょう)ず」

   とありますでな、

   さ、気の変われへんうちに頭を丸めまひょ。

   あー智円(ちえん)、智円(ちえん)や。


八五郎:鎖(くさり)かいな?


住持:智円(ちえん)ちゅう小坊主(こぼうず)を呼んでおるんじゃやで。

   おお来たか。小(こ)ダライに水をくんで持ってきなはれ。

   そなたはこちらへ来て、あちらを向いてお座りを。

   水で頭を湿(しめ)すさかいな。

   顔を洗うのちゃう。飲んではいかんで。

   さ、頭を湿(しめ)して…。

   なまんだぶ、なまんだぶ…さ、頭を丸めんねん。


八五郎:何のかんのと、ヤマコ坊主(ぼうず)やな。


住持:これ、ヤマコ坊主(ぼうず)言う人があるか!

   なまんだぶ、なまんだぶ……。


   【二拍】


   さ、でけましたぞ。


八五郎:そういうたら、頭(あたま)丸めると人相(にんそう)が変わるなんてこと言いまんな。

    鏡、貸してもらえまへんか?


伴僧:寺方(てらかた)に鏡はあれへん、後で前の水鏡(みかがみ)で見てみなはれ。


住持:さ、これに着替(きが)えなはれや。


伴僧:寺方ではねずみの衣(ころも)にねずみの着物、

   ねずみの前掛(まえか)けを締(し)めるんや。


八五郎:はぁー、こらネズミづくしでチュウな風(ふう)やなあ。

    生涯(しょうがい)猫のねきへ寄られへんな。


住持:これ、要(い)れへんこと言うでないねん。

   次におまはんの名(な)を付けないかん。


八五郎:わて、がらっ八(ぱち)の八五郎(はちごろう)ちゅうんで。


住持:ふむ、がらっ八(ぱち)ちゅうんはあれへんな。

   ほな俗名(ぞくみょう)の八五郎(はちごろう)から八の字をとって、仏法(ぶっぽう)の法(ほう)の字と合わして

   「八法(はっぽう)」、はどうじゃな。


八五郎:八法(はっぽう)…八方(はっぽう)ふさがりてなこと言いまんな。

    あんまりえぇ名前やおまへんな。


住持:ほな「六法(ろっぽう)」はどうじゃ?


八五郎:六法(ろっぽう)でっか…う~ん、なんか法律のみたいやな。

    せめて「ごけ」ならなぁ。


住持:せやったら、仏法(ぶっぽう)の法(ほう)の字に春(はる)の字を付けて

   「法春(ほうしゅん)」とはどうじゃな?


八五郎:「法春(ほうしゅん)」…麻疹(はしか)も軽(かる)けりゃ「ほうしゅん」も軽い。

    ハハハ…麻疹(はしか)も軽(かる)けりゃ疱瘡(ほうそう)も軽い。

    ハハハハハ…こらおもろい。


伴僧:何のことじゃ?


八五郎:麻疹(はしか)も軽(かる)けりゃ、疱瘡(ほうそう)も軽い。

    シャレ言うてまんねん、ハハハ…。

    麻疹(はしか)も軽(かる)けりゃ、疱瘡(ほうそう)も軽い。

    …わて、何(なん)ちゅう名前でしたかいな?


住持:いま言(い)うたところじゃぞ。

   「法春(ほうしゅん)」じゃ。


八五郎:「法春(ほうしゅん)」、麻疹(はしか)も軽(かる)けりゃ法春(ほうしゅん)も軽い。

    ハハハ……麻疹(はしか)も軽(かる)けりゃ疱瘡(ほうそ)も軽い。

    両方(りょうほう)軽(かる)けりゃ有難(ありがた)い、ハハハ……。

    わて、何(なん)ちゅう名前でしたかいな?


伴僧:呆(あき)れたお人(ひと)やな、あんたは。


住持:そうやって尻から尻と忘れられてはどうにもならん。

   だが気遣(きづか)うことはあれへんねん。

   昔インドの国、釈尊(しゃくそん)のお弟子にハンドクちゅうお方があった。

   このお方が自分さんと同じように、おのが名前を覚えることでけへ

   ん。

   だが釈尊(しゃくそん)はお叱(しか)りにはならなんや。

   覚えることでけなかったら、覚えられるようにして覚えるとよい。

   おっきな板切(いたき)れにごわしの名前書いて、これ担(かつ)いで歩きなさった。

   このお方がついには立派なご出家(しゅっけ)となってご遷化(せんげ)をなさった。

   するとこの方の墓の周りに見知れへん草が生えだした。

   これが今でいう「茗荷(みょうが)」じゃ。

   そこで、草がんむりに名を荷(にな)うと書いて「みょうが」て読む。

   また、茗荷(みょうが)食べると物忘れする言うねん。

   いわれを聞いたらありがたや。

   なまんだぶ、なまんだぶ…。

   紙に書いたったから、これで覚えなされ。


八五郎:おおきに。

    わて、ちょい甚兵衛(じんべえ)はんとこ行きとまんねん。

    礼も言いとおますし。


住持:結構じゃ。

   わてからもよろしゅうにな。


八五郎:分かりました。伝えときますわ。


住持:ああこれ、いったん出家得度(しゅっけとくど)をしたからには、魚類(さかなるい)はならんぞ。


八五郎:わて、どっちかいうたら、行水(ぎょうずい)より風呂のが好きや。


住持:行水(ぎょうずい)ではない。

   魚類(さかなるい)、魚気(さかなっけ)のものはいけんぞ。

   また、言葉遣(ことばづか)いにも気ぃつけなならん。

   今までのようなぞんざいな言葉はいかんで。

   なに言われても「はいはい、愚僧(ぐそう)かいな…」てな。


八五郎:へいへい。


住持:へいへいではない。

   はいはい、愚僧(ぐそう)かいな、じゃ。


八五郎:はい~い、はい、小諸(こもろ)~~。


伴僧:寺の門は暮(く)れ六(む)つに閉まるさかい、それまでに帰ってきなはれ。


八五郎:分かりました、おおきにー。

    伴僧(ばんそう)はん、今日から寺の一味(いちみ)です、よろしゅう。

    ちょい甚兵衛(じんべえ)はんとこ行ってくるけど、

    帰りしなに鶏(にわとり)の首キュ~ッとひねってきますよってに、

    今晩、鶏(にわとり)のスキヤキで一杯呑(いっぱいの)んでワァ~ッと大騒ぎしまひょ。


伴僧:なに言うてるんや。鶏(にわとり)も生臭(なまぐさ)やさかい、

   あかんに決まってるやろう、ってこら、聞かんかい!


語り:やらとアホが無茶(むちゃ)言いまして、伴僧(ばんそう)の声も聞かず表(おもて)へ飛び出した。

   そこへ十月の乾いた風が、坊主頭(ぼうずあたま)にぴゅーっと吹きかける。


八五郎:頭スカスカやな。衣(ころも)も袖(そで)が長いな、こんなんくくってまうか。

    よいしょっと、ちょい尻(しり)からげして…、

    なんか分かれへんけど、嬉(うれ)しなってきたな。

    わても今日から坊主(ぼうず)や。


    えぇ~♪ 坊主(ぼうず)山道(やまみち)破(やぶ)れた衣(ころも)、行(ゆ)きし戻(もど)りが気にかかる、

    チョンコチョンコ。


    おもろなってきたなぁ。


    えぇ~♪ 坊主(ぼうず)抱(だ)いて寝(ね)りゃかわゆてなれへん、

    どこが尻やら頭やら、うわぁ~いッ!


竹公:なんや派手なボンサンが歩いて来よるで。

   尻からげして、チョンコ節(ぶし)歌いながら歩いて来(き)よる。


芳公:ありゃ、八(はち)と違うんか?


竹公:ハチ?

   このごろ仁輪加(にわか)の稽古(けいこ)しとるちゅうとったけど、

   稽古(けいこ)の戻りとちゃうか?


芳公:頭、地頭(じあたま)やで?

   おい、ハチぃ!


八五郎:はいはい、愚僧(ぐそう)かいな。


竹公:何ぬかしてけつかんねん、犬の糞(くそ)みたいな顔しやがってから…。


八五郎:甚兵衛(じんべえ)はんのお世話(せわ)で、今日から坊主(ぼうず)になったんや。


芳公:出家(しゅっけ)するてなこと結構(けっこう)なこっちゃ。

   名前付けてもろたやろ?


八五郎:これに書いてもろてん、見てや。


竹公:えぇ~、上の字がこれ「ほう」、下の字が「はる」、

   おまはんの名前、「ほうばる」かいな?


八五郎:ほうばるてな名前やなかった思うぞ。

    読みよう変えてみてや。


芳公:ほな、下のほう「春」やろ…?

   あっそうか、春日神社(かすがじんじゃ)ちゅうんがあるな。

   ちゅうことは、下は「かす」か。

   「ほかす」かいな?


八五郎:きょう坊主(ぼうず)になったとこやあれへんか。

    そんな早いことほかさんといてや。

    おかしいな、もういっぺん読みよう変えてみてや。


竹公:御法(ごほう)と書いて「みのり」か、上が「のり」、

   おまはん、「のりかす」か?


八五郎:のりかすぅ?

    だんだん向こうへ行くような気がするが…。

    読みよう変えてみてやて。


芳公:何ぼ変えたかて…、上は「ほう」、下は「しゅん」。

   あっ、「ほうしゅん」か?


八五郎:「ほうしゅん」、麻疹(はしか)も軽(かる)けりゃ法春(ほうしゅん)も軽い。

    ハハハ、麻疹(はしか)も軽(かる)けりゃ法春(ほうしゅん)も軽い。

    ハハハハハ分かった、分かったで。


竹公:お、わかったか?


八五郎:わての名前はな、「はしか」ちゅうねん。




終劇



参考にした落語口演の噺家演者様等(敬称略)


桂枝雀(二代目)

三遊亭百生(二代目)



※用語解説


・ヤマコ(山子):ヤマコを張るとは大風呂敷を広げること。

         大阪の古い方言で「大きな事を言う」の意味らしい。

         ヤマコ坊主は「大きな事言ぃのボンさん」となる。


・仁輪加:にわか、俄か。

     ここのにわかはおそらく、にわか狂言かと思われる。




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