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目が覚めると、おれは異世界に転生していて、よくある中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界で大貴族の子供として自由を謳歌する。
毎日、そんな妄想をして眠りにつく。
毎日、毎日、毎日。
だが、当たり前の話だけれど、何度朝目が覚めても、広がるのは変わり映えのしない部屋の風景だけ。毎日惰性のように続ける仕事。クタクタになって帰ってきては、また起こり得ない「もしも」に期待して眠る。
そんな毎日を、ここ数年ずぅっと繰り返している。
まさしく惰性だ。人生そのものが。
打ち込む趣味もなければ、人生に目標もありはしない。
ただ、死なないために生きている。
変化を求めるけれど、自分からは行動しない。そんなやつに、都合のいい変化なんて起きるはずがないのに。
おれは、そんな自分のことが嫌いで仕方がなかった。
だからこそ、自分のことを大事にする、そんな当たり前のことすら出来ていなかった。
それだけだ。
夢も目標もモチベーションもなかったから、自分なんてどうでも良かったから。
あの時、おれの身体は動いたんだとおもう。
自分よりも価値のあるものが、生きなくてはならないものがあったから。それを守ろうとして、自分がどうなろうと、別に構わなかった。
だっておれにそんな「価値」なんてないから。
ただそれだけ。
だから、こんなおれに救われて助かってしまったあの子が、むしろ可哀想に思えた。
こんなやつに助けられて、目の前でそいつが血を流して倒れて、今にも死にそうで、そして、きっと、もうすぐ、死んでしまう。
きみがこの先生きていくなかで、別にしなくてもいいだろう重たい経験を、こんなおれがさせてしまっている。
ごめんな。
そんな目で見なくていいんだよ。無事に生きてて良かったなって、明日はなにしようかなって、そんなふうに軽く流してくれていいんだよ。
ごめんな。
どうせ助かるなら、もっと大層な人間に助けられたかったよな。
ああ、もう、呼吸もできない。
ごめんな。
視界が暗くなるのは、終わりが近いからかーーー。
それが、この世界で、おれが最後に感じたことだった。