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羅生門に続きがあったら 2024

作者: 李徴

二投稿連続の二次創作でございます。

次投稿する時はオリジナルですね。


一つ目は友達に誘われて書いたもの。

二つ目(今回の)は授業で書いたもの。


この間一年経っています。が、正直に言って自分のお気に入りは一つ目なんです。

成長していないどころか退化している可能性が出てきました。

もしくは単純に同じ原作でものを書くのが二回目なのでモチベーションがどん底だったか。

真相は闇の中ですね。

 下人の行方は、誰も知らない。生物はいずれ朽ちていくもので、それに例外があってはならないのである。


改心し、人生を全うしたか。盗人として生き、恨みを買い、殺されたか。理由なんてものはどうでもよく、事実だけがそこにあればいい。詰まる所、下人は死んだのだ。


 下人が気付いてから一番最初に見たものは河原だった。霧が深い所為か対岸は見えず、どこまで続いているのかも分からない。

次に下人の目に入ったものは童である。死力を尽くして石を積んでいる童。

下人にとってそれは、この場所が現し世でないという事を察するには容易い、異様な光景であった。


 「死してしまったからには、彼岸へ渡らねばなるまい」

そう独り言をしつつも、下人は川の流れる方向へと歩みを進める。

真っ直ぐ川に着いた下人が足を踏み入れようとしていると、何処からか声が掛かる。

「お前、死人じゃろ。彼岸へは舟で渡るしかないぞよ。何せこの川、流れは速いわ底は見えぬわで到底泳げたものじゃないのでな」

下人が声のする方向へ目線を動かすと、そこに居たのは老夫婦であった。どうやら、聞こえてきた声の持ち主は老爺の方らしい。

「その舟に乗るには何処へ行けば良い」

下人は目を細め訝しみながらも老夫婦にこう訊ねた。

死地で老夫婦に話しかけられたのだから不気味じゃないと言う方が難しいだろう。むしろ、直ぐ逃げ出さないだけ下人は中々肝が据わっていたのである。

「はは。お前、儂らが人ではないと思うとるな。安心せえ、人を取って食うような鬼ではないわ。この河原に人の子が居るのがその証じゃて。儂らは死人がしっかりと彼岸へ渡れるように案内をしているのじゃよ」

下人は、老婆からの意外な返答に、今度は目をまん丸に見開く。

鬼だと聞いて浮かぶものといえば、人里へ下り、人を裂き、食い、酒を呑む。そんな姿であった。

「いや、そうか、それは。人を食わぬ鬼が居るとは知らなんだ」

そう言うと、下人は老夫婦に案内され、舟へと向かう。


 老婆が先に歩みを止めると、桟橋の直ぐ側に小さい舟が着いていた。

「この舟に乗って彼岸へと行ってもらうが、さて、お前六文銭は持っておるのか」

そんな事を言われ、下人は血の気が引いていくのを感じていた。見返りが必要だとは頭の片隅にもなかったのだろう。

「なんだ、金が要ったのか。悪いが金は持ち合わせておらぬな。」

それを聞くと老夫婦は、考えが読めない、毛の逆立つような不気味な笑みをその顔に浮かべた。

「いやはや困った。じゃが持っておらぬのならば仕方のない事であろうな。その着物を置いていくのならば川を渡らせてやろうかの」

そう言うと老婆は下人の着物へ手を掛け、慣れた手付きで剥いでいく。


 ここで多数派には、「何故下人は抗わないのか」という疑問が生まれるだろう。その疑問は間違いで、実際には、抗ったものの抵抗虚しく剥がされてしまったのである。

そうなるともう一つの「何故老婆を相手に、男である下人が力負けしたのか」という疑問が浮かんでくる。これの答えは簡単で、相手が鬼だったからである。

どうやら鬼と人とでは、月とすっぽん程度の差があるようで、それは老いた月であろうとも覆らないらしい。


 いとも容易く着物を剥がされた下人は舟に乗せられた後、一寸先も見えない川へと流されて行った。

下人の目には、蝋燭の灯りだけが小さく映っていた。


◇◇◇


 舟に乗ってから七日程が経っただろうか。下人は老夫婦の事を考えていた。

「人を食らおうが食らうまいが、所詮鬼は鬼。鬼畜生とは良く言ったものだ」と、散々な物言いをしていたのだ。自分が昔した事などは、とうに忘れているのである。

そうしている間に舟が揺れ、下人は倒れ込む。

そこは対岸であった。


 舟を降りた先には鼠色の大きな城があり、誰かを迎え入れるように門が開いている。

下人が中へ入ると、入り組んだ廊が続いていた。進んだ先には大広間があり、その奥には、真っ赤な顔をした人が居た。いや、人と呼ぶには余りにも大き過ぎる。

実際、下人もそれが生物だという事を認める為には、少しばかりの時間を要した。そして、生物だと認識したのと同時に、下人は、それが閻魔だという事を動物の本能で察したのである。

下人は気圧され、鼓動の間隔が縮まり、嘔吐すら催すが、閻魔は気にする素振りすら見せずに口を開いた。

大仏のような体からは、物申せぬ重圧を感じるばかりである。


 「ようやくか。汝の行先は大方、大叫喚地獄だと決まっておるぞ。何故なのかは言わずとも分かるであろうな。汝は許され難い罪を犯してここに来たのだ。弁明ならば今の内に申しておけ。一度決まった事が覆るとは思えぬが」

下人は考える。今まで、自分がどのような事をしてきて、今、自分がどのような罪で裁かれているのか。どのような事を言えば、決められた行先を避けられるのか。

不幸な事に、それを考える時間は限られている。

閻魔を相手にしているのだ。長考などはすればするほど木偶になっていく。それは下人にとって明瞭な事柄であった。

「己が犯してきた罪の数は、決して少なくはないように感じます。しかし、このような時代、それは皆一様に似たような数でありましょう。それに、己が罪を犯す時、大体は何かを為そうとしておりました。自分の欲望に負けて犯したものではありませぬ」

これを、下人は、最高の演説だと感じていた。簡潔で、正当性を主張し、勿論嘘はついていない。

これで少しでも罪が軽くなるだろうと考えていた。

もっとも、自分が昔した事などは、とうに忘れている。

「ほう、やはり、汝の行先は変えずとも済むらしいな」

そう言うと、閻魔の側に居た童子が下人を掴み、城からそう遠くない所にある谷へと引きずって行く。

こうなってしまっては、下人が何を言おうとも仕方がない。


 童子は、薄く光の漏れる谷へ着くと、抵抗する下人を蹴落とした。薄かった光は、段々と、その色を強めていく。

下人の目には、一粒の光も映っていない。

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