お兄ちゃん、私、魔法が使えるようになった
俺の妹は魔法少女らしい。
というと妹は即座に否定した。
「それって大人になったら魔女とでも呼ぶの? 魔法使いって呼んでよ」
どうやら老若男女で呼び方を変える文化が気に食わないらしい。
フィクション作品の影響で呼称から受け取る印象がかなり違うわけだから、否定する気持ちもわからなくはない。
「それじゃあその魔法使い様は、こんな平々凡々一般家庭でどうやってそんな能力を手に入れられたんですか?」
ある日ぬいぐるみにしか見えない地球外生命体に唆されたとか、実は俺が知らないだけで親も魔法使いだったとか。はたまた妹の前世が魔法使いだったとか?
「魔法を使うアニメとか映画とかの真似してたらなんかできるようになった」
「ゲラリーニかよ」
「げら…なに?」
とある超能力者のスプーン曲げを真似してたら同じように超能力でスプーン曲げできるようになった人のことをゲラリーニと呼ぶらしい。
俺も詳しくはないので気になったら調べてくれ。
「いや、気にするな。ともかくそれは本当に魔法と定義できるものか? 超能力ではないのか?」
「たぶん魔法であってると思うけど……。そもそもお兄ちゃん、私が嘘付いてるとか思わないの?」
「お前は俺に嘘つかないからな。俺に嘘つくくらいなら何も言わないだろ」
「まあ、そうだけども」
忙しい両親のかわりにこの12歳下の妹の面倒を見てきたおかげか、俺との約束は破らない俺には絶対に嘘をつかないいい子に育ってくれた。
シスコンと言われてもいいと思えるくらい、可愛い妹だ。
「とりあえず何でもいいからわかりやすい魔法見せてくれる? 部屋に被害が及ばないやつで。」
「うーん、じゃあお兄ちゃんを浮かせます。うぃんどう!」
「うっわ」
呪文らしきものと同時に妹がこちらに手のひらを向け、そこから発生した風がベッドに腰掛けていた俺の体を1メートルほど持ち上げた。
確かにこれはかなり魔法っぽい。
「魔法だってことはわかった。もう降ろしてくれ」
「りょうかい」
パチンッと妹が指を鳴らすと、俺の体はゆっくりと元の位置に戻る。
「再現しなくてもいいんだけど、他には何ができる?」
「火、水を出せる。土からゴーレム作れる。植物の成長早くできる。あと傷が治せる!」
「なるほど天才魔法使いだな?」
他にリアルな魔法使いは知らないが。
―――なんて、この時の俺はまだ知らなかったんだ。
妹の覚醒が、給食に混ぜられた投薬実験の成果だということも。
妹が見ていたアニメや映画が、学校で配られた教材だということも。
これからこの国で、魔法使いのバトルが繰り広げられることも。