第9話 遭難(2)
祐輔の身に何が起こったのか。
今回と次回で明らかになります。
よろしくお願いします。
”司馬愛梨様
いつもお世話になっております。
佐藤@LMOS事務局です。
急なご連絡を差し上げる事となり申し訳ございません。
先程、司馬祐輔様がエンボディドモンスターの討伐中反撃に遭い、ご逝去されました。
信二様は現場から離脱されており無事です。現在、LMOSにて保護しております。
状況をご説明致しますので、LMOS本部までお越しいただけませんでしょうか。
これからお迎えの車をお送り致します”
司馬信二の父、祐輔が死んだと言う知らせがLMOSから愛梨のニューロンレシーバに届いた。
「祐輔さんが亡くなった? 何かの間違いでは? でも、確認は必要よね。支度しなくちゃ」
支度と言っても、愛梨はいつでも買い物に出かけることができるよう化粧も済ませているし、ちゃんとした服装をしているので、財布や身の回りの小物をを集めてバッグにまとめるだけだ。
ちょうど愛梨の準備が整った所で家のインターフォンが鳴る。外を見てみると、フロントドアに「LMOS」と印字された白いバンが玄関の前に横付けされており、職員と思われる若いの女性が立っているのが見える。
黒系タイトスカートのスーツに黒いパンプス。全身ビシッと決めている。背中まで伸びるストレートの黒髪がとても綺麗だ。
愛梨が玄関を開けると外にいる女性が頭を軽く下げてからLMOSの名刺を愛梨に差し出してから挨拶する。
名刺には『課長 佐藤理恵』と書いてある。
「司馬さんですね。突然のご訪問、失礼致します。私はLMOS総務部庶務一課長の佐藤と申します。これからLMOS本部までご案内いたします。ご準備はよろしいでしょうか?」
愛梨は女性の案内に従いバンへ乗り込み後部座席に並んで座り、シートベルトを締める。
司馬家からLMOSまでは歩いても15分位の場所にある。それでもこうして迎えを寄越したのは今起きている事が異常である事を察しざるを得ない。
佐藤課長は運転席に座ってシートベルトを締め、
「LMOS本部へ」
と言った。すると社内のスピーカーから
『承知しました』
と言う声が聞こえて来る。続いて、
『乗車されている方のシートベルトを確認しました。これから出発します』
と言う案内と共にバンが静かに動き出す。完全自動運転化されたバンは下手なドライバーなど比べ物にならない位、スムーズに動く。
ものの数分でバンはLMOS本部へ到着し、地下の駐車場に進み、駐車スペースにスッと入ったところで動きを止める。
「到着しました。どうぞこちらへ」
先に車を降りて後部座席のドアを開けた佐藤課長はそう言って愛梨を案内する。
佐藤課長に通された部屋は窓もない、真っ白な照明に照らされた殺風景な部屋だった。組み立て式の机が2つ並べておいてあり、そこにパイプ椅子が何脚かおいてある。
そしてそこには今朝意気揚々と出かけて行った息子が項垂れて座っていた。
愛梨は信二に駆け寄り息子へ声を掛ける。
「信二、怪我はない?」
愛梨の言葉を聞いた信二はハッとした顔をする。
「か、母さん・・・・・・ゴメン、俺は・・・・・・何もできなかったんだ。父さんに逃げろと言われて、一目散に逃げ出したんだ。俺はダメな奴なんだ・・・・・・」
「いいえ。祐輔さんはきっと、信二だけは助けようと必死だったはずよ。信二がこうしてここにいるのだから、母さんには何も言うことはないわ」
「母さん、俺、俺は・・・・・・ぐっ、くっ・・・・・・」
信二は目を真っ赤にして歯を食いしばっている。
そんな息子の様子を見た愛梨は彼の背中をポンポンと優しく叩きながら言った。
「信二、こんな時は我慢しなくてもいいんだから、ね?」
信二の両目から涙が零れ落ちる。泣いてもいいんだ、そう言われて我慢できずに流した涙だった。
それでも大声をあげるのは恥ずかしいと思ったのか、うっ、うっと嗚咽を漏らしている。
愛梨はそんな信二を抱き寄せ、2人きりとなってしまった家族の間で悲しみを共有する。
そうして抱き合うこと数分、やがて信二が落ち着きを取り戻したところでその姿を静かに見守っていた佐藤さんが愛梨達に声をかける。
「恐れ入りますが、ご説明を始めさせてよろしいでしょうか」
2人は静かに頷いた。
すると佐藤課長の後ろの扉から白衣を着た若い男性が現れ、部屋の真ん中に設置されている情報共有端末の設定を始める。
「紹介します。こちらは保安部記録管理課の飯山です」
「飯山です。宜しくお願いします。早速ですが、祐輔さんの身に起こった出来事を収録した動画を入手しましたのでこちらをご覧ください。それでは皆さん、ニューロンレシーバのリンク機能を解放し、こちらの椅子にお掛けください」
飯山はそう言いながら情報共有端末を起動する。
愛梨と信二のニューロンレシーバを通して映像が投影される。2人の脳内に展開される画面の左側から祐輔と信二が現れ、画面の右側に向かって進んでいく。
すると、画面の上の方が一瞬輝いたかと思うと醜悪な姿の小人が画面の上から信二の真後ろに着地する。
「そーだよ、奴は俺たちの死角から現れたんだ」
耳元まで裂けた口、つり上がった目、そして尖った耳。背丈は小学校低学年くらいか。しかしその姿に可愛らしさは微塵も感じられない。
そいつは右手に持っている粗末で錆が浮いているように見える剣をいきなり振りかぶり、信二に斬りかかる。
それに気がついた祐輔が信二を突き飛ばす。しかし小人の斬撃を躱しきれなかった祐輔が左手に傷を負ってしまう。
信二は小人と距離を置き、ファイアボールを放つが全て小人の剣にあたると掻き消されてしまう。
それを見た祐輔が信二に何かを叫んでいる。
「ここで父さんは俺にLMOSの助けを呼ぶように言ったんだ。多分、俺をあそこから逃がすためだったんだな」
祐輔はいち早くあのゴブリンの異変を感じ取り、信二だけは助けようと思ったのだろう。今こうして客観的な視点で見ているとそういうことがよくわかる。
信二はあの時、祐輔の言葉を素直に聞いて走り出し、祐輔とゴブリンがもみ合っている場から離れた。
そのため、あの後何が起こったのかは信二もわからない。
「父さん・・・・・・」
信二は思わず呟いた。
愛梨も脳内に展開されている映像を食い入るように見ているようだ。
ここで飯山が映像をストップする。
佐藤課長が口を開く。
「ここから先の映像はかなり衝撃的な内容が含まれています。私が顛末を説明させて頂く様にする事をお勧め致しますがいかがでしょうか?」
「おい、何を言ってんだよ! 何があろうとも父さんの身に起きた事を見るに決まってんじゃねーか!」
「そうです。私も祐輔の妻です。どうか最後まで見届けさせてくれませんか?」
2人とも、佐藤課長の提案には乗る気など無く、祐輔の身に起こった事を出来るだけリアルな映像を通して見る事を望んでいる。
「・・・・・・分かりました。もし辛くなったら直ぐに止めますので仰ってください」
それを察した佐藤課長が飯山に動画の再生を指示する。
祐輔の最期の様子が映し出される。
いかがだったでしょうか。
続きもどうぞよろしくお願いします。