第8話 遭難(1)
今回は最初のターニングポイントになります。
よろしくお願いします。
話はほんの15分前に遡る。
信二は父親の祐輔とともにLMOSへと向かっていた。
信二が作った探索の公開をするための打合せをするためだ。
「失敗ったな。傘を持ってくればよかった」
雲は低く垂れこんでおり、間もなく10時になろうかとしているのに辺りは薄暗い。
時折信二の頬に、手の甲に冷たい感覚が走る。
「こんな事もあろうかと、折り畳み傘を2つ持ってきているよ。もう少し降ってきたら差さないとダメかな」
「随分用意がいいな。どーしてそれでずっと仕事につけなかったんだろう?」
「まあ、不器用なんだろうな。時代の流れについていけなかった。それでも自分の積み上げた物を捨てられなかったんだ。誰も見向きもしないようなガラクタだったけどね」
「父さんらしくもない珍しく抽象的な言い回しじゃねーか」
「まあね。誰だって自分の失敗を詳しく話すのは抵抗があるのさ。まあ、信二が酒を飲めるような年になったらいろいろ話してもいいかな。それまでに話す覚悟を決めておくさ」
「何かわかんねーけど、まあいっか。今はとにかく『サーチ』のことだよな」
「ああ、そうだね。これも勇気がいる事だと思うけど、きっと信二のためにはプラスになる事だと思うよ」
祐輔は自分の右手にはめている銀色の時計をちらっと見て言った。
「それより、のんびり歩いていると約束の時間に遅れるよ。さっさと用事を済ませてしまおうか」
その時、信二が展開している『サーチ』に反応があった。
信二はその反応に目を疑う。いきなりマップの中央に現れた白い点。エンボまでの距離は・・・・・・わずか1m!!
「えっ? ゴブリン?!」
信二があわてて振り返ると、醜悪な顔をした小人がさび付いた剣を振り上げていた。
「危ないっ!」
異変に気が付いた祐輔が信二に飛びかかり、ドンと息子を跳ね飛ばす。
祐輔は両手を顔の前でクロスにして防御体勢を取りながら、なるべく小人から遠ざかる方向にジャンプする。
それでも小人の斬撃が祐輔の左手に入る。
幸い入りが浅かったが、スパッと傷口が開き、鮮血が飛ぶ。
「ぐあっ!」
祐輔は右手で左手を抱えながらもなるべく小人から遠ざかる。
そのすきに体勢を立て直した信二はすかさずMAGICSを発動する体勢に入る。
「コール『ファイアボール』! ターゲッティング ゴブリン!」
「チャージ、エクスキューション!」
信二はMAGICSコールを繰り返し、火の玉を繰り返し発射する。
それらは小人に向かって飛んでいく。
命中するかと思った瞬間、小人が振り回した剣に火の玉が当たり、その瞬間にフッと消え失せる。
「ギャッ、ギャッ、ギャッ!」
小人は左右にぴょんぴょんと跳ねながら信二を睨みつけている。
小人が信二に飛びかかろうとした瞬間、小人の背後から火の玉が飛んでくる。
祐輔が『ファイアボール』を打ち込んだのだろう。
しかし、その火の玉も小人が持つ剣の一振りでフッと消えてしまう。
「何だ、このゴブリン? どうしてあんなに『ファイアボール』に反応できる? しかもどうして消えてしまう?」
信二は『ライトニング』を放つが、それも剣に当たると消えてしまう。
その時、祐輔が信二に叫ぶ。
「信二、このゴブリンは何か変だ! 恐らく一筋縄にはいかない! 父さんに考えがあるからお前は早くLMOSへ行って増援を呼ぶんだ!」
「でも父さん!」
「早くしろ! ここは父さんが食い止める! だから早く! 手遅れになるぞ!」
「わ、わかった! 父さんもムリはするなよ!」
信二がそう言った時、小人が信二に向かって飛びかかろうとする。
祐輔が咄嗟に小人へ飛びかかり押さえつけようとする。
それを見た瞬間、信二は無我夢中で走り出した。
現場を走り去る信二に向かって祐輔が叫ぶ。
「信二! それでいい! 何があっても生き残れ! グアッ!」
祐輔が悲鳴を上げるのを聞いた信二は走りながらも後ろを振り返ろうかと悩み、スピードを落とす。
その時、祐輔が必死に叫ぶ。
「信二ィ! 早く行け、早くッ!!」
信二の心の中を覗いたかのようなタイミングで叫ぶ祐輔の声にハッとなり、再び全力で走り出す。
「父さん、俺は・・・・・・!」
◆◆◆◆◆◆◆◆
その日の午後1時頃、愛梨のニューロンレシーバを通してLMOSからメッセージが送付されてきた。
”司馬愛梨様
いつもお世話になっております。
佐藤@LMOS事務局です。
急なご連絡を差し上げる事となり申し訳ございません。
先程、司馬祐輔様がエンボディドモンスターの討伐中反撃に遭い、ご逝去されました。
信二様は現場から離脱されており無事です。現在、LMOSにて保護しております。
状況をご説明致しますので、LMOS本部までお越しいただけませんでしょうか。
これからお迎えの車をお送り致します”
新宿近辺に降り注いだ雨は峠を越したものの、しとしとと降り続いていた。
まるで信二や愛梨の行末を暗示しているかのように・・・・・・
祐輔の身に降りかかった出来事は次話以降で明らかになります。
続きが気になった方、どうぞポイントを入れていただけますと幸いです。よろしくお願いします。