第78話 戦闘服(4)
本日2話目の投稿となります。よろしくお願いします。
「信二、どうだ? 上手く行ったのか?」
「バッチリ、成功だ!」
信二は瑞穂にペンダントを返しながらこう言った。
「瑞穂のニューロンレシーバに『クロス・オン』をインストールしたからコールしてみてくれ」
瑞穂は信二の言葉通りニューロンレシーバのペンダントを首に下げて信二に教わったMAGICSをコールする。
「『クロス・オン』!」
瑞穂のコールに反応し、瑞穂の体が光り輝く。あたり一面を眩しく照らした後、その光が消える。光の中から現れた瑞穂の姿はさっきまで着ていた戦闘服に変わっている。
さらに瑞穂の髪の毛が青みがかった銀色に変化し、体が少し浮いている。瞳の色も青色に変わっている。『レビテーション』が同時にコールされた状態になっている。
「こ、これは?」
「|バーチャライゼーション《仮想化技術》で仮想空間にコスチュームを格納しておいて、『クロス・オン』をコールすることによりエンボディメントで瑞穂が着ていた服と入れ替えたんだ。『レビテーション』やそのほかの身体向上を行うMAGICS」も重ねがけしている。身体能力もかなり上がっているはずだ。でも今は体の調整が上手く出来ないと思うから、慎重に動いてくれ」
瑞穂は自分の両手を開いたり閉じたりしながら自分の体の変化をゆっくり試している。
「たしかにこれは凄い。何やら力が漲って来るようだ。ところで信二、天狗墜はどうなった?」
「イクイップ+武器名をコールしてくれ。将来的に武器を交換しながら戦う事も想定して最初は武器をも出さないようにしたんだ。ちなみに取り外して仮想化するときはリムーブな」
それを聞いた瑞穂が『イクイップ 天狗墜!』とコールする。すると瑞穂の右手が光りだし、愛刀天狗墜が具現化される。
瑞穂は天狗墜を鞘から抜いて刀身を確認する。
「うん、問題ない。とするとこれはとんでもなく便利になるな。信二、『クロス・オン』をしていない状態で天狗墜の出し入れをする事もできるのか?」
「もちろんだ。MAGICSレシーバさえ身に着けていればいつでもOKだ」
「わかった。これなら街中で帯刀しなくとも済むぞ。帯刀することで目立つのは分かっていたから良かったぞ。それじゃあ『リムーブ』」
瑞穂のコールに反応し、天狗墜は発光した後仮想空間へ格納される。
「信二、瑞穂ばっかりズルいよ! あたしも早く変身したい!」
望は信二に鼻と鼻がくっつきそうなくらいまで接近して訴えかける。
「わかったわかった! じゃあ次は望な」
「ちょっと待って。望ちゃんには僕からプレゼントがあるんだ」
隼はそう言いながら紺色の皮グローブを渡す。ナックル部が硬くコーティングされており、指先が無いタイプ、いわゆるナックルガードだ。
「これを使えば拳を痛める事が減ると思うよ。良かったら使って欲しいな」
「隼くん、ありがとう! しっかり使わせてもらうからね」
「それじゃ望、服とブーツ、それからそのナックルガードとニューロンレシーバを貸してくれ」
望は首から青く光る宝石がついたペンダントを外す。旭から貰ったタンザナイトのペンダントだ。信二は落とさないよう慎重に受け取る。そしてそこでピタリと動きを止める。やがて望のセーラー服とブーツ、グローブが明るい光に包まれ、その光が望のニューロンレシーバへ吸い込まれる。光が収まった時、そこには望のニューロンレシーバだけが残っていた。
「よし、成功だ。望も確かめてくれ」
そう言ってニューロンレシーバのネックレスを望へ返す。
「ありがと」
そう言って望はネックレスを首にかけ、すぐに
「『クロス・オン』」
とコールする。瑞穂と同様、体服装がセーラー服へと変わり、髪色が青みがかった銀色へと変わり、瞳の色も青色に変わる。
「ウハーっ! 力がみなぎるぅ!『イクイップナックルガード!』」
望の両手が光に包まれ、次の瞬間ナックルガードが現れる。両手を開いたり閉じたりしてナックルガードの調子を確かめる。
「うん、良く馴染んでる! 隼くん、これすごくいいよ!」
「望ちゃん、気に入ってくれて良かった。それじゃ次は時子ちゃんだよ。時子ちゃんにはこれだよ」
隼は銀色に輝く杖を取り出す。1mほどの長さがあり、滑り止めを兼ねているのか細かい装飾がびっしりと入っている。杖の先には三日月状の爪が3つ伸びており、直径10cmの青く輝く球を上から押さえつけるような形で取り付けられている。時子は何気なく青い球を触るとくるりと回転する。
「綺麗・・・・・・それにこの球は自由に回転するんですね。それにしてもこの杖は一体?」
時子の質問に答えたのは隼ではなく信二だ。
「俺が説明するぞ。これは言ってみればMAGICS増幅機だ。杖全体が精神力の通りが良いミスリル鋼で出来ていて、杖の先についている球がキャパシタになっているんだ。訓練次第でもあるがこれを使えばMAGICSの威力が格段に増すぞ」
「ミスリル鋼って最近開発された合金ですよね。でもキャパシタがあるのは初めて知りました」
「そうだな。最近まで俺も知らなかったよ。キャパシタは今回隼が開発したんだ。まだどこにも発表すらしていない特注品だ」
「ねえ信二、ミスリルってファンタジー小説とかで出てくる金属でしょ? そんなものが現実にあるの?」
「望が言ってるのは『ミスリル銀』だな。それは想像上の金属だ。これは『ミスリル鋼』と言う鋼鉄をベースとした合金だ。精神力の通りがいいことからファンタジーの世界から名前を持ってきたらしいぞ」
「ふーん。良くわかんないけどミスリルに似た金属だと言う事かな?」
「取り敢えずそれで大体合ってるな」
「とにかく、早く試してみたいですね」
「その前に『クロス・オン』の設定が先だな。時子、一式の道具とニューロンレシーバを貸してくれ」
時子は信二に言われたものを預ける。信二は瑞穂、望の時と同じやり方で登録を行う。戦闘服などが発光し、ニューロンレシーバに吸い込まれたように見える。実際は仮想化したものであるからニューロンレシーバに吸い込まれたように見えただけなのだが。
信二は時子にペンダント型のニューロンレシーバを渡す。時子はすぐに『クロス・オン』、『イクイップ』をコールする。
時子も真っ白なセーラー服にブーツ姿へと変わる。ゆるいウエーブのかかった髪の毛は銀色へと変わり、瞳の色も青く変わる。その瞳と同じ色の球が輝く銀色の杖を両手で持っている。
「何だか・・・・・・妖精みたいだな。これは想像以上だな」
「は、恥ずかしいです・・・・・・でも、嬉しい・・・・・・」
時子は杖の先にある青い球で自分の顔を隠しながらそう言った。
「またこれだ。良くまあ恥ずかしげも無くそんな風に言うもんだね! でも妖精みたいってのはあたしもそう思う! すっごく可愛いよ、トキちゃん!」
「だが、好きな人からああ言う風に言われてみたいものだな。正直羨ましいぞ」
「時子ちゃんの事ばかり話しているけど、僕が思うに瑞穂ちゃんと望ちゃんもとっても可愛いよ」
「そうですよ。のんちゃんと瑞穂さんもとっても似合ってますよ。それより、信二くんも早く見せて下さい」
「確かにそうだよね。信二くんはMAGICSを打ちながら素手で闘うスタイルだから、望ちゃんと同じナックルガードを用意したよ。色はブーツに合わせて黒にしたけどね」
「おお、サンキュ、隼。それじゃ早速登録するぞ」
「のんちゃんと信二くんがお揃いか。いいなあ」
時子の呟きを聞きつつ、信二は自分の戦闘服、ブーツ、ナックルガードを登録する。それらはすぐに発光しその姿を消す。
「それじゃあ早速、『クロス・オン!』
信二がコールすると、真っ白な学生服の姿へと変わる。何故か袖が肘の少し下の所まで巻かれていて、襟元も開いていて学生服のファスナーも少し上が開いており、信二の引き締まった胸板がチラッと見える。
髪の毛は逆立っていて銀色に光り、瞳も青色に変わっている。こうしてみると信二の吊り上がった目は切れ長の目とも取れ、なかなかどうして野生味と色気を併せ持ついい男だ。
「か、カッコいいです・・・・・・想像以上の破壊力・・・・・・ぶっ」
信二の変身後の姿を見た時子は興奮してしまい鼻血が出てしまう。
「おい時子、大丈夫か?」
慌てて時子へ駆け寄る信二。血が滲んでいるハンカチで鼻を押さえてなんとか止血を試みる時子だが、鼻血の元凶に接近されては最早何もなす術が無い。
「し、信二くん。私、とっても幸せです。もう思い残す事はありません」
時子はそう言うと首をカクっと落として力尽きる。これで自動的に『クロス・オフ』、『リムーブ』が発動し元の姿へ戻る。
「おい? 時子、どうした? 時子ーッ!」
気絶した時子を抱きかかえて叫ぶ信二。
「信二、落ち着いて。トキちゃん、気を失っただけだから」
望が信二にそう声をかける。
「何故だ? 何故時子が気絶する? MAGICSの不具合で脳に異常電流が流れたか?」
「違うよ。アンタが予想以上にカッコ良く仕上がったから、トキちゃん興奮しすぎちゃったんだよ」
「は? カッコいい? 誰が?」
「もう、知らないッ!」
望はそう言って顔をプイッと横に向ける。やっぱり頬が赤く染まっている。
急に望に激上され、腑に落ちない信二だが、『クロス・オフ』を行い時子を介抱する。と言っても時子の鼻を拭いてあげる事くらいしか出来ないが。
「あの3人の絡みは中々面白いな」
瑞穂が隼にそう話しかける。
「うん、そうだね。でも、距離感を探りながらやり取りしている感じ。3人ともそれはわかっているみたいだけど」
「そうだな。せっかくこうしてひとつのチームとして活動するんだ。私たちもちゃんと彼らをフォローしないとな。・・・・・・っと言ってもお前は後方待機だな。つばさにもこの状況をちゃんと伝えてほしい」
「もちろん伝えておくよ。そこは心配しなくても大丈夫だよ」
あとはつばさの分が残っている。
「ねえ瑞穂ちゃん、望ちゃん。時子ちゃんを上に連れて行って様子を見て貰えないかな? ちょっとMAGICSの事で信二くんに相談があるんだ」
隼は瑞穂と望にそうお願いし、時子を連れて先に上で休んでもらうようにする。その間につばさの分を作ってしまおうと言う魂胆だ。瑞穂と望は気絶している時子を連れて上へと上がって行った。それを見届けた隼は自分の戦闘服を作る。もちろんセーラー服タイプの方だ。
「なあ、学生服の方は作らないのか?」
信二が尋ねるが隼は首を横に振る。
「いや、僕がスイーパーとして活動するのはあくまで『つばさ』としてだよ。あの子に刺激的な生活を届けたいから」
「そうやってカッコつけた事を言ってるが、お前本当は女装したいだけなんだろ?」
「ははっ。信二くんにはお見通しって事か。前にも言ったけど、僕は女装するのが好きだよ。なんだか普段と違う自分になれるような気がするからさ」
「今だって普通に話せているけどな。まあいいや。もろもろ登録やっちまうから、一式の道具を渡してくれ」
信二は隼から服とブーツ、それにトランスバレット式の銃を受け取り、登録を行った。ペンダント型ニューロンレシーバを隼に渡す。
「よしっ! それじゃ『クロス・オン』」
「おい、隼のままでクロス・オンするのか?」
ニューロンレシーバを身に着けたとたん、クロス・オンをコールする。隼の体が光に包まれ、それが消えた時には真っ白なセーラー服を身に着けた隼が現れる。髪の毛は青白い銀色へ染まり、青色の瞳に変わる。
「信二くん、どうだい?」
「隼のままなのに可愛く見えるって反則じゃねーか? 事情を知らない人がみたら、どこから見たってショートヘアの女子にしか見えねーぞ」
「おい隼! 今何か物音が聞こえて来たようだが、何かやったのか?」
物音に気が付いた瑞穂がこちらへ戻って来ようとしている。
「おい、隼! 瑞穂が来るぞ! 早くクロス・オフしろ! ここでお前の性癖がバレてもいいのか?」
「そうだね。もうちょっとやっていたかったんだけど、残念。『クロス・オフ』」
隼はすぐ元の姿に戻った。そこへ瑞穂がやって来た。
「何をやっていたんだ? 何か物音が聞こえたみたいだったが?」
「ちょっとMAGICSを試そうとしたけど失敗だったよ。でも今日はこれで一通り終わったところだから、僕らも上へ行くよ。いいよね、信二くん?」
「ああ、構わないぞ」
「信二、失敗は成功の素とも言うし、あまり気にするなよ」
瑞穂は先に上へと戻っていく。それを見ながら信二がは隼へこっそり話しかける。
「お前が変な言い訳をするから、俺が失敗した体になってんじゃねーか。なんかモヤモヤするぞ」
「ごめんごめん。今度何か奢るからさ」
「はあ、仕方ねーか。でも、お前も『つばさ』の事を黙っているならもっと慎重にやれよ。どうして俺がお前の事でヒヤヒヤしなきゃならねーんだ? こんな事ならお前の秘密なんて知りたくなかったぞ・・・・・・」
こうして信二と隼はメンバー全員の戦闘服を作り終えたのだった。
戦闘服を手に入れ、戦いの幅が広がった信二達ですが『ザ・フール』も黙って見ているわけではありません。
次回『第79話 ザ・フールの暗躍(2)』、3/4(土)投稿予定です。よろしくお願いします。