第77話 戦闘服(3)
すみません。投稿が遅れました。
「どう、ですか?」
右手を強く握りしめ、それを口元に寄せて少し心配そうにして現れた彼女。
そんな彼女を見た信二達はすっかりポカンとしてしまった。
「あれ? どちら様ですか? トキちゃんはどこへ行ったの?」
「いや、この子が時子だよ。でも、驚いたな。想像以上じゃねーか」
「確かにこれは驚いた。信二の言う通りだな。時子、こんなに可愛かったんだな」
「みんな・・・・・・なんだかとっても恥ずかしいです」
恥ずかしそうにしている時子だが、いつもしている三つ編みを解いて髪の毛を下げている。いつも縛っているせいなのかもともとの癖なのか、ゆったりとしたウエーブがかかっている。
牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡も外しているのだが、そうすることでいつもは目立たないクリっとした少し垂れ気味の大きな目が露わとなっている。
こうしてみると鼻も結構高く、すっと通ったきれいな形をしており、ぽってり気味の唇が可愛らしさを通り越し、煽情的にすら見える。
「すごい! トキちゃんいつも眼鏡と三つ編みのスタイルだから気が付かなかったけど、これはもう国民的美少女級じゃない!」
「なあ時子、自分の姿を見てどう思った?」
信二がそう言うと、時子が恥ずかしそうに答える。
「なんだか・・・・・・自分じゃないみたいです。私自身、ここまでになるとは思っていませんでした」
「だけど、これは時子がもともと持っているポテンシャルなんだ。もっと自信をもっていいと思うぞ」
「ねえ、信二はトキちゃんがこんな美人だったって知ってたの?」
「恐らくそーだろうとは思ったが、ここまでとは。時子、本当に可愛いぞ」
「信二、そう言うセリフをよくも恥ずかしくもなく言えるな」
信二のセリフに半分呆れ、半分感心といった感想を持ちながら瑞穂が言った。
「別に俺だって照れや恥ずかしさはあるけど、いい事なんだし女の子へは素直に伝えるべきだろ?」
望へはひねくれて正直な感想を言えない癖に、時子へはストレートな表現ができるあたり、信二も中々ひねくれているのかも知れない。
「それが出来ないから苦労するんだろうが、普通・・・・・・」
そんな信二の複雑な内面には気が付かない瑞穂だが珍しく語尾をすぼめてそう言った。それを見逃さない信二が即座に突っ込む。
「あん? 今何て言った? なんか聞こえなかったぞ」
「い、いや、今のはいいんだ。気にしないでくれ」
「まあ、瑞穂がそう言うんならいーけどな。それより時子、良かったな! すっごく似合ってるぞ!」
「はい! ありがとうございます、信二くん!」
最初は少し心配だったが、信二に全面的に肯定されたことで時子は天にも上がらんとするような高揚感に包まれる。
「さて、次は信二君だね。隣の部屋へ来てくれる?」
隼の指示に従い信二は隣の部屋へ入る。
部屋の中は、元の部屋にある『ボク織ルモン』を2回り程小さくしたような透明な筒状の機械。
隣の機械と異なるのは筒に扉がついている所だ。
「信二くん、服を脱いで下着姿になって、その筒へ入って」
スピーカーから隼の声が聞こえてくる。
「おい隼、これ瑞穂達にも同じ指示を出したのか?」
「もちろんだよ。そうしないと正しい採寸が出来ないよ?」
「たしかにそーだが、お前もこういった方面には思い切った行動を取るんだな・・・・・・」
「信二君、それはお互い様だと思うよ」
そんなやり取りをしながら信二は透明な筒の中へ入る。
「中に入ったかい? それじゃ始めるよ」
その声に続いて、筒状の機械の上からリング状のものが回転しながらゆっくりと降りてくる。
どうやらこのリングで体のスキャンニングを行っているらしい。今頃隣の部屋で信二の体をかたどった緑色のモデルが実像化されているのだろう。
すぐにリングは筒状の機械の一番下まで到達する。
「信二君、もう終わったから出てきていいよ」
隼の声に従い筒から外へ出て服を着ようとする。
「信二くん、服を着るのは待って。隣の部屋から出来上がった戦闘服を取ってくるから」
信二が少しの間待っていると、隼が出来上がったばかりの戦闘服を持ってきてくれた。信二はそれを着て部屋の中にある鏡を見る。
真っ白な学生服。襟元やファスナーの部分に紺色の縁取りがある。女子とは違う黒色のブーツが足元を締める。これはこれでカッコいいのではないかと思った。
「着替え終わったらみんなの居る部屋へ戻ってくれるかい?」
隼の声に従い信二は時子達が待つ部屋へと移動した。
「着替えてみたがどーだ? 変な所はないか?」
やはり少し不安に思いそう聞いてみる。
「馬子にも衣装! 以上!」
望が自分に言われたセリフをそのまま返してきた。
「おい望、なんだよそりゃ? 結局なんだかわからんだろーが」
「アンタが言ったセリフをそのまま返しただけ!」
望がそう言ってプイと顔をそむける。しかしその頬は少し赤みが差しているようにも見える。
「もう、のんちゃんも少しは素直になったらどうですか? 信二くん、凄くカッコいいですよ。めちゃくちゃ似合ってます。」
そう言って時子はハンカチで自分の鼻を拭きながら信二の側へ駆け寄る。頭に血が上ったのか鼻血を出してしまったようだ。
「と、時子、大丈夫か?」
「ええ、なんとか大丈夫です。こうして近くで見ると、また・・・・・・」
時子はそう言うと再び鼻をハンカチでおさえた。
「ほう、そう言う格好も似合うんだな。いいと思うぞ」
瑞穂も素直に信二達の姿を褒める。
「うん、いいね。瑞穂ちゃんのデザイン、男子も女子も大成功だね!」
隣の部屋からモニタを通して見ていた隼が瑞穂のデザインを褒めた。
「おい隼、ここで褒めるのは私のデザインではないだろう? みんなそれぞれ似合っているんだから。ところでつばさの分はどうするんだ?」
瑞穂の問いに信二がビクリとし、思わず隼を見つめる。信二と隼だけが知っている秘密。信二としては心臓に悪い話だ。
「うん、つばさの分はあとで作っておくから大丈夫。それより信二くん、僕の出番はここまで。ここからはキミの出番だよ」
隼は話をそらすついでに信二へバトンを渡す。
「おう、そうだな。今作った戦闘服を俺が作ったMAGICSと連動させるぞ。みんな、せっかく着替えたところだが元の服に着替えて欲しい」
信二の言葉に従い、一人ずつ隣の部屋へ移動し、元の服に着替えて戻ってくる。信二の着替えも終わったところで話を続ける。
「よし、それじゃひとりずつ登録していくぞ。まずは瑞穂から。刀も持ってきているよな? ニューロンレシーバと一緒に渡してくれ」
「もちろんだ。それじゃ頼むぞ」
瑞穂は信二に自分の刀、天狗墜と戦闘服、ブーツを渡す。さらに信二は瑞穂からペンダント型のニューロンレシーバを受け取り、ペンダントと服、天狗墜を抱えたままその場に座り込む。そして目をつぶってそのままぴたりと動きを止める。
「やっぱりMAGICSの事になると信二君が一番だね。今ニューロンレシーバを通して色々設定を入れ込んでいるんだろうね」
隼が信二の姿をみて感心するように呟いた。
「ねえ隼、キミも信二と同じようにMAGICSを作ったりはできないの?」
望は首をかしげて隼に問いかけた。
「出来なくはないけど、信二くんみたいにひとつのMAGICSを数日で作ってしまうような事は出来ないよ。僕はハードウエア方面の技術は自信があるけど、ソフトウエアの方はそれほど得意じゃないから」
「ふーん。あたしからすると機械を作るのもMAGICSを作るのも同じに見えるんだけどね。主にどっちもすごすぎて理解が追いつかないというあたりが」
望がそういうと瑞穂が頷いた。
「正直いうと私も望と同じだ。最近の高校生はあのくらいできる奴がゴロゴロしているんだろうかと思うと、私は大きく出遅れているのではないかと思いはじめていたところだったんだ」
「だよねー。一体どうなっているんだか。ここにもう一人凄いのが居るけどね。レビテーションの考え方はトキちゃんのアイデアだって言うし」
望が時子に流し目を送りながらそう言った。
「恥ずかしいから止めてください。それを言うならのんちゃんや瑞穂さんだって、格闘術や剣術は凄いじゃないですか。ここに居る人たちはみんなそれぞれ得意な分野を持っているということですよ」
「そう言ってもらえると少しは気が晴れるかな。ありがとう、時子」
「・・・・・・はい。でも、本当の事を言ったまでですから」
「ふっ。そう言う事にしておくよ」
瑞穂がそう言ってほほえんだ。
その時、信二の手元がパアッと光り出した。望たちは信二の手元に注目する。
瑞穂の服、ブーツ、そして天狗墜から出る光はますます眩しくなる。やがてその光は丸く収束し、次の瞬間その光は瑞穂のペンダントに吸い込まれて消えた。光が消えた後には瑞穂の服もブーツも天狗墜跡形もなく消え去っていた。
それを見て不安になった瑞穂は信二に問いかける。
「信二、どうだ? 上手く行ったのか?」
「バッチリ、成功だ!」
次回は『第78話 戦闘服(4)』です。今日の夜に投稿予定です。よろしくお願いします。