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第7話『サーチ』の効果(2)

昨日の続きとなります。

よろしくお願いします。

 祐輔と信二は夕食を食べた後、仕切りなおして『サーチ』の事を振り返る。


「信二、『サーチ』の威力は充分理解したけど、どうするつもりか考えているかい?」


「どうするって・・・・・・黙って俺達だけで使っていれば荒稼ぎできるけど、それでいーのかって事か?」


「そうだね。他のスイーパー達に『サーチ』を公開すれば、今まで以上にエンボの討伐効率も上がるし、ムダに高レベルのエンボとエンカウントすることも無くなるだろう。スイーパー達が怪我をすることも減る」


「そっかぁ。でも、折角苦労して作ったMAGICS(マジックス)だからさ。あっさり手放すのも惜しいっつーか」


「そうだね。『サーチ』を生み出したのは信二、お前だよ。この仕組みを使って我々だけが利益を得る方法だって悪い事ではないと思う」


 祐輔の言葉を聞いた信二は暫く黙り込む。


「父さん、その言い方はずりーんじゃねーか? 俺達だけがエンボの出る場所をいち早く把握できる。それを使えば、ランクの低い間は弱いエンボだけを狙って稼げるし」


 信二は一息おいて、それから話を続ける。


「ランクが上がれば、レベルの高いエンボの位置を知らせる事で自分の立ち位置を上げる事もできる」


「そうだね。やり方次第でいくらでも稼ぐことができるだろうね」


「だけど・・・・・・」


「言ってみればこれはひとつのチャンスだよね。『サーチ』は自分の実力で作ったものだから、それをうまく使ってなにが悪いんだい?」


 祐輔は信二に『サーチ』の独占を進めているのだろうか。

 けれどもどうにも腑に落ちない信二は考えながら話を続ける。


「だけど、情報を出し惜しみしている間に本当は助かる人がエンボの餌食になってしまうかも知れねーだろ?」


「そうだね。その人は残念ながら運が悪かったんだよ。別に誰も信二を責めないさ」


 信二は考える。祐輔が言う通り、これはチャンスだ。

 命がけでエンボを討伐しながらも、安い報酬にあえいでいるスイーパーが山ほどいる。

 信二達もそのうちの一組であるが、そこから一歩も二歩も抜きんでる事ができる。


「だけどさ、父さん」


「何だい?」


「父さん、やっぱりそれはダメだよ。『サーチ』のプログラムコードはすぐに公開しよう。俺たちはエンボを討伐して飯を食っているけど、エンボを倒す事が目的じゃないんだ」


「じゃあ、なにが目的だと言うんだい?」


「スイーパーってさ、街の人たちをエンボ禍から救う事が一番の目的だろ? 助けるべき人を助けないで、自分だけ金稼ぎをするのはやっぱおかしーだろ」


 信二はもう腹を決めてそう言った。

『サーチ』を公開すれば稼ぐチャンスをみすみす逃すことになるだろう。けれども、見知らぬ誰かを見殺しにして得た富に一体どんな価値があるのだろうか。


 そう決めた信二を見た祐輔は二ッと自分の右の口角を上げる。

 祐輔の願いは信二が多少回り道をしたとしても、正々堂々とした道を選択できるようになるという事なのだから。


「そうと決まったら、早速明日LMOS(エルモス)に行って『サーチ』の公開手続きをしよう。LMOS(エルモス)のお墨付きが無ければプログラムコードを公開しても誰も使おうとはしないだろうからね」


「父さん、わかったよ」


 その後、祐輔はLMOS(エルモス)に『サーチ』の公開をする事を連絡した。

 さっそく、翌日午前中に打合せを行う事となった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「おきなさい・・・・・・おきなさい、信二! もう8時よ! 毎日毎日これなんだから!」


 あいにくの曇天模様。今にも空から雫が漏れ落ちてきそうだ。

 そんな日曜の朝、信二の部屋やって来た母親の愛梨(あいり)が息子を起こしにやって来た。

 愛梨にはこの毎日のやり取りにうんざりといった感がある。


「う、うーん。今日は日曜なんだからさ、ゆっくり寝させてよ・・・・・・」


「今日は大事な日だって、昨日言っていたでしょ?」


「はっ、そうだった! LMOS(エルモス)へ行く事にしたんだった!」


 信二は跳び起きて急いで階段を降り、パジャマのままリビングに躍り出る。

 ダイニングテーブルの上には昨日と同じトースト2枚と目玉焼きが置いてあった。


「これだよ。サッと手軽にとれる朝食だ」


 信二は目玉に醤油とマヨネーズをかけ、さっとかき混ぜてからそれをパンで挟んで一気に食べる。


「母さん、ごちそうさま。じゃあ父さん、出かける準備をしてくるよ」


 信二は祐輔にそう声をかけて自分の部屋へと戻っていく。


 数分後。準備を整えた信二は祐輔と玄関にやって来た。


「それじゃ愛梨、行ってくるよ」


「母さん、行ってきます」


 靴を履いた祐輔と信二は愛梨に向かって出かける前に声をかける。


「いってらっしゃい。今日はあまり遅くならないわよね?」


「ああ、とは言っても3時頃にはなると思う。昼は信二と一緒に街で済ませるよ」


 祐輔は信二をちらっと見てそう答える。


「じゃ、行くぞ、父さん」


「そうだな。行ってきます」


「行ってらっしゃい。気を付けて」




 これが愛梨と祐輔の交わした最後の言葉となった。


◆◆◆◆◆◆


祐輔と信二が家を出発してから20分後。




「・・・・・・ハアハア、一体何なんだ? 父さんは大丈夫なのか?」


 気がついたら辺りは土砂降りになっている。

 バシャバシャと音を立てながら信二は必死で走っている。


 祐輔は自分に向かってLMOS(エルモス)へ向かえと言った。


 しかし、最早どちらの方向に向かっているのかなんてわからない。


 ただただ、必死に走っている。

 ただただ、自分と祐輔に起こった出来事が理解できず混乱している。

 ただただ、自分の無力さに腹が立っている。

 

 信二はマンホールの上に足を置いた途端、靴底が滑って思いっきり尻もちをついてしまう。


「イテッ!」


 恐る恐る背後を見る信二。

 そこには誰もおらず、ただアスファルトを叩きつける激しい雨音だけが辺りに響いていた。


「あれは一体・・・・・・何だったんだ? 父さん・・・・・・無事なんだろうか・・・・・・」


 信二はそのまま道路の上で大の字になった。

 胸を激しく上下させたまま。

 叩きつけるような雨に打たれたままの信二。


 ふと、真夏のあの日の事を思い出す。

 あの日、信二は祐輔とともにゴブリンに追われる女の子を助けた。


「あの時の女子も、こんな気持ちだったんだろうか? あの女子だけじゃない、エンボに襲われる人達はみんなこんな思いをしたんだろうか?」


 信二は目をつぶる。

 エンボの事を甘く見ていた。新宿御苑のコカトリスを見て、無力さを感じ取ったつもりだった。

 でも、さっきの出来事に比べればそんな事は些細な事だ。

 

「クソッタレがっ! うぉーっ!」


 思わず信二は叫んだ。そうしないと、心が粉々に砕け散ってしまいそうな気がした。

ここから話は急展開を迎えます。


続きが気になる方はポイントを入れていただけると幸いです。

明日も一話投稿します。

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