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第67話 藤丸との交渉

遅くなりました。

今夜の投稿です

 隼と瑞穂が転校して来てから最初の土曜日。望は藤丸グループのトップである藤丸翔(ふじまるしょう)に連絡を取り、信二を含めた彼との面会の日付をこの日に決めた。信二と望は学校の制服を来て藤丸家の玄関の前へとやって来た。


「なあ望、やっぱりお前、今回の事を軽く考えてねーか? 仮にも藤丸グループのトップともあろう人が、自社の機密情報を簡単に見せてくれるとは思えねーんだけどな」


「そうかな? 翔おじさんはいつもニコニコしていて優しい人だから、お願いすればすぐに見せてくれると思うんだけどな。犯罪者を探すための情報なんだし、まさか断られることは無いはずだよ!」


 望は自身が知る藤丸翔という人物を思い浮かべつつ、何の疑いもないと言う目で信二を見ながらそう言った。


「ホントーか? 望が大丈夫と言うから手土産の1つも無しに来ているんだ。これで2人そろってお願いしても全然ダメでした、となると格好がつかねーからな?」


 望がこの話を切り出した時からそう言う信二の態度に、楽天家の望も流石に自信がぐらついて来る。


「葵お母さんから土産は持ってくるなと何度も言われたからそこは大丈夫だと思うけど、そんな風に何度も言われるとなんだか自信が無くなって来るじゃない! もし断られたら信二のせいだからね!」


「ここでお前の自信なんて関係ねーよ。相手が首を縦に振ってもらうために俺たちは何が出来るかって事を考えなけりゃいけねーんだからな」


 そう言う信二に口を尖らせて睨みつける望。だが、ここに至ってノープランの望に反論する材料などあるはずが無い。今となっては信二に何か有効な策がある事を祈るばかりだが、どこか素直になれないところだ。


「まっ、ダメなら藤丸と出海の技術者を片っ端から当たるだけの事だ。楽が出来るかそうで無いかの違いだけだ。ここにいても始まらねーから、中に行こーぜ」


「わかったよ。それじゃ、えいっ」


 そう言って望はぐいっと右手の人差し指を突き出し勢いよく玄関の呼び鈴を鳴らす。


「はい、どちら様でしょうか」


 呼び鈴についているスピーカーからお手伝いさんと思われる女性の声がする。


「本田望と司馬信二です。藤丸翔さんとお会いする約束で参りました」


 すると、スピーカーの向こう側でパタパタと言う音とともに別の女性の声が聞こえて来た。


「あら、望ちゃんじゃない。ついに彼氏を連れてきたのね。門を開けるからはいってらっしゃい」


 翔の妻、旭の母親である(あおい)だ。


「葵お母さん、コイツは彼氏なんかじゃないですよ。スイーパーの仲間です」


「はいはい。それじゃ門を開けるわね。入って家のほうに来て頂戴。司馬さんもご一緒にどうぞ」


「あっ、はい」


 思わずそう返事をする信二。その時門が壁に吸い込まれるように引き込まれていく。望が前に進み、信二がそれについていく形で門の中に進み、母屋へと向かう。母屋に近づくと、中から葵が現れ、望たちを中へと案内し、リビングにある革張りのソファへ座るように促す。


 リビングはテーブルをはさんでソファが向い合せに配置されている。信二と望が座った正面には藤丸グループを束ねる藤丸翔が座っている。

 信二は望から翔の事を聞いている。40代後半で国内でも3本の指に入る企業グループを束ねる人物。しかし見たところ体には無駄な贅肉はついておらず、程よい筋肉がついている。テニスプレーヤーやサッカー選手のような引き締まった体。髪の毛にもほとんど白いものは混ざっておらず若々しい。


 しかしその目は数々の修羅場をくぐり抜けてきたと思われる鋭さがある。あの大龍城(ダーロンじょう)の元締め、郭子文(グオ=ズーエン)と同じような独特のオーラを感じる。それでも翔はそんな厳しさを隠し、優しいまなざしで望に話しかける。


「望ちゃん、久しぶりだな。元気そうで何よりだよ」


 翔は葵から、つい最近望が旭の事で悩んでいたという話を聞いているが、そんなことを一切表へ出さずにそう言った。


「おじさん、ありがとうございます。おかげ様であたしはいつも元気いっぱいです!」


「そうか。しかし、葵には『お母さん』と言っているのに俺には『おじさん』か。ちょっと残念だな」


「えっ、あの・・・・・・『お父さん』・・・・・・やっぱりなんか違う、かな?」


「はっはっは。望ちゃん、冗談だ」


 もしも自分の息子である旭が無事成長し大人になった時には、望と結婚しそんな風に呼んでもらう事になったのかもな、チラリとそんな事を思う。翔は改めて無くしてしまった物の大きさを感じながら、その気持ちを表に出すことは無く話を続ける。


「さて望ちゃん、今日は俺に彼氏を紹介しに来たのか?」


 翔は信二に鋭い視線を送りながらそう言った。


「いやいやいや、彼氏ではないですよ! えっと、紹介します! こちらはあたしのクラスメートで一緒にスイーパー活動をしている司馬信二です。今日は信二にお願い事があって来ました」


 望が慌てながら信二を紹介する。その流れで信二も立ち上がって口を開く。


「初めまして。司馬信二です。望と、それからほかにも3人のメンバーと一緒にスイーパーをやってます。よろしくお願いします」


 信二なりに相手へ失礼の無いよう気を付けながら挨拶をする。といっても大物が相手なのにそれ程緊張する事も無い。相手が誰でも通常運転で対応できるのは信二が持つ長所の1つなのかも知れない。


「ほう、若いのに肝が座っているようだな。丁度昨日うちのグループに入社希望の学生を相手に面談したが、どいつもガチガチになっていやがったがな。まあ、座れ。話を聞こうか」


 信二は翔にそう言われてソファに腰掛ける。


「いきなりですが、藤丸さんは『ザ・フール』の事を知っていますか?」


「ああ、知っている。大龍城(ダーロンじょう)で人間の精神力(MP)を大量に奪って数千人に被害を出したというとんでもない奴だ。先日世の中を騒がせた『ウォッチマン』を操っていたのも奴らしいな」


「そうです。俺たちは図らずともその『ザ・フール』の活動を止めることが出来ました。でも、そのせいで俺たちは近い将来に彼から攻勢を受けることになると思っています」


「なるほど。それはあり得る話だな。それで?」


 翔はそう言って身を乗り出し、信二に話の続きを促す。


「いずれ奴と衝突するのは避けられないとしても、事前に奴の正体をつかみたい。そのため俺たちの仲間やLMOS(エルモス)の協力を植えて調査を進めていますが、その結果奴は藤丸グループか出海グループの技術者だろうという目星をつけています」


「ほう、それで藤丸グループにも『ザ・フール』の正体探しの手伝いをしろ、という事か?」


 翔が鋭いまなざしを送るが、信二はそれに臆さず話を続ける。


「いえ、そこまでお願いするつもりはないです。奴の作った機械に癖があるらしく、それを確認するため藤丸グループの作業要領書を公開してほしいと言うのがお願いになります」


 信二はそこまで話すと深々と頭を下げた。それを横で見ていた望もあわてて一緒に頭を下げる。


「作業要領書から犯人を追う、か。なかなか面白いアプローチだな。だが、作業要領書はうちにとって極秘事項の文書だ。お願いしますと言われても簡単に首を縦に振るわけにはいかないな」


 翔は両腕を組んでそう言った。


「えっ、おじさん! でもそれだと『ザ・フール』の正体をつかむのに時間が!」


 二ツ返事で願い事を聞いてくれると思っていた望が思わず立ち上がって慌ててそう言った。


「望ちゃん。これは立派なビジネスだ。要領書の公開は藤丸グループにとってリスクのある事だ。俺も社員達に説明する必要があるんだ。リスクに見合うリターンがない限り、簡単に承諾はできないんだ」


 翔の言葉に肩を落とし、再びソファへ座る望。


「ねえ、信二、どうするの?」


 望はすがるような眼差しで信二を見る。信二はそんな望に向かって小さく頷いてから翔に向かって話を続ける。


「藤丸さん、青梅に建設中の大深度地下にある物流センダーの件ですが、トラブルを抱えているみたいですね」

 

 急に話を変える信二。だが翔はその話に驚き目を丸くする。


「おい、その話をどこから聞いた? 社内でもまだトップシークレットの案件だぞ?」


 話に食いついた翔を見て信二はにやりと口元を上げ、話し方をがらりと変える。


「だろーな。正体不明の存在に施設を丸ごと占拠されて、中で作業をしていた人たちが行方不明。内々にスイーパーを雇って調査を依頼したがそのまま帰って来ないって言うんだから、これは中々大問題だよな」


「信二君、そこまでの情報をどうやって集めた?」


「それは言えねーよ。けど、作業要領書の公開と引き換えにその問題を俺たちで解決するってのはどーだ? 今なら内々に処理出来るかも知れねーぞ?」


 物流倉庫の件はマスコミにリークされでもすれば藤丸グループの信用は失墜する。しかもこの週末に解決出来なければ抑えきる事も難しく、待った無しの状態に追い込まれているところだったのだ。

 そんな対応中の合間にほんの少しの息抜きと思っていた翔にとっては、上手くいくならまさしく渡りに船といった状態だった。


「勝算はあるのか? 今日、明日で解決出来なければ我々としても詰みだ。そこに首を突っ込んで、やっぱりダメでしたという訳には行かない問題だぞ」


「もし失敗したら、火消しのために俺たちをこき使ってもらっても構わねーぞ。いいよな、望?」


「えっ? う、うん。いいよ」


 いきなり話を振られた望は思わず二つ返事でそう答えた。


「どうせ打つ手がなかった問題だ。上手く行くなら御の字だ。こうなれば信二君達にお願いするか。上手くいった時は作業要領書の公開を約束しよう」


「話が早くていーぞ。あと、この依頼を受けるにあたり、1つ用意してもらいたい物があるんだけどな」


 信二はそう言った後、翔の耳元に近寄り小声で何かを囁いた。


「信二君・・・・・・それは高校生が持つには危険すぎるぞ」


「わかってるよ。だからこそ、こうして頼んでるんだよ」


「うーむ、わかった。すぐに手配するから、その間本田さんの道場で鍛えてもらったらどうだ?」


「そーさせてもらうよ。それじゃ、交渉成立だな」


 信二が立ち上がって翔に右手を差し出す。翔は座ったまま右手を差し出し、信二と握手を交わす。


 すぐに準備に入る必要のある信二達は交渉が成立した事を土産に藤丸邸を後にする。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 信二達が辞した後の藤丸邸のリビングにて。翔の真向いのソファに葵が腰掛けている。


「なあ葵、望ちゃんが連れてきたあの男、どう思った?」


「最初はちょっと乱暴な子なのかと思ったけど、いい子なんじゃないかしら」


 翔は葵の言葉を受けて少し考えてから口を開く。


「そうかも知れんな。俺を前にして緊張している様でもない。なかなか肝も据わっているようだ。あれで望ちゃんの同級生だとはな。旭が元気だったとして同い年にアレがいるとなると苦労することになっただろう」


「いいえ。そんな事は無いわ。旭はちゃんと立ち回れるわよ。あの子の賢さがあればどんな事でも乗り越えられたはずよ。でも、旭亡き今、望ちゃんはいい子を見つけたのかも知れないわね」


「ああ、そうだな。まずは青梅倉庫の件、お手並み拝見といこうか」


「そうね。でも、あまり無茶はしないでほしいけど・・・・・・」


◆◆◆◆◆◆◆◆


 信二達は藤丸邸の近くにある本田道場、つまり望の家にやって来ていた。


「信二、ずいぶん大きく出たけど、大丈夫なの?」


 望は心配そうに話しかける。


「正直なところ、中で何が起きているかはわからねーんだ」


 信二の答えに驚く望。


「えっ? 自身満々だからてっきり全部わかっていると思っていたのに!」


「さっきも話をしてただろ? 中に入って行ったスイーパーが帰ってこないってさ。行ってみねーと何が起きているかわかんねーんだ」


「それってヤバいじゃない! どうして受けちゃったの?」


「どのみち黙っていても『ザ・フール』が襲って来るんだ。何があるかわからねーのは変わらないなら、多少危険でもこっちから動いた方がいーと思ってな」


 あっけらかんと話す信二に思わずため息をつく望。


「ふう、わかった。あたしも行くよ。で、トキちゃんや瑞穂ちゃん達はどうするの?」


「これから連絡するよ。これから準備して明日の朝イチから突入だ」


「多分みんな来てくれるとは思うけど・・・・・・頑張らなくっちゃね!」


「ああ、そうだな!」


 信二はその後すぐ時子達へこれまでの事をメッセージで送った。彼女たちはすぐに参戦すると返事があった。


 そして、翌日早朝。信二、望、時子、瑞穂、そしてつばさは問題の倉庫入口へとやって来たのだった。

次回から新たな戦いが始まります。

第68話 巨大倉庫の怪(1)、お楽しみに

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