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第59話 時子の里帰り(2)

 時子は自分の頭上高くに『メイジイーグル』と呼ばれる怪鳥の動きを注意深く観察する。


 怪鳥は一瞬首を伸ばす。それと合わせて時子の体が白く光る。MAGICS(マジックス)のターゲッティングを行った証だ。


 それから怪鳥が首を時子に向けて口を開ける。喉の奥の方から赤い光が広がり、それが火の玉となり時子へ、正確に言うと時子がターゲッティングされた時の場所に向かって放たれ、それが2.3秒で地面に着弾する。


「なるほど、チャージタイムは5秒、ターゲッティングは人ではなく場所に対して行われていますね。それが分かれば対策は可能です」


 要はターゲッティングされた時点から場所を移動すれば被弾する事は無い。チャージ5秒+着弾までの数秒が有れば『ファイアボール』を躱す事など難しい事では無い。

 時子が更に対策を練ろうとした所へ健太郎が話しかけて来た。


「いいか、俺がとっておきの技で奴を倒す! それまでお前は奴の攻撃を躱すんだ!」


「・・・・・・分かりました。お願いします」


 健太郎が何か手を打ってくれるうちに対策を講じればいいか、そう考えた時子は彼の提案へ乗る事にした。


「いくぞっ! コール『ファイアボール』!」


「ターゲッティング!『メイジイーグル』!」


「チャージ!」


「もう一丁! コール『ファイアボール』!」


「ターゲッティング!『メイジイーグル』!」


「チャージ!」


 健太郎はMAGICS(マジックス)を2回連続でコールする。

 そしてチャージが完了する頃合いで両手を上空の怪鳥へと向ける。


「エクスキューション!」


「エクスキューション!」


 すると両方の手のひらからファイアボールが飛び出す。

 その2つの火の玉が怪鳥めがけて飛んでいく。

 しかし、同じタイミングで火の玉を飛ばしているのであっさりと躱されてしまう。

 さらに、お返しとばかりに怪鳥から時子をめがけて火の玉が飛んでくる。

 時子は落ち着いてそれを躱す。


「健太郎さん、今のが必殺技ですか・・・・・・」


「そうだっ! 俺の必殺技、『マルチタスク』だ! 本来同時に一度しか実行出来ないMAGICS(マジックス)の多重起動ができるんだ!」


「確かにMAGICS(マジックス)の多重実行は見どころのある技術ですが、信二さんの『スロット』の方が使い勝手の良さがあります。それに、折角

多重起動出来るならタイミングをずらすなり使い方を工夫した方がいいのでは。なんとももったいない・・・・・・」


 呟くように言った時子の言葉を健太郎は聞き逃さなかった。


「何だ時子、俺の『マルチタスク』に文句があるのかっ!」


 その時、上空から火の玉が降って来る。時子はそれを躱しながら答える。


「よいしょっと! 文句しか無いですよ。健太郎さんの『マルチタスク』は無駄が多すぎです」


「何だとっ!」


「私の友人は『マルチタスク』に似た機能を作り出しています。私はまだそれを使いこなせていませんが、それでも他に工夫の仕方があるんですよ。見ていてください! コール『トラッキング・ファイアボール』!」


「ターゲッティング!『メイジイーグル』!」


「チャージ・・・・・・エクスキューション!」


 時子はファイアボールならチャージタイムを1秒まで短縮することが出来ている。短いながらも信二達との仮想空間(バーチャルスペース)での特訓が時子に飛躍的な進歩をもたらしているのだ。


 右手を振り上げ、そこから怪鳥目掛けて生み出した火の玉を放り出す。

 怪鳥はその火の玉を躱そうとするが、時子の発射した火の玉は怪鳥が移動した方向へ軌跡を変える。

 火の玉は『バシュッ!』と音を立てて怪鳥へ命中する。


「何だ、『ファイアボール』の飛ぶ方向が変わった?」


「追尾機能付きの『トラッキング・ファイアボール』です。少し威力が落ちる所に問題がありますが・・・・・・それ故に1発当てたくらいじゃ倒せないですね」


「時子、お前いつの間にそんな事が出来るようになったんだ?」


「それは・・・・・・あっ、その話はまた後です。いよいよここからが本番ですよ」


 時子がそう言った瞬間、怪鳥が『キェーッ!』と甲高い鳴き声を上げたかと思うと、時子めがけて急降下して来た。


「怖いですが・・・・・・ここはタイミングが勝負ですっ!」


 そう言うと、時子は自分の両腕を水平に広げ、怪鳥に自分の正面を向けた。

 怪鳥は足で時子の両腕の根本をつかみ、体ごと持ち上げて上空へと向かう。


「ぐっ、自分の体重が両肩に集まってキツいです・・・・・・でもここはタイミングの勝負です!『メイジイーグル』は上空からMAGICS(マジックス)を放って獲物を仕留める習性がありますが、上手く行かなかったリ逆に獲物から反撃を食らうと、直接獲物を掴んで跳びあがり、遥か上空に連れ去りそこから落として地面に叩きつけることで獲物を仕留める習性がある。LMOSWiki(エルモスウィキ)のエンボ図録に書いている通りです。」


 時子の両肩に怪鳥の爪が食い込み、激痛が走る。そしてそのまま上空へと連れ去られていく。


 時子へ向かって何か叫んでいる健太郎の姿があっという間に豆粒のように小さくなっていく。そして眼下には神社を覆い隠すような広大な森林と山々、その向こうにはキラキラと輝く日本海が見える。


 怪鳥が頃合いと判断したのか、足の爪の力を抜く。それと同時に時子が叫ぶ。


「コール レビテーション(浮遊)!」


 その瞬間、金属が擦れるような甲高い音と共に時子の体は青白い光に包まれる。そして重力から解き放たれたようにふわりと空中に浮かび、次の瞬間には怪鳥の視界からフッと消える。


「この瞬間を狙っていました。追尾モードだと威力が小さくなってしまうんですよ。コール。『ファイアボール』、ターゲッティング『メイジイーグル』」


 怪鳥の背後から時子の声がした。怪鳥は慌てて時子から離れようとするが、時子の方が一呼吸分だけ早くに行動出来た。


「チャージ!!・・・・・・エクスキューション!!」


 時子は自分の全力を火の玉に込め、怪鳥の至近距離でそれを放つ。

 追尾型よりも1回り、いや、2回りは大きい火の玉が怪鳥に命中する。

 あっと言う間に怪鳥の体は炎に包まれる。


『グギャァァーッ!』


 苦しそうな悲鳴を上げた怪鳥はやがて自分の体を支えることが出来なくなり、地面へ向かって墜落していった。


 時子がそれを上空からじっと見ていると、地面に激突した怪鳥の体が眩しい光の粒へと変わり、それが時子の腰に下げているエナジーシリンダーへと吸い込まれていく。


「私を地面に落とそうとする瞬間にレビテーション(浮遊)を掛けることで『メイジイーグル』の背後を取れる。そのタイミングでないと相手に感づかれてしまい、こんなにうまく行かなかったでしょうね」


『メイジイーグル』の討伐に成功した時子は、ゆっくりと降りていく。そして呆然と突っ立っている健太郎の近くに降り立ったところでレビテーション(浮遊)を解除する。


 健太郎はただただ驚いていたが、気を取り直して時子に話しかける。


「おい、今のは何だ? どうしてお前が空を飛べるんだ?」


レビテーション(浮遊)です。今の私の切り札です」


「その力、俺に寄こせ。空を自由に飛び回るのはお前のような奴よりも、俺こそがふさわしいはずだ」


「お断りします。それに万が一レビテーション(浮遊)を貴方にお渡ししたとしても、使いこなせないと思いますよ」


「時子のくせに生意気な! 鈍くさいお前が出来て、俺に出来ない訳がねぇ!」


「いいえ、オススメ出来ません。レビテーション(浮遊)は操作が大変難しいMAGICS(マジックス)です。最初は大抵、暴走して空高く舞い上がり、そこで精神力(MP)が切れて墜落します。下手に精神力(MP)は多い場合ですと宇宙空間に突入してしまうかも知れません。何れにしても、最初のレビテーション(浮遊)から生還する確率は極めて低いと思います」


「初回で死ぬならどうしてお前はレビテーションとやらをつかえてやがるんだ? 言っていることがおかしいだろ?」


「いいえ、おかしくなんてありません。私はここまで使えるようになるまでに何度も数えきれないくらい死んでいます。仮想空間(バーチャルスペース)で、ですが。健太郎さんはそんな空間を持っていますか?」


「いや、それは無いな。だがそれなら時子が持っている物を俺に寄越せば良いんだ」


「私もその環境を仲間から借りているだけです。勝手な事を言わないで下さい」


「で、出まかせを言うな! お前は俺がいないと何も出来ないクズのくせに!」


「あなたはいつも誰にでもそんな風に他人を見下げる言い方しか出来ません。そんな事だとあなたは一人ぼっちになってしまいますよ」


 時子はそこで一息入れ、話を続ける。


「本当は今のあなたと私の実力差がわかっているんじゃないですか? 無意味な強がりは惨めなだけですよ」


「うるさい! そんなに言うなら力ずくで分からせてやろうか!」


MAGICS(マジックス)を使って暴力をふるう気ですか? そんな事をしたら監視カメラに記録が残ってしまいますよ。ずっと昔から国内で監視カメラの目が届かない所なんてどこにも無い事ぐらい知っていますよね? それに私はあなたと戦うつもりは無いし、無抵抗な私を痛めつける様子が残ればあなたの立場はどうなってしまうかお分かりですよね?」


「ぐっ、どうしてお前はそんなに生意気な事を言うようになったんだ! 黙って俺について来れば良かったのに!」


「いつまでも私が内気で弱気なままでいるとは思わないで下さい。あなたももっと現実に向き合った方が良いと思いますよ」


 時子は健太郎の目をしっかりと見て話を続ける。


「それじゃあこれでお別れです。私はあなたとは二度と会うことは無いと思います。健太郎さんももっと自分を鍛えて、立派なスイーパーになって下さい。それでは、さようなら」


 時子はそう言うと神社の境内を進み拝殿へと向かい、お参りを済ませて再び神社の入り口へと戻ってきた。

『メイジイーグル』が放ったファイアボールによる焦げ跡がいくつも残っているその現場から、健太郎の姿は消えていた。


 これでひとまず時子にとっての問題は片付いた。それを認識した途端、時子の膝がガクガクと震え出す。ヘナヘナと座り込み、その場から一歩も歩けなくなってしまう。


「こ、怖かったです。『メイジイーグル』も、健太郎さんに対しても。我ながらよくあんな対応が出来たと・・・・・・」


 時子はしばらくそこで気持ちが落ち着くまでうずくまっているのだった。

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