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第53話 大龍城(1)

大龍城(ダーロンじょう)の中から現れた双子と思われる2人の少女。


「じいじは『街の外にいる4人を案内しろ』と言いました。」


「爺ちゃんは『エンボを片付けたお礼をしたい』と言ってるよ」


 2人はめいめい違う言葉で同じ内容を話した。


「じいじとは誰だ?」


 信二が尋ねる。


「それは付いて来ていただければわかります」


「別に悪いようにはしないよ」


「司馬、本田。私は行ってみようと思う。つばさもいいだろう?」


「僕は構わないけれど・・・・・・司馬くんと本田さんは?」


「うーん、どうする、信二?」


 望が信二に判断をゆだねる。


「このままだとエンボを倒しただけで何も情報が得られないもんな。罠かも知れねーが、ここは行ってみるか」


 信二の判断に頷く3人。それを見た双子が信二達に話しかける。


「じゃあ、付いてきてください」


「よそ見をすると迷子になるよ」


 そう言うなり2人はスタスタと大龍城の内部へと進んでいく。


 信二達4人は双子の後について行く。

 大龍城(ダーロンじょう)の中に入ると、より一層薄暗さが増す。


 建物が密集しすぎているため、通りだと言うのに空を見る事が出来ない。

 地面には至るところに穴が空いていて、水がたまっているところもいくつかある。

 何本もケーブルが束ねられていて、それがこんがらがりながらあらゆるところに広がっている。

 時々錆びた鉄骨が通りまで突き出しているところがあり、よそ見をしているとたちまちどこかにぶつかってしまいそうになる。

 そして、そういった路地にボロボロの服をまとった人たちが何人も横たわっている。中にはピクリともしない人もいる。


 そんな中、双子は一段と細くなった路地に入って行く。

 歩くだけでも危険に満ち溢れている路地をずんずん進む双子。

 4人はそれを必死に追い続ける。

 やがて路地は行き止まりとなる。


「おい、ただの行き止まりじゃねーか。ここに連れてきて何をするつもりだ?」


 信二は何が起きても対応できるよう身構える。

 望と瑞穂、つばさもそれに習った。


「身構えなくても大丈夫ですよ。危害は加えません」


 そう言いながら壁をガサゴソすると、行き止まりの壁が左右に開き、中からエレベーターが現れた。


「さあ、すぐ乗りな」


 その声に急かされるようにエレベーターに乗り込む一行。

 さほど広くないエレベーターはギュウギュウ詰めとなる。

 さっきの戦いで体が汚れた状態なのでお互い不快な事この上ない。

 ゆっくり上へと向かうエレベーター。

 大龍城(ダーロンじょう)の建物は意外と高さがある。

 このエレベーターも『11』と書いている数字のところで止まった。

 押せるボタンの中で一番大きい数字と同じ値を示している。

 ドアがガタゴトと開くと、そこは今まで見てきた大龍城(ダーロンじょう)の風景とはかけ離れた空間があった。

 さすがに広さはそれほどなく、せいぜい20m四方くらいの広さ。

 しかし、そこに敷き詰められた絨毯、そして真ん中のテーブルとそれを囲んで置かれている8脚の椅子はしっかりしていて、それでいて綺麗だ。

 一番奥に事務用の机と椅子もあるが、部屋に違和感を与えない上品な作りになっている。

 そこに座る白髪の老人。眉毛、ヒゲも真っ白でフサフサでその顔が隠れている。


美雨(メイユイ)美蝶(メイディエ)、案内ありがとう」


老人は双子に話しかけている。


「どういたしまして、じいじ」


「ちゃんと出来たよ、爺ちゃん」


 どうやら双子はこの老人の孫らしい。

 老人は信二達の方を向いた。


「さて、この度は大龍城(ダーロンじょう)に巣食うインビジブルリザードを根絶してもらい、大変助かった。ここをとりまとめるものとして礼を言う」


 そう言って老人は信二達に頭を下げ、そして話を続ける。


「儂が大龍城(ダーロンじょう)を束ねる「雨蝶(ユイディエ)」の郭子文(グオ=ズーエン)だ」


 いきなり大龍城(ダーロンじょう)の首領に会うことが出来た信二達。驚きながらもそれぞれ自己紹介を行った。


「君達は切り傷の血や埃で汚れてしまっているな。手当てをしてから風呂と着替えの準備をしよう。美雨(メイユイ)、準備を頼む」


「分かりました、じいじ」


美蝶(メイディエ)、お客に食事の準備を」


「分かったよ、爺ちゃん」


 2人はテキパキと動き始める。


「2人は儂の孫でな。あ奴らの両親はこの大龍城内のマフィアの抗争の中で死んでしまったのだ・・・・・・」


 すこし顔を下に向ける郭子文(グオ=ズーエン)。しかしすぐに姿勢を戻して話を続ける。


「だが、今はこうして儂が面倒を見ている。もっとも、最近は儂が世話をされているようなものだがな」


「じーさんがどうやってここをまとめたのかは知らねーが、相当ドンパチしていたんだろうな」


「そうだな。ここにたどり着くまではいろいろな事があった・・・・・・」


 ここで一息ついて、さらに話を続ける。

「儂ら『雨蝶(ユイディエ)』もその隙を突いてこの大龍城(ダーロンじょう)を制圧し、趨勢が決まったのもここ数年の事だ。だが、気がついたら国から見放された無法地帯の出来上がりという塩梅だがな」


「成る程な。直接大龍城(ダーロンじょう)のボスからご高説を賜ることが出来るとは滅多に無い体験だよ」


「信二ってこんな大物と堂々と話しているなんてどういう神経をしているんだろうね。十文字さんや溝口さんと話すときは随分畏まっていたと思ったけど」


 望がしみじみと言う。


「あの人達はスイーパーなら誰でもあこがれる人たちだぞ? 話すだけでも緊張するだろーが」


「それじゃまるでこのお爺さんが大したことのない人だって言ってるみたいじゃない?」


 信二の答えにさらに突っ込む望。


「お、おい、お前たち、こんなところで何という事を! もっと場を弁えろ!」


 とてもマフィアの大物の前で話す内容ではない。焦って信二と望のやり取りを止めようとする瑞穂。


「ちょっと雨宮さん、それじゃあたしもコイツと同類だと言っているみたいじゃない」


 信二を指さしながら失敬な、とばかりに抗議する望。


「同類だと言っているんだ! ああ、もう、こっちまで非常識な人間だと思われるじゃないか!」


「瑞穂ちゃん、それを言っちゃうと司馬君達とおんなじだよ・・・・・・」


 瑞穂にクギを刺すつばさ。


「何だと?」


「はっはっは。面白いな、君たちは。皆、肝が据わっておるようだな」


 笑いながらも信二達に鋭い視線を送る子文(ズーエン)に反応し緊張する瑞穂とつばさ。それに対し信二と望はどこ吹く風だ。


「こう言う非常識な人間と一緒にいると苦労するのではないかね、雨宮君、天堂君?」


「も、申し訳ございません・・・・・・」


 別に一緒のチームを組んでいる訳でも無いのに思わず頭を下げてしまう瑞穂とつばさ。


「はっはっは。そう畏まらんでも良い。ここは恩人達に食事を振舞おうとしただけの事、無礼講だ。気にするでない」


 信二と望はうんうんと頷いた。それに倣って瑞穂とつばさも顔を引きつらせながら同意した。


「じいじ、風呂の準備ができました」


「そうか、それなら手当てをしてから風呂に入って体を奇麗にしてくるといい」


 3人は美雨(メイユイ)美蝶(メイディエ)に傷の手当をしてもらった後、順番に風呂へと入ってから用意してもらった着替えに袖を通す。

 望は白地に青い花模様の、瑞穂は澄んだ青色のチャイナドレスを着ている。

 望は若干メリハリが少ない傾向ではあるが、体の線が細いのでそこそこ似合っている。

 それに対して瑞穂はかなりグラマラスなボディなので、非常に妖艶な雰囲気を出している。

 つばさも背が高く、手足がスラリとしているのでなかなか似合っている。

 思わず3人に見とれていた信二はカーキ色の軍服があてがわれた。


「爺ちゃん、準備ができたよ」


「ありがとう、美蝶(メイディエ)。それでは、食事としよう。私はお客様と食事をするので美雨(メイユイ)美蝶(メイディエ)は奥で控えていなさい」


「わかりました」


「わかった」


 2人は奥の部屋へ消えていった。


「折角なら2人も一緒に食べればいいのに」


 望が子文(ズーエン)にそう言ったが、彼は手を振って答える。


「いやいや、気にすることはない。君達が帰った後、3人で食べるからな。2人はお客様と食事するのが恥ずかしいのだよ」


「んー、そう言う事なら・・・・・・」


 望が不承不承ながらも納得する。


 テーブルを5人で囲む。

 美蝶(メイディエ)の用意した食事が並ぶ。

 角煮やクラゲなど前菜の盛り合わせ、家鴨の丸焼き、フカヒレスープ、エビチリ、豚肉の野菜炒め等々、中華料理がところ狭しと並んでいる。


「わあ、おいしそう! トキちゃんも連れて来たかったな」


 テンションが上がった様子の望がそう言った。


「昨日は焼肉で今日は中華! 今回のGWは豪勢な滑り出しだね!」


 箸を進めながら望はそう言った。


「全く、望は能天気だよ。こっちは2日連続でそこそこキツい相手と戦っているんだぞ」


 そう言って信二は溜息をつく。

 信二と望のやりとりがある横では、つばさが無言でもりもり食べている。

 そんなつばさを見て瑞穂が溜息をついたところで信二と視線が合う。

 お互い相棒は困った奴だ、そんなニュアンスをお互いに感じ取り信二と瑞穂が苦笑する。


 食事が一段落したところで、子文(ズーエン)が信二達に向けて口を開く。


「ところで、『ザ・フール』についてだが」


 いよいよ来た、と身構える信二達なのであった。


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