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第51話 見えない敵(2)

 瑞穂たちが謎の刃の攻撃を受ける少し前の事。


 信二は望を新宿駅まで呼び出していた。

 東口を出たところにある広場で合流する約束をしている。

 信二が駅に向う地下道の入り口で待っていると、望が階段を駆けのぼって来る。

 望のボブカットは少し茶色がかった黒色で細くて柔らかい。その髪をふわっと揺らしながら信二の所へとやって来た。


「急に呼び出してごめんな。どうしても気になることがあってさ」


「うん、あたしも気になった。雨宮さんの事でしょ?」


「ああ、そーだ。昨日『ザ・フール』の話をしたとき、雨宮は何だか落ち着かない様子だったからな。クギは刺したが暴走しちまうんじゃねーかと思ってな」


「だよね。雨宮さんと天堂さんに連絡したけど全然繋がんないし、あそこに向かっちゃってると思っていいよね!」


「そーだな。俺も全然連絡取れねーんだよ。多分行ってるんだろーな、大龍城(ダーロンじょう)』」


「だね。この話、トキちゃんには?」


「してねーよ。時子は今日実家に帰るだろ? それを止めさせて呼びつけるなんて鬼みたいなことはしねーよ。さっき『気を付けて帰れよ』とメッセージを送ったところだ」


「もうちょっと気の効いたメッセージの方が良かったんじゃないの? 信二らしいと言えばそうだけど」


「俺らしいって何だよ・・・・・・っと、今はその話じゃねーな」


「うん、そうだよね! 今は雨宮さん達の事だよ!」


「だな。それにしても、あいつら証拠を探すと言ってもどーするつもりなんだろうな? 情報を集めるにも金がかかるのを知ってるんだろーか? あいつ、結構お嬢様なんだろ?何かやらかしてそうな気がするぞ」


「でも、お金なら『アメミヤ』の娘さんなんだからなんだかんだで持ってるでしょ? そこは心配無いんじゃないの?」


「いや、多分ダメだと思うぞ。望、これを見たことがあるか?」


 そう言いながら信二は茶色や紫、緑色の紙を取り出した。それぞれ人の顔と「壱万円」「五千円」「千円」と書かれている。


「あっ! これそういえば小さいころに見たことがあるかも! これお金だよね!」


「そうだ。『大龍城(ダーロンじょう)』では電子マネーは通じねーから現金が必要になるんだ」


 キャッシュレスが一般的に広がり始めたのが今からおよそ30年前。そこから紙幣や硬貨の使用比率は少しづつ低下し、キャッシュレスに完全移行してから10年が経とうとしている。

 それでも『大龍城(ダーロンじょう)』などのスラム街では金の流れを抑えられないように現金での取引が続いているのだ。


「ふーん。そういうものなんだ。で、情報はどこで買うの?」


「さすがにそこまで確かめることができてねーんだよ。そこは行ってみない事には何ともならねーな」


「そっか。なんか危なそうだけど、戦いとかはないんだよね?」


「多分無いと思ってる。いくら物騒な場所だからってエンボ(エンボディドモンスター)の巣窟じゃあるまいし、そんなに戦いに巻き込まれてたまるかってんだ。昨日もオークに会ってんだ。しばらく『ウォッチマン』みてーのは勘弁だ」


「うん、それはあたしも同意するよ。今でこそランクD(ホワイト)でレベルⅢエンボ討伐成功、なんて事を言えるけど、下手したらスイーパー登録後30分で死亡っていう可能性もあったんだよね」


「その通り。そうなってたらちっとも笑えねーぞ。っていうか、あの時はホント俺の判断ミスのせいで望まで巻き込んでしまって、ホントにゴメンな」


「それは気にしないで。それが相棒ってもんでしょ?」


「まあ、そう言ってくれると助かるよ。それじゃこれから行くぞ。『コモンコンソール』を共有するぞ」


 信二が展開している『コモンコンソール』の情報を望も共有できるようにした。周辺地図の情報が信二と望の脳内に展開される。

 その状態で2人は話をしながら東の方と進んでいく。

 信二と望はすぐに異変を感じ取った。 


「ねえ、これから向かう方向だけど、エンボが4体いるよね?」


「ああ、そいつらが人間2人を囲んでいるな。早くしないとまずいぞ。望、急ぐぞ!」


「うん、わかった!」


『大龍城(ダーロンじょう)』へと急ぐ信二と望。

『コモンコンソール』が指し示す場所へと到着すると、そこには体中が切り傷だらけとなった瑞穂とつばさが背中合わせで立っていた。


雨宮(あめみや)天童(てんどう)! やっぱり来てたか!」


 2人とも遠くから見ても肩で息をしているのがわかる。相当体力を消耗しているようだ。しかし、『コモンコンソール』では察知出来ているエンボの姿が見えない。


「司馬と本田か? なぜここに? いや、それよりも早くここから離れろ!」


 その瞬間、どこからともなく長くピンク色の刃のような物が信二の眉間に向かって突き立てられる。


「うぉっ!」


 間一髪、信二はしゃがみこむことで刃をかわす。

 信二の髪の毛がハラッと一房切り取られあたりに散った。


「返しがあるから気をつけて!」


 その声で刃を見ると、刃の先の方が鎌のような形に変わっている。それがすごい勢いで飛んで来た方向に戻って行く。

 そしてその刃がフッと消えた。


「やっぱりいるっ! でもどーして姿がみえねーんだ?」


 それを聞いた瑞穂が同意するように言ってくる。


「そうだ、姿が見えないんだ! どこから攻撃が来るか分からないんだ!」


 その瞬間、信二と望に向かって同じタイミングで別の方向から刃が飛んで来た。2人はかわすので精一杯だ。いくら『コモンコンソール』で大体の位置がわかるとは言え、姿が見えない為どのタイミングで攻撃されるのかわからないからだ。

 しかも刃が戻る時に切っ先が鎌のように変化するのでさらに厄介だ。


「信二! 姿が見えないから攻撃のしようがないよ! どうすればいいの!?」


「『コモンコンソール』で大体の方向がわかる! あとは刃が飛んでくるタイミングを見計るんだ!」


 致命的な一撃は避けられているものの、彼らの頰や足に刃がかすっていくため、2人とも少しずつ傷が増えていく。

 とにかく直撃を食らうと一撃でお陀仏だ。『ウォッチマン』との戦いで負った怪我が治って数日と経たないうちに葬儀場へ直行するなど縁起でもない。


 刃をかわしながら、信二は閃くものがあった。


「望!『ナイトスコープ』を使ってみろ! この辺りは薄暗いから、何かが見えるようになるかも!」


「分かった!」


 信二と望は『ナイトスコープ』をコールする。視界は緑色がかったものに変化し、そのかわり明暗がくっきりと浮かび上がる。その中で、なんとなく風景が揺らいでいる所が4箇所。


「信二、見えたよ! なんか動いているのがいるよ!」


「ああ、見えたな!」


 刃をかわしながら風景が揺らいでいる場所に突入する信二と望。

 近くに寄ると、そのエンボの姿が朧げに見えた。


「一体何が?」


 瑞穂が聞いてくる。


「これはトカゲ・・・・・・いや、カメレオンだ! バカでかいカメレオンだ!」


「カメレオン!?」


 よく見ると、皮膚の色を辺りの背景に合わせて器用に変色させている。ギョロッとしたその目の視線をよく見て見ると、左右がバラバラに動いているのがわかる。その体は異様に大きく、頭から尻尾までだと1.5m近くはありそうだ。さっきから飛んで来るピンク色の刃はこのカメレオンの舌の様だ。


「周りの風景に溶け込んで、油断したところを舌でグサリか。随分とえげつねーやり口じゃねーか」


 信二はカメレオンに接近し打撃を与えようとするが、意外に俊敏に動くためなかなか接近できない。『コモンコンソール』と『ナイトスコープ』である程度相手の存在を認識できるようになったとは言え、ぼんやり見えているだけなので相手の攻撃を見切り損なう可能性があり危険だ。

 そうして攻めあぐねていると、舌がシュッと飛び出して来るから始末が悪い。辺りがごちゃごちゃしている場所のため、『ファイアボール』や|『ライトニング』は建物に被害を与える可能性があり危険だ。


 そう思った信二は『フリージング(冷凍)』を放ってみた。カメレオンの体が霜で白く浮かび上がりその姿がはっきり見えるようになった。心なしか動きも鈍くなったように思える。


「今がチャンス!」


 信二は氷がついたカメレオンに一気に飛びかかり、その大きな目を右拳でブチ抜いた。グシャッという感触が右腕に伝わる。肘より先まで目に突き刺さった拳はカメレオンにとって致命傷となった。


「グゥェェェェッ!」


 断末魔をあげたカメレオンはドゥッと倒れ込む。息絶えたその体は擬態が解かれ、褐色の体が露わとなった。恐らくこれが本来の姿なのだろう。

 姿を現したカメレオンはすぐに光の粒になって信二のエナジーシリンダーに吸い込まれた。

 

「こいつ、意外とすばしっこいよ! イライラするな、もう!」


 ここで信二が一匹のカメレオンを見てみると、望が攻めあぐねているのが見えた。信二が援護の『フリージング(冷凍)』を放とうとした時、カメレオンが急に望から距離を置いたように見えた。


 カメレオンは急に


「キェェェェェェッ!」


 と金切り声を上げた。

 信二は慌てて『フリージング(冷凍)』を放つ。カメレオンに霜がつき、その体が白く浮かび上がる。望はカメレオンの大きな目をめがけて蹴りを放つ。直撃を食らったこのカメレオンも倒れ、これで2匹のカメレオンの討伐に成功。残りの2匹も『フリージング』を使って討伐した。

 信二と望は瑞穂とつばさに近寄る。


「大丈夫か?」


 瑞穂は『天狗墜(てんぐおとし)』を納刀しながら答える。


「傷は受けているが、動けないほどではない。一応、礼は言っておく」


 つばさも銃を腰に戻して立ち上がる。


「助かったぁ。本当にありがとう! あのままだとあと10分も持たなかったよ」


「それにしても、お前らやっぱりここに来ていたのか」


 それを聞いた瑞穂はうっ、とたじろぎながら答える。


「い、いや、私としては少しでも証拠を掴めないかと思って・・・・・・」


「瑞穂ちゃん、ここで言い訳したって意味はないでしょ? 司馬くん、キミの言う通りだよ。僕らは昨日司馬くんから聞いた事が気になって」


「黒幕が居ると聞いたら黙っちゃいられねーよな。だけど、もうちょっと待ってくれなかったかな。ん? 急に敵の反応が・・・・・・なんだこりゃ?」


「信二、どうしたの?」


「俺たち、いつの間にかにエンボに囲まれているぞ! 数は40、急に反応が出やがった! さっきのカメレオンの金切り声は仲間を呼ぶ声だったんじゃねーか?」


 倒し方が分かったとは言え、姿の見えないハンターに囲まれた状態。

 信二、望、瑞穂、そしてつばさは一気にピンチに追い込まれたのだった。

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