第47話 瑞穂の恩人(3)
優希がインターホンのディスプレイを覗くと、隼の両親である佐用瑛太、志緒夫妻と、見知らぬ女の子がマンションのエントランスに居るのが見えた。
「どうぞ、お上がりください」
優希はあの子が誰だろうかと思いながらも、あの夫婦と一緒に来ているなら問題ないだろうと応対する。
暫くするともう一度インターホンが鳴ったので、優希が玄関に向かい、ドアを開けた。
「急に来てしまってごめんなさい。どうしても紹介したい子がいるので連れて来たの」
玄関口でそう行った女性が隼の母である志緒だ。艶のある黒髪をアップしてまとめており、その顔つきは少しつり目がちだが大きな目で鼻筋も通っている。目元のシワなど年齢を重ねているところもあるが、丈や優希と同い年であり、成人した子を持つ母親である事を鑑みると円熟した美しさを持っている。
その隣にいる瑛太も丈達と同い年だ。ロマンスグレーの髪を七三分けにしている。どちらかと云うと中性的な顔立ちだ。背も丈と比べて若干高いが、ほっそりとした印象だ。
一見優しそうな雰囲気を持っているが実は日本3大財閥の一角、六ツ星グループの総帥だ。丈達の会社も独立した会社であるが、六ツ星グループより資本提携を受けておりその結びつきは強い。
4人は中学の時から同じクラスだったという事で、長い付き合いがあるのだ。
「玄関で話すのも何だから、まずは上がって頂戴」
3人をリビングに通す優希。
リビングに入った所で瑛太が口を開いた。
「今日は連絡もなしに来てしまって済まないね。みんなに紹介したい子がいるので連れてきたんだ」
瑛太はそう言って連れてきた女の子の背中をポンと押した。
「はじめまして! 僕は天童つばさと言います。中学2年で、瑞穂ちゃんと同い年です。僕の母が志緒おばさんの妹なので、僕は志緒おばさんの姪に当たります」
つばさはつり目がちな大きな目とすっと通った鼻筋。なる程、どことなく志緒に似ている様に見える。
というか、髪型を変えれば隼に瓜二つだと思った。艶のある黒髪が肩甲骨あたりまでまっすぐ伸びている。中学2年の女の子にしては背が高めで、それでいて手足がほっそりしている。ちなみに胸はぺっちゃんこだ。
丈がつばさに挨拶してから瑛太に問いかける。
「つばささんが瑛太達の姪なのはわかった。で、隼くんは?」
「本当は彼も連れてきたかったんだが、家で用事があると言い張るんで家に置いてきたんだ。何やら作っている様なんだ」
「そうか、隼くんは機械いじりが得意だからな。そのうち何か驚く様な物を見せてくれるんだろう?」
「ああ、なんだか凄く息巻いていたけど、ガラクタじゃなければいいけどね、イテッ!」
ここでつばさが瑛太の脇をどついた。
「おじさん、隼くんの事を悪く言っちゃダメ!」
そのやり取りを見た志緒が下を向いて肩を震わせている。ちょうどお茶を運んできた優希が志緒に話しかける。
「志緒、どうしたの? 具合が悪いの?」
「ぷっ、あの、ごめんなさい。瑛太とつばさちゃんのやり取りがおもしろくて」
「つばさちゃんが活発そうなのは分かったけど、そんなにおもしろいやり取りかな? まあ、立っているのも何だから座ってよ」
優希の言葉でリビングのソファーに座る。雨宮家のリビングは3人がけのソファーが2対あり、テーブルを挟んで向かい合う様にしている。割と来客の多い事から、その様な配置にしているのだ。
「今まで君たちは瑞穂ちゃんがスイーパーになるかどうかの話をしていたんだろう?」
お茶を一口飲んだ瑛太が尋ねてきた。
「よく分かったな。ついさっきまで瑞穂とその話をしていた所なんだが・・・・・・」
丈が驚きながら答えるとそれに被せるように話しかける瑛太。
「やっぱりね。そう思ってつばさを連れて来たんだ。どうだろう、スイーパーになりたいと言うなら、瑞穂ちゃんとつばさを組ませてみては?」
「おいおい、姪とは言えよその子を勧めて来るなんて無責任じゃないのか? スイーパーは命がけの仕事なんだぞ?」
「もちろん分かっているさ。でも、このつばさもなかなかの跳ねっ返りで、放って置いたら1人で飛び出しかねないんだよ。それで、君の所の瑞穂ちゃんと組んでくれたら幾分安心できると思ったんだよ」
「ボクからもお願い! このままだと籠の中の鳥になっちゃう!」
それを見ていた瑞穂はチャンスとばかりに身をのり出して言う。
「お父さん、お母さん、私からもお願いします!」
「おお、瑞穂ちゃんもそう思うか? ジョー、どうだろう? 考えてみてくれないか?」
「そこで昔の呼び方をするなよ、瑛太。だいたい、1人でも2人に増えても危険なのは変わらないんだぞ?」
丈がそう言った所で志緒が丈と優希に声をかける。
「ジョー、優希。ちょっと来てくれる?」
志緒が丈と優希を連れて隣の部屋へ消えていく。
何やらゴニョゴニョと話しているらしい。急に
「「ええっ!」」
と丈と優希のハモった声が聞こえ、それから静かになり、暫く時が流れる。
瑛太とつばさはニコニコしているが、瑞穂は何が起きているのかわからず不安そうにしている。
それから志緒、丈と優希がリビングに戻ってきた。優希はすっきりした顔つきだが、丈は苦虫を噛んだ様な顔つきだ。その顔のまま丈は瑞穂に話しかける。
「瑞穂、スイーパーになりたいと言うのは本気なんだな?」
「も、もちろん!」
「気を抜くと死んでしまうかもしれない大変な仕事だぞ! ちゃんとやれるか?」
「もちろん!」
「・・・・・・つばさちゃんと一緒に活動するのが条件だ。勝手な行動を取ると自分だけでなく、相手も危険な目に遭うんだぞ! ちゃんと相手の事を考えて動く事ができるか?」
「もちろん!」
それを聞いた丈はため息をひとつつき、奥の部屋へと消える。そしてしばらくして一振りの刀を持って戻って来た。
その刀は金色の装飾が入った真っ赤な鞘に納められている。心なしかその刀からは威圧感の様な物を醸し出している様にも思える。
「これは六ツ星金属出雲製鉄所製の特殊鋼材で鍛造された刀だ。銘を『天狗墜』と言う。歴史的価値はないが、スイーパーとして活動するなら問題はないはずだ」
「お父さん、どうしてこれを?」
「瑞穂はいつかスイーパーになりたいと言い出すじゃないかは思っていたんだ。お前は正義心が強いからな。ただ、今はまだ早すぎると思っていたんだがな。だから、つばささんと一緒に行動する事が条件だぞ」
「う、うん、分かった。でもつばささん、君は構わないのか?」
「もちろん、瑞穂ちゃんとだから一緒にやりたいんだよ」
「でも、はじめて会った人とやっていけるのか?」
「大丈夫!僕は瑞穂ちゃんの事なら何でも知っているからね?」
「どうして・・・・・・そんな事を?」
「隼くんから君の事は聞いているから! 大丈夫、僕達なら上手くやっていけるよ!」
初対面の人間からそんな事を言われても、普通なら怪しむだけだが、何故だか瑞穂は彼女と上手くやっていけそうな気がした。彼女はどことなく隼の事を思わせる雰囲気を持っており、何故だか初めて会った様な気がしなかったからだ。
「ああ、分かった。よろしく、つばさ!」
「うん、瑞穂ちゃん、よろしくね!」
こうして瑞穂は両親の許しをもらい、謎?の少女つばさと共に晴れてスイーパーになることを許してもらったのだった。




