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第43話 特訓の後、焼肉屋にて(1)

 信二と時子が望の家を訪ねたその日の夕方、3人は神楽坂にある焼肉屋へと向かう。時子のスイーパー登録のお祝いと、信二が望へ働いたセクハラ行為のお詫びを兼ねた食事会をする事になっているのだ。


「最初はおしゃれな店に行きたかったんだけど、体を動かすとお腹がすいちゃうよね!」


 望が店へと向う途中にそう言った。


「腹が減ったのは同意だな。師範も今日はいつもよりシゴキがきつかったんじゃねーか?」


「本当に大変でした。それよりも今日はあっさりダウンしてすみませんでした・・・・・・」


 時子はウォーミングアップと称したランニングをしただけで倒れ込んでしまったのだ。


「そんなの仕方ねーよ。正直なところ、時子はそんなに運動が得意そうに見えねーしな」


「ちょっと信二! いきなりそんな事を言ったら失礼じゃないの?」


「いいえ、いいんですよ、のんちゃん。信二くんの言う通りなんですから。でも、二人と一緒に活動するならそうも言っていられません。これからもかんばりますよ!」


「わかった。みんなでがんばろーな。それより望、前から思っていたけどお前ん家はこんな一等地なのに無駄に広すぎんだよ。敷地を1回りすると200mは超えてるだろ? 100周だもんな、それだけでもヘロヘロだぜ、師範は鬼だよ」


「そうですね。私は半分も行かないうちにリタイアしましたけれども」


「トキちゃん、いきなり50周近くも走れるんだから凄いと思うよ。信二がウチに入門したての頃ってどうだった?」


「ここでそれを聞くのか? 隠しても仕方ねーから言うけど、30周に届かなかったよ」


「えっ? そうだったんですか?」


「ああ、さっきもそうだったけど、全力で走らされるだろ? 別に運動音痴って事はねーけど、それまで部活もやってなかったからな」


「そうだったんですね。私は実家が結構田舎の方なので、割と足腰は鍛えられていたのかも知れませんね」


「成程、体力があるのはスイーパーにとって間違いなくプラスだぞ。いざという時に色々動けるからな」


 そこまで話した信二は望の方を向いて話を続ける。


「それより話を戻すが望の家はどうしてあんなに広いんだ? 見た目によらず結構金持ちだろ、お前の家は」


「いきなり人聞きの悪い事を言わないでよ! それを言うならこの間一緒にいた雨宮さんの方が凄いはずだよ?」


「その雨宮さんって、もしかして、あの『雨宮製作所』の御令嬢と言う事ですか?」


「そう。今みんなが使っているニューロンレシーバを作った会社。『世界のアメミヤ』と言われる雨宮製作所の御令嬢だよ。あの子、中学の頃は剣道をやっていたから、武道のつながりでお互い顔だけは知っているんだよね」


 望がそう言ったところで彼女の背後から2人の人影が現れる。栗毛ポニーテールのクールビューティ、雨宮瑞穂。そして隣にはツインテールの長身スレンダー美女の天童つばさだ。2人ともセーラー服を着ている。東京でも有数の進学校と言われる学校のものだ。


「私がどうしたって? 人が居ない所で悪口を言うのなら、それはあまり感心しないな」


「雨宮瑞穂・・・・・・別に悪口ってわけじゃねーよ。それよりどうしてここに?」


「つばさが空腹で死にそうだとうるさいからここに来たんだ。お前たちもそうなんだろう?」


 瑞穂は何を聞いているんだと言う顔をしながら望に向かってそう尋ねる。


「あっ、話しながら進んでいるうちにもうお店の前だった! えっと、そうだよ! 今日はここにいる癖ッ毛男の奢りで食事する事になってるんだよ」


 望が信二を指さしながらそう答えた。


「おい、癖っ毛男ってなんだよ! それより雨宮、あの事件の後、大丈夫だったなのか?」


 いきなり話を振られた信二だが、瑞穂が首吊り現場に行ってしまった事を思い出して尋ねる。


「ん? この間の事件の事なら、もう大丈夫だ。現場にいるときは取り乱してしまったが、私だってスイーパーの端くれ。そんなにいつまでも引きずったりはしないさ」


「そーか。それは良かった。それよりお互い目的の店の前で会ったんだ。今日はここにいる時子のスイーパー登録祝いの食事会何だけど、折角なら一緒にどーだ? どうせなら人の多い方が楽しーだろうし。もちろん食事代は俺が出すぞ?」


 信二は大会社の御令嬢でありながらスイーパーという危険な仕事をしている瑞穂に興味が沸き、話を聞いてみたいと思い声をかける。


「いや、それはダメだろう? この間顔を合わせただけの人に奢ってもらうなんて」


 瑞穂はそう言って断ろうとする。


「いいんじゃない? 司馬くんが僕達の分も奢ってくれると言うんだから。ここは彼を立てて御同伴にあずかってもさ」


 つばさは腕を組んでそう言い放つ。


「だが、それは図々しいんじゃないか? 別に私だって食事するくらいの持ち合わせはあるんだぞ」


 そう言って遠慮する瑞穂に望が話しかける。


「雨宮さん、信二も誘っているんだし、気にしなくてもいいんじゃない? 一緒に食べようよ」


「そーだ。こう言うのは人数の多い方が楽しいからな。遠慮はいらねーよ」


「私もぜひ雨宮さん達と一緒に食事をしたいです」


 みんなからそう言われた瑞穂は少し考え、結論を出す。


「そう言う事なら、ここはご馳走になろう。もちろんこのお礼は後で必ずさせてもらうからな」


「よし、それじゃ早速行こーぜ!」


 店へと入ると、信二達は6人がけのテーブルへと通された。

 テーブルの奥から望、時子、信二が座り向かい合った席に瑞穂とつばさが座る。


「さて、さっそく頼むぞ。食べ放題(上)コースでいいか?」


 信二がそう尋ねると、望がすぐさま反応する。


「ダメ! 食べ放題『特上』で! それでないと上タン塩が食べられないからね!」


 さすがに図々しいのでは、と口を開こうとした信二に望が畳みかける。


「いくら仮想空間(バーチャルスペース)だからと言っても、あたしの胸はそんなに安くないからね! もう忘れちゃったのかな?」


 望は信二が先日仮想空間(バーチャルスペース)で望の胸に顔をうずめてしまった事を引き合いに出す。


「くっ・・・・・・」


 痛いところを突かれた信二は一瞬言葉が詰まる。それを見て信二の懐が心配になった瑞穂が恐る恐る尋ねる。


「私達も加えてもらったところでいいのか? ここは味の割にはリーズナブルだと聞いているが、それでも限度があるのでは?」


 しかし望は手をひらひらさせて瑞穂とつばさに答える。


「いいのいいの。よろしくね。じゃあ早速頼も? よろしく、信二!」


「わ、わかった。今回は食べ放題、と、『特上』で」


 なし崩しに高いコースを奢る羽目になる信二であった。


 オーダーを受けた店員たちはテキパキと準備を進め、テーブルの上には2つの七輪が並べられる。

 何種類かのタレやレモン汁もやって来た。


「それではオーダーをお願いします」


「上タン塩! それからオレンジジュース!」


「上カルビだ! サイダーも!」


「ロースと、ウーロン茶をお願いします」


「ハラミと海鮮サラダ、それからジンジャーエールを頼む」


「えっと、ゴハン特盛に上タン塩5人前と上カルビ5人前で。後、水を下さい」


 一同がそれぞれ食べたいものをオーダーする中、つばさだけがとんでもない量をオーダーする。


「ちょっとつばささん、それはいくら何でもやりすぎじゃない?」


 望がつばさに尋ねるがつばさは飄々として答える。


「ううん、全然大丈夫だよ? 最初から飛ばしてもつまらないから、最初は控えめにしないとね」


「おい、本当に大丈夫なのか? ムリして体を壊さねーようにしないと。雨宮も止めてやれよ、お前の相棒だろ?」


「いや、大丈夫だ。見ていればわかるさ」


「ホントか? 腹を壊しても知らねーからな」


◆◆◆◆◆◆◆◆


 頼んだメニューがテーブルの上にそろった所で、信二が立ち上がる。


「それじゃあ始めようか。今日は時子のスイーパー登録祝いだ。それに時子は今日、レベルⅡのエンボも討伐したんだぞ! 前途有望な時子を祝って盛大にやろーぜ。と言う事で時子、最初に一言頼むよ」


「えっ? わ、私?」


 いきなり話を振られた時子が驚いて立ち上がる。


「えっと・・・・・・今日は私のために食事会を開いていただいてありがとうございます。飛び入りで雨宮さん、天童さんにも入っていただいて」


 ここで時子は瑞穂とつばさに向ってペコリと頭を下げる。


「信二くんも言っていましたが、今朝エンボレベルⅡのオークに遭遇しました。信二くんのサポートもあって討伐できましたが、改めてスイーパーは危険な仕事だと実感しました。し、しっかり自分の実力をつけて、エンボを討伐できるよう頑張ります。みなさん、よろしくお願いします!」


 時子はあたふたしながらもそう話してペコリと頭を下げてから着席する。それを見ていた4人が拍手で時子を迎える。


「これから一杯訓練して強くなろうな! 十日町さんみたいにな!」


「トキちゃん、あたしからも改めてよろしくね! いろんな敵と当たるだろうけど、ビシバシ行こうね!」


「そんな小さな体でオークを討伐するとは! これは大変なライバル登場だな。共に頑張ろう」


「司馬君のチームは凄いよ。結成して日も浅いのにレベルⅢ、レベルⅡの討伐をするなんて! 瑞穂ちゃん、これは僕たちもウカウカしていられないね」


「みなさん、ありがとうございます!、私、今日は忘れられない日になると思います! これから頑張ります!」


 時子は4人の言葉をもらって感激している。


「よし、それじゃ始めよーぜ! これからみんなの活躍に、乾杯だ!」


 信二はそう言って自分のサイダーが入ったグラスを差し出す。


「乾杯!」


 他のみんなも自分のグラスを信二のグラスにチンとつける。さあ、食事会の始まりだ。

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