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第34話 空を飛ぶ(1)

評価ポイントいただきました。有難うございます。

嬉しかったので今日はいつもよりかなり早いですがこのまま投稿します。

 信二が入院してから2週間が過ぎた。

 望と時子は彼から新しいMAGICS(マジックス)、|グラビティコントロール《重力制御》が完成したというメッセージを受け取った。


「ねえ、|グラビティコントロール《重力制御》って何が出来るの? グラビティってなんだか凄そうだけど、この間の信二と時子ちゃんの話、全然わかんなかったんだよね」


「えっと、重力加速度のベクトル向きと大きさを自由に操作することができるんです」


「いや、何を言っているか全くわかんないんだけど・・・・・・」


「あっ、そうでしたよね。学校の授業で習ってないですよね。要するに、物が落ちる方向を変えることが出来ます。あと、重さを変えることも出来ます」


「どうして学校で習っていない事を知ってのかな、あたしの周りの人たちは。信二もこの話について行ってるんだよね?」


「もちろんです。技術に奇跡なんてありません。なので、知らないものは作れません。でも、それって悔しいんで一生懸命勉強するんです。たぶん、信二さんも同じなんじゃないかと思いますよ」


「ふーん。そういうものなんだね。あたしはどっちかと言うと体を動かしている方が好きなんだけどね」


「望さんの体の動かし方は私からすると凄いとしか言えません。私にはどうしてそんな動きが出来るのかさっぱりわかりませんが、望さんはちゃんと理解しているんですよね?」


「それはもちろんだよ。何度も繰り返して体に覚えさせると、そのうちいろいろ出来るようになるんだよね。っと、それの勉強版ってことだね?」


「そう言う事です。人には得手不得手がありますから、それぞれ得意な事を伸ばしていけばいいんです」


「うん、分かった。難しい事は信二と時子ちゃんに任せるよ」


 そう言って理解することをバッサリ切り捨てる望。割り切りのいいところは彼女の長所と言う事にしておくべきか。


 さて、信二から早速動作確認をしたい、とのメッセージも受け取っている彼女たちは望の家になる仮想空間(バーチャルスペース)で信二と集合することにした。信二には望が仮想空間(バーチャルスペース)へサインインするためのヘッドホン型のデバイスを渡しているのでいつでも入ることができる。

 望と時子は放課後になるのを待って本田道場、つまり望の家へと向かい、仮想空間(バーチャルスペース)にサインインする。

 すると、そこには両腕を組んだ信二が右足のつま先をタン、タンと動かしながら待ち構えている姿があった。


「げっ、やる気満々じゃない、あれ?」


 望がそうつぶやくや否や、信二がイライラしながら彼女達に話しかけて来た。


「随分遅かったじゃねーか。待ちくたびれたぞ」


「アンタみたいにベッドで寝ているだけとは違うの! これでもホームルームが終わったらすぐに学校を飛び出して来たんだからね! ねえ、時子ちゃん?」


「え、ええ。でも、お待たせしてすみません」


「あっ、いや、いーんだ。謝るほどでもねーから」


「信二、どうして人によって対応が違うのかな? あたしの扱いが酷いんじゃないの?」


「ふん。売られたケンカは買うだけだ」


「ちょっと! 先に突っかかって来たのは信二の方じゃないの?」


「いや、お前がここにサインインして来た時の顔が何となくムカついたからな」


「ちょっと、その言い方はチンピラと一緒でしょ! 愛梨さんに言いつけるからね!」


「くっ、変なつながりができてるからやりづれーな。まあいいや、さっそく|グラビティコントロール《重力制御》の検証をやるぞ」


「そうやって話を逸らすんだから。でもいいや、さっそくやってみてよ」


「信二さん、お願いします。うまく行くといいですね。


「ああ、じゃ早速やるぞ! コール! |グラビティコントロール《重力制御》!」


 信二は両手を自分の胸に当ててそう言った。


「ターゲッティング、自分(me)、(0、0、0.1)!」


 信二の体が一瞬白い光に包まれる。そこで望が時子に問いかける。


「ねえ、信二が唱えたあの数字って何?」


「あれは自分のおへそのあたりを原点として重力加速度の向きと大きさを3次元ベクトルで表現したものです。なかなかシンプルな設定方法になっているんじゃないでしょうか」


「うーん、やっぱりわかんないや」


 2人が話しているうちにも信二のMAGICS(マジックス)発動の準備が整っていく。


「チャージ!」


 信二の両手から光がこぼれ始め、それが徐々に大きくなっていく。MAGICS(マジックス)を発動するための精神力を両手に集めているのだ。

 そのままの体勢で30秒ほど経ったところで信二が顔を上げる。


「エクスキューション!」


 その瞬間、信二がチャージしてきた精神力が|グラビティコントロール《重力制御》の発動に変換される。

 信二の体がふわっと浮き上がる。


「やった、うまく行きました!」


 時子が喜びの声を上げる。その瞬間、信二の表情が苦しそうに歪む。


「あっ、熱いっ! 体が燃えるっ!」


 その瞬間、信二の体からゴウッ!と炎が吹き出し、信二の体全体を含む。そして周辺の空気が温められて上昇気流が生まれる。

 信二の体は炎に焼かれながら上空へと舞い上がっていく。


「うわぁぁぁぁっ!」


 大きな火の玉と化した信二の体はそのままグングン上昇し、そのまま見えなくなった。


「大変です! 望さん、これは失敗です! 信二さんが、信二さんが死んでしまいます!」


「大丈夫だよ、時子ちゃん。現実世界でアレならアイツはもうお陀仏。それこそ文字通り昇天しちゃうけど、ここは仮想空間(バーチャルスペース)だよ。命にかかわるような失敗でも、全部リセットしてやり直せるんだから」


 望が時子にそう話した時、彼女たちの居るところから少し離れたところで光が生まれる。それがグングン大きくなり、そこに無傷となった信二の姿が現れる。それを見た時子が思わず信二のそばに駆け寄る。


「信二さん、大丈夫でしたか?」


「いやー、見事に死んだぜ、今のは。仮想空間(バーチャルスペース)様々だよ。完全に失敗だったな。両津さんの重力制御理論はうまく組み込めたと思ったんだけどな」


「それより、苦しくなかったんですか?」


「もちろん、超苦しいぞ。熱さ、痛さは現実世界通りだからな。死んだら自動リセットがかかる仕組みだからそこは安心だけどな」


「何かあっさりとおっしゃっていますが、ものすごく苦しいんですよね?」


「もちろんだ。けど、そう言うところをくぐり抜けることで実戦でも戦えるようになるんだ。自分の限界を自ら知ることができるんだ。それならこんな苦しさなんて屁でもねーよ」


「そうだね。ここなら限界を超えた訓練が出来るから、ちょっと痛い事もあるけど楽しいよね!」


 望が能天気にそんな事を言った。


「信二さんも、望さんも、バトルジャンキーになっていませんか?」


「それがスイーパーってやつだよ。両津さんもスイーパーになりたいと言うなら、それくらいの気持ちじゃないと生き残れねーと思うぞ」


 信二にそう言われてゴクリと唾をのみ込む時子。本当はスイーパーといえどもそこまでの覚悟を持つ必要はないのだが、強くなれるなら死んでもいいと考えるバトルジャンキーの2人から同じような事を言われると何も知らない時子はそう言うものだと思ってしまう。

 こうして戦闘狂が増えていくのであるが、それはまた別の話。


「さて、今の|グラビティコントロール《重力制御》は残念ながら失敗だ。早速不具合の現象を分析して、改良しないとな」


 時子は気持ちを入れ替えて今の信二の身に起きたことを思い返す。


「え、ええ。今のは分析するまでもなく、重力制御を行ったときに発生したエネルギーが全部熱に変換されてしまったことが原因です」


「そーだな。重力加速度のベクトル向きと大きさを変えるときのエネルギー効率を見誤った様だな」


「そうですね。エネルギー効率を高めると余計な発熱を抑えることは可能ですが、それでも完全に抑えることは無理だと思います」


「だな。それなら、発生したエネルギーを別の形に変換すればいーんじゃねーか?」


「その手がありましたね。例えば音や光に変換するのがいいんじゃないでしょうか。私も実現方法を検討してみます」


「よし、じゃあそこは手分けして考えるぞ。ところで、|グラビティコントロール《重力制御》で出てくる発熱量はなかなかだな。こっちはこっちで研究すると何か別のものができそうだな」


「でも、さっきの信二さんみたいになってしまいますよ? 危なすぎます!」


「確かに危険ではあるが、凄く使えそうな気がしてきた。これは今後の課題にさせてもらうよ」


「ところでさっきから時子ちゃんと信二で楽しそうにやってるけど、あたしヒマなんだけど? 空を飛べるというからここに来たんだけどね」


「黒焦げになりたいならどーぞ。でも、わかっててやるのはさすがに嫌だろ?」


「そりゃそうだけどさ。それより信二、アンタ実体はまだ寝たきりなんだからさ、体なまってるでしょ? ちょっと一戦やっていかない?」


「おっ? いいね! 折角だからやってっか。両津さん、申し訳ねーけど、続きはまた後にさせてくれ」


「わかりましたけど・・・・・・ホントに信二さんと望さんはバトルジャンキーですね」


 その後結局5戦して信二が2勝、望が3勝。


「やっぱ信二、体なまってるね、出直して来な」


「くっそー、覚えていやがれ!」


 捨てセリフを残してサインアウトする信二。


「今の完全に三下のセリフだね。雑魚感が半端ないからよした方がいいのにね」


「でも、格闘術のエキスパートである望さんとほぼ互角ですよ? あれでMAGICS(マジックス)の開発もやるんですから凄いことだと思いますけど」


「うん、それはあたしもそう思うよ。今はアイツ体がなまっていたけど、『ウォッチマン』と戦う前の時だとあたしの方が負け越していたからね」


「そうだったんですね! いいなあ、私もそんなスイーパーになりたいです」


 |グラビティコントロール《重力制御》は失敗してしまったが、時子の将来の方向性を決める重要な一日となったのであった。

今回はなんちゃって理論が登場していますが、笑って見過ごしていただければ幸いです。

次回もよろしくお願いします。

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