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第31話 信二と望、そして時子 対するは『ウォッチマン』(4)

 30分程経った頃、病院に1人の女性がパタパタと走ってやって来た。信二と一緒に学校へ来ていたお姉さんらしき女性だ。


「あの、信二君のお姉さんですよね? お母さんはどうされたんですか?」


「はい? 私が信二の母親ですが?」


 愛梨は少し機嫌が悪そうな雰囲気を出しながら答えた。想像の斜め上を行く答えに驚き思わず目を大きく見開き、両手で口元を押さえる望。落ち着け落ち着けと言い聞かせて話を続ける。


「大変失礼しました・・・・・・信二君はまだ治療中です」


 望は集中治療室の前に愛梨を連れて行った。


「貴方が望さん? なんだ、とってもチャーミングじゃない。信二が貴方と戦ってなかなか勝てないと言うから、てっきりゴ・・・・・・」


 本人を目の前にして言ってはいけない事を言いかけた事に気がついた愛梨は途中で口をつぐむ。

 信二が母親に対して自分の事をどの様に話していたのか物凄く気になる望であったが、それは置いておく。


「いや、お母さんも随分若々しくいらっしゃって。信二くんのお姉さんかと思っていたんですが」


「はじめて私と会う人はみんな大体そんな事を言うのよ。私ってそんなに子供っぽいのかしら?」


 春物の淡い水色のワンピースとカーディガン、白のスニーカーという姿で現れたこの可愛らしい人が、高校生の息子を持つ母親であると誰が見破れるだろうか?

 きっと信二のお父さんは凄まじいロ◯コンだったに違いない、と望は思った。


「あっ、その、見た目がどうしてもあたしと同じぐらいにしか見えないです。もう我慢できないから素直に言っちゃいます」


 愛梨は口を尖らせるが、望が怪我をしている事に気がついた様だ。


「ところで望さん、貴方も怪我をしているわよ?」


 望の首筋にはうっすら赤い線が走っているし、右腕のトレーナーが裂けてそこから血が流れている。


「あっ、忘れてました。でも、あたしは後回しでいいです」


「それはダメよ! ちゃんと治療しないと痕が残るわよ」


 愛梨は望を無理やり診察室にねじ込む。


「この子も怪我をしているんですから、ちゃんと治療してあげてください!」


 そこにいた医者に対し、ものすごい剣幕で怒る愛梨を見て、見た目と違いさすが信二の母親なんだと望は思った。


 望は首と右腕の傷に外傷治療用のシートを貼られたことで治療が完了した。

 昔であれば切傷は治療する際、糸で縫合していた様だが、シートで固定する様になってからは傷の痕もほとんど目立たず治る様になった。

 ちなみにスイーパーの中には、わざとに昔ながらの縫合をして傷痕を残し、見た目に箔をつける者もいるらしい。


「とりあえず望さんは一段落かしら。それで、今日は何があったか教えていただける?」


 望は愛梨に『ウオッチマン』との戦いをすべて包み隠さず話した。時子を見捨てずに戦いを選択したこと。自分の不甲斐なさ、信二の的確な判断と最後の無謀な作戦。信二がわざとに自分の腹を狙わせたと言うくだりを聞いた時には大変驚いていた様だった。

 

「それにしても、時子さんを助けるのはこれで2度目になるわね。こうエンボ禍が続くと何度も遭遇してしまう事もあるにしても、まさか同じ人を2度助けるなんてね」


「そうだったんですね。そういえば時子ちゃん、無事家に帰ったかな? あたし、信二君があんなことになったのでいっぱいいっぱいになってしまって」


「貴方達があのエンボを倒したのだから問題ないと思うわ。それよりこれで信二の父の仇を討ったのね。今朝あの子が出かける時も、時間がかかるがいつかは倒すと言っていたけど、まさかその日のうちにやり遂げるとはね。きっと1人ではやり遂げる事なんて出来なかったと思うわ。祐輔さんの、えっと、信二の父親の事なんだけど、彼の仇を討ってくれて本当にありがとう」


「そんな事恐れ多いです。あたしは信二君の足手まといだったんです。さっきあたしの首の傷を見ましたよね? あともう少し『ウォッチマン』の剣が伸びていたらこの首が飛んでいたんです。1人で戦っていたら死んでいたのはあたしなんです」


「・・・・・・想像を絶する程に厳しい戦いだったのね。それでも、きっと1人で戦うと諦めてしまう局面でも、仲間がいると力を振り絞るものじゃない? 望さんだって、信二を助けようとして頑張ったでしょう?」


「そうですね、彼がいたから頑張れたのかも知れないですね」


「だから、望さんにお礼を言うの。本当にありがとう。そして良ければ、これからも仲良くしてあげてね」


「もちろんです! 是非あたしの方からお願いしたいです!」


「ありがとう。それなら、今度うちにも遊びにいらっしゃい。何にもないボロ家だけど、何か美味しいものを作って用意するから」


「是非、お願いします」


「ふふ、いつでもいいからね」


 2人がそういう話をしているうちに、集中治療室のランプが消えた。


 望と愛梨は集中治療室の入り口に駆け寄った。

 扉が開き、ストレッチャーの上に横たわった信二が現れた。麻酔が効いているのか、まだ眠ったままだ。


「信二さんのお姉様ですか?」


 愛梨に話しかける執刀医。


「いいえ、私は信二の母です」


 毅然として答える愛梨を見て、確かにこれだと大変だなあと実感する望。


「これは失礼しました。息子さんでしたらもう大丈夫です。剣が刺さったまま搬送されてきたときは驚きましたが、剣自体が凍りついており、出血が見た目の割に少なかったのが幸いしました。両手の火傷もそれほど酷くはないので数日で治るでしょう。腹部の傷は3、4週くらいは見た方が良いと思います」


 それを聞いた望は安心のあまり腰が抜けそうになる。愛梨はよろける望に気づいて彼女を支える。


「良かった・・・・・・死んじゃったらどうしようとずっと思ってて。あたし、去年幼馴染を亡くしているんです。その時の事を思い出してしまって。もしせっかくできた相棒に何かあったらと・・・・・・」


 そう言ったきり、望は泣き出してしまった。優しく望を抱き寄せる愛梨。

 しばらくして泣き止んだ望は愛梨に懇願する。


「あのう、今あたしが泣いたのは信二に絶対言わないでくださいね! 知ったらアイツ絶対馬鹿にして来るから。本当に絶対に言わないでくださいね!」


「ええ、分かったわ」


 信二はそれからずっと眠り続け、彼が目を覚ましたのはそれから3日が過ぎてからのことだった。

 それだけ『ウォッチマン』との戦いが彼らにとって激しいものだったという事を示していた。

今回で『ウォッチマン』との戦いは終わりです。

次回は信二が入院中の話となります。

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