第3話 Sランクスイーパー(1)
本日4話目、本編3話目です。
よろしくお願いします。
時子が立ち去った後、新宿近くの裏道。
エンボディドモンスター(エンボ)を討伐する職業、スイーパーの親子、司馬祐輔と信二が残っている。
「信二、あの女の子を助ける事ができてよかったよ」
「そーだな、エナジーの納品を今朝にしようとしたから偶々見つけられただけだからなぁ」
「それにしても礼儀正しい子だったね。信二もあそこまでとは言わないけど、もう少しちゃんと振る舞える様にしなさい。言葉遣いが悪いからすぐ誤解されるんだよ」
「そーはいうけど、なかなか直らねーんだよな」
「直す気がないんだよ。信二はMAGICSモジュールを自作できるくらいの頭があるんだから、そういう所も気を配らないと」
「へいへい」
「まったく、言ったそばからそれだ。じゃあ、LMOSに行こう」
「わかったよ。それにしても、エナジーの納品はLMOSに行かなきゃならないのは面倒くせーよな」
祐輔と信二は並んで歩き出す。彼らが向かうLMOSとは独立行政法人掃除屋等労働者管理機構(Labor Management Organization for Sweeper ,Employees, Incorporated Administrative Agency)の略称で、スイーパーのとりまとめを行う組織の事だ。
彼らスイーパーはエンボを討伐したときに得られるエナジーを回収し、LMOSに納品する事で収入を得る仕組みとなっている。
「しっかし、危険度レベルⅠのエンボ1体で2,500円前後だぜ? この一週間でおれと父さんの討伐数は20体、いや、さっきのを入れると22体か」
「金額にすると55,000円。下手をすると命に関わる仕事だとすると安いかも知れないね」
「そーだよ。もっと何とかならねーかな?」
「まあ、少なくともランクDの我々の意見など通らないさ。文句をいうよりさっさとランクアップ試験を受けられるようにする方が先だと思うよ」
「そんな事分かっているよ。あーあ、ランクSのスイーパーがクレーム入れてくれねーかな」
信二は自分の胸元につけている白色の箒型のバッチをいじくりながら言った。
バッチの色はスイーパーランクを表す。
祐輔たち最低ランクのDだと白、
ランクCでは緑、
ランクBで赤、
ランクAで紺色、
ランクSで虹色となる。
「それはないね。彼らなら危険度レベルⅥのエンボも余裕で討伐できるから収入は天井知らずだからさ」
「だよなー。危険度レベルが1つ上がると桁が1つ増えるから、危険度レベルⅥなら1体で2億5千万。文句もねーよな」
「そのかわり相手はドラゴンとかヴァンパイアの親玉とか。我々なら出会った瞬間にお陀仏だろうね」
「はっはー。現実が厳しくて涙も出ねーよ」
そうやって2人で話ながら歩いているうちに、新宿駅西口近くにあるLMOS本部ビルへと到着する。
本部ビルは20階程あろうかというまだ築年数が浅いビル。
1階はロビーとなっており、誰でも入る事ができるようになっている。
実際、何組かのスイーパー達が何かしらの手続きを行なっている。
内装は市役所や運転免許試験場のようなものをイメージしてもらえればしっくり来るだろうか。
各種申請用紙の記入台が何台も並んでおり、その向こうに受付窓口が見える。
窓口は入会申請、退会申請、オーダー発注窓口、納品窓口、諸申請窓口、その他相談窓口などがある。
こういった辺りにお役所気風が感じられ、いまだに紙媒体での申請を行う仕組みが残っている。
祐輔たちは納品カウンターへと向かった。
朝から納品を行うスイーパーはほとんどいないため、すぐに祐輔たちの番となる。
「それではエナジーシリンダーをお渡しください。エネルギー量を測定します」
『川添』という名前の入館証を首から下げている受付の女性が祐輔たちにそう言った。
彼女の指示に従い祐輔たちは腰にぶら下げているエナジーシリンダーを受付の川添さんに渡す。
川添さんはエナジーシリンダーを受け取ると、シリンダーの先にあるノズルをケーブルに接続し、エナジーアキュムレーターと呼ばれる機械を起動する。
エナジーアキュムレーターがブゥンと音を立てると、アキュムレーターに付属しているディスプレイにエネルギー量と買取金額が表示される。これと同時にエナジーシリンダーに表示されている充填率が0%に変わる。
「司馬祐輔さんは27,300円、信二さんが27,800円になります。受け取り認証をお願いします。私の目を見てください」
川添さんは個人認証を行うMAGICSを起動し、祐輔と信二の目から虹彩パターンを読み取り個人認証を完了する。
即時に祐輔と信二の口座に入金される。
「父さん、俺の分は後で父さんの口座に送金しておくよ」
「わかった。ありがとう」
祐輔は信二の分を受け取る事について申し訳なく思っている。
以前はすまない、と言っていたが、信二から毎度謝られると逆に辛くなるといわれ、それ以降祐輔は謝る事をやめようと決めている。
そもそも信二がMAGICSモジュールの開発に成功し、スイーパーとして活動できるようになる前、祐輔は定職に就く事ができず、国から支給されるベーシックインカムだけで生活して来た。
祐輔の家族は息子の信二の他、妻の愛梨の3人家族。
1人あたり毎月5万円支給されるので月15万円。
常にギリギリの生活を強いられて来た。
ここ数ヶ月、スイーパーとなりエンボの討伐ができるようになった事で、不安定ながらようやく収入を伸ばせるようになったのだ。
「早くランクアップできねーかな。そうしたらもっと楽になるんだけどな」
信二の呟きを聞いた祐輔が川添さんに尋ねる。
「私達の獲得ポイントはいくつでしたでしょう?」
「そうですね、司馬祐輔さんが406,988ポイント、信二さんが428,021ポイントです。Cランクへの昇格挑戦権を獲得するには100万ポイント必要ですから、間もなく折り返しといったところですね」
「ありがとうございます。引き続きエンボ討伐に努めます」
川添さんの答えに対して祐輔が礼を述べて頭を下げた。
そのとき、ロビーや事務スペースに掲示しているディスプレイすべての表示が切り替わり、画面上半分に『警告!』という文字が表示された。
画面下半分には『新宿御苑園内にて高次危険度レベルエンボ発生、緊急オーダー発動』と表示されている。
周囲は一気に張り詰めた雰囲気に変わる。
ロビーにいる他のスイーパー達も心配そうにディスプレイを見つめている。
「祐輔さん、信二さん、今の警告メッセージをご覧になりましたか? 緊急オーダーが発動されました。ランクCおよびランクDスイーパーに対する依頼内容は市民の避難誘導です」
川添さんが祐輔たちに緊急オーダーを受注するかどうかを尋ねてきた。
祐輔がオーダー内容について確認する。
「エンボ討伐は依頼内容には入っていませんね? あと、報酬はいかほどですか?」
「司馬さんたちはランクDですので、エンボ討伐は依頼対象外となります。報酬金額は2万円、獲得ポイントは10万ポイントです」
「ありがとうございます。信二、どうする? 受けようか?」
信二は祐輔の問いにすぐさま答える。
「もちろん受けるさ。こういう時こそスイーパーの出番だろ?」
「わかった、受けよう。川添さん、僕と信二は緊急オーダーを受注します」
「承知しました。今、現場の地図が入りましたので情報を共有します」
川添さんそう言いながらは手元の端末を操作する。
すると、祐輔と信二が首元にぶら下げている金属プレートがピカッと光る。
この金属プレートはただのペンダントではなく、ニューロンレシーバというものだ。
ネットワークと接続し、直接脳内に情報を伝える情報端末であるが、MAGICSの発動を行う機能も付与されたスイーパー用の特別アイテムだ。
祐輔と信二の視界に転送された地図が展開される。
LMOS本部から新宿御苑までのルートが地図上に表示されている。
「現場に到着したら、近くに残っている人達の避難誘導を行ってください。また、危険ですのでエンボを見かけても決して近づかないように。それではよろしくお願いします。お気をつけてください」
祐輔と信二は川添さんに一礼し、受付を離れる。
「信二、急ごう! もしかすると怪我人も出ているかも知れない」
「わかった! それにしても一体どんなエンボが出たんだろうな?」
2人は彼らの視界に展開されている地図のルート案内に従い新宿の街中を駆け抜けていくのだった。
次話も投稿します。
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