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第27話 両津時子(2)

時子の物語2話目、信二のランクアップ試験、望のスイーパー登録の日に戻ります。

 日曜日。信二のランクアップ試験の日。時子はダボっとした薄いピンク色のトレーナーにキャメル色のキュロットスカートという格好、手提げカバンには信二に見てもらうためのノートを入れて外に出る。


「ランクアップ試験はLMOS(エルモス)本部で実施されるとの事。場所も確認しました。あとは人通りの多い道を通って行かないと」


 時子は信二たちに助けて貰った時の忠告を思い出す。

 LMOS(エルモス)本部には歩いて15分くらいの距離だ。時子の細い足でもすぐに到着する。


「えっと、どこに行けばいいんでしょうか・・・・・・」


 時子はロビーの館内案内図とにらめっこし、目的の場所を見つける。


「3階のラウンジですね。早速向かいましょう」


 エレベータに乗り3階へ向かう。

 時子がエレベータを降りると、そこは広い空間のラウンジとなっており、そのラウンジの奥へ伸びる廊下に4つの部屋へつながる扉が見える。

 ラウンジには4台の大きなディスプレイが設置されており、それぞれランクアップ試験の受験者と思われる人たちが自分の技を駆使して戦っている。


「もう既に始まっていたんですね。信二さんはまだ終わっていないでしょうか」


 画面の向こう側ではMAGICS(マジックス)を行使して相手を倒す者や剣を一閃する者など様々だが、傷を負うと苦しそうにしているあたり、仮想空間での戦いとは言えかなり現実世界を忠実に再現している様子が見て取れる。

 時子はスイーパー達が繰り広げる戦いを息を飲んで見つめている。


「『バトルスペース』の事は話には聞いていましたが、こうして実際に見てみると本当にシビアですね・・・・・・でも、不謹慎ですがなんだかワクワクしますね!」


 実は、時子は普段こそ大人しいが、こういうバトル物が大好きで、人が変わったように盛り上がってしまうタイプなのだ。


「みんな凄いです! でも、なかなか5人抜きは現れないですね・・・・・・」


 どの会場もなかなか5人抜きを達成するスイーパーは現れず、どんどんスイーパーが入れ替わっていく。

 そんな中、ツインテールのセーラー服を着た女子が銃を駆使してあっさりと5人抜きを達成する。

 時子はいつの間にかに立ち上がり、5人抜きを成し遂げたツインテールの女の子を食い入るように見つめている。


「すごい! 私とそんなに変わらない年の子があっさりと5人抜きだなんて!」


 そして次に出てきた栗色の髪の毛をポニーテールにまとめた、セーラー服の女子が刀を振るって4人抜きを達成する。


「さっきの人と同じ制服・・・・・・知り合いでしょうか。それにしても、何と奇麗な太刀筋。素敵です・・・・・・」


 うっとりとディスプレイを見つめる時子。その時ポニーテールの相手として登場してきた男子。凶悪そうな目つき、まとまりのない髪の毛。

 時子は彼の姿を見つけて一瞬で我に返る。


「信二さん! あんな強い人が相手だなんて! 信二さんはMAGICS(マジックス)がメインのスタイル。相手の方は刀を使った近接攻撃スタイル。信二さん、これは分が悪いんじゃないでしょうか」


 案の定、ポニーテールが信二に斬りかかる。その時、信二はノーモーションで『ファイアボール』を繰り出す。


「えっ! 今のはターゲッティングをしてなかったですよね? どうして『ファイアボール』が出るんですか?」


 時子が驚くが、それは画面の向こう側に居るポニーテールも同じ。彼女は慌てて信二から離れる。ポニーテールが体勢を立て直さないうちに、信二は立て続けに3発の『ファイアボール』を放つ。

 それを見た時子は目が飛び出さんがばかりに驚く。


「ありえないっ! 一体どうして? チャージタイムが全く無いなんて! もしかして、信二さんは本当の魔法が使えるんでしょうか?」


 混乱する時子をよそに、信二とポニーテールは再びお互いの懐に飛び込んでいく。ポニーテールが刀を突き出した瞬間、信二は再び『ファイアボール』を放つ。それをギリギリで躱すポニーテール。

 しかし、体勢を崩し、剣先がぶれたところを狙った信二の拳がポニーテールの顎にクリーンヒットする。そのままポニーテールはノックダウン。


「きゃーっ! 信二さん、やった! あんなボクサーみたいなカウンター! 信二さん、どうやらMAGICS(マジックス)だけでは無くて、格闘術も身に着けているみたいです! これは行けるんじゃないでしょうか?」


 時子が応援する信二の勝利に思わずピョンピョン跳ねる時子。ラウンジでスイーパーたちを観戦していた他の人たちが時子を睨みつけるが、そんな視線など全く気が付いていない。


 信二は2戦目からはMAGICS(マジックス)を一発も放つことなく、パンチ1発で相手をノックアウトしていき、あっさりと5人抜きを達成する。


「すごいすごい! これで信二さんもCランク(グリーン)です!」


 時子は両手を握りしめて自分の胸元に引き寄せ、そのままピョンピョン跳ねている。


「おい嬢ちゃん、アンタの彼氏が勝って嬉しいのはわかるが、もう少し静かにしてくれないかな」


 時子が声をした方を見ると、中年の男性が時子を呆れたという顔で見つめていた。

 我に返った時子がラウンジを見渡すと、全員が時子の事を見つめている。

 彼女はボッと火が付いたように顔が赤くなる。


「あわわ、やってしまいました。 皆さん、失礼しましたっ!」


 時子は周りの人たちにペコリペコリと頭を下げて、急いでラウンジを後にする。


「は、恥ずかしいっ! ついやってしまいました! ああいう戦いを見るとつい熱くなってしまいます・・・・・・」


 いたたまれない気持ちになった時子は、そのままエレベータに飛び乗る。1階に着いたとたん、ダッシュでLMOS(エルモス)を飛び出す。


 それほど体力がない彼女のこと、すぐに足が止まってしまう。

 息を切らし、小さな肩を上下させる時子。はしたないとは思いつつ、少し休憩したいと思った時子は道端により腰を降ろす。


「ハアッ、ハアッ、結局・・・・・・信二さんと話をすることができませんでした。何をやっているんでしょうか、私」


体育座りの体勢のまま、空を見上げる時子。


「でも信二さん、とってもカッコよかったです。私も・・・・・・あそこまでとは言わないけど、スイーパーになってバッタバッタとエンボをやっつけたいなあ」


 まだまだぼんやりとした気持ちではあるが、自分の将来の事を考える時子。しかし、気持ちが落ち着いたことでこれまでの精神的、体力的な疲れがどっとやって来た。


「はしたないですが、少しここで休んで、それから帰ることにします。明日こそ、信二さんに話しかけるんです。そして私の気持ちを聞いてもらうんです・・・・・・って、何だか告白みたいですね」


 ふふっと微笑んだ時子は、自分が持ってきた手提げかばんを胸に抱え込み、すぅと眠りに落ちてしまう。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 どのくらいの間まどろんでいただろうか。『カッ!』と眩しい光が時子の周りにあふれる。

 あまりの眩しさに目を覚ます時子。


「なんでしょう? 眩しい光! しまった、エンボです!」


 慌てて辺りを見渡すと、全然見覚えのない場所だった。

 時子はグッと両手のこぶしを握りしめる。


「あの時信二さん達に裏道へは行くなと注意されたのに。舞い上がってこんなところにやって来て、あまつさえ眠り込んでしまうなんて!」


 時子は胸元にぶら下げている護身玉を握りしめる。以前ゴブリンの襲撃で一度使った後、すぐに両親から新しい護身玉を用意してもらっている。


 光の眩しさが収まり、辺りが見えるようになって来る。そして時子の目の前には、小学生低学年くらいの背丈のエンボが現れた。ゴブリン、エンボの中でも最弱の部類であるが、めずらしく剣を持っているタイプであり決して侮れない。


「ゴブリンならこの護身玉をうまく使えば! 相手は一匹ですし、前の時みたいに口元を狙って・・・・・・」


 時子は護身玉を握りしめてぐっと引っ張りネックレスから引き離し、ゴブリンに向かってその銀色に光るカプセルを投げつける。

 しかしゴブリンはその護身玉を持っている剣であっさり弾き飛ばす。

 護身玉はそのまま飛んでいき、何もない空中でボフッと弾ける。


「ああ、失敗してしまいました。唯一の反撃手段だったんですが。私もここまでなんでしょうか。まだ何にも出来ていないのに、悔しいです」


 時子は手提げカバンをぎゅっと抱きしめ、体を小さく縮こまるような体勢になる。

 そんな時、時子の背後から声がする。


「ギリギリの間に合ったって所か。あの女子、どこかで会ったことがあるような?・・・・・・っと、おい、奴の左手を見てみろ!」


 時子はその声に誘われるように、ゴブリンの左手を見る。

 そこには、ゴブリンなのに全然似合わない腕時計を巻きつけていた。


「『ウォッチマン』です! ダメです! 早く逃げないと私に巻き込まれますよ!」


 時子は声のした方にそう叫び、そして驚く。

 そこには、ランクアップをしたばかりの司馬信二と、スイーパーになったばかりの本田望が居たのだから。

 それは信二も同じだったようだ。信二は一瞬固まっていたが、すぐに思い出したとばかりに目を大きく見開きこう言った。


「そういや母さんが言ってたよ! えっと、両津さん! 今から助けるからできるだけここから離れるんだ!」


次回、いよいよ信二と望は『ウォッチマン』との戦いに臨みます。

引き続きよろしくお願いいたします。

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