第22話 信二と望、そして『ウォッチマン』(3)
望は信二を連れて家へと帰ってきました。
そこで信二と望は怪しい雰囲気に・・・・・・?
「それじゃ、あたしん家に行こう」
2人は望の家、本田道場へやって来た。
信二としては、いつも通っているこの道場にまさかここのご令嬢と一緒に来るとは今日の今日まで想像すらしていなかった。
世の中、驚くような事が起こるものである。
望の案内でいつもの道場を通り過ぎ、渡り廊下の途中の部屋に入る。
「ここなんだけどさ」
そういって望は信二を部屋の中に通す。
6畳くらいの大きさの部屋には窓もなく、徒手格闘の練習の時に使うマットが2枚。その上に掛け布団が敷いてあり、枕も置いてある。枕のそばにヘッドホンのようなものが2つ無造作に置いてあり、壁には大型スクリーンが張り付いている。
パッと見、ここには若い男女が入るにはあまりにも不健全だ。
「な、なあ、俺たち今日はじめて会ったばかりだぞ? いくら何でもこれはちょっと段階を飛ばしすぎなんじゃねーか?」
「え? 段階も何も、アンタと一緒にやりたかったんだけど?」
望の振る舞いはおしとやかという所から遠いところにあるが、ともかく彼女は可愛い部類に入る。2人っきりのこんな怪しい部屋で見た目の良い女の子に『やりたい』等と言われると、年頃の信二としてはドキドキしてしまう。
「い、いや、これでも俺はまだ女子と付き合った事なんかなくて、こんな時どうやっていいかわからねーんだよ。いや、困ったな」
頭をぽりぽり掻いている信二を見て、望は彼のとんでもない勘違いに気がついた。
「ちょ・・・・・・アンタ何を勘違いしてんのよ! あたしがやりたいのはMAGICSの練習であって、アンタとその・・・・・・違うんだからぁッ!」
望は顔を真っ赤にして反論する。
「え? あ、ああ、まあそうだよな。変な勘違いをして済まん・・・・・・」
若気の至りで思いっきり恥をかいた信二も顔を真っ赤にして下を向いた。2人の間に気まずい空気が流れる。
「と・・・・・・とにかく、これからMAGICSの練習をするから! 布団に入って、このヘッドホンをかけてからの耳のところのボタンを押してみて!」
信二は言われた通り、布団に入ってからヘッドホンのボタンを押し、それをを被る。するとスクリーンに一面広がる草原が移り出される。
これは何かと思う間も無くヘッドホンから耳に向かってバチっと電流の流れる感覚があり、ふっと気が遠くなる。
そして気がつくと、信二は草原に立っていた。
目の前にポッカリと窓が空いていて、そこからさっきまでいた部屋が見えており、そこに望と布団の中で眠っている自分がいる。
「ヤッホー!そっちはどう?」
「これは・・・・・・『バトルスペース』? LMOSが持っているものと同じ様なものか?」
LMOSではスイーパーのランクアップ試験を行う際に『バトルスペース』と言う仮想空間で同ランクのスイーパー同士が戦い、勝ち残った者がランクアップできる仕組みとなっている。
ランクCへの昇格戦は5戦勝ち抜けでランクアップとなる。
信二もこの週末に行われるランクアップ試験を受験する予定だ。
「そうなんだ、LMOSでも仮想空間を持っていたんだね! ここはそれとは別の空間。あたしも今からそっちに行くから!」
望も信二と同じように布団に潜ってからボタンを押したヘッドホンをかぶる。一瞬望の体がビクンと跳ねた。
「よっ!」
後ろを振り向くと、そこには望がいた。
「『バトルスペース』を個人で持っているなんてスゲーな。LMOSも『バトルスペース』の技術は公開していなかったはずだぞ?」
「それはまた時間がある時にでも説明するね!」
「わかった。で、どうして布団に入るんだ?」
「今年は4月になってもまだまだ寒いからね。動いている分には問題ないけど、そのままだと風邪を引いちゃうからああやって布団に潜るの。あたし達がこっちに来ている間は、実体は眠っているのと同じだからね」
「そうか、なるほどな。それにしてもこんな設備があったなんて!」
「さて、ここではいくらやっても実際の身体にはダメージがないけど、痛さや熱さとか、五感はしっかりあるからそこら辺は本気でやらないとダメだよ」
「わかった。そういうのも『バトルスペース』と一緒なんだな。じゃあ、早速一戦やってみよう!」
「いいね!あたしも手加減しないよ!」
「よし、行くぞ!」
2人の仮想空間でのトレーニングが始まる。
「早速一戦やってみようか?」
「いいね!あたしも手加減しないよ!」
「よし、行くぞ!」
望が『ライトニング』を放つ。が、発動に時間がかかるそれを信二はサッと避ける。
「くっそ、やっぱMAGICSは難しいなぁ!」
望は腰を落としたかと思うと信二との距離を一気に詰めて来た。
そのまま正拳突きを繰り出す。
信二はそれを躱すと同時に『ファイアボール』を放つ。
思わず望がそれを左手で受けたが、肘から下が燃え上がる。
「ぐぅっ!」
望は自らの体を地面にゴロゴロと転がり炎を消す。
「あっつぅい!」
望は再び猛烈な勢いで信二との距離を詰め、右足で蹴り上げて来た。
流石長年鍛えているため、信二はギリギリで躱すのが精一杯だ。
「やっぱお前スゲエよ!」
「アンタもなかなかじゃない? 実戦をくぐり抜けているだけの事はある! それよりどうしてそんなにMAGICSの発動が早いの?」
焼けただれた左手を右手で支えながら信二に尋ねる。
「これは『スロット』と名付けた仕組みだ。あらかじめ『ターゲッティング』、『チャージ』を済ませておいて好きなタイミングでMAGICSを発動できるようにしたんだ」
「アンタ軽く『ターゲッティング』を済ませておくと言ったけど、相手も居ないのにどうやって『ターゲッティング』するの?」
「スロットにセットするときの『ターゲッティング』は『敵』とか『味方』とかにしておくんだ。戦いを始めたときに『コモンコンソール』で敵味方にマーキングすることで『ターゲッティング』が完成するんだ」
「また知らない言葉が出てきた。『コモンコンソール』って何?」
「エンボ等との戦いをするときに味方に対して簡単な地図と敵味方の位置を把握する仕組みだ。チームを組むときに便利だけどそれだけじゃなくこうしてスロットと連動することもできるんだ」
「わかったようなわからないような・・・・・・」
「なあ、今はそんな事なんていいだろ? さっきの続きをやろうぜ!」
「そうだね!」
望が再び信二に詰め寄る。
それを見た信二が左拳を握りしめ、望の顔をめがけて振り下ろす。
もう、いつのまにか女の子だからという気遣いをする余裕など吹き飛んでいる。
ただ勝つために体を動かす。
しかし、望は体を右へ回転する事でさらっと躱し、そのまま右足で回し蹴りを放つ。
躱すのは無理と判断した信二は両腕をぴったり合わせて顔面を守る体勢を取る。
望の右足が信二の両腕にぶち当たる。
その瞬間、信二は衝撃を殺す為にわざと後ろへ飛ぶ。
後ろに下がりながら『ライトニング』を放ち、そこで体勢を整える。
『ライトニング』を躱した望はそのまま信二めがけて突っ込む。
しかし、その動きを読んでいた信二はもう一度『ライトニング』を放つ。
決まった! と思った瞬間、望の体が信二の視界から消えた。
・・・・・・と思いきや、後頭部に鈍い衝撃が走り、信二は地面に倒れ込む。
実は望は信二の足元に飛び込み、そのままくるっと縦回転。
その勢いを使って彼のうなじをめがけて左のかかとを叩き込んだのだ。
倒れ込んだ信二の顔面に望は自分の右拳を振り下ろす。
顔に直撃を食らった信二はそのままノックダウンした。
「・・・・・・・・・・・・」
「ぬぉっ!」
気絶したと思った信二だが、すぐに気がつき立ち上がる。後頭部と顔面に直撃を食らったはずだが、痛みも何も残っていない。
「今のはあたしの勝ちね!」
望は両手を組んで胸を張って言った。
そういえばさっきの望の火傷は綺麗に消えている。
「くそっ! 勝ったと思ったんだけどな! でも、ここはすげーな。さっきお互い怪我をした筈なのに、綺麗さっぱり治ってるぞ!」
「それがここ仮想空間のいいところだよ。たとえ体を吹き飛ばされてもごらんの通りでロードがかかってすっかり元どおりだからね」
「そういえばお前、さっきMAGICSを1発しか撃って無かったぞ。MAGICSの練習をするんじゃ無かったのか?」
「いや、アンタが思ったより凄かったんで、得意の徒手格闘で行くしか無くなっちゃったんだ。あんなに動きながらバンバンMAGICSを撃ってくるんだもん」
「すごいと言われても、負けちまったからあんまり嬉しくねーな」
「あたしは3つの時からずっと徒手格闘をやってきたんだ。そう簡単には負けられないよ。それなのにさっきは不覚にも左腕を持っていかれたからね!」
「いやあ、お前のそのセリフ、男前過ぎるよ。負けはしたけど、痺れる戦いだったぜ!」
「そうだね。あたしもこんなにワクワクできたのは久しぶりだよ!」
「じゃあ、もういっちょ行くか?」
「いいね! 何度でもかかって来なッ!」
「言われなくてもッ!」
そんな感じで信二は望に挑むのだったが、今日のところは5回戦って最後にようやく1回勝つことができた。
「はぁっ、はぁっ、だぁっ! やっと勝った!」
「ふぅっ! なかなかやるねっ!」
「しかし、怪我は治るとしても、疲れは貯まるんだな」
「そうなんだよね。今日はそろそろ潮時かな?」
「ああ、そうだな。今日はすっごく楽しかったぞ!」
「うん、今日は凄く良かったよ! ところでアンタ、あたしにお願いがあったんじゃなかったっけ?」
「実は、もう済んだよ」
「へ?」
仮想空間では現実世界では危なすぎて出来ない事を試すことが出来ます。
そのため信二達はギリギリの行動を試すことが出来ます。
その事が彼らの強さを引き出していくことにつながっていきます。
続きもどうぞよろしくお願いします。




