第21話 信二と望、そして『ウォッチマン』(2)
お互い相手に対してお願いをしようとした信二と望。
今回は望のお願いを信二が叶える番です。
「お前にお願いがあるんだ!」
「アンタにお願いがあるんだけど!」
「「・・・・・・はい?」」
キョトンとした顔をしてお互いの顔を見る2人。わずかに早く立ち直った信二が望に話しかける。
「・・・・・・取り敢えず、お前の方から言ってみろ」
「それじゃあ、これを見て欲しいんだけど」
望は旭から貰ったニューロンレシーバであるネックレスを首から外し信二に見せる。
「おい、いきなりネックレスの自慢をされても困るぞ。あいにく俺は宝石の良し悪しなんてわかんねーからな」
「そうじゃなくて、これニューロンレシーバになっているらしいけど、身につけているのにMAGICSを使えなくて。どうすれば使えるようになるか、教えてほしいの」
「生体認証はしたのか?」
「うん、したよ。どんなMAGICSが入っているのかは分かったんだけど、呼び方が分からないの」
「一体何が入っているんだ?」
「ええっとね・・・・・・」
望が伝えたモジュールは以下のものだった。
・『ベースモジュール』
・『ターゲッティング』
・『ライトニング』
・『ナイトスコープ』
「『ナイトスコープ』ってなんだ? 暗い所でも目が見えるってやつか? 聞いた事がねーMAGICSだな。本当に使えるのか?」
「使えない何て事はは絶対ない! 旭に出来ない事なんてないもん!」
「旭って誰だ?」
「これを作ったすごい人だよ!」
「それなら、そいつに聞いた方が早いんじゃねーのか?」
「それが出来ないからアンタに聞いてるんじゃない!」
「ううむ、色々気になるけど・・・・・・取り敢えずそれは置いといて、『ライトニング』は試したのか?」
「うん、やってみたけどウンともスンとも言わないんだ。」
「一応聞くけど、MAGICSをコールした後に『ターゲッティング』をコールしているよな?」
「へ?」
「そういう事か・・・・・・MAGICSは発動したいモジュールをコールした後、『ターゲッティング』で発動先を決める必要があるんだ。その次にMPをチャージして最後に『エクスキューション』で発動だ。試しにやってみろ」
信二は望にペンダントを返した。
望はペンダントをつけ、言われた事をやってみる。
「コール ライトニング」
MAGICSをコールする望を見て頷く信二。
「ターゲッティング、司馬信二」
望が唱えた瞬間、信二の体が一瞬白く光った。
「バカヤロー、俺をターゲッティングするんじゃねー!」
とっさに信二もMAGICSをコールする。
「スロット5! マジックシールド!」
信二の周りにうっすらとした光の膜が現れる。
ここで望が手を信二に向け、次のMAGICSをコールする。
「チャージ ライトニング」
望の右手が白く光り始める。
「エクスキューション!」
バリバリバリッと周りを切り裂くような轟音が鳴り響き、望の手から出た稲妻が信二に向かって飛んでいく。稲妻は信二の周りの膜を撫でるように進み、階段出口近くの壁へ当たって消え去った。
「できた、できたよ、旭!」
旭に貰ったMAGICSをようやく使う事ができて喜ぶ望。
そんな彼女を信二は叱りつける。
「バカヤロウ! 俺の対応が遅れたら黒焦げになるじゃねーか! 殺す気かっ!」
「あたしに試し撃ちをさせてくれるんだから、アンタは対策をしているでしょう?」
「してねーよ! 人へ向かって攻撃MAGICSを撃つなんて非常識な事をするんじゃねーよ! 場合によっちゃ逮捕されるぞ!」
「え? そういうものなの? 知らなかった・・・・・・」
「今のだって俺が『マジックシールド』を張ったから避ける事ができただけで、他の人へ撃って当たったら普通に死ぬからな? 今後絶対人に向けて撃つんじゃねーぞ!」
信二は一息ついて続ける。
「まったく、『マジックシールド』、『スロット』は先週出来立てホヤホヤだったんだぞ! まさかこんな形で効果を検証する事になるなんて思ってなかったよ!」
「ご、ごめんなさい・・・・・・ところでアンタ今ターゲッティングもエクスキューションもしないでMAGICSをコールしてなかった?」
「俺が作った『スロット』ってやつだ。まあそれは今度教えるよ。それよりそういう事を伝えないで使い方だけ伝えた俺にも落ち度はあるな・・・・・・ともかくニューロンレシーバが有効なのは分かったが、ここだと危ないな。けど、場所はどこがいいかな?」
「あたしについて来てくれる? とっておきの場所があるの!」
「へえ。本田道場にはMAGICSの試し撃ちをできる場所もあるのか?」
「ちょっと違うんだけど、まあそんなものかな? それじゃあ早速行こう!」
望はタタタッと駆け出して、それから信二の方に振り返りこう言った。
「その前に危ない事をしたお詫びとして奢るよ! 何か食べたいものはある?」
「そういえば腹が減ったけど、いいのか?」
「うん、いいよ」
「お前、意外と気前はいいんだな。それなら、遠慮なくご馳走になるぞ! そうだな・・・・・・ラーメンがいいな。最近食ってねーからな」
「ラーメンか・・・・・・」
望はちょうど1年前、旭とラーメンを食べに行った時の事を思い出す。
「それなら知ってる店があるけど、任せてもらっていい?」
「ああ、いいよ」
学校を出た望と信二は一年前に旭と一緒に行った店へと向かう。望からするとあの時はまさか旭ではない男を旭れてあの店へ行く事になるとは想像もしていなかった事だ。
望は少し感傷的な気持ちになる。
そんな事を考えながら歩いていき、目的の店へたどり着いた。店は相変わらず繁盛していて、何人か行列ができている。
「繁盛しているみたいだな。ちょっと楽しみになって来たぞ」
「うん、あっさりしているけど美味しいよ」
店に入り2人はラーメンを注文する。
「サイドメニューも頼んでいいよ」
「いや、奢ってもらう身であんまり図々しくもできねーよ。昼飯代が浮くだけでも有難いからな」
望は信二が節度を持っている事に少し感心した。
「アンタ、口は悪いけど、図々しくはないんだね。ちょっと驚いたよ」
「そういうもんだろーが。それより口が悪いとは言ってくれるじゃねーか」
そう言っている間にラーメンがやって来た。
信二が一口啜ってその感想を言う。
「こりゃうめーな。あっさりしているけどこのスープの旨味がたまんねーな。麺の感じもなかなか・・・・・・」
「でしょ? ホント美味しいよね。うん、美味しいよ」
「俺も人の事を言えねーが、お前って食リポの才能が全然ねーんだな」
そういえば、去年も旭に同じ事を言われた事を思い出し、つい寂しくなってしまい顔を下に向け、肩を落とす。
「おい! えーっと、今のはそんなに酷い言い方だったか?」
信二がしょんぼりとしている望を見て慌てている。
「あ、うん、全然大丈夫。気にしなくていいから」
何とか気持ちを立て直してそう答える望。
「そ、そうなのか? それならいーんだけど・・・・・・」
そんな中、ラーメンを食べ終わった2人は店の外に出る。
「ごちそーさん、美味かったよ。お前いい店知ってるんだな」
信二はそういいながら近くの自販機でドリンクを2本買って来た。
「ほら、口がさっぱりするから飲もーぜ」
そう言って望に1本渡してくる。
「あ、ありがとう」
望は案外気の利いたことをする信二に旭の姿をすこしだけ、本当にほんの少しだけ重ねた。
顔つきが狂暴で口が悪い信二ですが望はそんな外見には気にしなかった様子。
信二の内面に旭と同じ雰囲気を感じたようです。