第20話 信二と望、そして『ウォッチマン』(1)
第13話の内容を望の視点から見た話となります。
ここから信二と望の物語が始まります。
私立逹芝学園高等部入学式の日。
この日からは制服が少し変わる。
左胸のところにワッペンの付いた紺色のブレザーは一緒だが、中学までは赤と茶のチェック模様のプリーツスカートだったものが、濃い緑と紺色のチェックのプリーツスカートとなる。
ブラウスにネクタイを締める所は変わらない。
制服に着替えた望は、学校へ行く前に藤丸家へと向かう。家に上げて貰った望は、仏壇の前に座り手を合わせる。
「旭、あたし今日から高校生だよ。行ってくるよ」
それから自分の家に戻り、慧逹、心音、望の3人で学校へと向かう。
正門に着くと、姉弟らしき2人が写真を撮っていた。
弟の入学に姉が付いてきているらしい。
父親か母親はどうしたんだろうか。
弟の方は、ウチの道場に通っているアイツ・・・・・・
確か、司馬信二。MAGICSの使い手らしいが。
少し気になるが、今は放っておく事にする。
望達も、カメラを別の人に渡して3人並んだ所を撮影して貰った。
自分のクラスは1年2組だった。ここで両親と別れて自分の教室に向かう。
教室に入り、中学の時に同じクラスだった江沢愛子、日暮静香と話をしていると、後の方から気になる話が聞こえて来た。
さっき正門で姉弟と写真を撮っていた司馬信二と、もう1人外進生らしい生徒が話している。
「へえ、司馬はスイーパーをやっているんだ。しかもランクアップしているなんてスゲーな」
「ときどきゴブリンとかスライムのようなエンボが居るのを見かけて慌てて逃げ出しているんだけど、司馬はあれを倒しているんだろう? なんだかカッコイイな」
「そんな事はないさ。遠くから『ファイアボール』とかをブン投げて丸焦げにしているだけで、効き目がないならすぐにズラかるだけだからな。全然カッコ良くはないさ」
「え? 司馬はMAGICSを使えるのか? MAGICSって1つ買うだけで数百万はするだろう? お前の家は金持ちなんだなあ」
「違うよ、自分で作ったんだ」
「マジで! その歳でMAGICSを作ってるのか? スゲーよ、司馬!」
司馬信二。
あの癖っ毛と目つきの悪さ。
背丈は自分よりちょっと大きいくらい。
うちの道場に通っているスイーパー。
そう言えば、旭と話をした最後の日に、あいつの事を話題にしていたのを思い出した。
望は思う。
奴はMAGICSを作っているのか。
悪い奴でなければ旭に託されたデータカードを見てもらおうか。
ついでに旭から貰ったニューロンレシーバを見せたら使い方を教えて貰えるだろうか。
望は、クリスマスに貰ったニューロンレシーバをいまだに使うことが出来ないでいた。
このままだと宝の持ち腐れになってしまうので、なんとかしようと思っていた。
司馬の顔をじっと見つめながらそんな事を思った。
「ま、暫くは様子を見ればいいか」
「望、どうしたの?」
「ううん、何でもないよ」
友達に呼び止められた望は女子トークに戻って行った。
それから入学式が始まるので、講堂に移動する。
途中、慧逹と心音がいるのを見つけた。
2人ともニコニコしてこちらを見ている。
入学式が始まる。
新入生代表挨拶が始まる。
背が小さく、三つ編みのおさげにした眼鏡の女の子が挨拶をしている。初めて見る生徒なので外進生なのだろう。望は大したものだと思いつつ、本来旭が立つ筈の場所へ違う人間が収まっている事に対して複雑な思いを感じていた。
式はとくに問題無くスムーズにに進み、無事完了した。
教室に戻って自己紹介を行い、それから解散となった。
望は学校の屋上へと向かう。
澄んだ青空の下、あちこちで桜の木が満開の花を咲かせている。
4月に桜が咲いているのを望ははじめて見た。いつもは3月終わりに桜の花は散ってしまっている。
そういえば旭にラーメンを奢ったのはちょうど1年前。
あの時は、まさか高校に上がる事ができるのは自分だけなんて夢にも思っていなかった。
もう旭には何もしてあげられないけど、なんだか思いっきり叫びたくなった。
「お誕生日おめでとー!」
すると、横の方から急に話しかけられた。
「あ、ありがとう・・・・・・」
横を見てみると、あの司馬信二が近くに立っていた。
望は動揺しながらも彼に話しかける。
「えっ? 誰かいたの? えっと、・・・・・・司馬くん? 今のはアンタに言ったんじゃないからね! 勘違いしないでよ! それよりアンタ、どうしてここにいるの?」
「アンタアンタってうるせーな。確か、本田さんだっけか?」
自分の事を覚えていたようだが、こちらの質問に答えない彼に対してもう一度尋ねる。
「そうだけど、あたしの質問に答えなさいよ!」
「学校を探索していたらここへ来る扉が開いていたから来たまでだ。お前に文句を言われる筋合いはねーな」
確かに正論だと思い、詰まってしまう望だったが、言うべき事はちゃんと言っておかないとなんとも恥ずかしい。
「もう一度言うけど、さっきのはアンタに言ったんじゃないからね!」
「うるせーな、たまたま今日は俺の誕生日だから反応しただけだ。違うって言うなら気にしねーよ。
それともいじって欲しくてわざとに言ってるのか?」
旭と同じ誕生日という信二。
何という偶然か。
まあ、それなら少しくらい祝いの言葉をと思い望が答える。
「え? そうだったの? それはおめでとうございます・・・・・・」
「ぷっ」
なぜ笑うのかと思った望は信二に突っかかる。
「せっかく誕生日を祝ってあげたのに笑うなんて失礼な奴!」
「いや、スマン。でもありがとな。ところでお前、以前にどこかで会った事はなかったっけ?」
「あたしにはちゃんとした名前があるんだけど。で、アンタに会ったのは今日がはじめてだと思うよ」
「お前だって俺の事をアンタで通しやがって! お互い様だろうが! でも、どこでだったか全然思い出せないんだよな」
自分の事を思い出さない信二にヒントを出す望。
「あのさ、アンタうちの道場に来ているでしょ? 中学生でスイーパーになった奴が居るって! 以前どんな奴かと思って顔を見に行った事があったけど、実際のところ随分すっとぼけているみたいね!」
「って事は・・・・・・そうか、思い出した! お前、本田道場の『鬼姫』だな? 師範の娘さんで、師範と同等かあるいはそれ以上の強さだっつー噂を聞いたぞ? 陰気臭くて大人しい印象しかなかったからすっかり忘れていたよ! しっかし話してみると随分印象が違うもんだな!」
どうしてコイツもその名前を知っているのか。
旭は結局教えてくれないまま逝ってしまったが、コイツには何としても言い出しっぺが誰なのかを聞き出したい。
旭に詰め寄って彼の胸ぐらを両手で掴む。
「『鬼姫』って一体誰が言ってんのよ! さあ吐きなさい!」
望は両手で信二の襟元を掴んでわっしわっしと揺さぶった。信二はあうあうあう・・・・・・と情けない声が出てしまった。
「ちょっ・・・・・・ゲホッ、ゲホッ・・・・・・取り敢えず落ち着け」
信二は望の両手首を掴んで自分の体から引き剥がした。
旭もコイツも『鬼姫』だなんて!
唸りながら信二を睨み続ける望。
「今はその話をしている場合じゃねーよ。で、お前が本田道場師範の娘だってのは合ってるのか?」
「ま、まあそうだけど。今は勘弁しておくけど、いつか必ず誰が言い出したのか吐かせるからね! で、そういうアンタも、この歳でMAGICSを作りまくっているという噂を聞いたけど? さっきも教室でMAGICSがどうこう言っていたよね?」
「作りまくっていると言うほどじゃねーけど、ま、大体そんな感じだな」
そこから暫く奇妙な沈黙が続き、突然2人とも同時に相手に対してバッと土下座の姿勢を作った。
「お前にお願いがあるんだ!」
「アンタにお願いがあるんだけど!」
「「・・・・・・はい?」」
信二と望がお互いに頼みたい事とは?
続きは次回にて。