第2話 スイーパー親子鷹(2)
本日3話目、本編2話目です。
よろしくお願いします。
「信二ッ! 気を抜くなよっ!」
「ああ、分かってるよ!」
さあ、これから反撃だ。
信二と呼ばれた少年は時子に話しかける。
「そこの女子、動けるか?」
「ひっ、わ、私ですか?」
鋭い目つきで睨みつける信二に話かけられ、思い切り怯んでしまう時子。
時子の反応を見た信二は少し寂しげな表情を浮かべる。
それでも信二は時子に話しかける。
「そ、そーだ。この辺りで女子はお前しかいねーだろ?」
時子は信二の問いかけに答えず、様子を伺うように信二を見る。
答えを寄こさない時子に対して、信二はそのまま構わずに話を続ける。
「あのさ、護身玉を持ってるか? 持ってたらどれでもいいからゴブリンにぶつけてくれ! それ以外は俺たちが引き受ける!」
思いもしない話を持ち出された時子は素っ頓狂な声を上げる。
「え? あ、はい」
信二は尻もちをついたままの時子に近づき、手を伸ばす。
時子は少し逡巡するが、信二の手を取った。
信二が時子を引き起こすと、彼女はペンダントとなっている虹色のカプセルを引き抜いて一番近くにいるゴブリンへ向かって投げつける。
護身玉はギャーギャー騒いでいたゴブリンの口の中にスポっと入った。
いきなり口に異物が飛び込んで来たゴブリンは思わず口を閉じる。
その瞬間、ゴブリンの頭がボフっとはじけ飛んだ。
「よしッ、上手いぞッ! 後は俺達に任せろッ!」
信二は自分の体当たりで転ばせているゴブリンに向けて呪文のような言葉を唱える。
「コール『ファイアボール』」
「ターゲッティング、ゴブリン」
この時、信二が狙ったゴブリンの体が一瞬白く発光する。
「チャージ!」
そう唱えると信二の右手が光り出す。
狙われたゴブリンは尻もちをついたまま動けない。
「エクスキューション!」
信二がそう叫ぶと掌の上にソフトボール大の火の玉が出現し、「バシュッ」という音と共に火の玉が勢いよく飛び出してゴブリンへ命中する。
「グギャーッ!」
ゴブリンは激しく炎上し、やがて黒焦げとなりその動きを止める。
やがて黒こげの残骸は光の粒子へ変わり、信二の腰にぶら下げている銀色の筒状で片方の先端にノズルがついているアイテム、エナジーシリンダーにその粒子が吸い込まれていく。ノズルの少し下にはエンボエナジーの充填率を示す小さなディスプレイが設置されているが、この数値が82%から93%に変わった。
エンボはスイーパーの攻撃で一定量のダメージを受けると活動を停止する。その際、エンボを現実世界へ定着させるために使われたエネルギーを解放する。
何もしなければそのエネルギーは光の粒子になって拡散してしまうが、エナジーシリンダーがあれば光の粒子となったエネルギーを検出し、シリンダー内に吸引することができる。
それとほぼ同じタイミングで残ったもう一体のゴブリンも火だるまになって燃え尽き、続いて光の粒子となって父親のエナジーシリンダーへ吸い込まれる。
父親も信二と同じMAGICS、『ファイアボール』で攻撃していたらしい。
気が付くと時子が投げた護身玉を飲み込んで爆死したゴブリンの姿も消えてなくなっている。
「MAGICS! 現実世界で発現できるようになった魔法! 発動することころをはじめて見ました!」
時子が言う『MAGICS』とは『インテリジェント演算システムによる精神能力ジェネレータ(Mental Ability Generator by Intelligent Calculation System)』
の略称で、人体が持つポテンシャルを引き出すためのプログラム群のことだ。
元々は視神経、聴覚神経等が失われた人の為にそれらの機能を回復する事を目的として開発されたもの。
それがやがて生体エネルギー、つまり精神力を動力として外部に対しさまざまな効果を引き出せることが判明し、生み出された物だ。
MAGICSを目の当たりにした時子が少し興奮したように言った。
それが聞こえたらしく、信二は時子のそばに駆け寄り話しかける。
「そこまでスゲーもんでもねーけどな。それよりお前、怪我はねーか?」
目をキラキラさせて信二を見つめる時子に照れを感じながらもどうやら信二は時子の事を心配して見に来たらしい。
「あ、ありがとうございます。とくに痛いところもないです。一時はどうなるかと思いましたが助かりました。」
「そーか、良かった。それにしても一度に3体のエンボなんてついてねーな。」
「え、ええ。そうですね・・・・・・」
「でも、あまり一人で裏道を歩くのはオススメできないぞ。エンボはどちらかというと人通りの少ない所に出る事が多いんだ」
「そ、そうだったんですか?」
「ああ。エンボについては何だかいろんな情報が飛び交っているからわかりづれーが、俺が実感するところはそうだと思うぞ」
「わかりました。これからは気を付けます」
「これから塾なんだろ? 中学受験か・・・・・・まだ小さいのに大変だな。」
時子は信二の言葉にショックを受ける。
「ち、中学受験じゃなくて・・・・・・高校受験ですが」
「えっ? てっきり小学生だとばかり」
「違います! 私は中学3年です!」
「ご、ゴメン・・・・・・俺とタメだったのか・・・・・・えっと、そういえば名前聞いてねーな。俺は司馬信二。こっちが俺の親父で祐輔だ」
マズイと思った信二が誤魔化しついでに自己紹介をしつつ、彼女の名前を尋ねる。
「えっと、両津時子です」
時子の名前を聞いた祐輔が彼女に話しかける。
「時子さんが無事でよかった。怪我でもしていたらきっと親御さんが心配されるでしょうからね」
「ご心配いただきありがとうございます。お陰でちょっと擦りむいたくらいで済みました」
「時子さん、君は塾へ行く途中だったんでしょう? 遅刻しないように急いだ方がいいですよ。それから、信二のいう通り、できるだけ人通りの多い大きな道を選んだほうがいいですよ」
「わかりました。この度はありがとうございました! 是非ともお礼をしたいので連絡先を教えていただけますか?」
「いやいや、気にすることなんてないですよ。エンボを倒して街の安全を守るのが僕たちスイーパーの仕事なんですから」
祐輔は自分の胸につけている箒型の白いバッチを指さしながらそういった。
「スイーパー、素敵ですね。私も是非スイーパーになりたいと思います」
「うん、楽しみにしているよ」
「それじゃーな。もうエンボに絡まれねーよう気をつけろよ」
「はい、ありがとうございます。助けて頂いて、本当にありがとうございました」
時子は信二と祐輔にペコリと頭を下げてその場を立ち去った。
「信二さんって怖い顔の人だったけど、思ったより親切な人でした。お父さんもいい人です。東京の人は冷たいって聞いていましたが、そうでもないみたいですね」
時子は青い空を見上げながらそう独り言を言った。
それから信二たちの忠告通り、大通りに出てから夏期講習の会場へと急いだ。
信二も時子も後日再会し、浅からぬ付き合いになるとはこの時は微塵も思っていないのだった。
次話も投稿します。
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