第19話 望と旭(6)
旭が亡くなってしまった後、最初のクリスマス。
この日は望の誕生日でもあります。
そんな彼女にサプライズが・・・・・・
12月25日。
旭の四十九日も過ぎ、望は少しずつ旭がいない毎日に慣れつつあった。
世の中はクリスマスであるが、この日は望の誕生日でもある。
例年この日は本田家にて藤丸家の3人も集まりクリスマスパーティーと望の誕生日パーティーを行なっていた。
本田家の3人は旭がいなくなった今回からはどうするべきか迷ったが、旭の母親である葵から是非今年も合同でパーティーをさせて貰えないかと申し出があり、それならばと言う話になった。
望の母、心音はそれなら今年も頑張らないとねと張り切って準備を始める。
心音は名前こそ可愛らしいが、見た目はふっくらしていて、いわゆる『肝っ玉母ちゃん』みたいな見た目だ。
望はもちろん母親の事が大好きだ。しかし、自分が将来母親みたいな見た目になってしまうのではないかという事に恐怖を抱いている節がある。
旭が病気になってからは徒手格闘術の練習もサボりがちになっており、そういえばと自分の腹をつまんでみると少しぷにっと摘めてしまうことに気がついて戦慄する。
怠けるのは今日限りにして、明日から練習をしっかりしようと心に誓う。
さて、それはともかく本田家のリビングがパーティー会場となる。
心音が食事の準備を進め、その間に部屋の飾り付けをするのは望の担当だ。
夕方になり準備が終わった頃、旭の父親である翔と葵がやって来た。
望の父親、慧逹も門下生の稽古を切り上げ、パーティー会場となったリビングに現れた。
「翔さん、葵さん、今年もこうしていらして頂き有難う御座います。今年は旭くんの件で大変でしたが、せめて今日一日はゆっくりして行ってください」
慧逹が2人にそう話しかけると心音が慧逹の背後から声をかける。
「手伝いも何もしないで何を偉そうにしているんだい。ほら、シャンパンを持って来たから開けておくれ。ああ、翔さんと葵さんは楽にしてちょうだい」
「ははは、相変わらず尻にひかれてますなあ、慧逹さんは」
翔が笑っている。
葵が少しかしこまって訊いてきた。
「あのね、心音さん、旭にも一緒にいて欲しくて、写真を持ってきたんだけど、おいてもいいですか?」
「勿論だよ、パーティーは人数の多い方がいいからね」
「ありがとう、心音さん」
「それじゃあ、乾杯!」
今年も『6人』でパーティーが始まる。鶏の丸焼きにピザ、ローストビーフに寿司。
慧逹がこういうのを好きなこともあり敢えて統一感なく料理を並べる。上品さはないが、これはこれで楽しいと望も思っている。
「望ちゃん、15歳の誕生日おめでとう。プレゼントを持ってきたわよ」
そう言って大きな袋を1つ、小さな箱を2つくれた。
「これは翔さんと私、そして旭からよ」
「旭から?」
「ええ。望ちゃん、旭の誕生日の時にラーメンを奢ったでしょう? それで、今日が来たら渡してくれって言っていたのよ」
「旭・・・・・・」
望は貰ったプレゼントを開けてみる。袋を開けるとワンピースが、一番小さい箱の中が金色のイヤリング。
「それはおじさんとおばさんからよ」
「ありがとう、とっても綺麗です」
じゃあ、もう1つの箱が旭の・・・・・・
開けてみると、青く透きとおった宝石が付いたペンダントだった。
「綺麗・・・・・・」
「この宝石はタンザナイトと言って、12月の誕生石の1つなんだ。旭の奴、自分の小遣いを全部前借りさせてくれと言ってこれを俺に買わせやがった。返す気もないくせにそんな事をした上に、まんまとトンズラしやがった。まったく食えない奴だ」
クックッと笑う翔。
旭がもし歳を重ねたら、こんな感じになるのだろうと思わせる風貌だ。
「あとね、これは只のペンダントでは無くて、ニューロンレシーバになっているんだって。MAGICSとの親和性が高いタイプで、旭が作ったMAGICSのインストールも済んでいるんだって。だから、あとは望が生体認証しておけば使えるって言っていたわ。やり方は身につければわかるそうよ」
「旭ってば本当に・・・・・・あんな事になっても約束を守ってくれたんだね」
望はタンザナイトが付いたペンダントを身につけた。すると頭の中に話しかける声が聞こえる。
『生体認証を開始します。よろしいですか?』
望は一瞬驚いたが、すかさず「はい」と口に出した。
『生体認証を行っています。しばらくお待ちください』
望の全身が白い光に包まれる。その光はしばらく明滅しながら残り続ける。
『完了しました』
どうやら生体認証が終わったようだ。
「これで旭はあたしのことをずっと見守っていてくれるんだよね」
望はペンダントを握りしめ、だれに問うとでもなく呟く。
それを見た大人たち4人は暖かいまなざしで望を見つめていたのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
その日の夜。パーティーは終わり、望は一人薄暗い道場に居る。
「生体認証が終わったんだから、もうMAGICSを使えるんだよね? ちょっと試してみよう」
望はペンダントのことを意識しながらMAGICSを試してみようとする。
「チャージ!『ライトニング』!」
しかしペンダントはうんともすんとも言わないし、何も起こる気配がない。
「エクスキューション!」
両手を伸ばしそう唱えてみるが何も起こらない。何度も試してみるが結果は変わらない。
「旭に限って間違っているとは思えないし・・・・・・きっとあたしの使い方が間違っていると思うんだけど。旭のノートと一緒に、わかる人が現れるまでは待つしかないか」
残念とは思うが上手くいかなかった事はそれほど気にしていない。
「でも、いつか必ず。コイツを動かして、旭の夢だったスイーパーになるんだ! そしていつかエンボのいない世界を作る!」
ペンダントをぎゅっと握りしめて望は言葉を続ける。
「それができたら物語の主人公みたいでかっこいいでしょ? ねえ旭、見ててよね! いつかそっちへ行ったときに土産話を一杯もっていくんだからね!」
それからまた時間は流れ、信二との運命の出会いを果たす時がやって来る・・・・・・
旭が残した誕生日プレゼント兼クリスマスプレゼントは望の今後を決めるきっかけにもなっていくことでしょう。
次回からは信二と望の話に戻ります。