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第12話 新しい出会い(1)

物語は時間が移って新学期になります。


 祐輔(ゆうすけ)の死から半年が過ぎ、季節は巡り春となった。今年の東京は例年よりも桜の咲くのが遅く、4月に入ってから満開を迎えた。


 信二は祐輔(ゆうすけ)の死後すぐに本田道場の門を叩き、基礎体力の向上を図りつつ徒手格闘術を学びながらスイーパーとしてエンボ(エンボディドモンスター)の討伐を進めて来た。

 平行していくつかMAGICS(マジックス)関連のいろいろなモジュールを開発することも忘れない。

 一方、信二が開発した『サーチ』モジュールは予定通りLMOS(エルモス)を通じてスイーパーに無償公開された。

 エンボの出現を信二が独占することは無くなったので、信二の稼ぎは以前と比べると若干増えたくらいで相変わらず生活はカツカツではあるが、その代わりエンボが一般市民を襲う件数が激減する。

『サーチ』の公開はエンボ禍に対して大きな効果をもたらす事となった。


 しかし、祐輔を殺したあのゴブリン、『ウォッチマン』はあの後何度かこの新宿近辺に現れ、スイーパーの命を摘み取っている。


 LMOS(エルモス)からランクC以下のスイーパーには『ウォッチマン』に遭遇したら速やかに撤退するようメッセージが届いていた。

 しかし、信二が公開した『サーチ』は『ウォッチマン』をレベルⅠのエンボとして認識してしまうため油断するスイーパーが多いのだ。信二としてもLMOS(エルモス)から公開されるデータを分析し、何とか『ウォッチマン』を高レベルエンボとして認識できるよう対応方法を探っているが、有効な手立てを見つけることができないでいる。


 そのため、信二は例えレベルⅠのエンボに対峙する場合でも決して油断する事はない。しかしこれまでは幸か不幸か『ウオッチマン』に出会う事は無く、実力をつけつつコツコツ学費分の稼ぎを積み上げているのだった。


 4月8日。信二の16歳の誕生日であり、そして高校の入学式の日でもある。


「信二、呆けていないで学校へ行く準備をしなさい。入学式の日から遅刻はできないでしょう?」


 愛梨も信二の学校の入学式に行くため、ストレートの黒髪を下ろしていつもより小綺麗な格好をしている。

 しかし、小柄な体型と幼い顔つきのため、贔屓目に見ても入社式を迎える新入社員のようにしか見えない。着る服によっては、女子高生と間違えられる事があるくらいだ。

 もっとも、彼女にそういう事を言うと拗ねるので心の中にしまっておくのだった。


「ああ、もう着替えないとな」


 信二はそう言いながら新しい制服に袖を通す。白いYシャツを着て、グレー系チェック柄のズボンをはく。ネクタイをつけ、紺色のブレザーを着る。左胸のポケットのところには校章を形どったと思われる金色のワッペンが付いている。


 信二はスイーパーを続けながらも受験勉強を進め、見事今日から通う私立達芝(たつしば)学園に合格したのだ。学費はLMOS(エルモス)の奨学金を充てるのでとくに心配は要らない。


 達芝学園はかなり偏差値が高い部類であるが、信二も学業はそこそこできる方なのでレベルが合っており、場所が新宿にあるという事が決め手となった。これからも放課後に本田道場へ通ったり、スイーパー活動をして行く上ではこの上ない条件だったのだ。

 支度を済ませた信二と愛梨は揃って家を出る。


「今日は天気が良くて良かったわね」


「ああ、雲1つない青空は気持ちがいいもんだよな。今日は何だかここ最近で1番過ごしやすいと思うな」


「そうね。信二も少しは行いが良かったのかしら?」


「母さん、やめてくれよ・・・・・・それにしても、父さんにも入学式に来て欲しかったな。」


 信二が思わず口に漏らす。


「そうね、信二の折角の晴れ舞台なのにね」


 あれから半年。愛梨と信二は祐輔の事を思い出さない日はない。楽しい事をしても、美味いものを食べても、あれを見たらどう思うだろうか、これを食べたらどんな顔をするだろうかと考えてしまう。でも、それを確かめる術はない。

 そう思うと寂しくもあるし、悲しくもある。半面、最近はようやくこうして、少なくとも表面上は穏やかに父親の、夫の事を話す事ができるようになって来たのだ。


 家を出ておよそ20分程歩くと学校の正門に到着する。正門の前で父母と新入生で写真を撮っている生徒が居るのを見てつい寂しくなる。

 それでも、信二はカメラを近くにいた新入生と思われる男子生徒に渡して写真を撮ってもらう。


「お姉さん、もっと弟さんの近くに寄って!」


 信二からカメラを受け取った新入生が愛梨にそう話しかけてきた。

 クックックと笑う信二に愛梨が冷たい視線を送る。その瞬間、『カシャ』っと音がした。


「あれ、タイミングが狂ったよ。もう一枚!」


 今度は普通の表情で撮れたようだ。

 新入生は笑いながらカメラを返してくれた。


「ほいと。しっかし綺麗な姉さんが居て羨ましいな。あ、俺は久我悠二(くがゆうじ)、外進生だ。お前は?」


「間違えるな。この人は俺の母さんだ。俺は司馬信二。お前と同じく外進生だ。よろしくな」


「おいおい、それマジか?てっきり姉弟かと。そんな可愛らしいお母さんで何だか羨ましいよ」


「可愛らしくない母親で済まなかったね」


「いででっ、ゴメンよ、母ちゃん!」


 彼の母親と思われる女性からほっぺたをつまみ上げられる久我。


「失礼な息子ですみませんね。こんなのだけど、よろしくお願いしますね」


 久我の母親の挨拶に愛梨が答える。


「こちらこそよろしくお願いします。仲良くしていただけると有難いです」


 逹芝学園は中高一貫校だが高校から入学する生徒も募集しており、彼らを外進生と呼ぶ。対して中学から上がって来る生徒は内進生と呼ばれている。


 この学園ではクラス編成をする際、外進生と内進生の区別をしないため、外進生は孤立しがちだ。そのためこうして外進生同士が知り合えるのは良い機会となるだろう。

 正門に掲示されているクラス名簿を見たところ、1組から6組までに分かれており、各クラスは30名ずつとなっている。

 そのうち1組が特進クラスとして難関大学へ受験するための特別なカリキュラムが組まれている。

 信二は数学と理科、そして英語は抜群の成績を残すが、それ以外の教科は平均かそれ以下の成績のため特待生にはなれなかった。そんな信二と久我は共に1年2組である事が分かった。


 そこで愛梨と別れた信二はひょんなことから出会った久我と一緒に教室へと向かった。


「まあ、初日から知り合いができて良かったよ」


 信二が言うと、


「そこは友達ができたって言っとくところだろう?」


 と久我はニカっと笑って言った。信二は彼の人懐っこさに好感を覚え、うまくやっていけそうだと感じた。

 1年2組の教室に入り、自分の机を見つけて鞄をかけ、しばらく久我と話す事にする。久我の席は信二の1つ前だ。50音順で苗字が近いからだ。


「へえ、司馬はスイーパーをやっているんだ。ときどきゴブリンとかスライムのようなエンボが居るのを見かけて慌てて逃げ出しているんだけど、司馬はあれを倒しているんだろう? なんだかカッコイイな」


「そんな事はないさ。遠くから『ファイアボール』とかをブン投げて丸焦げにしているだけで、効き目がないならすぐにズラかるだけだからな。全然カッコ良くはねーな」


「え? 司馬はMAGICS(マジックス)を使えるのか? それならやっぱかなりの強さなんだろう? スイーパーの中でも、MAGICS(マジックス)を使ってエンボを討伐しているのはそんなに居ないって聞いているぞ?」


「ま、まーな。それで、最近ランクアップ試験のためのポイントがようやく貯まってさ、今週末にランクアップ試験を受けることにしたんだ」


「マジで! 高校に上がったばかりでもうランクアップ試験を受けるのか? スゲーよ、司馬!」


 久我が興奮してそう言った。


「随分くわしーんだな、久我は。今回試験を受けはするが、合格率は1%も無いらしーからな。まあ、正直様子見ってところなんだけどな」


 実は結構いい所まで行けるのでは? と思う信二だが、周りが見えていない痛い奴と思われたくないため謙遜する。


「確かに合格率は低いけどさ、それだけにランクアップ試験を受ける奴らはそれなりに自信があるって聞くぜ? 自信がないスイーパーはポイントが貯まってもランクアップ試験を受けないって聞くけど。司馬も本当のところはガチで狙っているんだろ?」


 久我はニヤリと笑って信二に尋ねる。心を読まれているのかと肝を冷やしながら信二は答える。


「そりゃひょっとしたら、とは思うからこそ受けるんだよ。それに今回はダメでも経験にはなるからプラスにこそなれどマイナスにはならねーしな」


「やっぱ脈ありなんだな? そうしたらうちのクラスからCクラススイーパーが誕生することになるぞ! Dランクスイーパーが全国に10万人程居るのに対し、Cランクスイーパーは3千人程度のエリートだもん。期待してるからな、司馬!」


 久我はバンバン、と両手で信二の肩を叩いてそう言った。


 彼の声につられてクラスのみんなが信二達の方を向く。

 その中で1人の女子から鋭い目線に気がついた。

今回はここまで。続きもどうぞご覧ください。

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