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真実を話すラジオ

作者: 真実を話すラジオ


小学校が夏休みに入ったばかりの夏の日、本当なら友達と外を駆けまわっているはずだった。宿題は8月の後半にいっきにやればいい。朝顔の観察はおじいちゃんが毎日スマホで撮ってくれるからラクちんだ。なんでも、孫の朝顔だっていって友達に見せるんだって。だから、毎日、僕が目を光らせなくっても良いんだ。宿題っていっても、小学校四年生の僕にはそれほど大変じゃない量だった。


「それなのに、みいんな予定が入ってるんだもんな」


夏休みに入ってすぐに塾が始まった子、家族と田舎に行った子、海外にいった子、待ってましたとばかりに夏のレジャーに駆け込んでいった。そういう僕はおいてけぼりをくったようで面白くない。家にいてもつまらないから、小銭をもって外に出た。熱中症対策とやらで、水分補給をいっぱいするんだって。自販機でもスーパーでも良いから、飲み物を飲むようにって言われてる。


大好きなスポーツ飲料水を買って、飲みながら川を横に見ながら歩道を歩いていると、草むらの中で何かが光っているような気がした。


「あれ、なんだろう」


転ばないように気をつけながら土手を降りていく。草むらの中に入ると、脛にあたって痛い。うっかりするとうっすら血がにじんであることもある危険な葉っぱだ。


車や人が通る橋の下の近くに、その奇妙な物体はあった。汚れているけどためらうことなく取っ手をもって持ち上げた。


「なんだ。ラジオじゃん。しかもふっるいやつだ。誰が捨てたんだろう」


CDもカセットテープもついていない、正真正銘のただのラジオだ。おじいちゃんが昔から使っている古いラジオに似てる。ラジオしか聞けないんだよね。つまんない。そのまま、ラジオを放り出して別の場所に行こうと思ったけど、なんとなく気になったからそのまま家に持ち帰ることにした。捨てられてるんだって思ったから、持ち主がいるかどうかは気にならなかった。壊れていたらどうしようかな。分解して遊ぶのも面白いかもしれない。ひとりでウロウロするのをやめて、土手を上がりそのまま家に向かった。




「さてさて、このラジオは壊れてるかな」


ベッドと机とクローゼット、小さな本棚を置いていっぱいの僕の部屋の真ん中に、今日持ってきたばかりのラジオを置く。フローリングだから夏は取っ払っちゃうけど、冬はじゅうたんをひいてるんだ。隣の部屋は高校生のお兄ちゃんの部屋だ。今は塾に行っていていない。高校生になってからなんとなくしゃべんなくなっちゃったんだよね。つまらない。


僕は汚れをはらってラジオを触る。スイッチを押すタイプじゃない。あれこれとダイヤルを回すうちにじじっと音がし始めた。


「うわっ。ちゃんと動くんだ」


面白くなってつまみを回して調整していく。ニュースっぽいものが流れたり、物語の朗読っぽいものが聞こえるけど僕にはわからないことばかりだった。


「もっと面白い番組がやっていたらいいのに」


夢中になってラジオと取っ組み合っていると、ドアの外で声がした。


「何してんだよ。音が大きいぞ」


「ご、ごめん。音、小さくするから」


いつのまに帰ってきてたんだろう。気づいたら、窓の外は夕焼け空だ。お日様が真っ赤だった。どきりとして、慌ててラジオの音を小さくしようとした。


「な、なに?これ?」


音を小さくしようとしたら、逆に音が大きくなる。ニュースなのかわからないけど、女性アナウンサーの妙に切羽詰まった声が部屋の中に響く。


「20××年、8月9日の明け方、身元不明で捜索されていた女性の遺体が発見。遺体が見つかった場所は、○○町の土手付近。犯人は、男性で、女性の元同僚。川に遺棄する予定はずだった予定を変更して、橋の下の地面に埋めたと自白しました」


「お、おい。何聞いてるんだ?ニュースなのか?音がどんどん大きくなってないか?」


「お、お兄ちゃん。どうしよう。ラジオなんだけど、音が小さくならない」


それどころか、止めることもできなくなっていた。


「繰り返します。20××年、8月9日の明け方、」


しかも同じニュースが何度も何度も繰り返される、アナウンサーが繰り返し発言することはあっても、回数が多いんじゃないのかな。つまみを回しても、チャンネルは変わらず、ラジオはちっとも止まらない。


「ちょっと、見せてみろ」


僕が良いとも言わないうちにドアを開けて、兄ちゃんが入ってきた。混乱してバシバシたたいていた僕は、ほっとしてお兄ちゃんに場所を譲った。お兄ちゃんはラジオをつまみを回し、僕と同じように電源を切ろうとする。どうしても止まらず、ラジオをあちこちひっくり返して調べ始めた。


「これ、電池式じゃないのか?なんで、音が鳴るんだ」


ラジオなんだから電池か、コンセントがなければ音はならないはずだ。携帯やスマホのように充電式じゃない。鳴り続けるラジオを前にして、お兄ちゃんが座り込む。お兄ちゃんにもどうしても良いかわからないみたいだ。


「どったの?なんかトラブル?」


お兄ちゃんと同じ学生服を着た男の人が顔を出した。お兄ちゃんの部屋に友達が来ていたらしい。お兄ちゃんも僕も驚いて振り返ったけど、言葉が口から出てこなかった。騒音レベルの音を出すラジオの方をじっと見たまま動かない。


「ごめん。弟が拾ってきたみたいでさ。変なんだ。スイッチ切れないし、チャンネル変えられないし、音量も下げらんないし」


ふんふんとうなづきながら、失礼しまーっすと声を上げてラジオの前に座り込んだ。ズボンのポケットから、ピンク色のお守り袋みたいなものを取り出す。ちょっとだけお花みたいな、良い香りがした。そのお守り袋をラジオにくっつけると、音がぴたりと止まった。


「え?どうやったの?」


明るい声をだした僕の前にお兄ちゃんが立つ。僕にはしゃべらせない気だ。


「これ、どうしたらいい?」


「とりあえず、元の場所に戻す」


お兄ちゃんの問いかけに、さも当たり前のように答えた。僕は、お兄ちゃんの体からひょっこり顔をのぞかせる。口は閉じたままだけど、お兄ちゃんとその友達の会話が気になった。


「じゃあ、今から行きますか」


「あの、僕も行く?」


お兄ちゃんと友達が、僕の方を見てから二人で考えこむようにしてる。危ないだの、場所がわからないだの、おとなしくしていれば大丈夫だの。僕のことなんかお構いなしに二人で話していた。お父さんとお母さんが僕のことを話しているときみたい。こういうとき、すっごく嫌な感じって思う。結局、お兄ちゃんの自転車の後ろに乗せてもらって、河原の橋の近くまで行くことになった。


それからも、お兄ちゃんと友達は僕にはわからない話を続けている。自転車に乗りながらも、まだ発見されていない女性の話だとか、おかしいだろうとか、これから先はお兄ちゃんの友達が何とかするとか。僕にはわからないことだらけだった。


ラジオをもとの場所に戻した時だって、変なもの拾ってくるんじゃないって拳骨で軽くこづかれた。


ラジオの音が大きかったことや、勝手に拾ってきたことを叱られたけど、それ以上、お兄ちゃんやお母さんが何か言うことはなかったんだよね。


ラジオのことが気になったから、次の日、ダメって言われてたけど河原の方に行ってみた。まだ、河原の草むらの中にあるんだろうか。ドキドキしながら、覗いてみたけどなかった。持ち主が取りに来たのかな。最初から何もなかったみたいに、本当にどこにも見当たらなかった。


それから、しばらくして、ラジオを拾った土手の近くで遺体が発見されたニュースが流れてた。最初は、日本のどこかの土手だと思って聞いていたけど、だんだんだんだん、僕が、あのラジオで聞いた話だった気づいた。


あのラジオ何だったんだろう。お兄ちゃんは知ってるのかな。お兄ちゃんの友達は知っているのかな。今度聞いてみよう。本当のこと、教えてくれたら良いんだけどな。



読んで下さり、ありがとうございました。

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