乙女ゲームの世界へ
勢いのままに投稿!
主人公が暴走気味です…。
乙女ゲームの世界に転生してしまった。
それは、普段と変わらない日常の1ページに過ぎないある日のこと。
「隠しキャラが何度リトライしても出てこない……わ、わ、わたしの推しが――!!」
小型ゲーム機の前で頭を抱えるわたし。画面には、80%達成おめでとうの文字が。正直、全然おめでたくない。貴重な休日を返上してまで挑んだ乙女ゲー、その名も【君は何色を選ぶ?】。略して君色。一般企業に勤めているものの、最近の業務形態が悪い。直近の残業過多により疲労困憊気味の25才のOLだ。元々、漫画や小説、ゲーム好きなオタク寄りのわたしが、勇気を振り絞って君色を買ったのには、訳がある。好きな――否、推している声優さんが出演していたから、その一言に尽きる。
けれど、何度挑戦してみても、推しの声が聞けることはなかった。
「こうなったら、お酒でも呑んで気分転換――っと」
冷蔵庫から程よく冷えた缶チューハイを取り出して、一気に口に流し込む。
「おいしぃー!さ、て、と、追加のお酒補充してきますか!!」
一人暮らしのアパートの一室を出て、コンビニへとおぼつかない足取りで向かう。財布よし、鍵よし、ケータイよし。持つべきものは持った。いざ、行かん!更なる飲み物追加へ――。
「飲み物なにかぉうかなぁ……」
最早、呂律が回っていない……が、そんなのお構いなしに目的地へと歩を進める。今すぐにでも、目的地へと駆け付けたいのに、行く手を阻む信号機。押しボタン式の信号機、幸い両側から通る乗用車はなし。
「みぎよしぃ、ひだりもよしぃー……ゴーーーー!」
定まらない意識で横断歩道を歩く。視界が歪む。
「おじょうちゃん、危ない――っ!」
一人の男性の声に、一時的に浮上する意識。
振り返ると、猛スピードで駆けてくるトラック。わたしを照らす照明。
あぁ、終わったな、わたし――。もうすこし、親孝行しとけばよかった……。
あと、君色完全制覇したかったなぁ……。
気づいたときには、遅かった。冗談抜きで、手遅れなわけで。
「ほら、うみちゃん笑って。笑顔笑顔」
「……はぃっ!」
四月。桜咲く季節。満面の笑みを浮かべたお父さまからカメラを向けられる。今、わたしはひどく動揺している。笑顔を浮かべてみるも心なしかぎこちない。
なぜなら……
「うみちゃん、今日は入学式ですものね。緊張するのも無理ありませんね」
なぜなら……
「そ、そうですね……今日は、特別な日なので普段よりも緊張してしまいます」
今日が、入学式だからだ。
それも、四季彩学園。即ち、君は何色を選ぶ?略して君色の世界にわたしが転生してしまったからだろう――。
「僕たちは、今日この日を心待ちにしておりました。四季彩学園に入学できることを心より感謝し、勉学に励みたいと思います。新入生代表 蒼木 戒」
この日をどれだけ、避けて考えていたか。この日をどれだけ、逃げ出したいと思っていたか。
「あらあら、うみちゃん。新入生代表の挨拶に聞き惚れちゃったかしら?」
「……」
「あの子、見事な挨拶だったわね~」
「……」
違います、お母さま!決して、見とれていたわけではありません。
本当に来てしまったんだと恐怖に震えておりました。あの乙女ゲームの世界に。
ゲームをプレイする立場ならいいけど……当事者になるのはごめんだ。わたしは脇役、わたしはモブキャラ、そうだ!傍観者に徹しよう。
密かに心に誓いを立て、いざ行かん!同級生の輪!
酔っぱらって泥酔して深夜に外出しての買い物は危険なので、控えましょう…!
(あと、押しボタン式の横断歩道は、ちゃんと青になるのを待ちましょう!)
入学式で決意するものの、うみちゃんの運命はいかに!?