目利きの兄
「ロヴィ。これは、何かな?」
「ペーパーウェイト、ですわ。兄さま」
とある休日。
兄であるエルネスティがロヴィーサの部屋を訪れた際、それを見つめ聞かれた言葉にロヴィーサは平静を装って答えた。
「うん、確かにペーパーウェイトだな。ヴィルヘルム仕様の。手に取っても?」
既にして凝視しているのに、ロヴィーサの許可をきちんと取る兄に尊敬の念を抱きつつ、ロヴィーサは、もちろん、と頷く。
恥ずかしいには違い無いが、ヴィルヘルムを彫ったものだ、とばれている以上、それより恥ずかしいことは起こりようもない。
「よく出来ている。ロヴィーサが、絵だけではなく彫刻も始めたことは知っていたが、ここまで上達していたとは。お前、本当に才能があるんだな」
しみじみと言ったエルネスティは、ペーパーウェイトヴィルヘルムから顔をあげ、真顔でロヴィーサを見つめた。
「兄さま?」
「なあ、ロヴィーサ。お前、これを店に出してみないか?」
「え?駄目です!」
そんなことをしたら、たくさんのひとがヴィルヘルムの近くに居ることになってしまう、と考える間もなく断ったロヴィーサの髪を撫でながら、エルネスティが笑う。
「誰も、ヴィルを世間に晒せ、とか、共有しろ、なんて言っていない。これだけの腕があれば、ペーパーウェイト用に他のものも彫れるだろう、と俺は言っているんだ」
「あ。そういう、こと・・・失礼を」
「いいさ。ロヴィはヴィルが大好きだもんな。兄様が妬けてしまうくらい」
「もうっ、兄さま!」
ロヴィーサの髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜ、ロヴィーサに胸を叩かれ抗議されながら、エルネスティは真面目な瞳で続けた。
「今度、また新しく雑貨の店を出すことになってね。何か、目玉になる商品はないか、と探しているところなんだ。協力してくれないか?」
「協力、は、いいですけれど。何が彫れるか、未知数ですよ?」
店に自分の作品を出せる、となれば自活への第一歩となる、と思うもロヴィーサは慎重に答える。
「色々、造ってみればいい。まずはそうだな、無難に花とか」
「あ、それなら大丈夫です。もう造ってみました。ペーパーウェイトではないですが、こんな感じで」
そう言ってロヴィーサがエルネスティに見せたのは、カーテンのタッセル。
そこにされている見事な花の彫刻に、エルネスティはまたも目を見開いた。
「凄いな。立体的というのも珍しい。うん、これはいい」
エルネスティの反応の良さを嬉しく見て、ロヴィーサはもっと自分の作品をアピールすることに決めた。
「今、ナプキンリングも造ってみているのですが、見てくれますか?」
「もちろん」
そして、ロヴィーサは造りかけのナプキンリングをエルネスティの手に乗せる。
「どうです?」
「これなら、何も問題無い。すぐに商品化できる。他に図案は?」
「ああ、それならここに。他にも何か要望があれば、私が図案化します」
「それはいいな。それで。ひと月で、どれくらい造れる?」
瞳を輝かせ、ロヴィーサに作業日程を確認すると、エルネスティは上機嫌でロヴィーサの今日の予定を聞き、共に店に行こうと言い出し、さっさと実行に移した。
お兄ちゃんも、子どもの頃からふたりと一緒にいました。




