遅すぎる自覚
「ヴィル、今頃、誰と何をしているのかな?」
ヴィルヘルムからの休日の誘いを断ること、早数回。
その日、ロヴィーサはひとり絵を描きながら、ヴィルヘルムのことを思っていた。
そして、無意識に描いているその絵が、またもヴィルヘルムだったことに苦笑する。
「考えるのもヴィルのことばかりだし。もしかして、私って。ヴィルのこと、そういう風に好きだった、ってこと?」
「何をいまさら」
まさかね、と自分を茶化すように首を傾げ呟けば、傍でせっせとお茶の用意をしている専属侍女のニナに笑われた。
「え?まさか、ではなくて、いまさら?」
「はい。いまさら、です。ご自覚が遅いですよ」
姉とも慕うニナにそう言い切られ、ロヴィーサは改めて自分の描いた絵を見る。
ここ数枚は、ずっとヴィルヘルムしか描いていない。
鉛筆描きのものもあれば、絵具を使ったものもある。
笑っているもの、不機嫌そうな顔のもの、と、その表情は色々あれど、その瞳はどれも優しい。
それが、ロヴィーサの知るヴィルヘルムの瞳。
つまりはそれが、自分に見せるヴィルヘルムの表情なのだ、と気づいてロヴィーサは胸があたたかくなった。
喧嘩をして怒っているときでも、ヴィルヘルムがロヴィーサを本気で拒絶したことは一度も無い。
いつだって大切にしてくれた、と今更ながらに思う。
「幼なじみだから、かな」
ヴィルヘルムの優しさを想い、ロヴィーサはそっと自分が描いたヴィルヘルムの頬を撫でた。
本人と相手以外には周知の事実です。




