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総合闘技大会







 「ヴィル、おめでとう。お疲れ様」


 「ああ。ありがとう、ロヴィ」


 総合闘技大会が始まって二日。


 ヴィルヘルムは危なげなく勝利を重ねており、応援に来ているロヴィーサも安心して見ていられる試合が続いている。


 「二日で十試合熟せ、なんて苛烈すぎるって思ったけど、こういうことなのね」


 ヴィルヘルムに初めて試合予定を見せてもらった時には、こんな過密はひどすぎる、と思ったロヴィーサだったが、その対戦内容を見て納得した。


 総合闘技大会は、誰もが参加できるとあって、その登録者数は膨大な数にのぼるが、そのなかには本当に記念で参加する者も多く、ひと試合だけ参戦して後は棄権してしまう、なんてことも珍しくないらしい。


 そのうえ実力も様々で、今のところヴィルヘルムは苦戦するような相手と当たることもなく、余裕をもって行動できている。


 「ああ。だが油断は禁物だ。強いひとは、本当に強いから。そうなれば、ひと試合の時間はかなりのものになるだろう」


 連勝にも驕ることなく、改めて気を引き締めるヴィルヘルムを、ロヴィーサは頼もしく見上げた。


 「今日は、もう終わりなんだよね?」


 「ああ、予定終了、だ。それでロヴィ、この後時間あるか?」


 「うん。大丈夫だけど?」


 「なら、何処かに少し寄って行かないか?夕飯、には少し早いけど、お茶でも」


 何となく目を泳がせて言うヴィルヘルムを不思議に思いつつ、ロヴィーサは少し躊躇うように頷く。


 「私は嬉しいけど。ヴィルは、明日も早いでしょう?ゆっくり休んだ方がよくない?」


 「それなら大丈夫だ。ロヴィと居るのが、一番癒されるから」


 満面の笑みと共に差し出された手を取って、ロヴィーサは自分の指をヴィルヘルムの指へと絡めた。


 「それなら、存分に癒されて?」


 「ああ。そうさせてもらう」


 お互い、揶揄うように言い合って、肩をぶつけ合い、じゃれ合いながら、ふたりは試合会場のひとつとなっている中央広場を抜けて行く。


 「明日の試合会場、何処だっけ?」


 「明日は、第一が西で残りが中央」


 「そっか。また明日、詳しい時間とか教えてくれる?」


 「もちろん。っていうか、明日も全試合応援に来てくれるのか?まだ、かなりの数あるぞ?」


 「それこそ、もちろん、よ」


 ぱちん、とウィンクをして言ったロヴィーサに、ヴィルヘルムは本当に嬉しそうな顔になった。


 「ありがとう。でも、明日は移動もあるから大変じゃないか?」


 「平気よ。ヴィルの試合には絶対間に合うようにするから、心配しないで」


 総合闘技大会では、その数多い試合を熟すため複数の試合会場が設けられている関係で、選手は一日のなかで移動することも多く、その移動は大会委員会の用意した馬車と決められている。


 また、各自の得物も大会委員会預かりとなっており、持ち帰ることは禁止されている。


 厳しいようではあるけれど、それらすべては不正を行わないようにするための処置であり、ヴィルヘルムはそれを当然と思い、便利とも感じているが、ロヴィーサと移動したかった、とも思ってしまう。


 「ああ。だが、交通制限かかって個人の馬車での移動は出来ないだろう?段々人の出も多くなってくるから、よくよく注意するんだぞ?知らないひとに助けを求められても疑うくらいの気持ちでいろ」


 「どういう忠告よ、それ」


 何の例えだ、とロヴィーサは苦笑いするも、ヴィルヘルムは真顔のままロヴィーサの目を見つめた。


 「そういうのが一番ありそうだ、ってことだよ。ロヴィはしっかりしているようで、隙も多いから」


 心底心配だ、と眉を寄せるヴィルヘルムの、その眉間をロヴィーサは指でつついた。


 「子どもじゃないんだから」


 「莫迦だな。だから、心配なんじゃないか」


 本当に大丈夫か?と、ため息を吐き、ヴィルヘルムはロヴィーサの額をつつき返す。


 「うーん。でも、護衛も付いてもらう予定だし」


 「ああ。明日は絶対にそうしろ。それで、ちゃんと張り付いとけ」


 「そこまで?ヴィルって、そんな心配症だったっけ?」


 「俺が傍に居られない時は、いつだってこんな心情だ」


 首を傾げるロヴィーサに、ヴィルヘルムはきっぱりと言い切った。










 「ロヴィ。これを、十勝の記念に貰って欲しい」


 落ち着いた雰囲気の喫茶店で注文を済ませ、ほっと息を吐くロヴィーサにヴィルヘルムが差し出したのは、小粒ではあるものの質がいいことがひと目で判る紅珊瑚だった。


 「これを?」


 「うん。十勝ごとに贈るから受け取って欲しいんだ」




 『ロヴィの思いも背負って、俺が勝ち抜くよ』




 そう言っていたヴィルヘルムを思い出し、ロヴィーサは嬉しくその紅珊瑚を受け取る。


 「ありがとう、ヴィル。あれ?でも私の方が、贈るものじゃないの?おめでとう、って」


 「達成記念だから、俺から贈る、っていいんだよ」


 あれあれ?と首を捻るロヴィーサに笑顔で言い、受け取って貰えたことにヴィルヘルムは心から安堵すると同時に気合も入れ直す。


 これから十勝ごとに同じ小粒の紅珊瑚を贈り、そして最後の十人に残れたら、大粒のものを贈ってブレスレットとして加工可能にする。


 そんな計画をしているヴィルヘルムだけれど、勝たないことには贈れない。


 つまりはブレスレットも完成出来なくなってしまう。


 まあ、そうなったらなったで、計画をばらしてブレスレットにしてしまうつもりではあるけれど、それでは格好がつかないのも事実。


 それでもヴィルヘルムは、ロヴィーサと共に掴んだ、という勝利の証を残したいと願った。


 ロヴィーサが、自分の勝利だけを願ってくれる。


 その喜びは、ヴィルヘルムにとって、ロヴィーサが想像もしないような力となっているのだから。


 


 ロヴィに言えば、そんなことない、って言いそうだけどな。




 今、ヴィルヘルムの前で贈られた紅珊瑚を嬉しそうに見つめ、大切に扱っているロヴィーサ。


 何でもぽんぽん言い返して来る癖に、妙なところで気を使って身を引こうとなどしたロヴィーサを想い、ヴィルヘルムはひとり苦笑した。




 



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