創立祭 1
「わあ。ロヴィーサのドレス、モント伯子息様とお揃いなのね。ふたりともよく似合っているわ」
「ふたりの間には、誰も入れない、でしょうか。本当に素敵ですわ」
「いや、むしろ、誰も入れない、じゃないか。近づいたら即刻排除」
「まあ、お前等ならやると思っていたよ」
ヴィルヘルムとロヴィーサが創立祭のパーティ会場へふたり揃って入場すると、すぐに友人たちに囲まれ、揃いの衣装に話を振られた。
「お前等なら、ってなんだよ。似合っていないとでもいいたいのか?」
「それは、衣装の話か?お前らがお似合いじゃないという話か?安心しろ。どっちも似合っているから」
ヴィルヘルムが憮然として言えば、友人のひとりミーカがそう言って笑った。
「そうですわ。お衣装はお揃い、宝飾はお互いの瞳の色。それがもう、本当にうっとりするくらいお似合いですわ」
ミーカが面白そうに言うのに対し、エルナはおっとりとヴィルヘルムとロヴィーサを褒める。
「もう、主張しまくりよね。『このひと、自分のものなんです!』」
それに続けて、エルナの双子の姉であるハンナが茶化して、ヴィルヘルムとロヴィーサ以外の全員が大きく頷いた。
何故か、その輪に居ない周りの人々まで、大きくこっくりと。
「まあ、それもいつものことだけれどな」
普段からお前等は、とサウリは苦笑しつつ首を振った。
「そうか。それなら、存分に思い知らせることが出来るな」
その時、揶揄われた、と怒るかと思われたヴィルヘルムが言った言葉に、四人は不思議そうな目を向けた。
「思い知らせる?何かされたのか?」
ミーカが、揶揄いの色を消し、心配そうにヴィルヘルムを見る。
「ロヴィが、嫌がらせをされた」
「え!?」
「ロヴィーサ、大丈夫なの!?」
ヴィルヘルムの発言に、エルナとハンナが同時にロヴィーサの腕を取った。
「ええ、大丈夫。正直、何を言っているのかよく判らない部分もあったし、すぐにヴィルが否定してくれたから」
あの時、ヴィルヘルムに話を聞いていなかったら今も少し不安だったかもしれない、とロヴィーサは思う。
ドレスやエスコートの話はともかく、騎士である父君の話は真実だと思えたから。
「さっすが」
ハンナが、淑女らしからぬ動作でヴィルヘルムの腕を叩き、その行動を褒めた。
「誤解なんてされてたまるか。事実でもないのに」
「何を言われたんだい?」
苦虫を噛み潰したような表情でヴィルヘルムが言えば、サウリが心配そうな顔でロヴィーサを見る。
「ええと、創立祭ではヴィルにマダム ジョゼーのドレスを贈ってもらって、エスコートもしてもらう、って。あと、騎士であるお父君もヴィルを認めていて、自宅に幾度も招いて一緒にお食事をしている、って」
ロヴィーサが言えば、四人が渋い顔になった。
「誰に言われたの?」
「マーッタ男爵令嬢よ」
エルナの問いにロヴィーサが答えれば、サウリとミーカの顔が更に渋くなった。
「騎士である父君がヴィルヘルムを認めている、って。ロヴィーサ嬢、それがそもそも可笑しいんだ。マーッタ男爵の騎士としての評価は低く、主戦力から外れた部隊に所属しているんだ。しかも、為人も酷くて、男爵という低い身分だから実力があっても認めてもらえない、と言うような人物だ。そんなことあるわけないのにね。ヴィルヘルムはそんな男より実力も人柄もずっと上だよ」
「まあ、ヴィルヘルムは、自分からそんなことロヴィーサ嬢に言わないだろうけれど、僕らも『お父君の身分があるといいですね』なんて言われているよ」
未だ学生でありながら、既に騎士となる試験に合格しているサウリとミーカの苦笑交じりの言葉に、ロヴィーサは驚いてヴィルヘルムを見る。
「ごめんなさい。私、何も知らなくて。でも、ヴィル凄いのね。現役の騎士さまより強いなんて」
真摯に謝るロヴィーサに、ヴィルヘルムは苦い顔で緩く首を横に振った。
「騎士と言っても色々だ。特別訓練してくださる方々の実力は物凄い」
「そうね。凄い迫力だったもの」
見学に行った際のことを思い出し、ロヴィーサは深く頷いた。
「あら?ロヴィーサ、騎士団の見学に行ったの?」
「ヴィルが、特別訓練を受けているところを見学させてもらったの」
目を輝かせるハンナに、ロヴィーサが少し恥ずかしそうに言えば、途端に腕をつつかれる。
「私たちにも内緒だなんて、いけずねえ」
ハンナの言い方に皆で笑っていると、ヴィルヘルムが不意に真剣な表情になった。
「いた」
「なんか、狩人みたいな顔になっているわよ、ヴィル」
その視線の先にマーッタ男爵令嬢を認め、ロヴィーサが宥めるようにヴィルヘルムの腕に手を置く。
「悪い。ちょっと行って来る。行くぞ、ロヴィ」
四人に軽く挨拶すると、ヴィルヘルムはロヴィーサをエスコートして、ゆったりと歩き出した。
「ヴィルってば、凄い目をしているわよ。目と行動がちっとも合っていない」
あくまで優雅に歩き、周囲には丁寧に挨拶さえしながら、ヴィルヘルムはマーッダ男爵令嬢を睨み据えている。
その差異が激しいと、ロヴィーサは口元を隠して囁いた。
「誰にもばれてはいないさ。判るのは、ロヴィくらいだ」
すると、何故か嬉しそうにそう言って、ヴィルヘルムは素早くロヴィーサの頬に触れるだけのキスを贈る。
「もう、ヴィルったら・・・って。彼女に見られていたみたい、よ?」
「射程圏内に入ったからね。見せた、んだよ。あ、キスしたかったのはロヴィの言葉が嬉しくて可愛かったからだからね。そこは誤解のないように」
見せるためにキスしたのではない、とロヴィーサの耳元に囁いたヴィルヘルムはそのままロヴィーサの肩を抱き寄せた。
「すっごい目で見られているんですけれど」
瞬間、マーッダ男爵令嬢に射殺さぬばかりの視線を向けられ、ロヴィーサは首を竦める。
「うん。そして、凄い勢いで突撃してくるね。自分から来るとはなかなか。これぞ、飛んで火に入る夏の虫」
「ヴィルが悪い顔している」
にやりと笑ったヴィルヘルムを呆れ顔で見つめ、ロヴィーサは突進して来るマーッダ男爵令嬢に同情さえ覚えた。
ブクマ、評価。
ありがとうございます(^^♪




