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茶会にて~前哨戦~






 「ロヴィーサ様、少しよろしくて?」


 その日、マンニスト侯爵家の茶会に招かれて出かけたロヴィーサは、その開始前、庭で寛いでいる所で声を掛けられた。


 「もちろんですわ、マリッカ様」


 令嬢らしい礼で応えたロヴィーサは、しずしずとマリッカと共に邸へ入り。


 「ロヴィ。今日は、ちょっとした騒動が起きるわよ」


 と、友人の顔に戻ったマリッカに言われた。


 「ちょっとした騒動、って?」


 「ロヴィは、マイサ パレン嬢って知っている?わたくしたちと同じ年で、子爵家の」


 マリッカの問いに、ロヴィーサは首を傾げる。


 「知らない、と思うわ。学園の方ではないわよね?」 


 学園に通っている面子なら、大体は判るはずだけれど、と考えるロヴィーサにマリッカが頷いた。


 「ええ、そう。入学試験は受けたらしいけれど学園には居ない方よ」


 入学試験は受けたけれど、学園に通ってはいない。


 それはつまりそういうことだと含みを持たせて言うマリッカに、ロヴィーサは不思議そうな目を向ける。


 「それで。その方が、どうかしたの?」


 「騙りをはたらいたのよ。この装飾品を扱っているのは自分の店で、商品開発も自分がしているのだ、ってね」


 言いつつマリッカが見せたのは、ロヴィーサが発案し、店頭販売を開始した商品。


 「え?これ、私の」


 「そう、ロヴィが考えて作ったものよ。それを自分の手柄のように、下位貴族の茶会や色々な集まりで自慢して歩いているのですって。うちの寄子の家の子が教えてくれたの。その子も、ロヴィの作品が大好きで、それを教えたわたくしの事も尊敬している、なんていうくらいだから、許せなかったみたい。当然、わたくしもね」


 「それで、その寄子の方は、そのご令嬢に何かおっしゃったのでしょうか?」


 ロヴィーサの問いに、マリッカが強く首を横に振った。


 「いいえ、何も言わずにわたくしに報告してくれたの。よく躾けられているでしょう?」


 寄り親の指示に従うべく、報告のみを先にあげる。


 寄子の鑑のようだと満足そうにマリッカが笑った。


 「ええ、本当に。それにしても不思議ね。少し調べれば、あの店の権利者くらい直ぐに判りそうなものだけれど」


 「本当にね。にも拘わらず騙っているのだから、真実を教えてあげようと思って、今日のお茶会にお呼びしたのよ」


 くすり、と笑うマリッカの目にある怒りの色を見て、ロヴィーサは諦観の笑みを浮かべる。


 こうなった友人は、納得いくまで止まりはしない。


 普段温厚なマリッカは殊に友情に厚く、身内と定めた人間を大切にする。


 そのひとりであるロヴィーサに対する行いを許すつもりは無いのだとその目が言っていた。


 「場を設けてもらったことは感謝するわ、マリッカ。でも、私の事なのだから自分で」


 「駄目よ。ロヴィは優しいからすぐに許してしまうもの。だからね、わたくしに任せて。もちろん、貴女に完全に黙っていろなんて言わないから安心して。自分で、事実確認もしたいでしょうし・・・さて。そろそろ時間ね」


 ぱんっ、と手にした扇を手に打ち付けて、マリッカは気合を入れるように口角をあげる。


 「さあ、出陣よ。ロヴィ」










 へえ。


 こっちの伯爵令嬢もあっちの侯爵令嬢も、あの店の装飾品を身に着けてる。


 やるじゃない、平民。


 お蔭で、侯爵家のお茶会に呼ばれたし、あたしの地位も更に爆上がりかしら。




 マンニスト侯爵邸の庭園で、その茶会の開始を待つマイサは、ひとり満足気な笑みを浮かべた。


 謹慎中に知った、最近話題だという店。


 その店のある場所からいって経営者は平民だと確信したマイサは、その店が自分のものであり、皆がこぞって欲しがる商品を開発したのは自分だ、と、ことあるごとに言い広めた。


 その結果、男爵家や子爵家の貴族令嬢の間でちょっとした有名人となったマイサは、尊敬と羨望の眼差しを集めるに至り、その結果、子爵家の者でありながらこうして伯爵家以上が集う侯爵家の茶会に招かれた。


 そして、その茶会の前、庭園で開始を待つ間にも、自分より上位の貴族令嬢の多くが、その店の装飾品を身に着けているのを見て、マイサは益々の自分の繁栄に喜びが溢れる。


 あの店の装飾品を着けている上位貴族の令嬢に、それを発案し作ったのは自分だと言ったなら、どれほどの尊敬を集めるだろう。


 そうしたら、今度は子爵家が望むべくもない上位貴族主催の夜会にだって招かれるかもしれない。


 


 そうなったら、ヴィル様に堂々と会える。


 ヴィル様に相応しいのはあたしだって、皆に認めてもらえる。




 つい下卑た笑いを浮かべそうになり、マイサは慌てて扇で口元を隠した。


 茶会が始まるであと少し。


 マイサには、その瞬間が待ち遠しくてならなかった。





あたし、マイサ パレンは運命の出会いを果たした。


そのお相手の名は、ヴィルヘルム モント様。


モント伯爵家の嫡男で、将来有望の期待株で、顔立ちも容姿も美しい、”理想の貴公子”の二つ名を持つお方。


我が家は子爵家で、家柄もそう変わらないし、婚約するのだって容易いはず。


そう思っていた私の前に立ちはだかったのが、ロヴィーサ。


既にして婚約していただけでなく、伯爵家と子爵家、という爵位以上の家格の違いがあるし、学園に入学できなかった令嬢とは、とかなんとか言われてモント伯爵家から断られてしまったらしい。


でもそんなの、ヴィル様とあたしの愛があれば、って思ってたのに。


「絶対、許さない」


邪魔ばかりするロヴィーサに鉄槌を下す。


あんな悪女に手加減なんて必要ない。


あたしは、絶対にヴィル様を手に入れるんだから。



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