不安なら確認すればいい
とはいえ、ロヴィーサが武器を扱う鍛冶屋に出入りしている、という話は気になるもので。
『ついでに様子を聞くだけだ。そう、ついで、だ』
特別訓練の翌日。
ぶつぶつと自分に幾度も言い訳をして、ヴィルヘルムはエスコが営む鍛冶屋へと足を向けた。
そして、何気なさを装ってロヴィーサのことを聞き出したヴィルヘルムは、今日、再び訪れた鍛冶屋の前でロヴィーサが出て来るのを待っている。
「あれ?ヴィル」
そして、やがて出て来たロヴィーサは、心底嬉しそうに包を抱え、親方達へと手を振ってから方向を変え、ヴィルヘルムに気が付いた。
エスコ親方が生温かい目で自分を見ているのが気になるが、こほんと咳払いで気持ちを切り替えたヴィルヘルムは、自分もエスコ親方に目礼してからロヴィーサに近づく。
「誰への贈り物だ?」
マイサにはあのように言ったものの、自分へだという自信のないヴィルヘルムは、落ち込む気持ちを押さえられないままに聞いた。
武器だというのにそこまでの大きさは無いが、きれいに包装までされているそれにはロヴィーサの真心が詰まっているように感じ、贈られる相手に堪えられない嫉妬を覚えつつヴィルヘルムが見つめれば、ロヴィーサが苦笑した。
「誰、っていえば、私?」
「なっ、貰った方なのか?」
護身用の短剣か何かを贈られたのか、とヴィルヘルムは改めてロヴィーサが持つ箱を見つめてしまう。
「まあ。贈り主も私、だけれどね」
「なんだそれは」
けれど、ロヴィーサにおどけたように言われ、ヴィルヘルムは眉を寄せた。
「うん。ちょっとした特許事項」
「特許事項?」
想定もしない言葉が飛び出して、首を傾げるヴィルヘルムに、ロヴィーサは、そうよねえ、と苦笑を深くする。
「あー、うん。ヴィル、今日って時間ある?ここじゃあ、ちょっと説明出来ないから」
大通りではないとはいえ、それなりに人通りもあるここでは話せない、とロヴィーサは声を潜めた。
「今日は、もう用事はすべて済んでいるから大丈夫だ。何も問題無い」
元よりロヴィーサとの時間を作るために予定を調整してあるヴィルヘルムが頷けば、ロヴィーサも安心したように微笑んだ。
「そういえばね。ヴィル、時々、騎士団の特別訓練に参加しているでしょう?そこにね、今度見学に行ってらっしゃい、って母様やおば様に言われたのだけれど、私が行ってもいい?」
「もちろん」
ふたり並んで歩きながらの言葉に、ヴィルヘルムは即座に力強く頷く。
そして、心のなかで『よくぞ言ってくださった!』と、自分の母とロヴィーサの母を褒め称え、心の底からの感謝を覚えた。
それはもう、花吹雪を撒いてもいいくらいの心情で。
「本当?邪魔だったり、しない?」
「ロヴィが邪魔だなんてない。むしろ、力が出る」
そうか、ロヴィが見学に来てくれるのか、と既にして次の騎士団での訓練が待ち遠しい気持ちになり、足取りも軽くなるヴィルヘルムの隣で、ロヴィーサも安堵の表情を浮かべた。
「よかった。見学者のなかには、女性も多い、って聞いたから」
だから、もしもヴィルヘルムが密かに想う相手とかち合ってしまうことがあれば、ヴィルヘルムに厭われるのではないか、と案じていたロヴィーサに、ヴィルヘルムは明後日の見解を示す。
「ああ、多いな。黄色い声などあげて邪魔だと思っていたが。ロヴィなら、いいな」
ロヴィーサに応援される自分を想像して幸福になるヴィルヘルムに、ロヴィーサが深刻な顔で言った。
「判った。邪魔になんてならないよう、静かに見ているね」
邪魔にならないよう、決して黄色い声などあげない、とロヴィーサは胸元に片手を当て、騎士の誓いの仕草を真似る。
「いや、応援しろ。折角来るのだから」
むしろ、俺の愛称を呼びまくれ、と言いそうになって、ヴィルヘルムは何とか堪えた。
「え?でも」
「ああ、悪い。強要するものではないのに、本音が駄々洩れた」
「う、ううん。応援していいなら、したい」
たくさん、したい、と思うロヴィーサと。
「そ、そうか」
照れたように言うロヴィーサが可愛くて、にやけそうになるのを堪えるヴィルヘルム。
「うん」
そうして、お互い照れたように顔を逸らせたヴィルヘルムとロヴィーサは、その反動のように相手をちらりと見ようとして、その距離感に失敗し、触れそうなほどに近くで見つめ合う形になって。
「な、なら差し入れ持って行くね」
「楽しみにしている」
それでもそのまま逸らすことなく、繋いだ手を更に強く握り合って、街を歩いた。
端から見たら、ただの仲良い婚約者。




