表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/32

祝 開店









 「開店おめでとう」


 その日、ヴィルヘルムはロヴィーサの店の開店を祝うべく、真新しい店の扉を開いた。


 「ありがとう、ヴィル。立派なお花も、とても嬉しかった。ほんとにありがとう」


 店のなか、落ち着かない様子でそわそわとしていたロヴィーサは、ヴィルヘルムの笑顔にほっとしたように笑顔を見せる。


 「気に入ってくれたなら、良かった」


 開店祝いとはいえ、張り切って少し大きくすぎたかと不安に思っていた花籠が、店内で大切に飾られているのを見たヴィルヘルムは、嬉しい気持ちで花籠に並ぶロヴィーサを見つめた。


 「とってもきれいで。何より、ヴィルの気持ちが嬉しかった」


 にこにこと花籠を大切そうに見つめるロヴィーサは本当に可愛くて、ヴィルヘルムはこのまま閉じ込めてしまいたいような、たくさんの人に見せて自慢したいような、相反する気持ちに襲われる。


 「へ、へえ。ペーパーウェイトか。これは使い勝手が良さそうだ」


 そのままロヴィーサを見つめていると要らないことを言いそうで、ヴィルヘルムは慌てて方向を転換し、きれいに並べられた商品へと視線を移した。


 「手に取って、重さを確かめてみて大丈夫よ」


 ヴィルヘルムに並んで言いながら、ロヴィーサは、自室の机に大切に飾ってあるヴィルヘルム仕様のペーパーウェイトを思い出し、ひとり冷や汗を覚える。


 商品として店に並べたものは、すべて花や蝶などをデザインしたもので、人物でさえないのでばれる心配も無いのに、とロヴィーサがひとり焦っていると。


 「なあ、ロヴィ。これって、人物も彫れたりするか?」 


 まるで、ロヴィーサの心を読んだかのようにヴィルヘルムが言った。


 「え?ええ!?なんでわかっ・・・っ!?」


 焦りのままロヴィーサが叫べば、ヴィルヘルムが照れたように笑う。


 「いや。ロヴィを象ったペーパーウェイトがあったら、仕事も勉強も捗りそうだな、と思って」


 「!!!」


 恐るべし婚約者。


 自分と同じような思考回路に、ロヴィーサは驚きを禁じ得ない。


 そしてロヴィーサは、驚き過ぎてヴィルヘルムが誰のペーパーウェイトを欲しいと言っているのか、その事実に気づけていない。


 「その顔は、出来る、というか、既に造った、ということ、か。もう、誰かを彫ったんだな」


 ヴィルヘルム仕様のペーパーウェイトを造ったことがばれてしまった、と焦るロヴィーサが、ひたすらこくこく頷くと、ヴィルヘルムは何故かとても悲しそうな顔になった。


 「ヴィル?」


 やはり、自分がヴィルヘルム仕様のペーパーウェイトを持っているのは不快なのか、と思うロヴィーサの前で、ヴィルヘルムが気合を入れて表情を戻す。


 「ロヴィが誰を彫ったのか知らないけれど。俺は、ロヴィのペーパーウェイトが欲しい」


 「え?私の?」


 そこで漸くヴィルヘルムの要望を理解し、ロヴィーサは混乱した。


 「ああ。ロヴィ仕様のペーパーウェイトを注文したい。どうしたらいい?」


 「注文なんてしなくても、ヴィルならいつでも造る、けれど」


 どうせなら、密かに想う相手仕様にすればいいのに、と思いかけたロヴィーサは、それでは自分に相手がばれてしまう、という事実に辿り着き、結果、ヴィルヘルムはロヴィーサ仕様で手を打ったのだろうという、明後日の方向の答えを導き出した。


 「でも、これは商品だろう?この商品の特注品を頼むんだ。きちんとした方がよくないか?」


 店内の他の客のことも意識した様子でヴィルヘルムが言えば、ロヴィーサとヴィルヘルムの会話に耳を澄ませていた周りが、慌てたように動き出す。


 「もちろん、他のお客様でそういうご要望があれば、きちんと注文書を作成して、お受けするわよ」


 頷いて、ロヴィーサはにっこりと店内を見回した。


 





 「ヴィル!ペーパーウェイトの特注、たくさんもらえるようになったの!そこから、カーテンタッセルとかも!ヴィルのお蔭よ。本当にありがとう!」


 「俺は、本当に欲しいものを欲しいと言っただけだ」


 「それでも!ヴィルの発想のお蔭だもの!特注も出来るんですね、ってお客様に言われた時、はっとしちゃった!」


 ヴィルヘルムの左腕に抱き付き、喜びを全身で表現するロヴィーサ。


 その、きらきらと輝く瞳で見つめられて、ヴィルヘルムのなかに喜びが広がって行く。


 「役に立てたなら、よかった」


 抱き付かれると嬉しくて、でも凄く心臓は煩くて。


 それでも、ロヴィーサを離れさせる、などという選択肢はヴィルヘルムには無い。


 


 ロヴィ、大好きだよ。


 


 その想いを込めて、ヴィルヘルムは、そっとロヴィーサの髪を撫でた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ