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天使と悪魔 上  作者: ガラス細工
1/1

天使から悪魔へ

〜天使から悪魔へ〜


白と黒

正義と悪

ヒーローとヴィラン

ハッピーエンドとバッドエンド


ハズレ者と、そのまたハズレ者


_________憎しみと、愛。


〜〜〜


 コツ、コツ、コツ。

 銀色のブーツが規則正しい音を立てる。


「…………成る程な」


 肩まで伸びた白髪、トパーズの瞳。

 ごく普通の女子高校生に見える容姿は、周囲から視線を引く。なにせここは、荒くれ者しか訪れない地下。


「……掃除してないのかしら」


 彼女は淡々と階段を降りる。

 踏むたびに、ギシギシと音が鳴る。茶色く錆びた手すりは、一度こすれば洗濯してもなかなか落ちない汚れをつくる。


「年季入ってるなぁ……」


 だが彼女は、嫌な顔ひとつせず、むしろニンマリと笑みを浮かべた。くるりと振り返ると、彼女を睨みつけていた三人のグループのうち、バンダナを巻いた男へ声をかける。


「こんにちは。ここが《悪魔》ですか」

「……あ?」


 バンダナ男は不機嫌そうに彼女を見下す。


「お前みてえなガキが来るとこじゃねぇ。帰れ」

「仕事なんで、無理ですね」

「……仕事?」


 頭二つ分は違うであろう身長差。

 バンダナ男の強面や眼圧にも物怖じせず、むしろ微笑みを浮かべて返答する彼女。


「あなた、《悪魔》の一員?」

「……だったらなんだってんだ」

「あら。自己紹介が遅れて申し訳ない」


 彼女は姿勢を正し、右手を胸に添えて一礼する。

 その洗練された動作は、やはり周りの錆びれた景色には不釣り合いであった。


「私はSimon (シモン)。本日より《悪魔》の管理を任された、《天使》です」


 彼女は、期待と冷徹を二重に宿した眼で、いつの間にやら彼女の周りに集まっていた人混みを一瞥した。

 そして、不敵に笑う。


「以後、お見知り置きを」


〜CASE ONE「狂人」〜


〜〜

「……《天使》、だと?」

「ええ、そうですけれど」


 その言葉を聞いた瞬間、周りの目が一変する。


「帰りやがれ」

「え?」

「お前らにこき使われるのはもうウンザリなんだよ!!帰れ!!!」


 バンダナ男は激昂して叫ぶ。

 シモンは目を見開いて驚くが、すぐに視線を鋭く絞る。


「……どういうこと?」


「どうもこうもあるかよ!!」

「そうよそうよ!!」


 周りにいた人々が、男女問わず一斉にシモンを罵倒し始める。


「《天使》の奴らは、どうせオレらをいいように利用して、潰そうとしか考えてねぇんだろ!!」

「厄介者ばっかり送りやがって!!ここは牢屋じゃねぇぞ!!!」

「やっと前の《悪魔管轄係》を追い出したのに……なんなのよあんた!!」


 帰れ、帰れと怒号が飛び交う。

 普通ならば。普通の女子高生であれば、すぐに逃げただろう。腰を抜かして怯えても仕方がない。異常なほどに向けられる嫌悪。しかも周りにいるのは、治安の悪い者たちばかり。


「……えー」


 しかし彼女は、電車を間違えてしまった時程度の動揺しか見せなかった。腕を組み、壁にもたれて不貞腐れる。


「なにそれ、私は全然知らない事態だな。というか、うるさすぎるからちょっと黙って?」


「「…………」」


 自分達と目の前の少女の、あまりの温度差に、一同は固まる。

 シモンは腰に手を当て、苛立ちを込めてその場の全員を睨みつけた。


「教えてください。現状を」


〜〜


 この世界には、二つの組織がある。

 年齢、性別、地位…それらは問わず。

 【特別な能力】……【ギフト】を授かった者のみが所属し、警察組織、司法、時には行政にまでも携わる、エリート集団。この世の最大権威。


 それは、《天使》と《悪魔》


 かつてこの二つは、拮抗する二大勢力であった。

 互いに競い合い、時には反発し、時には協力し合う。

 すべては、ともに社会の秩序を正すため。


 しかし、《悪魔》はある時、私欲のために【ギフト】をふるった。

 神は見ていた。その邪悪なる行為を。

 私服を肥やし、社会への貢献など眼中から外した、その愚かさを。

 神は天罰を下した。

 《悪魔》はこれより、【ギフト】を持つ者が所属してはならない。代わりに、その者を蝕む【イルネス】をその身に宿した者が集う。


 それは、この世の地獄。

 社会にうとまれ、蔑まれ、唾を吐き捨てられる集まり。


 《天使》に属する者は、《悪魔》の暴挙を止められなかった罰として、《悪魔》を監視下に置くこととなった。


 すべては、正きを貫くために――――――――


〜〜


「……確かに《悪魔》は《天使》へ従属するとされているけれど、もっと尊重されていると思っていたわ」


「どの口が……!お前ら《天使》は……《悪魔管轄係》に任命された奴らは、厄介ごとを押し付け、無茶を強い、挙げ句の果てに見捨てていきやがった……!やっと、やっと追い出してやったってのに!」

「イルネスが発症した者を詰め込んで蓋をして……オレらを家畜以下のように扱いやがる!!」


「…………そうか」


 シモンは大人数の憤りを一手に受け、それでも理路整然と言葉を発する。


「『《悪魔》は罪人の集まり』……これは現在、揺るがない事実として定着している。でも、あなたたちは、自分達はただの『患者』であり、邪悪なるは《天使》だと主張するのか……わかった」


 シモンは顔を上げ、にこりと笑う。


「あなたたちの立場が改善されるよう、取り計らうと誓おう」


 齢十八の少女が、自信ありげに言ったところで、長年踏み付けにされてきた者たちが納得できるはずもなく。


「し、信用できるかよ!!ずっと、ずっとオレたちのことを、散々……!」

「信用してもらえない?」

「どうしても信用して欲しければ、今までの態度を詫び、《天使》を代表して、ど、土下座でもしてもらおうか」


 バンダナ男はひくついた笑みを浮かべ、シモンへ指を突きつける。

 だが、シモンは不機嫌極まりない声で告げた。


「私は今、かつて罪を犯した《悪魔》を、あなたたちとは切り離して考え、あなたたちを救おうとしている。それなのに、前管轄係とはなんの関係もない私に、かつての管轄係の罪を被れって?それは道理に合わないはずだが?」


 バンダナ男はビクリと肩を震わせ、俯く。

 彼女の声は、地底の奥から響くように重く。

 その主張は、針を刺すように筋が通っていたから。

 シモンはため息をつき、しかし愛おしげな瞳で、彼らを見つめた。


「名前を教えて」

「……え」

「あなたたちのこれからのことは、追々私が自分の目で見極めて判断する。とりあえず、名前を教えて」


 ――前管轄係は、ひどい奴だった。

 《悪魔》のメンバー150名を番号で呼び、イルネスの症状で苦しむ奴らを何人も見殺しにし、挙げ句の果てには強制的に仕事をさせ、奴隷扱い。

 だが。


「全員の名前を教えて頂戴。すぐに覚えるから」


 目の前の少女は、違うかもしれない。

 そう、皆の瞳に一筋の光が宿った、その時。


 ――――唐突に響く爆音。


「な、なんだ!?」

「げほっ、ごほっ」


 煙が立ち込める。奥の部屋から。


「……なにが起こった?」

「わ、わからない……だが、あっちの部屋は……」


 ゆらり。

 黒い影が、角から現れる。

 かろうじて人型を保ってはいるものの、黒い靄は狼の耳や牙、爪をかたどっている。影は前傾姿勢となって、両手を床につく。完全なる、バケモノ。

 それを見た瞬間、半数以上の者が腰を抜かして尻餅をついた。残りの者は戦慄しながら後ずさる。


 ――《悪魔》に属する者は、それぞれ周囲または自分へ危害を及ぼすイルネスをその身に宿している。イルネスの危険度に応じ、ランク付がなされ、それに応じて待遇も変わる。

 例えば、バンダナ男のイルネスはC級であり、彼は一週間に3回の外出許可を得られる。また、拘束もされない。

 しかし、奥の部屋は牢獄に等しく、そこにはAから上のランクのイルネスを持つ者が捕らえられている。

 イルネスはいつ発症するかわからない。ましてやA級以上のイルネスなど、暴発すれば何人死ぬかわからない。故に、拘束具をつけられ、厳重に監禁されている…はずだったのだが。

 今、その部屋は破壊され、黒いバケモノが放たれている。


「お、オーウェン……」


 バンダナ男は、現れた影に向かってその名前を呼ぶ。


「……ユル、サネェ…ユルサネェゾ………」


 黒い靄を纏った者……オーウェンは、金色の光を両眼に宿し、あたりを見渡す。

 それは、さしずめ獲物を探す餓狼のように。


「……オ、マエ……《天使》カ……!」


 そして、シモンの姿を見つけた途端、弾けるように距離を詰めた。シモンの首を掴み、壁に叩きつける。


「ユルサネェェェェエ!!!」

「……なにが許せない?」

「………《天使》はゼンイン、ブッコロス!!!」

「!……それは、却下」


 シモンは震える右手を握りしめ、オーウェンの黒靄からのぞく金色の光を見据える。


 周囲の者たちは、殺気がシモンへ集中したうちに、扉から外へ逃げ出していた。バンダナ男は扉を閉めようとするが、中にいるシモンに気付き声を上げた。


「おい無茶だ!!あいつはもう手遅れだ!!!」


「……へぇ。これがSS級のイルネス――【狂人化】。【発症者は黒い靄のようなものを纏い、鋭い爪と牙を持つ。己の欲望のまま、殺戮と暴走を続ける】……こんなふうに発症するのね。《天使》に異常な恨みがあって、私が来たことで感情の制御が我慢の限界を越えたのかな」


「なに冷静にしてんだよ!!さっさと逃げろ、死にテェのか!?」

「死にたくないよ。でも、見捨てるわけにはいかない。本人はもっと苦しいんでしょ?しかも【狂人化】は、己を殺すリスクを背負うらしいし……」


 シモンは、なんとかして症状を抑えられまいかと画策し、オーウェンの左手を掴んだ。黒い靄に触れると、刺すような痛みが走る、が、離さない。


「なぁ、えっと……オーウェンくんだっけ?………イルネスなんかに負けるなよ。制御できないの?」

「ルッセェェェェェ!!!」


 ガキュッッ


「あ…っ!」


 バンダナ男は思わず声を上げる。

 シモンの、右腕に……黒い牙が食い込んだ。

 飛び散る赤い鮮血。歪むシモンの顔。

 バンダナ男は反射的に非常用の銃を構え、オーウェンに照準を合わせる。


「ダメだ!!この子を殺すのは私が死んでからにしろ!!!」

「!?」


 だが、シモンはそれを許さない。

 トパーズの眼光は、黒狼の目に宿る金色の光と交錯し、燃える。


 _________【    】


「オーウェン!!!しっかりしろ!!!そのままだと死ぬのはお前の方だぞ!!!」

「ガァァァァ」

「っ、痛いなぁもう!!食い込ませんなっての!!!」


 黒い牙がシモンの腕を侵食していく。

 オーウェンの【狂人化】は止まらない。

 シモンは痛みへの怒りと、僅かに残った気力だけで叫んだ。


「……なぁ、苦しいのは自分だろ!!いい加減止まれよ!!お前を死なせたくないんだよ、わかれよ!!」


 ――――――ふと、黒い靄が停滞する。

 金色の光がぼやけ、揺れる。

 シュゥゥゥ……と音が鳴り、そして。


「………お、れ、………は」


 オーウェンの身体から、黒い靄が、消えていく。

 呆然と立ち尽くす彼は、シモンと同じ年頃の少年にみえた。

 金色の眼光は和らぎ、ついに消え去る。

 彼は、その黒い瞳から、ただ、きれいな涙を流していた。


 ドサッ


 意識を手放した彼は、シモンの方へもたれかかる。その身長は、彼女よりも頭一つ分高い。加えて彼女より重いため、シモンは壁とオーウェンに挟まれて動けなくなり、そのまま倒れ込む。


「よおおおぅっと……手伝って〜」


 バンダナ男の方を向いた彼女は、いつもの柔らかい雰囲気に戻っていた。

 シモンの腕からは、いまだ真っ赤な血が流れ続けている。カタカタと震える様子は、先程の戦士のような顔つきとはかけ離れ、彼女が十代の女子であることを思い出させる。


「は、早く手当をしねぇと……」

「私よりもこの子が先。イルネスの気配は収まったが、何が起こるかわからない。引き続き警戒を怠らないこと。寝台かなにかに寝かせてあげて。いいね?」

「は、…はい」


 シモンはバンダナ男の返事をきくと、辛うじて笑い、気を失った。


〜〜


「大丈夫だったか、嬢ちゃん」


 シモンが目を覚ますと、そこには三十人ほどが集まり、心配そうに彼女を囲んでいた。残りのメンバーは、まだ他の部屋へ避難しているらしい。


「……ああ、みんな無事?」

「お、お前の方こそ、その腕……」

「…うん。普通に痛い。あ、包帯巻いてくれたんだね、ありがとう」

「い、いや……別に、大したことじゃねぇよ」


 照れて目を逸らすバンダナ男の代わりに、ピアスを開けた女が問いかける。


「どうして、逃げなかったの?まさか、怖く、なかったとか?」

「……そりゃあ、ビビったし必死だったけど……あの子を助けられないようじゃ、私はここにおいて無能になってしまう。…と、思ってね」

「無能?」


「そう。だって《管轄係》なんでしょ?暴走しちゃった『患者さん』を止められずに、なにを整然と上司ヅラできるって?」


 この言葉が、決定打となった。

 皆の心に、傷だらけの少女の決意が本物であると刻まれる。


「…オーウェンの様子を見てくる。みんなも驚いたでしょう?部屋の修繕は後でやろう。今は休んでいて」

「お、おい。動かねぇほうが」

「大丈夫。ご心配どうも」


 シモンは痛みを我慢しながらも、困ったように笑い、左手で扉を開けて出て行った。


「……なぁ、お前ら」

「ああ」


 互いに顔を見合わせた彼らは、深く頷いた。


〜〜


 軽くノックをし、部屋に入る。

 白い寝台の上には、すっかり人間の姿へ戻ったオーウェンがいた。


「よかった……!生きてるね!」


 上半身を起こし、頭を押さえた彼は、おぼろげに視線を動かす。


「……誰だ、お前」

「あら、覚えてない?」


 シモンは性格の悪い顔をして、包帯を巻いた右腕を見せつける。

 オーウェンはしばらくその腕を見つめ、ハッと気づき、黙って俯く。


「ロバート・オーウェン。

 元『《天使》の超絶エリート』。期待されていたみたいだけど、二年前、狂人病患者と診断され、ずっと捕縛されていた……らしいね」

「……」

「まぁ、あんなところに二年も監禁されて、気が狂わないほうがおかしいと思うわよ、私は。それこそ《天使》を恨んで狂人にもなるって」


 シモンはケラケラと笑った。

 オーウェンはその様子をジト目で見つめる。


「……治療法は見つかっていないし、一度狂人化した者は死ぬまで暴れ回る。………と、されていたはずだが」

「だねぇ。さすがちゃんと勉強してるなぁ」

「なら、お前も知っているはずだろ」


 シモンは棚から取り出したグラスに水を注ぎながら言う。


「…………君がなぜ意識を取り戻し……さらにはこうしてちゃっかり生き残れたか」

「…俺はイルネスの中でも、未曾有のSS級…なぜ…」

「謎だよねぇ」

「…はぐらかすな。お前の【ギフト】に、何か仕掛けがあるんじゃないのか」

「それよりさ、あれから症状はどう?なにか変化あった?」


 シモンは飄々とかわし、逆に問いかける。

 オーウェンはため息をつき、言及を諦めた。


「……いつ再発するかもわからねぇ。こんな状態じゃ、どうせまた牢獄に逆戻りだな。それを告げに来たんじゃないのか?」

「逆だよ。あなたはもう牢獄には行かない」


 オーウェンは疑問符を浮かべる。シモンは真剣な目で、オーウェンの心臓を指さす。


「そのイルネスをコントロール下に置け」

「……は?」


 思わず聞き返す。


「あなたならできるはずよ。優秀なんでしょう?」

「……それは」

「いざとなったら、また私が止めてやるさ。今度は怪我ナシでね」


 シモンは余裕そうに笑うが、オーウェンは不信感を拭えない。


「何のために、そんな」

「私は《悪魔》を、危険人物の集まりで終わらせる気は毛頭ない。ただでさえ最近、《天使》も忙しいんだ。足手まといの末端組織なんか要らないんだよ。《悪魔》には、そうだな……《天使》のために働く、【有能な特殊部隊】にでもなってもらいたいね」

「……そのために、まずは俺にイルネスを制御しろと?まさかあの症状を、【能力】として活用する気か?もう一度いうが、SS級だぞ?意識も乗っ取られるし、発症条件も時期も、強さも未定だ」

「だからこそさ。【狂人化】なんていうバケモノじみた症状をあなたがコントロールできれば、他のメンバーも、自分のイルネスを制御できるかもって思うだろ?」


 シモンはグラスを回しながら窓の外へ視線を移す。


「……どういうつもりだよ。管轄係なんて、《天使》の中でも最悪の仕事なんだろ。ひでぇ扱い受けるとか聞くけどな。そんなにガンバっても、地位の向上にも収益の向上にもなりゃしねぇだろ」

「配属されたからには、仕事を全うしたいからよ」


 どこまでもあっけらかんと、止まらない雪崩のようにシモンの言葉は落ちていく。


「……ハァ。あのとき素直に殺してくれりゃ、苦労もなかったんだが」


 オーウェンはグラスの光の反射を目に映しながら、今後の苦労を憂いて愚痴を溢す。どうやら目の前の少女……上司は、自分の意見を変える気など無いようだ。


「それは嘘だろ」

「は?」

「それならどうして、二年前に死んでおかなかったんだ?」

「…………」

「イルネス持ちだと判定されたら、即処刑か投獄か、くらいは選べたはずだろう。それでも死ななかったってことは」


 シモンはグラスを置き、オーウェンの近くに滑らせる。


「『生きたかったから』……だよね」


 オーウェンは目を見開き、視線を落としてグラスの中の水を見つめる。


「_________わかった。降参だ。『命の恩人』に、せいぜい従ってやるよ」


 水面が静まるのと同時に、オーウェンは両手を上げ、初めてシモンの目を見て言葉を吐いた。


「そっか、ありがとう!」

「……礼なんか、言うな」

「え?」

「…傷つけたのは、俺だろ」


 シモンは目をパチクリとさせ、俯いたオーウェンを覗き込む。


「………びっくり」

「は?」

「なぁんだ。ちゃんと謝れるじゃん」


 窓の外で、一羽の鳥が飛び立つ。


「頼りにしてるよ、狂っていない『強人(きょうじん)』くん」

「……!」


 オーウェンはグラスを持ち、グイと一気飲みをした。


〜〜


「お疲れ様です、シモン様」

「……へ?」


 オーウェンと共に部屋を出たシモンを待ち受けていたのは、《悪魔》のメンバー全員が膝をつく光景。


「ど、どうしたのよいきなり」


「嬢ちゃん。あんたの度胸には感服した、ました」

「ガキだと思っててすまねぇ……です」

「守ってくれてありがとうございます」


 集まった150人のうち、最前列の3人が次々に礼を言う。シモンは鳩が豆鉄砲を食ったように固まっていたが、堪えきれず吹き出す。


「……あっはは!慣れないなら、敬語とか使わなくていいよ」


「そ、そうか?じゃあ遠慮なく……」

「バカ!みんなで決めたでしょ!」

「そうだぜ、ちゃんと敬語使おうって!」


 オーウェンはシモンの斜め後ろに控えていたが……二年前の記憶の中の、統率など取れない彼らを知っていたからか、シモン以上に驚いていた。


「……私が管轄係でも、いいかしら?」

「「はっ!!」」


 シモンの問いに、応える《悪魔》。

 世にのけ者にされ、《天使》を憎み、自暴自棄となっていた150名が、一人の《天使》へ頭を下げ、揃って返事をする光景。

 それは、とある伝説の始まりだった。


「よし!みんなよろしくね。って、名前まだ教えてもらってない。はやく教えてよ」


「あ、そうだったな!」

「私はアンナよ!」

「オレはリチャードだ、です!」

「おれはガンメット、です!」

「フィラ!」


 広い部屋が、まるでひとつの家に見えた。

 この錆びた地下に、笑顔が敷き詰められる。


「……はは、この女、ヤベェな」


 オーウェンは、先ほどとは違う種類のため息をつき、シモンの背中へ一礼した。


〜CASE TWO「金属鬼」〜


〜〜


「なぁ、アンタはなんで管轄係になったんだ?ある程度経験積んだ後に、仕事でヘマやらかした誰かが押しつけられるんだろ?」


 狂人化事件から、数日経ったある日の昼下がり。オーウェンはシモンへ問う。


「私はヘマなんてしていないよ。……実際ヘマはしてないんだけど、情報操作?的なやつで追い落とされちゃってさ」

「……アンタは、それでも《天使》を恨まないのか。あいつらは随分と手のひら返しがお得意だろ」


 オーウェンは、シモンのことは認めていても、《天使》を恨む気持ちは捨てていなかった。二年前の、黒い記憶がよみがえる。昨日まで交流を持ち、笑い合ったすべての者が、自分へ敵意と侮蔑を注ぐ……それは、18歳の少年の心を抉るのに容易い光景だった。

 彼の場合、狂人化が脅威であり、監禁が妥当な処置であることは理解している。しかし、二年間に及ぶ孤独の中で、彼は何かを恨まなければ人格を保つことができなかった。

 シモンはオーウェンの心情を察しながらも、悲しむような戯けるような顔で言葉を紡ぐ。


「…………だって、《天使》には、私の大好きな人たちがいるもの。偽の情報つかまされて、殆どの人は私のことを嫌っているけれど……簡単には捨てられないさ。それに、何人かはまだ、私のことを好きでいてくれているし」

「……そうか」

 

 切ない雰囲気の中、二人は視線を正面に写す。


「……っていうか……なんだよこれ!!!」


 なんだよこれ、なんだよこれ、なんだよこれ……

 シモンの声、響くエコー。絶望の反響。


「事務処理も上への報告も、なんも機能してないじゃん!!!もはや組織ですらないのかよ《悪魔》!?」

「今気づいたのか?」

「薄々勘づいてはいたけど!?」


 半ギレ状態のシモンは机をバンバンと叩きながらわめく。オーウェンも、目の前の惨状……雑に散乱し、埃を被った書類たちを見つめる。


「あー、もうやるしかないな!優秀なオーウェンくん、手伝ってよ?」

「へいへい」


 二人して禿げた椅子に座り、怒涛のスピードで書類を整理し始める。入れ替わりで何人かが他の部屋から書類を届けにやってくる。郵便物、請求書、指令等等……

 手元で仕事を進めながらも、シモンは並行して何やらブツブツと呟く。


「……みんなのイルネスを把握して、四…いや、五の部隊に分けようか。150人だし、30人単位が丁度いいよね…………オーウェン、A級以上の子って、ほかに何人いるかわかる?」

「俺を入れて今は二人、のハズだ。そもそもイルネスでさえ珍しいんだ。A級以上なんて早々いねぇし、出たとしてもだいたいは自ら死を選ぶ。社会的にも精神的にも、終わったも同然だからな。つーか発症したらたいてい身体的にも死ぬし」

「……そっか。よかったよ、オーウェンが生きていてくれて」

「!……そうかよ。まぁ、俺もお前がいなきゃ、あの時死んでたけどな……」


 オーウェンは力任せに印鑑を押し、視線を逸らす。

 ちなみに、シモンは鬼の形相で処理を続けているため、オーウェンの珍しいデレに気付いていない。


「そういえば、オーウェンって《天使》内でどんな役職だった?」

「……アルカンジェリだ」


 《天使》内部の階級は、以下の通り。

 まず、いわゆるヒラ天使――【アンジェリ】300名。

 それらを10の部隊に分け指揮する【アルカンジェリ】20名。

 さらにアルカンジェリの上に位置する、四大幹部――上から【ドミナツォーニ】1名、【ヴィルトゥーディ】1名、【ポデスターディ】1名、【プリンチパーティ】1名。ただし四大幹部の入れ替わりは激しく、時には空席となる。

 そして……四大幹部の上に位置する、三大天使と呼ばれる役職。

 事実上のNo.3【トローニ】1名――No.2【ケルビィ】1名――No.1【セラフィ】1名。


「へぇ、アルカンジェリね。ヒラ天使じゃないんだ。さすがエリート」

「おちょくってんのか。……あと3日で、幹部に昇進するはずだったんだがな」

「……そっか。でも、とっくに【ヴィルトゥーディ】あたりにでもなってるのかと思ったよ。意外と遅いのね〜」

「あ?……そういうお前は元々なんの役職だったんだ?そんなふうにバカにするってことは、アルカンジェリより上なんだろうな?」

「………聞きたい?」

「……勿体ぶってねぇで教えろよ」

「うーん、どうしよっかな〜」


 シモンは可動式の椅子の上でクルクルと回る。しかしちゃんと書類に目を通しながら。


「はぁ?まさか、四大幹部だったのか?」

「…………出世って、意外とトントン拍子に行くよね。最初の方はすんごく苦労したけどさ…」

「人生何周目だよ」

「正真正銘、一周目ですよ〜。じゃなきゃこんなに生意気じゃないでしょ」

「自覚はあるのか」

「まぁね。それが楽しいんだよ」

「せめて年上には敬語使えよ」

「それほとんど全員にって意味?嫌だよ、《天使》も《悪魔》も、実力至上主義でしょう。年功序列なんて無いよ」


 シモンは軽く笑って受け流す。


「あ、そうだ。だいたいのことは私が手配できるけど……ねぇフィラ。誰かコンピュータに精通してる人、いない?手伝って欲しいの」


 新たに書類の山を届けにきた四十代の女性、フィラは立ち止まり思案する。


「あー、それは一人だけ心当たりが……」


〜〜


「ルイ、ブラン?」

「はい。確か、事務処理やコンピュータに長けていたかと」

「へぇ!そりゃ今の《悪魔》にとって救世主だね。で、どこの部屋にいるの?」

「あー、それがですね……奥の部屋にいるのですが、ずっと出て来ず、誰とも接触していないんです。話しかけても答えませんし、食事だけこっそり夜中に取りに来るようで……」

「……引きこもりじゃん」


 シモンは呆れた顔をする。

 オーウェンも同じような反応だ。


「あいつまだ引きこもってたのかよ」

「あれ、オーウェンの知り合い?」

「二年前、監禁される直前に、カップラーメン持って部屋から顔出す姿だけ見た」

「本当の引きこもりかよ……ん?奥の部屋ってことはまさか……」

「ああ………もう一人のA級以上のイルネス持ちだ」

「オーウェンと同じSS級だったり?」

「ちげぇよ。まぁS級だけどな」

「うへぇ〜怖いね〜」


 全く怖そうにしていないシモンは、元気よく扉をノックする。オーウェンはシモンの反応に対し、懲りないな、とため息をつく。


「おおーい、出てきてくれよブランくん!頼みたいことがあるんだよー!」


 すると、何やら部屋の中で物が崩れ落ちる音と誰かが転ぶような音が聞こえ、一分後に扉の隙間から、紙が落ちてくる。


『帰れ』


「「…………」」

「うん、カチンときた」


 オーウェンとフィラは無表情になり、シモンはひくついた笑顔になる。


「なぁにがブランだよ!どこぞの食物繊維たっぷりのパンですか!?お外がそんなに怖いんですか〜??あんた私より年上なんでしょ!!ちょっとは仕事しなさいよ!!」


 シモンは扉をガンガン蹴りながら容赦なく罵倒語彙を並べる。


「うわぁ」

「あいつ相当キレてるな」


 だが、何も反応はない。


「…………なるほど。こりゃ頑固だね。でも、こんなところで引き下がる私じゃないわ。ねぇ聞いてる!?私、管轄係になったの!もう監禁されてなくてもいいんだよ!」


 シモンの辞書には、諦めという文字も遠慮という文字も無い。


「ほ、放っておいてくれよ!オレは『自分から』外に出ないだけだ!」


 ついに反応したブランの声が聞こえる。シモンは、オーウェンの方を振り返る。


「自分から、って言ったけど?」

「……そういうやつなんだろ」

「…………ふーん」


  シモンは手元の資料に目を落とす。


「ルイ・ブラン。

 イルネス【磁石化】……【周りの金属を引きつけ、時には自身をも貫いてしまう。1メートル先のフォークが自分に突き刺さる等等の事故もアリ】……たしかに強力な分、自分が傷つくのが怖いんだろうけど。ねぇ、あなただって、引きこもりたくて引きこもってるんじゃないってことでしょう?」

「か、帰れって言ってるだろ!」

「却下。お節介だの迷惑だのなんとでもおっしゃい。私は首を突っ込むのが好きなの!」

「度が過ぎてるけどな」

「お黙りオーウェン」


 ゆっくりと瞬きをしたオーウェンは扉の前に立ち、静かに語りかける。


「おい、ブラン」

「…………」

「この女は、この扉を壊してでもお前を引き摺り出すぞ。そうなる前になんか言っとけ」

「……なんで、お前が外に出てるんだよ。狂人のくせに……」

「こいつに引っ張り出されたんだよ」


 オーウェンはズビシ、とシモンを指さす。


「正しくは、自分で部屋ぶっ壊した後、私に助けられた、でしょ?全く、狂人化の威力ったら、拘束具全部破散してたもんなぁ……」


 シモンはやれやれと首を振って肩を上げ下げするが、ブランは驚愕する。


「助け、られた……?お前、発症したのに死ななかったの?」

「この女、俺のイルネスを鎮めやがったんだ。なんの芸当かは、知らないけどな」

「……」


 室内で黙りこくるブラン。


「ねぇ、ブラン。【磁石化】について、詳しく教えてくれない?もしかしたら、金属を引きつけないようにできるかもよ?」

「そんなこと、できるわけ……」

「できるわよ。事実、オーウェンは狂人化を制御できるようになってきてるんだから」


 シモンはここぞとばかりにドヤる。扉越しにも、どうだという主張が伝わる程度には。


「誰かさんの無茶振りのおかげでな。発症しても、ギリギリ意識保てるようにはなったってだけだ。いつ発症するかは自分でもまだ予測できてねぇよ」

「それでもさ、SS級のイルネス持っててもピンピンしているんだから、ブランだってやればできるって!金属寄らないようにとか、スピード遅くするとか、逆に操って技とか作っちゃってさ!」

「お前は何に興奮してんだよ」

「だって漫画みたいじゃん!金属使いとか最高!カッコいい!……あれ、ちょっと待って。金属引きつけるのが怖くて引きこもってるなら、今、金属ナシで生活してるの?不便じゃない?おーい、ブランくーん」


 ブランは拳を握りしめ、扉を睨みつける。


「……なんなんだよ、お前ら」

「シモンとオーウェンです〜」

「元《天使》はこれだから……《悪魔》が外でどんな扱いを受けるか知らないから、そんな悠長なこと言ってられるんだろ……」

「……」

「オレはオーウェンが来る何年も前からここにいるんだ。今更外に出ろって?ふざけるなよ!!拘束具をつけてきたのはお前ら《天使》じゃないか!!!」


 ブランは扉を殴り、脱力して座り込む。

 シモンは扉の向こう側の悲痛な叫びを聞き、思わず俯く。


「………それはすまん!!!」

「……はっ?」


 しかし、一瞬で顔を上げる。腰に手を当て仁王立ち。


「ごめん!はい謝った、終わり!ってわけでさーんにーいーち」

「えっちょっ」

「はいドーン!」


 シモンの合図で、オーウェンが扉を蹴り飛ばす。


「エエエエエエエエエエ」

「な、言ったろ?」

「言ったろ?じゃないよ!?なんなのあの人!っていうか素直に従ってるお前もお前だよ!おかしいって」

「別におかしくねぇよ。行動の自由が保障されるんだぞ?前より生きやすい」

「そ、それは」

「つべこべ言ってても、どんどんあの女のペースに呑まれるだけだ。ある程度諦めろ。俺もそうした」

「なに納得しちゃってんの!?」


 シモンはツカツカと歩み寄り、手をブラブラと振る。


「大丈夫だよ。金属類なにも身につけてないから。お気に入りのブローチさえ外したんだよ、感謝して?」

「ありがとうございます!?……って、あれ!?」

「はい、どういたしまして。……へぇ、すごい。鉛筆と紙と…家具もほとんど木製だし…本当に極力金属使ってないのね〜。さすがに家電はあるか。あ、コンピュータもある」


 シモンはどこからか鍵を取り出し、ブランを拘束する特別製(非金属)の首輪を外す。


「……ねぇブラン、あなた二十歳くらい?」

「…………え、あ、そ、そうだけど」

「じゃあオーウェンと同い年だね。二人とも仲良くしなよ。S級とSS級なんて最高じゃん」

「なにが最高じゃん??」

「あー、言葉の響き的な?」

「内容地獄だけどね!?」

「《悪魔》だけに?うまいね〜」

「えっ、は!?」


 ケタケタ笑うシモン。もはやため息すらつかないオーウェン。ひたすら戸惑うブラン。廊下から黙って見守るフィラ。


「よし、ブランくん」

「は、はい」

「徐々に金属に慣れようよ。その方が楽しいって」

「た、楽しいとかそういう問題じゃ……」

「痛いのが嫌なのは当然だけど……いざとなったら抱きついてでも私が代わりにぶっ刺さってやるよ」

「えぇ??こ、怖くないわけ?」

「狂人の牙に腕えぐられかけたからね。そんなもん怖くもなんとも無い……ってのはまぁ嘘だけど。怖くないんじゃなくて、『怖がるわけにはいかない』のよ、私の場合」


 ブランは視線を逸らすが、後ろに控えるオーウェンを見ても、フィラを見ても、もう諦めろといったふうに首を振っているだけ。


「……あーもうわかったよ!やればいいんでしょやれば!!」

「ありがとう!んじゃとりあえずこのリストをデータ化してくれる?」

「はいはい!って、ちょ、ちょっと!?」


 シモンはブランの手を取り、執務室(仮)へ連行。

 長らく……というか、人生で初めて母親以外の女性と手を繋いだブランはボシュンと赤面する。


「……まったく。あいつの強引さは天才級だな」

「そうですねぇ」


 オーウェンとフィラは顔を見合わせ、クスクスと笑った。

 

〜三大天使〜


〜〜〜


「いやぁ、監視までやってもらっちゃって悪いね、ブランくん!」

「それ全然悪いと思ってないやつでしょ」

「バレた?」

「はぁ……まぁいいけどさ。最新鋭のコンピュータとか買ってもらっちゃったし」

「いいのいいの。私、貯金はそこそこあるのよ」


 扉蹴破り事件後、シモンはオーウェン、ブランとともに《悪魔》の再組織化へ努めていた。

 部隊編成と役割分担、イルネス制御訓練など、課題は山積みであったが、シモンは持ち前のカリスマ性と頭の回転で皆の協力を集め、乗り切っている。

 初めはビクつき嫌がっていたブランも徐々に馴染み、今やシモンの左腕と化している。


「あ……お客だよ、ボス」

「ん?」


 シモンはブランが指さすモニターを覗き込む。《悪魔》への入り口付近に、誰かが立っていた。


「……あ!」


 シモンはモニターに映る人影を見つけると、雪遊びへ行く子供のように瞳を輝かせる。

 しかし何かを律し、咳払いをしてから部屋を出て行く。それを不思議そうに見送るオーウェンとブラン。

 シモンは入り口の扉を開け、訪問者の前に立ち、恭しく礼をする。


「こんにちは……【ケルビィ】のフィデル・カストロ様。このような地下まで何の御用でしょうか」


 白髪を束ねた、一見男にも見える長身の女性。年は二十代後半ほど。

 彼女はシモンの姿を目に写すと、一瞬表情を和らげる。しかしすぐに無に近い表情へ。


「……やはり慣れませんね。あなたがその調子では、話し合えるものも話し合えないでしょう。以前のように話してください」

「……そう。では遠慮なく」


 シモンは下げていた頭を上げ、満面の笑みで女性……カストロに飛びついた。


「ひさしぶり、カロちゃん!元気にしてた?」

「……その呼び方、いい加減やめてくれません?」

「却下!」


 カストロはシモンを抱きとめ、困りながらも無意識に顔を綻ばせた。

 シモンはカストロの背中をポンポン叩くと、ニ歩退いて見上げ、視線を合わせる。


「で、本当に何の用?『《天使》のNo.2』が《悪魔》を訪問だなんて……バレたら厄介だよ?」

「おや。僕は『個人的に』友人へ会いにきただけですが、何か?」

「……ふふ。かわすのが上手くなったね」

「誰の影響でしょうか」

「私だね」


 カストロは咳払いをし、表情を引き締め、シモンの前へ歩み寄る。


「どうしても、あなたに直接伝えたいことがありまして。……わかったんですよ、『黒幕』が」

「…!」

「あの日………あなたを不当に貶めた、万死に値する水虫野郎がね。……この続きは、別室で話しましょう」

「……わかった」


〜〜モニター室内 大混乱


「け、ケルビィ……!?」

「そんな偉い奴が、なんでこんなところに!?しかもシモン、タメ口で……!!後で罰せられるだろ絶対!!何やってんの!!」

「……どう思う、ブラン」

「……あの感じ、旧友って言葉が似合うけど……」


 動揺を隠しきれない二人。

 オーウェンは、以前シモンと交わした会話を思い返す。


『はぁ?まさか、四大幹部だったのか?』

『…………出世って、意外とトントン拍子に行くよね。最初の方はすんごく苦労したけどさ…』


「なぁオーウェン。もしかしてシモンって、相当上の役職だったんじゃないの?まさか四大幹部以上?」

「…………かもな」


〜〜別室にて


「好きなところへどうぞ。掃除が終わってなくてごめんね」

「いえ、お構いなく。それにしても、あなたには似合いませんね、こんな場所」

「こんな、とか言わないでよ。慣れればいいところよ?私、年季が入ったもの好きだし」

「あぁ……そういえば、そうでしたね」


 シモンはポットにお湯を注ぎ、慣れた動作で紅茶を淹れる。向かいのソファへ座ったカストロは、その様子を見つめ、目を細めた。


「はい、お待たせ。クッキーいる?」

「僕はあまり甘いものは……」

「と思って、塩味のクッキーにしました。これがなかなかいけるの。ちなみに、私の手作り」

「……いただきます」


 カストロは手を伸ばし、一つ口に放り込む。

 食べている間も鉄の無表情を崩さず、何も言わないが、すぐに二つ目を手に取る。

 シモンは微笑ましくその様子を見ていた。


 三つ目を食べ終わり紅茶を啜ったカストロは、シモンの目を見て姿勢を正す。


「単刀直入に言いましょう。戻ってきてください、シモン。もう一度、【セラフィ】としてあなたの力を借りたい」


 《天使》内部に存在する、三大天使と称されるトップ3。特に近年の3名は、伝説の世代と称されていた。

 No.3【トローニ】――アジェンデ・ゴッセン。

 No.2【ケルビィ】――フィデル・カストロ。

 そしてNo.1【セラフィ】――――――――サン・シモン。


 そう。シモンは、元―――【セラフィ】である。


〜〜再びモニター室 大大大混乱


「…………おい、ブラン」

「…………………………うん」

「…………あいつ……」

「…………………………………………うん」

「とんでも、ねぇな……」

「………………………………………………うん」


 モニターを眺め、失神寸前のオーウェンとブラン。


「うそだろ……」

「でも、あのケルビィのひと、マジだったよ……」

「……あい、つ……《天使》の、元、No.1かよ……」

「それこそ、一番権力あると言っても過言じゃない、よね…………」

「………………信じらんねぇ」

「…………オレも」


 しばらく絶句した後、オーウェンはふと考える。


 【セラフィ】が《悪魔管轄係》へ堕とされるなんて、一体……


〜〜別室にて


「僕が掴んだ情報を辿れば、あなたを不当に追い落とした黒幕を吊ることができます」

「……」


 しばらく沈黙した後、シモンは口を開く。


「……ねぇ、カストロ。どうして、アジェンデと一緒に来なかったの?」


 カストロは無表情を崩し、僅かに眉をひそめる。


「…彼女とは、予定が合わず」

「嘘だね。三大天使への勧誘は、必ず他二人同席のもとっていう決まりでしょう」

「……」

「…断られたんだね。ってことはつまり、『合理的じゃない』と判断されちゃったわけだ。アジェンデは『合理的』を具現化したひとだもの」

「……」

「そりゃそうよ。こんな短期間に上が入れ替わったら下が混乱するし、なにより信頼に欠ける。《天使》自体が崩れる可能性だってある」

「しかし」

「実は証拠不十分なんでしょう?」

「……」

「アジェンデと同じくいつも合理的なカロちゃんが感情に流されるなんて、珍しいな。自惚れ覚悟で言うけど……私のことだから?」


 シモンはニヤリと猫のように笑い、カストロはますます表情を険しくする。


「わかっていて言うなんて、性格悪いですよ」

「カロちゃんには負けるよ」

「…あなたこそ、御託を並べるなんて『らしく』ない」

「…」

「僕の知る『サン・シモン』は、自分が受けた屈辱は少なくとも五倍で返す女です」

「ほう、そりゃ結構」

「はぐらかすのはやめましょう。何故ですか」


 シモンはソファに深く座り、天井を見上げた。


「…気に入っちゃったんだよね」

「は?」

「《悪魔》のみんなのこと。好きになっちゃったの。もう、放って置けない。だから、私はここで働くよ。情報操作の黒幕だって、有能なことには変わりないんでしょう?精々《天使》のために使ってあげなよ」

「……笑えない冗談は」

「本気だよ」


 シモンはカストロの目を真っ直ぐ見つめる。


「………」

「……」


 両者の沈黙は、青い炎さえも凍らせるほどに冷たい。そして、長かった。


「………………そうですか」

「……」


 沈黙を破ったのは、カストロの方だった。

 彼女は席を立ち、シモンを冷ややかに見下ろす。


「失望しました」

「……」


 シモンは表情をグニャリと歪め、俯き、しかしすぐに顔を上げてカストロの背中を見る。


「……」


 もう振り返らないカストロへ向けて、静かに手を振り、がちゃんと扉の閉まった音を聞いた。


「……うん、ごめんね。カロちゃん」


 消え入るような声で、そう呟いて。


〜〜モニター室


「……あいつ、なんで……」

「お人好しがすぎるっていうか……何考えてんだか……」


 それに、ケルビィとの、あの会話……


「……俺とお前が外へ出られなかった時期、一体何が起こったんだろうな」

「……うん」


 それは、彼らの運命を左右する大きな革命の前兆であったと、この時は……誰も知らなかった。


〜CASE ZERO「超音波姫」〜


〜〜


「おい」

「ん?」


 シモンがモニター室の扉を開けると、彼女を般若の形相で睨みつける男二人がいた。


「どういうことだよ」

「……なにが?」

「なにがじゃねぇ」

「……あー、音声切っとけばよかったなー」

「おい」

「……やっぱり、聞いてた?」


「「セラフィってなんだよ!!!!」」


 シモンは思わず耳を塞ぐ。二人の驚愕に満ちた大声は、モニター室内に反響する。シモンは、やはり防音にしておいてよかったと思った。


「《天使》のNo.1様でしょ!?」

「元ね」

「元だとしても言えよ!!」

「いやぁ、なんか勿体ぶっといた方がのちのちこう……かっこよく名乗れるかなって」

「ふざけんな!!!なぁにが『出世ってトントン拍子に行くよね〜』だよ!!!」

「あはは、二人ともいい反応するよね〜」

「「笑い事じゃない!!!」」


 二人はその後も息が切れるまで言葉をぶつけ続け、ついに疲れきって椅子に座った。


「……なんであいつの誘いを断ったんだよ」

「ん?」

「セラフィに、戻れるかもしれないんだろ?」

「……二人とも、全部聞いていたんでしょう?なら、それ以上言うことなんて無いわよ。他にも事情はまぁいろいろあるけど……『私は《悪魔》を放って置けない』。以上」


 シモンは満足そうに言うが、二人は納得しかねている。無理もない。ケーキを食べるか泥水を飲むか聞かれて、喜んで泥水を飲むようなものだ。


「……つかお前、セラフィのくせに、よく《悪魔》の症状について知ってたな」

「ほんとだよ……もうわけわかんない」


 それを聞いたシモンは、少し表情に影を落とし、二人の向かいの席へ座った。


「じゃあ、少し昔話をしてもいいかな。って言っても、わりと最近か」

「……?」

「ある女の子が……まぁ私より4歳年上だったけど……その子が、S級イルネス【超音波】――【発症した場合、半径20メートル以内にいる者の鼓膜が破れ、最悪死に至る】――に罹ったって話、知ってる?」


 二人は首を横に振る。


「だよね。……私がセラフィになりたての頃、その子の処置について議題が上がってね。……その時に、けっこう調べたんだよ」


〜〜1年半前


「待ってよアジェンデ!!!まだ策はあるはず」

「無い」

「そんなのわからないでしょう!?」


 《天使》本部、最上階の執務室の椅子に座る女性……【トローニ】――アジェンデ・ゴッセン。側に立つ【ケルビィ】――フィデル・カストロ。

 そして二人に抗議する【セラフィ】――サン・シモン。


「………シモン」

「!」

「僕も、今回ばかりはあなたに賛成することはできません」

「…カロちゃんまで………ッッ」


 アジェンデはシモンを見据え、容赦など知らぬ声で告げる。


「いくらセラフィとはいえ、私情で事を動かすことは許可されない」

「それは……わかっているけれど、でも」

「この話は終わりだ。【超音波】を持つ者は、明日死刑とする。ただでさえ《悪魔》など、なんの役にも立たない荷物。我々の時間を割くに値しない」

「……ッ」


 シモンは扉を開けて部屋の外へ飛び出す。行き先は容易に予想できた。


「いいんですか、追わなくて」

「あれは止まらん。今日の分の仕事は終えているようだ。追う必要もない」

「……そうですね」


 カストロは一抹の心配を宿して扉の方を見るが、すぐに仕事へ戻った。


〜〜


 《天使》内の一角にて。

 シモンは【超音波】を持つシャルロッテ・フーリエと、最後の面会をしていた。


「あの…シモンさん。離れてください。こんな病気になってしまった私のもとに来てくれるのは、とても嬉しいです。でも、だからこそあなたを、……こ、ころしてしまうかもしれないんですから……」

「…………」

 

 シモンは言葉を選ぶように思案していたが、やがて覚悟を決めて言葉を発する。


「……フーリエ。あとひとつだけ、言っていなかった選択肢が、あるの」

「?」

「…………声帯を、きること」

「_________えっ」

「そうすれば……地下から出て、一般人と変わらない生活が……送れる」


 それは、奔走したシモンが文献から見つけ出した、唯一の方法であった。

 フーリエは唖然としたまま視線を落とし、呟く。


「……声が出ない、生活、ですか」

「ッッ」

「…………私は…構いません。誰かを傷つける声なんて、要りません」

「…ごめん、ごめんなさい…………ッッフーリエ…………!!」

「…あやまらないでくだ」

「あなたの声が好きなのよ!!!」


 シモンは堪えきれずに叫んだ。


「だいすきなんだ、きっと、たくさんいる、ぜったいいるんだよ、あなたの声で救われるひと……あなた自身、歌うことがだいすきでしょう?………声が命って言ってたでしょう!?……こんなの、ひどい仕打ちだ……だから……他に策がないかって……」

「…いいです」


 フーリエは涙を流し、首を振る。


「……」

「…聞きました。ほとんどの超音波病患者は、判定されてすぐに処刑されるって。シモンさんが執行人をなんとか説得してくれていたのも、知ってます」

「…………」

「死なずにすむなんて、夢みたいです。また家族に会える……それなら、私は喜んでこの喉を捨てます」

「……ッ」


[○○○○年 12/21

 【超音波病】 シャルロッテ・フーリエ――声帯切除。

 死刑―――執行中止。

 セラフィ サン・シモン――1週間の謹慎処分]


「……全く彼奴は……」

「…シモンらしいですね」


 アジェンデとカストロは、報告書類に目を通し、呆れながらため息をついた。


〜〜


「……思えばあの頃から、私は《悪魔》のことを、気にかけてはいたの。私自身は結局、この地下に足を踏み入れることはなかったけれどね」


 シモンは後悔を隠しきれない様子だった。

 彼女が見せる珍しい表情に、二人は硬直する。


「その、フーリエってひと……」

「……うん。別に、私と以前から接点があったわけじゃないけど……初めて歌を聴かせてもらったときの感動、今でも覚えてる。歌手を、目指してたんだって」

「……そうか」

「彼女のことをどこかで思い出していて……だからこそ、私は《悪魔》を見捨てられない……のかも、しれないね。……未練がましいかな」


 シモンはいつものように笑ったつもりかもしれないが、笑えてなどいなかった。

 セラフィという立場もあり、情報漏洩防止のため、フーリエとは会えていないらしい。


「フーリエ……元気にしていると、いいんだけどなぁ……」


 オーウェンとブランは、聞き出してはいけないことを言わせてしまったのではないかと、思った。


〜〜


 二人は地下から出て、近くの電気屋まで歩く。

 あの後、空回りしたように慌てたシモンから、お使いを頼まれたのだった。


『ご、ごめんね!こんなしんみりするつもりなかったんだけどさ!あ、あはは!』


 未だに外出に慣れない二人は、ぎこちなく並んで歩きながらも空を見上げ、シモンのことをおもう。


「……あいつも、色々あるんだな」

「オレたちより年下なのにね」

「……時々忘れるんだよな、それ」

「わかる」


 二人は年が同じということもあり、すっかり気を許す仲になっていた。

 ふと、ブランの肩が叩かれる。

 振り向くと、一人の女性が、ハンカチを差し出していた。


『落としましたよ』


 女性は手のひらサイズのメモ帳に書いた言葉を見せる。


「……え?」


 ブランはポケットを探り、ハンカチがないことに気づく。


「え、ああ、すみません。そうです」


『気をつけてね』


 女性はメモ帳をめくって速記し、またブランへ見せた。


「は、はい……ありがとう、ございます」


 高速でお辞儀を3回したブランは、オーウェンの方へ駆け寄る。


「おい、どうした?」

「いや……めっちゃ美人……」

「……お前すぐ詐欺に遭いそう」

「仕方ないだろ、対人免疫ついてないの!」


 オーウェンは去り際の女性へ視線を向けた。


「にしても珍しいな、メモ帳で会話か?なんでそんな、こ、と……」


 そこでオーウェンは何かに気付き、思わず去り際の女性の手を掴む。

 彼女は驚いてオーウェンの方を振り返り、ブランは、何してんの!?とビビる。


「……あの、すいません。もしかして……『フーリエ』さん、だったりします?」

「!」


 まさか、とブランも女性の方を向く。

 女性はまた、速記した。


『はい。そうですが、どこかでお会いしました?』


 オーウェンとブランは顔を見合わせる。


「「マジか……」」


〜〜


「おかえり〜、ちゃんと買ってきてくれ、た……?」


 シモンは二人を出迎え、しかしその隣にいる女性に気づいた途端、釘付けにされる。


「………………え?」


 持っていた本をバサリと落とし、硬直。


『お久しぶりです、シモンさん』


 フーリエは嬉しそうにメモ帳を見せる。


「……フー、リエ……」


 シモンは嬉しそうに笑うが、すぐに戸惑った表情になり、なんとか笑って、フーリエを客間に通す。


「……連れてきて、よかったよね?」

「思わず言っちまったけど……」


 オーウェンとブランは、見守りながらついていく。


『すごい!こんなに綺麗になってる……でも、どうしてセラフィ様が地下に?』

「あー、私ね。いろいろあって、悪魔管轄係になったの」

『本当!?』


 フーリエは一旦メモ帳をしまって、目を輝かせながらシモンの手を取り、上下に振る。


『以前までの管轄係はひどいひとだったから、嬉しい!シモンさんが、《悪魔》のみんなを救ってくれたのね。かつて私を助けてくれたみたいに』


「そんな……助けられてなんか、ないよ」


 シモンは弱々しい声で否定する。

 その様子をみたフーリエは、丁寧に筆を走らせ、シモンの目の前にかざす。


『手術の後、弟は号泣しながら抱きついてきて。両親も、友達も、生きていてくれてありがとうって言ってくれた。それに、私、速記の才能があるらしくて。今は記録事務の仕事でけっこう重宝されているの』


 「……!」


 もう一枚、メモ帳をめくる。


『ありがとう、シモンさん。私はちゃんと、幸せよ』


「……ッ、そっか……!」


 シモンは涙を滲ませ、やがて堪えきれずにボロボロと泣く。声を殺していたものの、その姿は年相応に見えた。

 フーリエはシモンを抱き寄せ、静かに背中をさすり、頭を撫でる。


 もう声が出ない彼女には、シモンの耳元でなにかを囁くことはできない。だが、それだけで……彼女たちには充分だった。


「……連れてきて正解だったな」

「そうだね」


 オーウェンとブランは、妹を見守るようにその光景を映していた。


〜CASE alpha「革命」〜


〜〜


 地下への階段を降ってきた女性は、《悪魔》入り口に取り付けられたボタンを押す。

 チリリリ。

 高らかに鳴る呼び鈴。

 トタトタと足音が聞こえ、ガチャリと扉が開いた。


「あ、フーリエさん…こ、こんにちは……」

『今日はバームクーヘン持ってきました』

「す、すみませんいつも……」

『いえいえ』


 出迎えたブランと、片手にお菓子箱を持ったフーリエは並んで執務室へ向かう。


「フーリエ!丁度いいところに……!この書類、書き写してくれない!?」

『わかった〜』

「おい、フーリエさんはもう《悪魔》じゃねぇんだから、こき使うなよ」

「わかってるけど!フーリエ仕事早いんだもん!オーウェン、あとデイブにアレ頼んで各部隊に通達、あっ103の部屋のエアコン切れてるんだよね?サディが言ってた……C級イルネス【結晶化】【縫合】の分析を頼んだのは……リリだ。第4部隊は余裕あるよね……ブラン!レインの依頼とキャシーのレポート添削は、私がやるから!あなたは第3部隊の方にコレ渡してきて!」


 シモンの様子を見たフーリエは、メモ帳に速記してオーウェンにみせる。


『忙しそうですね。いいんですよ、オーウェンくん。私がお役に立ちたいと申し出たので』

「……まぁ、ありがたいんだけどな…ブラン、コレだとよ」


 オーウェンは第3部隊へ渡す書類をクリップで止め、ブランに手渡す。


「うん、わかった……ねぇ、まさかシモンのやつ、もう《悪魔》全員の名前覚えたの?」

「一日で覚えたぞ、あいつ。それぞれのイルネスだけじゃなく、《悪魔》内の人間関係すら覚えてる。まぁ5部隊に分けるのに、相性いいやつを選ぶってのはわかるんだが……あの女、加えてメンバーの家族構成やら趣味やらも覚え始めてやがる……そのうち彼氏彼女の有無なんかも覚えたりしてな」

「冗談言わないでよ……」


 口角を上げながら、シモンの記憶力の底力を披露するオーウェン。なぜか彼が自慢げである。シモンの素質に驚きつつ、元セラフィということを思い出して納得するブラン。


 再会以来、フーリエは一週間に一回ほど、臨時職員として《悪魔》に訪れるようになっていた。


『バームクーヘン切り分けてきます』

「ありがとう」


 休憩に入り、フーリエは別室にあるキッチンへ向かった。

 シモン、オーウェン、ブランは待っている間テーブルを囲む。


「ところでさぁ」


 シモンはごく普通のトーンでブランに話しかける。


「ブランくんは、いつからフーリエのことが好きなのかしら?」

「ゴッホッッ」


 不意打ちをくらったブランは盛大に咳き込み、シモンが淹れたダージリンを吹き出す。

 オーウェンは静かにティッシュを手渡す。


「は、はぁ!?な、なんの話……」

「バレバレだわ!これ以上ないくらい初恋ムーブ撒き散らしちゃってるよ!?」


 シモンは前のめりになってブランに詰め寄る。

 オーウェンはいつも通りため息をつく……のではなく、なんとこの男、シモンの援護射撃を始めた。


「こいつ多分一目惚れなんじゃねぇ?ハンカチ拾ってもらったくらいで惚れんなよ」

「いいや!フーリエはめっちゃ美人だ!惚れてないオーウェンの方がおかしいんだ!」

「おいシモン、お前は興奮しすぎだちょっと落ち着け」

「これが興奮せずにいられるかね!?しばらく漫画読めてないの!これは身近な少女漫画なの!!少女ポジションがブランだけど!!」


「オーウェン、シモン、二人ともちょっと黙って!?」


 さながら修学旅行中に恋バナをする女子高生のごとき勢いで騒ぎ立てる3人。

 実は扉の前で聞いていたフーリエは、くす、と笑った。


〜〜


『では、私はこれで』


 フーリエは本日の勤務を終え、ペコリとお辞儀する。


「ブラン〜、一緒にフーリエ送っていこうよ〜」

「い、いやっ、今日は!いいかな!?遠慮しとく!」

「……ちっ、つまんない」

「舌打ち聞こえてるからね!?」


 なんとかフーリエとシモンを送り出し、へろへろになったブランは玄関を閉め、座り込む。オーウェンは彼の肩に手を置いた。


「よ、お疲れ様」

「いやお前も楽しんでただろ!?」

「……」

「なんか言えよ!!」


 誰かの影響ですっかり揶揄(からか)い&スルースキルを身につけたオーウェンは、小さく笑った。

 ブランはいまだに顔が赤い。


 チリリリ。

 呼び鈴が鳴る。


「なんだ、忘れ物か?」


 オーウェンは扉を開ける。そこには。


「こんちはぁ〜」


 見慣れない、金髪の少年が立っていた。


「………」


 少年の斜め後ろには、ボディーガードのようなガタイの銀髪の男が立っている。オーウェンとブランを、交互に射抜くように睨みつけた。


「……なんの用ですか?」


 ただならぬ雰囲気を感じ取ったオーウェンは、警戒心を強めながら問う。

 少年はわらった。


「きみらさぁ、《天使》を潰す気はなぁい?」


「「…………は?」」


〜〜


「ただいま戻りました〜って、あれ?」


 誰もいないはずの客間に、明かりがついていた。

 行ってみると、オーウェン、ブランの向かい側に、金髪の少年が座っている。そばには銀髪の男が仁王立ちしていた。

 金髪の少年は、そのブルーグレーの瞳でシモンを見つける。


「きみ、だれぇ?」

「……悪魔管轄係です」

「そっかぁ。戻ってくんの早いな〜。ま、いいけぇどぉ」


 シモンは見慣れない二人に疑問符を浮かべる。


「お名前は?」

「…さぁ?」

「《天使》の方ですか?役職は?」

「知らないねぇ」


 少年は、シモンの質問をことごとくかわす。


「……………もしかして……」


 だが、シモンは『いつものように』笑って言った。


「お前、新しい【セラフィ】か」


 静まりかえる室内。

 驚愕するオーウェンとブラン。シモンへ鋭利な視線を送り続ける銀髪の男。


「………う〜ん?なんできみみたいな下っ端が敬語使わずに喋ってるの?様付けしなきゃあ怒られちゃうよぉ?」


 金髪の少年は、あえて問いには答えない。


「あははっ!下っ端って………」


 その様子に、シモンは確証を得たようだ。

 彼女は『無表情』で笑い、金髪の少年の座る方へ近づき、膝の高さのテーブルに勢いよく足をかけた。ガチャン、とティーカップが揺れる。


「『元【セラフィ】』様に、随分な口の利き方じゃないか、坊ちゃん」


 それは、初めてシモンが見せた、本当の怒気であった。


「…はぁ〜あ、めんどくさいことになったなぁ」


 少年は仮面のような笑みをはずし、深いため息をつく。


「あのクソババアども、情報伏せやがって……《悪魔管轄係》が代わった、とは聞いてたけどさぁ」

「…おい。それ、カストロとアジェンデのことか?もしそうなら睨み殺したいんだが」

「ごめんねぇえ、撤回するよぉ。クソババアじゃなくてぇ、胸糞悪い古参ども♡」

「……ははっ!なるほど。こりゃ、あのカストロが私を呼び戻したいって愚痴こぼすだけあるなぁ」


 凄まじい圧の中、平然と会話を進める両者。

 オーウェンとブランは気圧されるばかりであったが、シモンのハンドサインに気付く。


「……対面では初めまして。私はシモン。【悪魔管轄係の一般天使】です。情報操作に顔と名前の一致は必要なかったのかな?よろしく、『プルードン』くん」

「……そこまで知ってるんだ。きみも大概、情報通だねぇ。隠した意味なかったじゃん。さすが元セラフィ様ァ、こんな臭い地下でみじめに働いちゃってお可哀想〜。そこの男二人もイルネス持ちなんでしょお?凡人ならまだしも、『害虫』がこのオレの視界に入らないでほしいよね〜」


 金髪の少年……プルードンは、生き生きとおちょくる。オーウェンはピクリと眉を動かすが、ブランが手で制する。そして、ブランはカラのティーカップを持って席を立ち、客間の奥へ下がる。


「……人は誰もが天才だ」


 シモンは普段とは異なる低い声色で話し始める。

 それは、セラフィであった故に身につけた威厳か、オーウェンたちをバカにされた故の激昂か。


「うん?」

「もし木を登る能力で魚を評価すれば、その魚は自分を馬鹿だと思い込んで生きて行くことになる。……これを言ったのは、アインシュタインだったかな」

「なんのはなしぃ?」

「あなたは他人に、『自分は馬鹿だ』と思わせるのが好きなタイプなのかもしれないね」

「論点が見えないんだけどぉ」

「あら、理解力無いのね。あなた結構バカなんじゃない?」


 シモンは鼻で笑う。プルードンはピク、と反応し、鋭い眼光でシモンを睨みつける。


「………テメェ」

「ダメでしょ。あなた16歳だから思春期かもしれないけど、そんな口の利き方しちゃあ、嫌われるぞ」


 言い返そうとしたプルードンは、何かに勘付きニヤリと笑う。


「ふふ。どれだけ時間稼ぎしても無駄だよぉ」

「!」

「きみの手口なんて読めてるからぁさ」

「…………さて、どうでしょう」


 ビィィ、ビィィィィ

 警報が鳴り響く。ブランがお茶を淹れるフリをして、戸棚の裏にある非常用ボタンを押したのだ。


 先程のシモンのハンドサインは、『こいつらは何か企んでいる。《天使》の上層部へ連絡したい』。


 オーウェンはテーブルをひっくり返し、プルードンたちの視界を遮る。

 その間に、シモンは非常用の電話に手をかける。


「_____バク」

「はい」


 しかし、プルードンにバクと呼ばれた銀髪の男は、一瞬で距離を詰めシモンの腹を殴り、彼女を気絶させる。受話器は虚しくシモンの手から擦り落ちた。


「シモン!!!!」


 咄嗟にオーウェンが反応するが、彼の背後に揺れる金髪。


「はぁい、きみは寝てて?」

「ぐっ」


 プルードンは、容赦なくスタンガンを押しつける。

 オーウェンの足はもつれ、その場に倒れ伏す。


「オーウェン!」


 奥から戻ってきたブランの叫び。

 オーウェンは意識の境、脱力するシモンが銀髪の男に俵担ぎにされるのを見た。


「『害虫』のお二人さん、ばいば〜い」


 プルードンは軽く手を振り、客間から出る。外から鍵を閉めたようだ。ブランが扉を開けようとするが、びくともしない。警報により他の部屋から何人かが向かってきたらしいが、銀髪男が彼らを蹴り飛ばす音が聞こえる。


「うそだろなんだよこれ……!」


 ブランはキョロキョロとあたりを見回し、垂れ下がった受話器を掴み、必死で番号を押す。


「……あっ、もしもし、こちら《悪魔》。は、はい。【ヴィルトゥーディ】様ですか。先程、【セラフィ】と思われる金髪の少年が、《悪魔》を訪問。《悪魔管轄係》を攫って逃走しました……はい、背丈は160cm程、空色の瞳で、銀髪の大男と一緒に……彼がもし本当に【セラフィ】なら、《天使》にとっても一大事のハズ。ご協力、願います」


 ブランは緊張しながらも通話を終え、深呼吸しながら受話器を戻した。


「……ブラン、お前……」

「…さっき、何もできなくて悪かった。オレも、人が怖いとか、言ってらんないよね」


 オーウェンは、びびりながらも初めてハキハキと話したブランの横顔を目に写し、驚きながらも薄く笑う。

 体に力を入れて立とうとするが、すぐに膝をついてしまう。ブランはそれに気付き、駆け寄って手を貸した。

 オーウェンは威嚇する虎のような目つきで、拳を床に振り下ろす。


「…あのヤロォ……ッッ」


〜〜某所にて


 ペットボトルから水が流れる。

 その水は、気絶したシモンの頭を濡らす。

 プルードンはカラのペットボトルを投げ捨て、爽やかな笑顔で話しかける。


「おっはよ〜。ねぇ、ちょっと喋らなぁい?」

「……いいよ」


 自分が椅子に座らされているものの、拘束はされていないことを確認したシモンは、腹をさすりながら答えた。髪から雫が下垂れ落ちる。プルードンのそばにはやはり、バクと呼ばれた銀髪男が控えている。


「へー。普通なら動揺して叫んだりするんだけどねぇ。ここはどこだ!?とかさぁ〜」

「私のことを普通だと思っているのかしら。心外だなぁ」


 シモンは辺りを見渡す。そこは、床も天井も壁も、すべてが白い小さな部屋だった。面白いなぁ、と呟いた彼女は、足を組みつつプルードンの方を向く。


「私もね。あなたとは話してみたかったんだ。だって、あなたが……」


 シモンは一旦言葉を切り、何かに駆られて震える声を発した。


「お前が、私を【セラフィ】から堕としたんだろ?」


 トパーズの眼光が揺れ、そして定まる。


「……怒ってる怒ってる〜恨んでる恨んでる〜」


 プルードンは嬉しそうに笑った。目の前の女の気迫に圧され、心の奥が震えているのを、隠すために。


「……ふふっ。べつに恨んでなんかないさ。ちょぉっと、怒ってはいるけど……むしろ感謝してる」

「……はぁあ〜?」

「私はあそこへ配属されたからこそ、面白い子たちに出会えた」

「……何言ってんのぉ?」

「わからなくていいよ……それより、あなたたちの目的は?」


 感情を律し、単刀直入に問いかける。

 プルードンは、少し思案した後に答えた。


「《天使》を潰すんだよぉ」


 どこまでも純粋な瞳で。


「……は?」

「《悪魔》は《天使》を恨んでるから、仲間の人数を増やすのにちょうどいいと思って、勧誘に行ったんだけどさぁ。まさか『サン・シモン』が悪魔管轄係になってたとはねぇ〜。計画外だった」

「はぁ……お前、私を潰してまで【セラフィ】になったんだろ?なのに……反逆(クーデター)か。ヒマだねぇ、羨ましいわ」

「へぇ〜?囚われの姫君なのにぃ、余裕ぶっこいてていいんだぁ〜?」

「姫君?そんなの性に合わないよ。それにね、そういうポジションは美形じゃないと務まらないのさ」

「きみブッサイクだもんねぇ」

「うるせー」

「あはは〜」


 プルードンはシモンの右腕につけられた腕輪を指さす。


「その腕輪さえつけてくれれば、行動は自由を保障するよぉ」

「………ふーん。探知機つきか。いざとなったらバクハツでもするのかな?」

「ふふふ〜」

「え、なにコワインデスケド」


 シモンの目の前に立ったプルードンは、わざとらしく首を傾げる。


「ねぇねぇ、きみの【ギフト】ってどんなやつぅ?」

「ん?」

「だってぇ、気になるじゃん。《天使》の奴らのギフトはだいたい調べ上げたけど〜きみのギフトだけ謎なんだもん。教えてよ」


 プルードンは、【セラフィ】のギフトだけは、機密事項に登録されているのだろうと予測していた。事実、セラフィは三大天使以外にギフトの内容を教えてはならない。


「私のギフトは、【意思疎通】」


 しかし、シモンは平然と答えた。


「……え、そんなすぐに言っちゃっていいの?」

「だって拷問とかヤダし。機密事項なんて知ったこっちゃないよ。私、今は【ヒラ天使】だし。それにあなた、今三大天使だし〜」


 プルードンは、シモンの、鼻歌でも歌うような調子に面食らうが、気を取り直して会話を続ける。


「つか、意思疎通ってなにそれぇ?聞いたことないんだけど、そんなギフト」

「そりゃそうさ。歴史上私だけだから」

「へぇ〜そっかぁ〜」


 ガンッッ


 プルードンは黒い笑みを貼り付けたまま、シモンが座る椅子を傾け、シモンの背後の壁に付ける。


「意思疎通?そんなん誰でもできんだろ。何隠してんだよ」


 シモンはやれやれといった様子で、しかし視線は逸らさない。


「……だから、本当にそうなんだって。ショボく聞こえるかもしんないけど」

「だって、【セラフィ】だったんでしょぉ?それ相応のギフトじゃなきゃぜってぇ無理じゃーん……オレみたいにギフトナシは門前払いだったくせに」

「あら、あなたギフトなしなの?すごいじゃん!それでセラフィか…情報操作の賜物だな!どんなギフト捏造したの?せっかくだからカッコいいやつにしたんでしょ?」

「敵を褒めるとか、アタマいかれてんじゃねぇ?」

「…よし、話戻そ。確かに、カストロやアジェンデの激強ギフトに比べたら、【意思疎通】なんて、わけわからんと思うけど……」


 シモンはプルードンが椅子にかけた手を掴み、押し戻す。そして椅子から立ち上がり、プルードンに顔を近づけた。そして……


「私はこのギフトのおかげで、負けナシなんだよ」


 天使のように、笑ってみせる。


「……はぁ。オレに負けてるじゃあん」

「さぁ。『延長戦』になってくれたから、わからないわよ?」


 プルードンは深いため息をついてくるりと踵を返し、部屋から出て行く。銀髪男もそれに続く。


「んじゃせいぜいそこで見てるといいよぉ〜。情報伝達手段もなんも無いかぁらね〜」

「はぁーい」


 それをヒラヒラと手を振って見送ったシモンは、窓辺に近寄って頬杖をつく。


「……さてと」


 視線の先にいたのは、小さな、(アリ)

 シモンはささやくように『話しかける』。


「やぁ、すてきなお嬢さん。ちょいと時間をくれるかな」


『意思疎通?そんなん誰でもできんだろ』


 ―――本当に、そうかしら?


〜CASE beta「思惑」〜


〜〜某所にて


「おお〜、すごい!センスいいなぁこのインテリア!」

「…………」


 ガラスのシャンデリアを見上げ、興奮する白髪の女性。その隣に気難しい顔で立っている銀髪の大男。

 なぜこんな珍妙な組み合わせが爆誕したかを説明するには、少し時を遡らねばならない。


 プルードンは、いくらシモンといえども、白い部屋に閉じ込められ、得体の知れない腕輪をつけられ、自分の命の保証もないこんな状況で、下手に部屋から出たりはしないだろうと予想していた。

 だが、その予想を超えるのがシモンである。

 彼女は窓から木に飛び移って下におり、悠々と庭園を散策しているところを発見された。


『行動の自由は保障してくれるんでしょう?』


 詰め寄るプルードンに対し、ケロッと答えた彼女。

 ため息をついたのは、『拐った方』であった。


 銀髪男は普段、プルードンの護衛をしているそうだが、今回はシモンの見張りとして役目を果たすようだ。南無三。


 シモンが今いる場所は、一言で言うならば森の中である。辺りに人はおらず、電子機器も見当たらない木造建築の館。三階から目を凝らせば《天使》本部の高層ビルの先端がかろうじて見えるほどの、都会からかけ離れた場所。館の50メートルほど南には、取り残されたようにひとつだけ、廃工場があった。


 シモンと銀髪男は現在、館内を仲良く(?)散策中である。


「私、こういうところに来たら探索しないと気が済まないのよ。隙をついて脱走でもしようかな」

「……」

「はいはい、怖い怖い。脱走なんてしないわよ。私、体術の成績ワーストだし……あなたは、『俺が見張っている限り、許さんぞ』的なこわぁい眼光で見下ろしてくるし……えっと……バク、だっけ?」

「……バクーニンだ」

「なんだ、ずっとダンマリだったから、てっきり『はい』と『いいえ』しか言えないのかと思ったわ。あの金髪坊やと一緒の時は、特に難しい顔してるし」

「……プルードン様と一緒にいる時は、その、き、きんちょうで、その」


 バクーニンは無表情のまま、壊れたロボットのような動きをする。


「……ぷっ、あっはは!なるほど。あの坊ちゃん、好かれてるなぁ」


 シモンは膝を叩いて爆笑。


「あ〜あ、さっそく可愛い子見つけちゃった。脱走するのやめよう!」

「!?……さ、さっき脱走はしない、と……」

「敵地では、嘘と真実を1:2で話す主義でね」

「……ほんとうに18か?」

「よく言われるよ。あなたは30歳くらい?」

「36だ」

「あら、若く見える〜」

「…………」


 バクーニンは、どんどん彼女のペースに呑まれていっている気がして口をつぐむ。

 シモンはその様子をみて微笑むと、また観光に来たかのように歩き始めた。


〜〜《悪魔》にて


「あ、あなたは……」


 閉じ込められたオーウェンたちを助けにきたのは、白髪を束ねた長身の女性、ただ一人。


「【ケルビィ】の、フィデル・カストロです」


 オーウェンはようやく立てるようになってきたが、《天使》を前にしてトラウマが発動する。体内の血が沸騰するように熱い。

 一方ブランは【ケルビィ】を前にして、猫背に拍車がかかる。


 その時だった。室内に、蟻が五十匹ほど大量発生。


「えええっ、な、なにこれなにこれ!」


 ブランは飛び上がってオーウェンの後ろに隠れる。

 蟻は床でしばらくうごめくと、なにやら並びだした。

 ただし、一列ではない。


「……これは」


 床に、『Simon』の文字が浮かび上がった。


「「!?」」


 オーウェンとブランは驚愕し、こんな偶然あるものかと考え込むが、カストロは一人納得する。


「……さすがシモンです。これで場所もある程度絞れました」

「ど、どういうことですか」


 混乱しっぱなしのブランはカストロの方をぐるんと向く。


「この蟻は、ヒカガリアリといって、ある特定の……しかも極狭い範囲の地域にしか生息しません。つまり、シモンはその生息地域内に捕縛されているということ。また、シモンがこの蟻たちをここへ送りメッセージを残したということは……少なくとも、瀕死ではないようですね」

「蟻を送るって……ど、どうやって……」

「…あなたたちはシモンの【ギフト】を知らないようですね。あの方がおっしゃっていないなら、僕の口からお伝えすることはできません」


 カストロは一息つき、独り言のように呟いた。


「シモンがこんな風に助けを求めるなんて、三年に一度あるかないか………とてもタノシイです」


 カストロは、言葉とは裏腹に、殺人犯のような笑みでそう言った。

 オーウェンとブランは、その殺意の標的になっていないにも関わらず、戦慄する。二人にとっても憤りの対象であるはずの金髪の少年に、思わず同情してしまうほどに。


 カストロはひとつ深呼吸をし、理性を帰還させると、一本の電話をかける。


「……アジェンデさん」

「「!!」」


 電話の相手がわかると、オーウェンとブランは無意識に気を引き締める。

 

『なにか掴めたか』

「はい。間違いなく、【セラフィ】の仕業です」

『……そうか』

「混乱を防ぐため、少数精鋭、短期解決でいきます。アジェンデさん、あなたの手を煩わせてしまい申し訳ありませんが、これはあのガキの動向を見抜けなかった私たちの責任でもあります」


 ガキというのは、無論プルードンのことである。


『……なにを望む』

「後処理も含め、三日間。僕に自由をください」


 電話越しだが、跳ね上がったプレッシャーが室内を圧する。


『ケルビィが直々に動くには、確かに足る事態だ。だが、セラフィ、ケルビィ、トローニ。三人分の仕事を、私一人で三日間こなせ、と?』

「…………」


 アジェンデの声色は変わらない。だが故に、カストロの電話を持つ手が震える。


『いいだろう』

「!……いいん、ですか」


 しかし、アジェンデはあっさりと許可を出した。


『貴様が言い出したのだ。私も、それが最善策だと考える。必ず遂行しろ。一滴の誤りも許さん。以上だ』

「はっ!」


 電話が切れると、カストロはすぐに《天使》本部へ向かおうとする。


「待ってください」


 だが、扉の前にはオーウェンとブランが立っていた。


「……なんですか。あなたたち《悪魔》には関係のないことでしょう」


 カストロは、不快感を滲ませる目で二人を見る。

 しかしオーウェンは引かなかった。《天使》への恨みを心の奥底にしまい、決意の宿った瞳でカストロを見つめる。


「シモンは、俺たちの恩人ですから。連れて行ってください」

「!」


 クサいセリフなど、普段ならばまず言わないオーウェンがすんなりと宣言したことに、ブランは隣で仰天する。しかし、彼もオーウェンの隣に立ち、同じようにカストロの目を見つめた。

 『俺たち』の恩人。その言葉は、オーウェンなりの友情であるのかもしれないと感じて。


「……シモンは一体、何をしでかしたんです?あれほどまで《悪魔》から憎まれていた《管轄係》という地位を、ここまで《悪魔》に慕われる役職にするとは……ですが、若者の情を汲み取ってやれるほど、僕はお人好しではありません」


 カストロは絶対零度の視線で二人を睨み、退けと指示する。

 シモンがカストロのことを『いつも合理的』と称した意味合いが、二人にも理解できた。


「第一、イルネスを持つあなたたちは害。足手まといにしかなりません」


 カストロの言葉に反応し、黙っていられなかったのは、オーウェンだった。


「…失望したと、言いましたよね」

「……はい?」

「あなた様は、シモンに、『失望しました』と、おっしゃいました」

「……なぜそれを」

「モニター室で。ですがご安心を。見ていたのは俺とコイツだけで、他言はしていません」

「…不覚でした。まさかそこまでこの場所の設備が復旧しているとは……」


 カストロは軽く頭を抱える。

 対するオーウェンは、血が滲み出るほど拳を握りしめ、言葉を続ける。


「シモンが、なぜ《悪魔》にとどまるのか。それを真に理解できていないにも関わらず……勝手に、失望しやがりました」

「……少し、黙りましょうか。【狂人】風情が……!」


 オーウェンとカストロは猛吹雪を散らす。


「…………」


 心の中で勘弁してくれと泣くのは、冷や汗ダラダラのブランである。


「…早く牢獄に戻りなさい」


 結局、カストロは一人で出ていってしまった。


「……おい、オーウェン。下手なこと言うなよ。こんな時に」


 ビビりまくっていたブランは、カストロがいなくなったことでようやくオーウェンに話しかける。


「こんな時、だからだ」

「え?」

「いい機会だろ。あのケルビィに、見せつけてやれる」

「??」

「あいつが……シモンが、《悪魔》の力を……イルネスを、《天使》を守るために使いたいと望んでいる限り……俺は、それが無謀ではないと証明したい」

「!……」


 オーウェンよりも遥かに長い期間監禁され、オーウェンと同じくシモンに救われた彼は。

 オーウェンの《天使》への憎しみと、シモンへの思いを最も理解できる彼は。

 オーウェンが《天使》全体への恨み以外で、シモン個人のために【ケルビィ】へ怒りを抱いたことについて、黙考する。


「……なぁ、オーウェン」

「なんだよ」

「お前さ、散々オレのこと揶揄ったけど……お前もたいがい、シモンに惚れてるよな」

「……はっ?」


 オーウェンは紅葉を散らしたように赤くなる。

 ブランは予想以上にいい反応を見てしまい固まる。そして、ほぇ〜と驚き、ニマニマと笑う。


「……いや、これは……多分、違う」

「違うって、なにが?」

「…………俺が」


 しかし、オーウェンはすぐに赤面を仕舞い込み、代わりに思い詰めたような表情になる。


「俺が初めてあいつに向けたのは殺気で……あいつを傷つけたのは俺だ。……これはただの罪悪感と義務感で……惚れてるわけ、ねぇよ」

「……ふーん」


『俺は、それが無謀ではないと証明したい』


「義務感ねぇ……願望形で言っちゃってたくせに……」

「なんだよ」

「別に」


 ブランは、こいつも相当厄介だ、と改めて思った。


〜〜某所にて


 広い食堂では、100人ほどの人が集まり、各々食事をとっていた。


「へぇ〜。人がいないと思ったらここか。この人たちがあの坊ちゃんのお仲間さんたち、ねぇ」


 シモンは面々を見ながら、老若男女問わずいることを確認。


「ねぇ、バクちゃん」

「ば、ばくちゃん……?」

「会話内容からして、プルードンはギフトもイルネスも持たない一般人。なぜ《天使》を潰そうだなんて考える?」

「…………」


 バクーニンは答えない。


「……あんた、サン・シモンかい?」

「そうよ」


 シモンの問いを聞いていた、顔に傷のある女が近づいてくる。


「……ッッふざけるんじゃないよ!!」

「!」


 女は激昂し、シモンを突き飛ばす。


「あんたたち《天使》のせいで、苦しんでるやつらなんてごろごろいるんだ!!責任も取らずに偉いツラしやがって……!!」


 女の剣幕を支えるように、あたりに人が集まってくる。

 そして全員が、シモンを糾弾し始める。


「いいかい!?アタシは《天使》のせいで家を追われ、旦那を亡くした!!あっちに座ってる奴らも家族を亡くしてんだ!!」

「自分達の失敗を一般人になすりつける卑怯者!!」

「俺を退職させたのもお前らだ!!会社に介入して、給料の高い仕事を、都合のいい連中に独占させやがって!!」

「《天使》のメンバーは、人を見下すことしかできないんだろ!?」


 喧騒の中、迷子の子犬のような、うつろなひとみ。

 いつも誰かを真っ直ぐに見つめるシモンはこの時、だれもみていなかった。


「なんとか言ったらどうなんだ!!」


 いつも饒舌に話す彼女は、存在意義を否定されたように、ただその場に立ち尽くす。なにも言わなかった。


「お、おい!聞いてるのかよ《天使》……」


 人々は徐々に、自分達が悪者であるかのような感覚にとらわれ、口をつぐんでいく。


 すっかり静寂に包まれた時。ついに、シモンが口を開ける。

 その動作は、周囲の人々の眼に、スローモーションのように映った。


「_________黙れ雑魚が」


 だが。

 一瞬でビリビリとした威圧感を纏う音が空気を伝わり、人々の耳に届く。

 彼らは自分の目と耳を疑った。

 目に映るうつろなシモンの姿と、耳に入った恐ろしい言葉の落差に、戸惑いを隠せない。


「……とか言えば、満足?」


 気づくと、シモンはいつもの調子に戻っていた。

 周りを見渡しながら、明るく深い声色で話す。


「少なくとも私の知る《天使》のメンバーたちは、ひとを見下すことになんの意義も見出さないし、卑怯になった覚えもない。まぁ、あなたたちの目にそう写っているなら、なんとでも言えばいいけれど」


 そこは、完全に彼女のための空間であった。


「ただ……もしその罵声が、毎日必死であなたたち一般人を守っているアジェンデやカストロにまで届くなら……私は、本気で憤ってしまう。そこは承知していて頂戴」


 彼女の言葉を聞くためだけの時間であった。


「……今までのすべての三大天使が、どれだけの苦渋と、犠牲と、覚悟の上に立ってきたか。どれだけ血反吐を吐いて守ってきたか……あなたたちはご存知か?」


 変化していく口調。


「クーデターごときで……生半可な覚悟で……我ら《天使》を崩せると思うな」


 シモンは全員の目をみて、威嚇した。

 その威嚇の効果は絶大だったらしく、何人かは腰を抜かして座り込む。


「め、恵まれたあんたには、わからないんだ!!オレ達はあんたなんかよりずっと……!」


 シモンは彼らに近づき、片膝をつく。


「あなたたちはしあわせにならなきゃだめだ。私たち《天使》があなたたちを不幸にしてしまったのなら、尚更…………さっさと反逆なんてやめて、罪被る前に大事な人でも作りな。そしてその人と生きろ。私が協力するよ」


 彼らはシモンの言葉に戸惑い、睨み返す。


「綺麗事を…」

「ごもっとも。だが、『綺麗事』という言葉を使って他人事のようにくくって距離とる……そんな態度は、綺麗事をまっすぐ言えるひとより遥かに劣っている」

「……!」

「これは権利というよりむしろ義務だ。あなたたちはしあわせにならなくてはならない。元セラフィが命令しよう」


 シモンは腕輪を指差し笑った。


「この無骨なアクセサリーを外そうじゃないか」


〜CASE gamma「猛攻」〜


〜〜食堂にて


「つっ」


 シモンは突然顔を歪める。


「調子に、乗りすぎだ」

「……あーはいはい、やりすぎたよ」


 バクーニンがシモンの腕を掴み、キリキリと絞っていた。


「あだだだ、ごめんごめんって」

「……」


 そのまま、シモンを半ば引きずりながら食堂から出て行く。


「あっ、ねぇあなた名前は?」


 だが、シモンは食堂を出る直前、顔に傷のある女性に声をかける。


「あ、アタシは……ハイネ」


 彼女は、思わず名乗ってしまった。


「ハイネか!みんなのも今度教えてね〜いたたたたごめんなさいバクちゃんいたい」

「ちゃん付けはやめろ」

「却下あたたた」


 食堂に残された人々は、ただ、気の抜けた顔をして二人を見送った。


〜〜


「んで、バクちゃん。ここに連れてきたってことは、もう出るなってことかな」


 バクーニンはシモンを連れて、初めにシモンが捕らえられていた、白い部屋の前まで来た。


「プルードン様から指令が入った。ケルビィの女が乗り込んできているらしい」

「!」

「他に複数手練れがいて、現在工場付近まで来ている。そこで……」


 バクーニンはシモンを見下ろして告げる。


「お前は人質として使われるそうだ。それまでここで大人しくしていろ。鉄格子をつけたから、窓から脱出もできない」

「……ああ、そういう…」


 シモンは自分の使い道を聞き、ふんふんと納得する。

 バクーニンは、シモンの余裕が鼻についたのか、ギロリと睨んで口を開く。


「さっき食堂で話してたが…俺はもともと、《天使》にそれほどの恨みがあるわけじゃない。恨みがなくとも、ただ、プルードン様についていくだけだ。お前の洗脳は通じない」

「洗脳?」

「あの異様な空気……あれが【意思疎通】なんだろう?やはりプルードン様が警戒し、真っ先に【セラフィ】から引き摺り下ろしただけはある」

「……【意思疎通】は、そんなに便利なギフトじゃないよ。いっそ、洗脳したりテレパシー使ったりできればよかったんだけどね」

「?……まぁいい…難しいことはわからない。だが、俺から見れば……戦力にならない者など、とんだ足手まといだな」


 この言葉の直後。


「っだれが足手まといだぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 シモンは、食堂でこっそり拝借していた胡椒瓶を開け、バクーニンの顔に投げつける。


「ゴホッ!?」


 突然の大声と胡椒にバクーニンが怯んだ隙に、シモンは掴まれていた右腕を振りほどき、バクーニンのスネを蹴り体勢を崩す。そして背後にまわって背中を押し、よろけたバクーニンが部屋の中に入ると、すかさず外から鍵をかける。


「揃いも揃ってこの私を侮辱しやがって………!!!元セラフィなめんなよ!?そりゃ、私は武闘派じゃないけど!?誰にも負けてやるつもりは無いんだよ!!火事場の馬鹿力アドレナリン上等だよ!!ちなみに蹴った方の足がとても痛いです!!腹パン一発分の借りは返したからな!!唐辛子ダイレクトで眼に突っ込まなかっただけ感謝しやがれ!!!」


 シモンは食堂で皆に取り囲まれてから、相当頭に来ていたらしい。『黙れ雑魚が』というセリフも、半分は本音である。


「……さてと」


 しかし、彼女はカストロと同じく、理性を帰還させるのに慣れている。シモンは窓から廃工場を見つめ、満面の笑みを浮かべた。


「思ったより早かったな」


〜〜廃工場付近


「後は手筈通りに」

「「はっ!」」


 カストロは四大幹部の【プリンチパーティ】と、その部下2人に命令をし終えると、黒い手袋をする。


 廃工場付近には、プルードンが金で雇ったであろうゴロツキが武器を持ちウロウロと徘徊していた。その中に、躊躇いもせず入っていく。


「あぁ?おいてめぇ!《天使》か!?」

「そうですが」


 侮蔑が煮詰まれた瞳で一瞥すると、カストロはため息をつく。


「ぶっ殺してやるよクソアマぁぁ!!」

「くたばれぇぇえ!!」


 15名ほどに囲まれ、そのうち2人が特攻してくる。


「……」


 カストロは無言のうちに、蹴りでナイフと釘バットを払い除け、『片手で』その2人の首根っこを掴み真上へぶん投げる。まるで小さなゴミ袋をひょいと投げるかのように。


「……はっ?」


 男2人は綺麗な弧を描いてゴミ置き場に落下。


「これはいいですね。あそこならゴミがクッションとなって、大怪我はしても死にはしないでしょうし」


 目の前の女性に睨まれ、武器を落として震えるものが半分。

 錯乱して突っ込んでくるものが半分。

 カストロはそのうち3人の鳩尾を一気に殴り滞空させ、服を引っ掴むと、まるでゲームのようにゴミ置き場まで飛ばす。


 また工場から何十人もの荒くれ者が現れる。

 カストロは面倒臭そうにため息をつき、5メートルはある岩に手をつく。


「な、なにを……」


 そして、岩を『持ち上げた』。無論、片手で。


「「ひっ」」


「これを工場に投げつければ……援軍は終わりますかね。いえ、1人ずつ丁寧にゴミ置き場に叩きつけるほうが、自分達がゴミだと自覚しやすいでしょうか。ゴミを持つ時はいつも、手袋をつけるんです。手袋が可哀想でなりませんが。あなたがたのように腐り切った輩を見ると、吐き気が止まらない。あなたがたが生ゴミの処理をするときと同じです」


 彼女は真顔だった。顔のパーツのうち、動いているのは口だけ。どこまでも冷めた無表情で、ナイフのような言葉を吐き続ける。

 結局岩はまた綺麗な弧を描き、無人のトラックを潰した。

 鳴り響く破壊音に、震え上がるゴロツキたち。


「【ケルビィ】様のギフトは【無重力化】……でしたっけ?」


 その時、ひとりの男の声が聞こえた。

 カストロは振り返り、忌々しいと言わんばかりに叫ぶ。


「なぜついてきたんです!?」

「うるっさいですね、ケルビィ様。俺もその投げ入れゲーム参加したいんですが。あぁ、心配されずとも、俺はとっくに、【狂人化】をコントロールできますよ」

「……!?」


 現れた黒髪の男……オーウェンは、30人ほどのゴロツキ集団に突っ込んでいく。


「イルネス……を、コントロール……??」

「ハッ、俺も初めはその反応をしましたよ。でも、気合があれば意外と……ひっくり返るんですよ、常識って!!」


 黒い靄は収縮し、オーウェンの右脚に集まる。

 それは、まごうことなき暴走時の、狼の足。だが決定的に違うのは、彼の意識下で動くということ。


「ラァ!!」


 10名の男は武器ごと吹っ飛び、綺麗にゴミ置き場に収まる。死んでは、いない。


「……ッシャア!!」


 オーウェンはひとり拳を握りしめ、ガッツポーズ。

 二年間、己を苦しめた力に、どうだと言ってやる。

 本当なら真っ先にシモンに見せつけたかったが、よしとした。なぜなら、《天使》のNo.2が、その鉄の無表情を崩して驚く顔を、見ることができたのだから。


「……こんなことを……あなたに提案したのは、彼女ですか」

「逆にあいつ以外誰がいるんですか」

「……いませんね」


 カストロは、空を見上げる。


「あの方は……サン・シモンは、《悪魔管轄係》に堕とされた程度で、腐るような御人ではなかった……!」


 その表情は間違いなく、歓喜を宿していた。


「……やっと分かったのかよ、バーカ」

「なにか言いましたか?」

「いいえ、何も」


 オーウェンは素知らぬフリをしてやり過ごす。

 本当は聞こえていたが、聞こえていないふりをしたカストロは、改めてゴロツキたちを見据える。


「あなたが僕の邪魔をしないことを祈ります」

「ケルビィ様は立場上、一般人には手加減しなくちゃいけないんでしょう?『足手まとい』にしかならないのでは?」

「本当に生意気ですね、あなた。根に持って僕のセリフを借りるのはやめなさい」


 カストロは無表情で床に吐き捨てる。


「容赦なんてしませんよ。殺すギリギリでいきます。無論、あなたもですが。この阿呆共は、シモンを貶め、セラフィの座を奪い、さらには彼女を誘拐し、《天使》への反逆を試みた……あのガキの手下ですから」


 カストロは、徐々に無表情を崩し、感情を全面に出す……否、いつもは抑え、隠している本性を現した。


「フィデル・カストロの怒りを買う覚悟は……とっくにできていますよね?」


〜〜


「なに、この化け物大騒動……」


 足がおそいため(オーウェンが速すぎる)遅れて来たブランは、呆然とその光景を見ていた。

 黒い靄を自在に――実は辛うじてなのだが――操り、見事に5人ずつ蹴り飛ばしていく狼。

 1人ずつ丁寧に、急所に蹴りを食らわせてから、腕や足や首を掴んで軽々と空中へ投げ飛ばしていく白髪の戦闘狂。

 次々と宙を舞い、ドサンドサンメキョッとゴミ置き場に落ちていく人々。

 『人がゴミのようだ』……某映画の某悪役が言ったセリフが思い出される。


 ひと段落したカストロは、ただ突っ立っているブランに声をかけた。


「あなたまで来たんですね」

「……すみません。でも、シモンはオレを初めて『人間として』見てくれたんです。だから……」

「!!」


 カストロはその言葉を聞くと、小さな声で呟いた。


「そう、ですか……彼女が《悪魔》に何をしたのか、分かった気がします。……僕を初めて『人間として』見てくれたのも……彼女でしたね」

「?」

「いえ、忘れてください」


 一瞬だけ切ない表情を灯したカストロは、キッと廃工場を睨み、手袋を付け直して言った。


「来てしまったのならもう仕方がありません。【狂人】、【金属鬼】。あのガキをブチノメしに行きますよ」

「「はい!!」」


〜CASE delta「液状人間」〜


〜〜


 誰もいなくなった工場に乗り込んだ3人。

 カストロは周囲を見渡し、オーウェンとブランへ指示を……


「はぁい、動かないでねぇ」

「「!!」」


 しかし2階の通路には、見慣れた金髪が。


「テメェ、クソガキ……!!」

「あ〜、オレのスタンガンで無様に気絶しちゃった害虫一匹はっけぇ〜ん。しかもフィデル・カストロじゃあん。直々に来たのぉ?忙しくて大変そうだねぇ」

「誰のせいでしょうね」

「えぇ〜誰だろぉ」


 プルードンは嬉々としてオーウェンとカストロをおちょくる。ブランはその隙にシモンを探しに行こうと足を動かし……


「動かないでって言ったよねぇ」


 しかし、ブランの足の数センチ先の床に、ナイフが刺さる。ひぃっと悲鳴をあげたブランはススススとオーウェンの近くへ。


「こっちは人質100人いるんだぁ」

「なんですって?」

「このボタンを押すとぉ……みんながいるあの館、木っ端微塵になっちゃうの。典型的だけどぉ……見たいぃ?」

「「!!」」

「……やはり、あなたを【セラフィ】として認めまいとした僕の判断は正しかったようです。卑劣で下賤で人騒がせ。迷惑極まりない」


 リモコンをふらふらと揺らすプルードンに対し、カストロはギリィと唇を噛む。


「テメェ、仲間集めてるんじゃなかったのかよ!」

「えぇ?オレそもそも仲間なんて思ってないよぉ。人間は駒でしかないんだからさぁあ?」


 オーウェンの咆哮も、彼には飄々とかわされる。


「そろそろうちのバクが、おたくの大事な大事なサン・シモンを連れてくるからさぁ。楽しみにしててよねぇ」

「あいつは無事なんだろうな……!?」

「うん?今は、ねぇ……でもぉ、あの女の解体ショーとかしちゃおうかなぁ。きみらの表情歪ませたいなぁ〜」

「下衆ヤロォ……!」

「えぇ〜イルネス持ちに下衆とか言われたくなぁいなぁ」


「その解体ショーって、観覧料取るの?」

「「!?」」


 その声を、彼らが聞き違えるはずがなかった。


「「シモン!!」」

「……」

「はぁ!?」


 オーウェンとブランは彼女の名を叫ぶ。カストロは無言で彼女を見つめ、プルードンは目を疑った。

 2階の通路の上。プルードンの10メートル北に立つ……サン・シモン。


「あら、オーウェンたちも来てくれたの?白髪長身美女と黒髪イケメンと厚着隠れイケメン……うん、私好みのスリーショット」

「シモン!!お前無事なのか!?」

「大丈夫だよ、なんとかね。ちょぉっとあっちのみんなを説得するのに口論したり蹴られたり池にダイブさせられたり、こっちにくるまでに大型狩猟犬に噛まれかけたりしたくらい」


 そう話すシモンはあちこちがボロボロであった。

 しかし彼女は、疲れなど感じさせない笑みで旧友へ挨拶する。


「よっ、さすが速いね。助かったよ、カぁロちゃん」

「……全く、あなたは……」

「人質なんかになっちゃったら、カロちゃんに殺されるだろうなぁと思いまして」

「僕というより、後でアジェンデに、ですね」

「それはマジで物理的に死ぬかも」


 カストロは呆れながらも、ひとまず安堵する。

 シモンは、未だに固まっているプルードンへ目を向ける。


「やぁ、金髪坊や。一日半ぶりくらい?」

「どうやって……!」

「さぁて、どうやって、だろうねぇ?」


 シモンは自分の腕輪をコンコンとつつく。


「さも腕輪の方に仕掛けがあると見せかけて、ハッタリだったんだね。ハイネに調べてもらったけど、爆発もしないただのプラスチック」

「はぁあ?ハイネって……あいつらが、寝返ったの?」

「いいえ。まだ完全にはね。ただ……『館に仕掛けてあった爆弾』を見せたら、そりゃあなたへの不信感募るわよねぇ」

「!」

「ではここで。私が単なる興味本位なんかで敵地散策なんてすると思う?」

「あなたならしかねませんね」

「お黙りカロちゃん」


 会話にツッコんできたカストロに、ノンノンと指を振るシモン。


「ゴホン。爆弾ならもっと上手く隠さなきゃダメよ、アジェンデみたいに。あと、ほとんど全部解除したから」

「はぁ!?」


 プルードンは思わずリモコンを落とし、オーウェンとブランは、あいつそんなこともできるのか、と顔を見合わせる。カストロはため息をついて2階の2人を見上げていた。


「でも、あの白い部屋にある爆弾だけは解除していない」

「……?」

「_______今その部屋にね、バクーニンがいるよ」

「!!……テメェ……」


 シモンはプルードンが動揺した隙に、落ちたリモコンを拾い2階の通路を駆け回る。


「おい、悪人ヅラしてんぞシモン」

「あははっ!失礼な。私はれっきとした《天使》ですとも。だが……」


 オーウェンの声を一笑したシモンは。


「今だけは、悪魔になりたい気分だよ」


 紛れもなく、悪魔のような笑みを浮かべていた。


「『お前の歪む顔が見てみたい』なぁ」


 シモンは、プルードンがカストロたちに放った言葉を、プルードンに返す。

 プルードンはリモコンを取り返そうとシモンの後を追うが、シモンは通路を上手く利用して逃げ回る。


「ケルビィ様」

「なんです?」


 ブランはカストロへ問いかける。


「『サン・シモン』は、自分が受けた屈辱は少なくとも五倍で返す女……って言ってましたけど。あいつ、人を殺せるんですか」

「……《天使》は、あなたがたが思うよりずっと、残酷な世界に生きています」

「「……」」


 シモンはリモコンのスイッチを……


「や、やめろ……」


 躊躇いなく、押した。

 北で鳴る爆音。


「そ、んな……バク……!!」


 プルードンは思わず北へ駆け出す。2階から階段を二段飛ばしで降り、倉庫の方へ抜ける。


「よし。じゃあ……」


 シモンは階段を降り、カストロたちの方へ近づく。


 ゴォォォ


「「?」」


 その時。

 廃工場の壁一面を覆う、6メートル四方の大規模な冷却装置が、誤作動を起こしたようだ。

 プルードンが走っていた場所に、ちょうど直撃する。

 その瞬間、プルードンの右腕が、ぐらりと残像のように揺れる。


「……?あれは……」


 シモンは目を細め、手すりから乗り出す。

 プルードンの腕が――ピキピキと端から凍っていく。

 まるで『水』が氷に変わるように。

 その様子をみて、シモンは一気に青ざめる。


「……まずい」

「え?」

「今すぐあの機械を止めろ!!」


 3人はシモンの慌てぶりをみて、疑問符を浮かべる。


「おいシモン。なんだよいきなり……」

「あの子にとっては、ただの冷却装置じゃないんだよ!!!ブランッッこれ借りる!!」

「ふぇっ」


 シモンは咄嗟にブランの上着を剥ぐと、倉庫の真ん前に突っ込んでいった。

 尋常でなく震えるプルードンの身体を上着で包み、さらに自分の体で覆い抱きしめる。

 間も無くしてシモンの身体にも霜が降り始める。冷却装置の設定がおかしくなっているらしい。あのままではシモンも危ない。


「…ッッカストロォ!!」

「っまた無茶を……!」


 シモンはカストロの名前を呼ぶ。それだけで、彼女になら伝わると信じて。

 案の定、シモンの考えを把握したカストロは、オーウェンの方を振り返る。


「おい狂人!!!」

「あ?うわっ、はぁぁあぁぁぁ!?」


 そして、【無重力化】を使い―――ぶん投げる。

 宙を舞うオーウェンの身体。


「「壊せ!!!」」


 シモンとカストロの声が重なる。


「どいつもこいつも……元、現三大天使ってのは、無茶振りが常套手段なのかよ……!?」


 オーウェンの言葉は戸惑いそのもの。しかし、彼の口角はなぜか、弧を描いていた。

 それは、狂人状態ゆえの破壊衝動か。もしくは。


「オーウェン!!そのタイプの機械なら、狙うのはお前から見て右側の緑のやつ!!」

「チッ、了解だクソがァァァァァ!!」


 バキィンッッッ


 ブランの指示でオーウェンが蹴り飛ばした部分がえぐれ、弾け飛ぶ。それは、機器全体に操作指令を出す部分であった。1メートル四方で、普通ならば砕け散りなどしない。しかしオーウェンの黒狼の足により、装置は……強制的に止まった。


「………っ、ふぅ」


 シモンは安堵のため息をつき、オーウェン、ブラン……そしてカストロのほうを見る。

 オーウェンは投げ飛ばされた後の着地に夢中で気づいていなかったが、ブランとカストロは無表情でシモンを見つめ返す。

 その顔には、いい加減にしろ……と書いてあった。

 シモンはスー、と視線を逸らす。これはお説教コースであると悟りながらも、例によって、後悔は無いようだ。


「大丈夫?」

「……っ!」


 シモンは、未だに震えが止まらないプルードンへ声をかける。彼はその声に反応し、反射的にシモンの襟を掴み、床へ押し倒した。シモンの上に馬乗りになり、過呼吸手前で震えている……が、シモンを映すその目には、確かに憎しみと殺意が芽生えていた。


「シモン!」


 カストロは駆け寄ろうとするが、シモンは左手を上げて制す。

 視線で、平気だと知らせる。


「そんなに怯えるのは……『凍ったら二度と戻らない』と本能でわかっているから、かな?」

「なんの、はなしを……して、いる……!?」

「……いま言ったって、まともに頭に入ってきやしないでしょ。おびえたチワワくん」


 プルードンは混乱状態のまま、シモンの首を絞めようと手をかける。が……


「…マジでお前ら、付き合ってらんねぇ」


 下に飛び降りてきたオーウェンが、手刀で気絶させた。

 プルードンはどさ、とシモンの上に覆い被さるように、意識を手放して倒れ込む。


「あはは、この体勢、誰かさんを思い出すな〜」

「……やめろ」

「ごめんって」


 シモンは起き上がってプルードンを横に寝かせる。


「で、どうすんだよ、そいつ」

「……そうだね。とりあえず、この子の処遇、は……」

「!」


 シモンは言葉の途中で意識を手放す。

 オーウェンは彼女が倒れるのを右手で支え、抱きとめた。

 

「…お前もとっくに限界か」


 安堵したように眠るシモンを見つめ、オーウェンもまた安堵する。さらわれてからずっと敵地に一人で、気を張り詰めていたのだ。無理はない。

 無意識に、抱きとめた右手に力が入る。そのまま抱きしめ……


「貴様、シモンから手を離しなさい」

「いでっ」


 ……そうだったのだが、いつのまにやら近くにいたカストロが、不機嫌そうにそれを阻止する。

 彼女もまた、無表情から安堵が滲み出ていた。


「……後処理は任せてください。全く、僕が立てた計画は不要になってしまいましたね」


 空は夕暮れ。悍ましいほど明るい陽が、沈んでいった。


〜〜《悪魔》医務室にて


「あっ、起きた」


 先に目覚めていたシモンは、簡易服のまま隣のベッドからプルードンを覗き込む。


「………さいあくのめざめ…………」

「順調に失礼だな」


 プルードンは大嫌いな食べ物を無理やり食べさせられた時のような顔で悪態をつき、上半身を起こす。

 シモンの方を見ないまま、問いかけた。


「…今後のオレはどんな感じっすかぁ?」

「……………残念だけど……」

「………」


 シモンは視線を落とし、声色を低くする。


「【セラフィ】続行!ヨロスィク!」

「………は?」


 プルードンは思わずシモンの方を見る。

 彼女はグッと親指を立てていた。


「なんの冗談を……」

「ひとつ。君より優秀な子がいない。ふたつ。この件を公にするメリットがない」

「メリットならあるでしょお、正々堂々きみがセラフィになりゃいいじゃあん」

「……お前のせいでだいたいの人に嫌われてるってのに、納得してもらえるとでも?時間かかるからアジェンデに却下されるわよ。それとも、あなたがまたお得意の情報操作ですぐに元に戻してくれるわけ?」

「めんどくさい。はらたつ。きみのいうことききたくない。よって、やぁ〜だ」

「だと思った。あと、その笑顔やめなさいよ。癖になってるでしょう。仮面みたいに引っ付けちゃって……」


 プルードンは笑みを取り払い、代わりに遠慮なくシモンを睨む。


「…バクを殺したくせに、図々しいんだよ」

「……」


 シモンはふと、病室の扉の前に視線を移す。


「なんの、話だ?」


 そこには、お見舞いに来たバクーニンが立っていた。


「…………は?」


 プルードンは目を皿にする。


「は、はっ?なん、なん、で……」

「さて、ドン坊。ここでクエスチョン。私に爆弾解除なんてできると思いますか?」

「は??どんぼう、ってまさかオレのこと?」

「正解は、んなもんできるか、です。カロちゃんは気づいてたみたいだけどね」

「???」


 シモンは、大混乱しているプルードンの顔を見て、それはそれは満足げに笑った。人差し指を立て、偉そうに話を進める。


「さすがの私もそこまでハイスペックじゃないのよ。せいぜい、火事だーとか言って全員を館から森の方へ逃すくらいしかできないの」

「ぜん、いん……」

「そう。『爆弾解除しましたー』も、『バクーニン一人を爆弾部屋に取り残しましたー』も、全部うそうそ」

「ず、ずるくない!?それ……なんのために嘘ついたのさ!!」

「何言ってるの。あなたが先に使ったんでしょう?『ハッタリ』。ちょっとは仕返しさせなさいよ。ふふ、みたかったんだ〜その面食らった顔。ザマァ〜〜」

「………………」


 プルードンは一本取られたと言わんばかりにワナワナと震え、カァァアと赤くなる。

 バクーニンはバクーニンで、状況が飲み込めず困惑している。


「……バク」

「は、はい」


 プルードンはうなだれていたが、バッと顔を上げてバクーニンを睨む。


「何やってんのお前!!こんなヒョロヒョロ女にやられるとか!!何のために見張りとしてそばに置いてたと思ってんのさぁ!!」

「も、申し訳ありません!」


 そして財布をバクーニンに投げつける。


「自販機でいつものやつ買ってきて!!」

「は、はい!」


 バクーニンは急いで病室を出て行く。急ぎすぎて観葉植物にぶつかっていた。


「……素直じゃないね。生きててくれてよかった〜とか言えばいいのに」

「うっさい。どっか行けあっち行け」

「ベッド隣なんだよね」


 プルードンは布団を頭までかぶって横になり、シモンに背を向ける。

 だが、その声は僅かに震えていて、涙声であったため、シモンは頬杖をついて、したり顔をするだけ。


「あの子は、《悪魔》の方で預かるよ。さすがに、あなたたちふたりが揃うのは了承してもらえなくてね」

「……フツーだったら永久投獄でしょ、オレら。この世界の最大権威に逆らったんだからぁ」

「まぁね。でもそこはほら、まぁまぁって感じで!」

「なにがまぁまぁだよ……どんな手段使ったらそんな……」

「クーデターを未然に防いだ功績で、私の発言権が一時的に大幅アップしただけだよ。あとはカストロを言いくるめてアジェンデになんとか説明しただけ。あなたが集めた100人は、全員然るべき処罰を受けたあと、ちゃんと一般生活に戻すから」

「……」


 さすがにシモンもやりすぎたと思っているのか、プルードンの頭を撫でながら言う。


「……私の管轄下だから、バクちゃんに会いたかったらいつでも遊びにおいで」

「!………ちっ、うざい先輩風吹かしてんなよ」

「ヌァに?かわいくないなぁ」

「触んなって言ってんだろ!」

「お前ってたまに素が出るよね。そっちの方が好きだなぁ」

「うるさいうるさいうるさいうるさい」


 プルードンは容赦なくその手を払い落とすが、シモンは諦めない。


 病室には、まるでウザ絡みする姉と反抗期の弟のような、笑い声と嫌がる声が響いていた。


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