表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

PAGE6 AとB

 AとBは高校の同級生だった。

 それぞれに夢があり、卒業した後も連絡を取り合う仲だった。


 役者になりたかったAと映画監督になりたかったBだが、現実はそう簡単ではない。

 結局、互いにそれなりの企業に就職し、大人として働き始めた。

 

 月日は流れ、Aは仕事の合間にゲームの実況などをして人気を得、それを専門にし始める。

 Bは親友が当初とは少々異なるものの、夢を実現させたと喜んで協力をした。

 時には裏方を、時には本業の不動産関係でAにとって住みよい部屋を探すなど、尽力した。


 表向きにはそうだ。

 実際、最初のうちはそうだったのだろう。


 だが次第にその関係は歪んだ。

 とある(・・・)薬物をBが捌き始め、Aはそれに乗っかった。


 そして……当初は、利益を生んだ。莫大な物だ。

 二人はそれを分け合い、何食わぬ顔でAのファンや、知人のそのまた知人に広めた。

 無論、それに乗っかりそうな人間かどうかは、Bが判断してのことだ。


 それらの金を用いて警察や、その他隠蔽工作に関わりそうな団体にも金を出した。


 目の前のノートには、その経緯が事細かに、写真付きで記されているのである。

 

 おかしな話だろう?

 実際、おかしな話だ。


 行方不明になった二人は俺の目の前で肉塊となり、俺がノートに目を通している間中狂ったように笑い続けている。

 ああ、ああ、そりゃ狂うよな、二人仲良く肉塊だ!


 そしてそれを当たり前のように受け入れた俺もまた、おかしくなっちまっているに違いない。


(ああ、もう読みたくねえんだ。俺はきっと悪夢を見ている。ここから出なくちゃいけない。でも手が、目が、いうことをきかない!!)


 ノートの記述はまだ続く。

 おかしなことに、文字は次々と浮かびあがるようにして記されていく。

 写真もまるで絵を描くように浮かび上がってくる。


 ある日。

 Aが良心の呵責に耐えかねて、手を引きたい旨を告げた。

 奇しくも、あの食中毒での入院が原因だったらしい。

 

 これまでのことを悔い、しかし罪を償うつもりはないので警察に行くつもりはないとBに明かす。


 当然、それは受け入れられなかった。


『Aに薬を飲ませた』


 Bの言葉だろうか?

 記述が浮かぶ。

 文字は乱れていて読みにくかったが、不思議と会ったこともない男の声が耳元で聞こえた。


「規定量よりも多く呑ませたんだ」


 俺の耳元で誰かが囁く。いいや、誰かじゃない。Bだ。

 そいつは笑っていた。楽しそうに。


「喉の渇きに似ててさ、ほしくてほしくてたまらないんだ。くれってねだったが手伝わなきゃやれないって言ったさ。その苦しみは俺もよくわかる(・・・・・・・)


 正直なところ、この薬物は危険で捌ききれない量をBは抱え込んでいたようだ。

 どこから入手したかはぐちゃぐちゃで読めなかったが、不安を抑えるためにB自身も使用していたらしい記述はなんとか読み取れた。


 過剰摂取による急性中毒なのか、薬を欲しがりながら、Aが倒れた。

 笑いながら『シャケフレークでメシを食うのは最高だよなあ!?』と虚空に向かって叫びながら、倒れた。


 Bはそれを横目に見ながら、笑った。

 か細い笑い声が聞こえていたから、その時に救急車でも呼べばよかったのだろうがBはそれをしなかった。


 彼もまた、ただただ笑っていたのだ。

 今、肉塊たちが笑っているのがそれとリンクした。


「滑稽だよなあ、みんなの人気者がさあ!」


 嘲りと、どこか寂しげな声音が耳元で聞こえる。

 だが俺の目はノートに釘付けだ。俺の意思じゃない。

 見たくても体はまったくいうことをきかないのだ。


 俺が俺でなくなる。


「Aをどうしていいかわからなかった。そんな時、思いついたんだ」


 ノートに、ジワジワと見たことのない絵が浮かび上がる。

 見たことはないが、俺はこれがなんだか知っている。


 魔方陣ってやつだ。


「Aがさあ、酔っ払ってどっかの外国人から買ったらしいんだよ。で、シラフになってみたら怖くなってしまいこんだんだ」


 バカだろう?

 そう耳元で囁く声は笑った。


「生け贄が必要だから使えないってさ、悪魔なんているわきゃないのにな」


 ノートに文字が浮かぶ。

 それは、これまでの乱れきって読むのにも一苦労する文字とは違って、少しクセのある綺麗な字だった。

 

【もうどうしていいのかわからない。こんなものに頼るのは馬鹿らしいとわかっている】


 そして写真が浮かび上がる。

 魔方陣を描いたB、そこに寝かされたA、火の粉のように散る魔方陣と、残された肉塊。

 肉塊が、動く。

 ズル、ズル、隠れるように。


 何から隠れようとしていたのか、わからない。

 何を願ったのかも、浮かばない。


 気づいたら、俺は自由を取り戻していた。

 そのことに気がついてハッと顔を上げると、肉塊と目が合った。


 やつらは、いつの間にか笑うことを止めていた。

 にんまりと、肉塊に埋もれている二つの口が笑う。


 びしゃ。

 ピンク色の飛沫が、俺の視界いっぱいに広がった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ