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PAGE5 いなくなった

 その物音に俺はハッとして思わず振り向いてしまった。

 自分の吐く息の音が、嫌に響く気がする。

 暗がりに慣れた目で室内を見回す。


 よく考えればここは、Aの仕事場だ。

 物が多い場所だけに何か俺が触れてしまって落としたのか?

 外にいるアイツがまだいたならば、この物音にやってきてしまわないか?

 バクバクと心臓が痛いほど音を立てている中で、俺は何が落ちたのかを確認するべくそろりと視線を巡らせた。

 態勢を僅かに変えた足元に、コツンと何かが当たって俺はまた小さく悲鳴を上げる。


 それは、小さな、瓶だった。

 ピンク色をしたナニカが入った、瓶だ。あの冷蔵庫に合ったものより僅かに小ぶりなそれが、俺の足元に何故転がっているのか?


 そして転がってきたであろう先には、Aの作業机がある。

 俺はそこでハッとした。


 机は一般的な作業用の机でサイドには収入棚がついているものだ。

 壁にディスプレイが掛けられていて機材には金をかけているが、家具にはそれほど……と思っただけだった。

 さすがに戸棚を漁るのは良くないと先ほどはパッと見ただけで踵を返したが、気がついてしまったのだ。


 机の下、椅子を収納すべきそこに、人ではないないナニカが蠢いている。

 肉塊と言っていいそれに俺は再び尻餅をついた。


「う、ぉ、げえ……」


 肉塊には辛うじて目があり、鼻があり、指先が生えている横に髪らしい束も見える。

 呼吸をするかのように動くそれに思わず俺は嘔吐してしまった。


 気持ち悪い。

 気持ち悪い気持ち悪い。

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。


【シャケフレーク】


 嘔吐ついでに目に飛び込んできた、先ほどの瓶には手書きのラベルが貼ってあった。

 何がシャケフレークなもんか。

 一体何が起きているのか、いやそんなのはもう関係ない。

 これは心霊現象以上にただただヤバい。


 逃げなければ、逃げるんだ、だが足が動かない。

 とにかく気持ち悪い。


 ぎょろりと、肉塊の目が俺を捉えて、口らしき物が二つ現れたかと思うと口々に声を発した。


【お前も俺たちと同じだ】

【同じだ】

【Bが薬を渡した】

【Aが壊れた】


 ケタケタ、ケタケタと笑う連中の声が俺の頭に木霊する。

 キーンと響く耳鳴りに、頭がクラクラした。

 

【俺たちは呼んだ】

【おれたちはよんだ】

【俺たちは喚んだ】


 手元に再び、ノートが落ちてきた。

 まるで読めと言わんばかりのそれに、俺は何故かノロノロと手を伸ばしてページを開く。


 ぺらり、ぺらり、この状況で間抜けな音が響いて、俺自身がおかしいと思っても目は文字を追うし内容を理解しようと頭は働く。

 吐き気がすごい。

 だが、俺の意思を無視するようにして手はページをめくり、目は文字を追う。


 俺が、俺でなくなるような気がした。


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