悪なおじさん少女と優しい世界 10
2025年12月 活動報告にて今後とか色々記載
都内のスーパーは崩壊後から一変。労働者不足も含めた事情が技術革新を進めていた。防犯カメラは入り口前に設置され、入店した際に人数を計測。男性か女性の有無。肉体の性別と精神は異なるかすらも計測される。家族構成や来店回数情報を記録。記録をもとにAIが瞬時に判断。定期的に来店する客などであれば、入り口上部の電光掲示板にいつも購入する商品の情報を掲示。または買いそうな商品をリストアップして数秒掲載。スマホなどを店舗登録していれば在庫、セールの有無などを入店時に通知。その際は電光掲示板に掲載はない。いつも買う商品などのお得情報、展示場所も通知される。
基本的にスマホを登録するのが今の常識。
そのほうが手間がない。セルフレジで商品のバーコードを読み取る行為も、店員が商品をレジで読み込む作業はない。会計時に財布を取り出すか、スマホを取り出して電子決済するかも過去の話。現金なんて論外だ。
監視カメラがカートにのせたものを自動で記録する。天井だけじゃなく、壁面一体、売り場一見える形の監視カメラや片手程度の小型カメラが売り場の展示棚に揃えられている。カートの上部前後左右にクリアな壁面が置かれ、内部に画像認証ようの小型センサーが設置。カート底面にもセンサーが付けられていて、載せた商品のバーコードや重さを判断。
店側に設置されたカメラの情報。
カート上の情報。それらはサーバーへ送られ、照らし合わされる。
両方の情報を組み合わせ、誤差がないことを確認。
それで会計金額は決まる。その際にスマホを登録していればカートごと会計場所。商品を自分のバックや袋に詰め替える場所へいくだけですむ。自動的にスマホ決済されるわけだ。決済手段は人それぞれ。クレジットカードや電子マネーなどの手段。もしくは口座引き落としなど各自それぞれ設定すればいい。
ただスマホを持っていない、登録していない場合はだ。店員を呼び出し、サーバー情報を呼び出す子機などで確認後、各自支払いをしなければいけない。支払いがクレジットカード、電子決済であれば問題はない。すぐに終わる。しかし現金の場合は別。最近は現金の管理リスク、とくに小銭の両替が店側に負担が大きい。そのために料金率を安くて3%ほど引き上げられる。
登録すればお得な情報が入店時に届き、会計時もただ移動するだけでいい。最近は二重入り口となっているところがあって、入店後、一度目の入り口は商品をエコバックなど袋に詰め替える場所。その場所に買い物終了合図センサー、および自動引き落としのセンサーをつけているのが大半。移動するだけで会計が終了し、窃盗する余地も疑われる要素もなく静かに終わる。
二度目の入り口は店内といった所になっている箇所が多い。
最近は手間を省くためか、使い捨て袋、センサー対応袋が売られているのもいい。これも登録した人のみが買える
それはカートに商品を置く前に設置。
そこが深いバケツ上のカートに袋を広げて、側面のとっかかりに持ち手をかける。その中に購入する商品を入れていき、エコバックなどに移し替える場所に移動するだけで会計終了。あとはカートから袋ごと商品をとればいい。
一枚10円。高いと見るか安いと見るかは人それぞれ。最近はエコバックの価格上昇も凄まじく、一袋5千円なども珍しくない。詰め替える手間と耐久性を考えれば、使い捨てた方が楽との意見も多い。
便利な社会だが、問題をおこせば一発で終わる。
顔画像などを保存、サーバーへ同時に移行されるシステム。そのサーバー上から各系列店舗へと情報が行き渡る。それは店舗の各自サービスではない。個人情報は厳格に保管されなければならず、それ専門のシステムを開発するにも維持するにも相応の出費がある。
そのために専門の企業に任せるのだ。画像流出対策のために暗号化も含めてだ。この自動会計システムも個人情報を厳格に管理する専門会社が設置したもの。お金を払いスーパーなどが使用しているだけにすぎない。
個人情報はサービスを利用する店側も握るが、大元の個人情報管理会社もにぎっている。
一つのスーパーでトラブルをおこせば、系列店に情報は行き渡る。同じ会社のシステムをつかう他社、多系列のスーパーにも情報はいく。スーパーだけの業種ですまない。色々な業種のサービスにも問題客として情報が行き渡る。個人情報の流出は厳格化されるが、その使い道は一つの個人情報管理会社を通じて、様々なところへ行き渡る。
あくまで個人情報を管理し利用する会社のみで利用。
そのサービスを会計システム上に顧客に見せるだけ。その顧客は会計システム、管理システムを利用する店舗。大体は入店拒否される。
デジタルは永遠に残る。
自ら公開せずとも、勝手に取られ社会が保存する。
だからトラブルを起こしてはいけない。
監視と管理が普通の社会。そんなスーパーで立野宮は絶句していた。カートを引く化け物と右脇を歩くジャージ男。ザギルツとの交戦がおわり、化け物と武力一向に付いていった。そうしたらスーパーだった。いつの間にかジャージ男が合流していた。
その男が意地悪い表情を見せれば、化け物は呆れた表情で応対。
楽しそうに笑う男が握るもの。
お肉のパックだ。
対する化け物が握るものは、片手はカートの持ち手。もう片手もお肉のパック。
立野宮が選択肢にいれない商品。二人が手にしたものが異常。化け物が握るものは時代の常識ではある。立野宮の常識にはないだけだ。問題はジャージ男のほうだ。性格も態度も悪く、人の左目瞼を傷つけた外道。それでいて油断も隙もなく、こちらがみじろぎすればだ視線を飛ばしてくる。すぐだ。
すぐに反応してくる。
「院長、これ面白そう。ゴキブリを35%使用した虫肉だって!しかも鶏肉味だって!すごく気にならない?」
反応してくるくせに、視線をすぐ化け物へ向けてた外道ジャージ。虫を利用する肉は今の時代珍しくない。牛、豚、鶏の三代食肉は高価なものへとなっていた。価格高価の原因として事業者不足。労働者不足、土地不足、様々な理由があった。
一都三県のみで育てるにはコストがかかる。そのコストは価格に転化されてはいても、完全にされてはいない。販売店側の意思もあってか、事業者の旨みがすくない。大量生産もされないために市場自体が形成もされない。
その点、虫は生産コストがいい。市場に出回る虫商品は衛生管理がきちんとした工場などで飼育されている。ただ他の生物と手荒な環境でも繁殖してくれる。雑食が多く、市場の廃棄食料などを餌にすることで、飼育コストも安い。それでいて広い土地を必要としない。狭くて、密集してても虫には天国。
とくにゴキブリ。
勝手に増えて、簡単に絶滅しない。
それらを工場で繁殖させ、別の食品工場へ販売。食品工場が肉であったり、菓子であったりと姿形を変えて加工する。見た目気持ち悪い甲殻類もどきな害虫がだ。今では社会に役立つ商品だ。しかも新規的な産業のために価格が調整しやすく、生産業者にとっても値上げしやすいのもメリット。
虫は世に溢れているために貴重性もない。
ただ立野宮は言葉を失った。
虫肉は嫌いだ。
虫自体が嫌いだ。
強い拒絶感が頬をひきつらせてしまった。
それを嬉々としてもつ男を同じ人間として見れなかった。
生き生きとして笑う外道ジャージに化け物が呆れた様子で、手にした肉を上へ出す。
「虫肉は人を選び過ぎます。植物100パーセントの肉のほうがいいと思いますけど」
植物繊維、大豆のタンパク質などを利用した健康的な肉。味は不明だけど、化け物が手にした肉はきっと豚肉味だ。というか豚肉味コーナーだ。植物の擬似肉コーナーでもあった。
肉コーナーの展示枠の上部、天井にさげられた広告で書かれている。
牛と豚は時価のため、価格が安定しておりません。必要の場合、店員にお声かけください。
牛と豚は生産するための土地が必要。食料である穀物も高価。土地と穀物の関係だけじゃなく、水や電気などのインフラ価格の高騰もある。それ以上に畜産業を悩ませているのが襲撃だ。魔物や魔獣による捕食。熊や野生化した犬などからの被害。
これらから牛や豚を守るのに武力が必要。
その武力は年々インフラしていき、家畜を守るだけで莫大な費用。それら武力は冒険者が担当しているために、特化した魔法少女やヒーローを雇用するよりは安い。しかし冒険者であってもだ、高いものは高い。では雇わない選択肢はない。魔物や魔獣や野生の動物のみが敵ではない
深刻なのが強盗。人間による被害だ。
人間が集団となって高価な家畜を盗んでくる。監視カメラだけなら素性を隠した格好で平気で盗んでくる。指紋もだ何重にも重ねた手袋で形を残さない。ガスマスクなどで体液と容姿の暴露を防ぐ。靴にいたっても匂いの痕跡を防ぐように対策。しかも雨など視界が悪い時に攻めてくる。
こうなればだ。
武力がなければ防げない。一般人が徒党を組む強盗程度なら冒険者一人で片がつく。冒険者は銃弾程度なら防ぐ能力をもっている。それでいて家畜を盗むより、通常の仕事をしたほうが利益率が高い。そのために強盗をするのは一般人の力しかもたないやつばかり。
冒険者を雇えば、被害は極端にへる。冒険者は魔法少女にとって雑魚でもだ、一般人からすれば手の届かぬ強者だ。
雇わなければ家畜自体が消え廃業。
牛や豚は高いコストをもって市場へ流れる。贅沢品にして貴重品。強盗するだけで数百万以上の利益が確定する奇跡の命。虫みたいなものとは価値が違うわけだ。
このような事情で定期的な卸はない。安定した価格もない。そのときの販売価格が状況で変わってしまう商品。
逆に鶏肉は違う。狭い土地に安い穀物で育てられるために事業者は意外といる。また冒険者を雇わずにすんでしまう。リスクをおってまで、盗む価値はほとんどない。
その理由が生産拠点の移動だ。
車の減少により、事業者が市街地へと移転している。より近く、より早く出荷することを目的とした移転。馬車というインフラを理解したやり口。本来は郊外であった。匂いなどの問題もあり事業者が配慮していた。従来なら配慮したままだったが、その余裕が崩壊後からなくなった。
生産地から大規模な出荷を目論む場合、どうしても車の力が必要。それが税制上の関係と価格高騰、燃料やエネルギーの確保の問題。車に反応した魔物や魔獣の襲撃など理由は様々。それらの理由から拠点を郊外から住宅地へと移転させたわけだ。
結果として人々の目につきやすくなり、強盗が難しくなった。ただそれだけだった。
匂いという問題もあるが、事業者は近隣住民に低価格で鶏肉を販売してクレームを封殺。
ブロイラーの大量生産、移動距離の短縮。魔物や魔獣や強盗などの襲撃者を想定した武力がいらない。安定した供給が市場へされる。そのために価格は決めやすい。
100g 950円。
セール価格で870円。
(安いじゃない)
立野宮は魔法少女としての金銭感覚があった。月給数億だった時代での記憶。法人化しており、食品価格は基本経費で落とす。そのためか食費は金を使っていた。経費で落とさなければ、収入が上がってしまい、税金が凄まじくなる。半分とはいかないが、その近くまで持っていかれるのは精神的にきつい。
金銭感覚が億単位のためか、鶏肉の数百円単位の価格が低く見えていた。
今じゃ年収3億。激減したが収入は常人より上。
鶏肉は安いものと認識していた。
(この肉でいいじゃない、擬似肉なんていらないわ)
内心は思う。
とくに外道ジャージがもつ虫肉なんていらない。ゴキブリなんて人が食うものじゃない。しかも立野宮の視力はいい。表示内容が見えてしまっていた。
ゴキブリ
コオロギ。
一部うじむし使用。商品の中には寄生虫も混ざっている可能性がありますとの注意書き。
そのほかにも含まれる虫たちが主成分。そんな虫を混ぜ込んだ擬似肉。味が鳥の胸肉味。
もはやゲテモノの集まりだ。引き攣った表情を外道ジャージに向けていた。
しかも値段がだ。
100g 410円。
ありえない。
低価格といっても立野宮の金銭感覚では理解不能。
たかが数百円。鶏肉と値段が数百円程度だ。
立野宮はたった数百円の差でゲテモノを選ぶ外道ジャージの判断がわからない。
この男は魔法少女になる前とはいえ、立野宮を制圧してみせたやつだ。そんな男が数百円程度でゲテモノを選ぶほど貧困とは思えない。実力者は相応の賃金を持っている。そう信じている立野宮に相手の事情などわかるわけもない。わかる気もなかった。
対する化け物がもつ植物肉。
大豆のタンパク質を含めた、各野菜の混成擬似肉。豚肉味。
100g 450円。
こっちのほうが食肉として理解できる。
立野宮は静かに指を動かす。化け物がもつ肉パックの方へ向けた。さすがに化け物に指を向ければ、指ごとへし折られかねない、化け物は弱い存在だし、本人自体の戦闘力はない。だが周りを利用して何かしてくる。注意しながらも細々とした声を出す。
「そっちのほうがいいと思う...います」
声を発した瞬間、二人の視線が立野宮を見たからだ。
「植物肉だって、いつでもどこでも食べれるよ?それより虫肉の技術進化を試したくない?」
こちら側の言葉に反応を示す外道男。自分が手にした肉をキラキラした目で見てる。
さっきの立野宮の行動。敵意とか悪意があったわけじゃない。ただ自分の意見を言いたかっただけだ。
いかれた二名を相手に言葉がつっかえ、いつもの態度ができなかった。思わず最後が小さくなって、敬語になってしまった。二人の視線を避けるように俯いていた。
化け物はいかれてる。
そんなやつを相手にいつもの自分を出せなかった。
ザギルツを撃退した戦力は二人を除き、八千代へ返し。
今の一都三県でだ
弱いくせにだ。
悪が蔓延る社会で命知らずにもほどがある。
しかも二人の護衛はスーパーへいれず、店の外で待機とは正気じゃない。
外道ジャージと化け物。
この組み合わせだけなのは心にきつい。
立野宮は心労を抱えていた。
外道ジャージ自体に強みは感じない。隙があるよう見せているが演技だ。さっきも口を開けた瞬間には目線が向けられていた。何気ない日常動作に反応する察知力。外道に対して攻撃しようと動けばだ。戦闘開始する前に制圧されて、酷い目に遭わされる。
(どんな修羅場を潜り抜けてきたのよ!)
内心で愚痴りながらもだ。
自分が食うものは自分で選びたい。
この肉を買う作業は立野宮が八千代へ与した歓迎会らしい。その歓迎会で虫肉とか植物肉とかの擬似肉。自分が食ったことのない圧倒的安物。鶏肉なら数百円の差しかないのだから、そっちのほうがいい。もしくはだ。
隣の肉コーナーへ向ける。
魔物の肉。
種族ごとに一列ごとに整頓。
その中でも安い魔物肉。
100g 211円。
こっちのほうが安くて肉としてしっかりしてる。食いごたえも魔素も含めて魔法少女にはありがたい。食肉ようとして売られる魔物肉、それらは従来毒素を持っている。常人が食えば人体内臓への悪影響を強く及ぼす強い毒素。それらの毒素を徹底的に抜いたものだ。常人が食べても問題ない基準の毒素に薄めて販売されている。
こっちのほうが味は美味しい。
しかも毒素があってもだ、魔法少女とか冒険者とかに悪影響はない。むしろ常人よりも強化された体には都合が良いこともある。
魔素への耐性がない常人がだ、魔物肉の成分をそのまま取り込むには一際手間がかかる。
もちろん手間を極端に減らす商品はある。
有名なのは悪名高いもの。
ベイビーパウダー
パウダーの主成分として人間の赤子。赤子は加工手間も少なく、毒素の緩和を生命力で緩和してくれる。それでいて常人が取り込んだ際に副作用が少ない。
さすがに一都三県の倫理観に触れるために、人間を食品として加工するのは禁止されている。
そうなると魔物肉はそのまま食えない。特殊な加工方法にて毒素を抜き、肉としての要素を追求した商品。その商品が別棚に陳列されている。
思わず指を別棚に向けかけた。
だが牽制されることになった。
「天下の魔法少女様が、魔物肉を選択するなんてことはないよね?」
外道ジャージからの牽制が嘲笑とともに入った。こちら側が反論しようと動いた。魔物肉は毒素を抜いたとしても、完全ではない。そのため体の弱い子供や老人が食べれば食中毒や魔素からの影響を受けてしまうことがある。念のために年齢制限が用いられているが、貧困家庭とか年収が低い人間は安全性より価格をみて買ってしまう。
その毒のリスクは自己責任
年齢制限も所詮は自主規制
その内容から反論しかけたが。
「フレイムスピアさんの歓迎会なので自由にする権利はあります。ですが今後の仲間として食卓を囲む以上、普通の肉にしたほうがいいと思ってます」
化け物も応じてくる。懸念を眉間に皺を寄せる形で反応してきた。
小さな動作一つで牽制が早すぎる。
この二人何をしてきたら、恐る恐る動く人間の反応を予測して牽制できるのか。思わず絶句。立野宮は勢いを失い、指を下ろした。
自分のための歓迎会。
騙し討ちで、策略をして、命を失うぎりぎりの状況下まで追い込んだ。そのうえで仲間に取り込んだ化け物。被害者である立野宮を歓迎だなんて発想とびすぎだ。呆れつつ二人の関係性を探っていく立野宮。
化け物の配下であろう外道ジャージ。外道が化け物に気軽に話しているくせに、一線を超えていないのが違和感。
化け物も呆れているが、外道ジャージの一線を超えていなさそう。
この関係性がわけわからない。
この二名が立野宮の歓迎会するという。
ならばと。
立野宮が勇気を振り絞る。
「私の歓迎会なら、食べるものぐらい金を出すわ」
そう言ってだ。二名の顔を伺う。勇気を振り絞ってもだ、怖いものは怖い。化け物はいかれてるし、外道ジャージは頭のネジが飛んでる。この二名が交互に互いの顔を見合わせていた。
「歓迎会なのに、主賓に金を出させるのはダメじゃないかな?」
まともなことを言う外道ジャージ。首を傾げているが、手にもっている虫肉を掲げ、強くアピールしている。それでいて見合わせた化け物も側頭部に指を当てていた。
「主賓に、お金を出させるのは代表としての立場が」
そこは常識があったらしかった。
植物肉は許せる。
立野宮は植物肉の味気なさは好みじゃない。一度だけ食べたが美味しくないが許せる味ではあった。しかも当時と違い、技術は進化しているだろう。最初に食べた時期が子供、年齢一桁の記憶。今は15歳だ。味覚も技術も変わっているはず、だから許せる。
許せないのは虫肉。
ゴキブリは人が食べるものじゃない。そもそも虫が選択肢に入るのはないだろう。
ゴキブリの形をしてなくても、主成分として入ってるので拒絶感が凄まじかった。自宅で現れないよう魔法結界を張っている。益虫だろうと害虫だろうと虫は虫。
存在そのものが敵だ。
「魔物肉は食べれる人と食べれない人がいて不公平なのはわかったわ。でも歓迎会だっていうなら、お金は出すから普通のものを食べない?」
提案した。
立野宮は額に汗をかきつつ、必死に身振り手振りで語っていく。
「植物肉もいいとは思うわ。でも食感とか味付けした際の違和感はつよいわ。見た目が一緒でも味とかがやっぱり違う。やっぱり偽物だなって意識がむいちゃって食事が楽しめないのよ」
そういってだ。
立野宮は鶏肉コーナーを指差した。
「鶏肉なんてどう?」
安いし。
「安全よ。魔物肉みたいに毒素自体がないから安全。植物肉みたいな味と食感を本物っぽくしたパチモノじゃない。鶏肉は鶏肉。本物の肉よ」
目がぐるぐると回り出したように体が熱くなる。
絶対に虫肉は食べたくない。
その危機感だけで突き動かしている。
金は立野宮が出す。それなら問題はないはずだ。主賓だろうと関係ない。虫肉なんて食べるぐらいなら金出して鶏肉食べる。
そう思っているとだ。
外道ジャージと化け物の視線が冷たくなったのを感じた。明確な常識はずれといった感じの反応。呆れすら超えた軽蔑の表情だった。
「贅沢」
化け物が軽蔑した目でいった。
「わがまま」
外道なジャージが冷酷な表情を浮かべて言う。
ほぼ同時だった。化け物も外道ジャージも人様を侮辱するのは一緒。
たかが鶏肉のためにだ、ここまで言われるわけだ。ぐぎぎと歯を噛み締めそうになった。
いかれた二人組になんとか言い返そうと頭を回す。
「君のいった鶏肉の安全性についてご存知?」
その際に外道ジャージが冷酷な表情を続けたまま、口を開いていた。
「昔は鶏肉は危険、薬物まみれだっていわれてた。大量生産するために、成長速度を早める品種、餌。低コストのための飼育環境とかも叩かれてたしだ。ブロイラー生産は可哀想とか言われてたのにだ。今じゃ安全食な扱いだもん。時代の流れは早いものだよ。食糧危機と価格高騰が人々の意識を変えたのかな?」
それは染み染み語る姿。語るうちにだ、ノスタルジックな思い出にも浸り出したのか。天井を見上げ出す外道。
過去を懐かしむような吐露。
「鶏肉は今も昔も変わらない。変わったのは価値観のみ、社会を動かす風潮はこんなに変わったんだね」
何をいってるのか立野宮には理解できない。
なんか衝撃を受けた様子だった。
あの外道が遠い目をしている。
「時代は変わる、価値観は常に変化する。環境に合わせた生き方をしなければ、いつだって負け組になる」
それは本音だろうか。
立野宮に向けたものだろうか。
目線が天井を向いていて、外道ジャージは勝手に語り出してる。だが口を挟ませない緊迫感があった。
(たかが鶏肉ごときで?)
混乱しかけた立野宮にフォローするように化け物が口を開く。植物肉を元の棚に戻し、手のひらを向けてだ。
「貴女の言葉は一都三県の常識。でも、あたしたちの常識じゃない。環境に合わせていく大切さを貴女はしっていない。価格を見てください。植物肉の価格と虫の混合肉の価格。この差に数十円のコスト差しかない。でも鶏肉は倍の価格があります」
だからなんだ
それを買えるための資金はいくらでもある。一生遊んでも暮らせるほどの資産はある。貯金税で年間2、3パーセント抜かれるが、それ以上に投資信託が稼いでくれる。毎日の費用を減らし、贅沢をけずり、生きて残す資産になんの価値があるのか。
余裕があるのに、余裕を使わない人生なんて楽しくない。
「お金があるからお金を使う、素晴らしい考えです。でも貴女の価値観は贅沢なもの。安定した文明を維持した社会の考え。恵まれた人の意見でしかない」
化け物は静かに語ってきた。
「本物も偽物も肉は肉。栄養素や衛生管理がなされているなら選ぶのは安い方です。肉の食感や味のために高いものを買うのは合理的じゃない。味を楽しむ時代は終わったんです」
それは贅沢だと。
金や贅をなせる、持つものの発言だと言われたわけだ。
「何もない環境のあたしたち。何でも得られる環境のフレイムスピアさん。ここまで差があるだなんて思ってませんでした」
強い眼差しに飲まれていく。
「植物肉だって贅沢なんです。大量生産工場などが集約した一都三県のみの食べ物。普段肉なんて食べれません。植物だけを食べたいわけじゃないのに、植物だけしか食べれない。自給自足と地方内の売買で確保できるのが植物のみです。一都三県に来た時に肉を購入しますけど、毎回じゃありません。価格をみて所有する資産と相談して買うんです」
資産は無限じゃない。
「食料品だけが必要なわけじゃない。何が起きるかわからない。先の見えない不安への対処として資産を残さないといけません。贅沢になんか回してられないのが実情なんです」
食料品にかけるコストを下げてもだ、別に資金を回す必要がある。
そう語る化け物の目は笑ってない。
思わず後ずさった立野宮。
「あたしたちの仲間になった以上、こちらのルールに合わせてもらいます。時に納得できないかもしれません。ですが我慢した相応の対価は別の形で還元します」
化け物は言う。続ける。
「生きるってのは自分の価値観を壊し続けること。思い込みの境界をすて、自分がこだわる過去を壊してく。常にあたらしい環境へ対応しなければいけない」
そう冷たい目線が届く。
化け物の目が怖い。
そして黄昏から復帰したのか、外道ジャージもこちらへ視線を向けてきた。
「懐かしい気分になったよ。世代間のギャップに久しぶりに浸れたよ」
こっちは笑ってた。
笑ったまま告げてくる。
「虫が食べたくないだけだろ」
「・・・そうよ」
わかってるなら察してほしかった。外道は勝手に察して、場をかき乱す。相応とを聞き及んだ化け物の反応が怖い。
その言葉に化け物の目づりが少し上がっていく。贅沢と我儘だとかいう価値観。その化け物の理屈と立野宮の理屈は合うことはなさそうだった。
「虫ですら貴重です」
そう文化圏と非文化圏との違い。食料に関しても認識のずれがあること。虫すら許容するのは化け物の怖いところ。弱者だから生きるのに必死なのか。それでも所有する武力を思えば、贅沢などいくらでもできるはずだ。
鶏肉か植物肉か虫肉か。
この程度にも互いの意識が違う。
居心地が悪くなっていく。針の筵の気分だ。重苦しい空気に呼吸を自ら意識して行う立野宮。そんな立野宮に空気を読まない外道の言葉が入ってくる。
「SDGsだよ」
笑って外道ジャージが言葉をなげかけてきた。
「持続可能な社会をするための意識改革の一環だよ。生産できる食料品には限界があって、人口に対して食料がおいつかない危惧感。生産する食料だけじゃ足りないから、勝手に増える虫くって生きようって発想のやつだよ。」
その思想は理解してる。
昔にあった持続可能な社会。現在も取り組まれて社会形成されている。リサイクルもそう、食品ロスもそう、取り組まれた社会はより良い無駄の削減に勤しんでいる。
でも、それとこれとは話が別。
俯きながら、自分の考えをのべる。
「虫なんて食べたくないわ」
「贅沢だなぁ」
そう染み染みと言う外道。ただ一方的な否定はないようだ。何が贅沢かは人それぞれの価値観。他人にとやかく言われることではない。
そして外道は手にした肉を棚へ戻した。動作の延長線で横目を化け物へ向けた外道。
「フレイムスピアは処分しておいたほうがいい」
自然に冗談を言うように告げられる。そのくせ目が冷め切った外道の目。ジャージ男が後ろに手を回している。その体に隠れたために視界で追えない。ただ危機感が心を埋めている。
たった肉一つでだ。
すぐ処分しようとしてくる外道。
人前、スーパーでありながらだ。処分とかの言葉を出してしまうのは常識はずれだ。
だが外道の視線を遮るように、化け物が手のひらを外道の顔正面に広げていた。化け物の細い手。その手のひらの向こう側には外道の視線があるのだろう。互いの視線が化け物が遮る手に向けられていた。
「浅田さんに権限はない。あたしの責任下にあるものを決めつけないでください」
それでいて説き伏せるようにだ。化け物は横目で外道を見ている。強い抗議の意思が見えた。ただ外道は降参というばかりに小さく両手をあげた。
「冗談だよ、いつもの軽口さ。ちょっと処分したくなっただけだから。院長の許可なしに処分しようとは思わないよ」
そう嘲笑していた。
目が見えなくても、下に見える口端のゆがみは鋭かった。
この外道はいかれてる。
この外道を制御する化け物もいかれてる。
そもそも茨城勢力みんないかれてる。
立野宮はふと疑惑がよぎった。
外道のことを浅田って化け物が呼んでいた。立野宮が眉間に皺を寄せた。記憶と違う名前だからだ。思わず口に出してしまう。
「高梨って名前じゃ」
そう外道の名前は高梨って記憶していたはずだ。ロッテンダストの上司。そう外道が初対面で行っていたはずだ。
「誰?高梨?よくわかんない」
首を傾げていう。視線は化け物の手で隠されていて見えない。顎が傾げることで動きが想像できていた。
ようやく気づいた。外道は平気で嘘をつく。特定の名前すら嘘なのだ。息を吸うように嘘をはき、行動に躊躇いがない。
「所詮名前なんて記号だよ」
高梨だったりと名前を変えた外道がいう。きっと浅田という名も偽りだ。この外道が語る言葉は全部嘘にしか聞こえない。行き当たりばったりの言葉。信用ならない。
「そういう君は嘘もなければ、真実もない。要領よく生きてるだけじゃないか。そこには信念もなければ、情熱もない。夢もなければ希望もない。時代をうまく生きてるだけ」
そう否定されて終わる。
たかが買い物ごときだ。
この程度になにをいっているのか不明。でも立野宮はバカじゃない。黙って聞き流すだけだ。ただ立野宮の反応にだ、外道は退屈そうな様子に変わっていた。
「君つまらない」
それは人間を見る目でなく。
物を見る目だった。立野宮を視界にいれることすら嫌になったか、外道は化け物へ視線を向けた。こちらに横目すら送ってこなくなった。
「院長」
「はい」
静かな問いに短い答え。
「ここの支払い奢ってあげるよ。好きな物いれてカートおいといて。終わったら呼んでくれればいいよ」
そう告げて背中を向けた。立ち去ろうと外道が動き出す。
ただ外道は完全に立ち去る前にだ。
「君は何のために生きてる?」
その問いに答える気はなかった。答えようとすら思わなかった。ただ、大きなため息の音。外道が吐き、歩き出した。
一言だけ残して遠ざかるジャージの背中。ただスーパー内を探索しだしたのだろう。離れた理由として、立野宮と同じ場所にいたくない。それだけはわかる。立野宮も外道と同じ空気は吸いたくない。
怒りはない。
感情はある。忘れていたものを呼び起こしかけていた。今も心に突き刺さる棘。かつて自分に問いかけた謎がだ。この瞬間だけ過去の自分が脳裏をよぎった。心の棘が訴えている。
自分は何がしたいのか。何のために生きてるのか。
心の片隅にあった棘がだ、思考を促させていった。
考えなくても成功しているし、酷い目に遭わされても命は繋ぎ止めている。なんだかんだうまく行っているために、対処も必要なしと考えてしまう。
そうして棘は思考の海に沈んだ。
無駄に悩む必要がなかった。




