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悪なおじさん少女と優しい世界 7


 ゆっくりと都内を歩く。戦場となった都内。車道はもはや馬車や数少ない車がひしゃげて、元の形を忘れた廃棄物と化していた。さながら廃棄私物処理場といったものへと公共の場が変化している。



 その車道から歩道へ移動。十分ほど歩けば、先ほどの戦闘を体験していない人混みがあった。壊れていない道、ガードレールも車道を行き来する馬車も平然と営みをこなしている。ただ戦闘があった道先では軍隊が車道や歩道を封鎖。その先へ行かせないようにも対処済み。そのせいか平和であるが人々の動きは慌ただしかった。焦る様子を人々は残っている。情報が伝達されていないのか、戦闘行為があったことぐらいしか情報は流れていないのだろう。




 都軍が暴走したことすら半信半疑の人たちばかり。


 人々は知らない互いの顔を見合わせ、情報を集めることに固執。また車道から離れ、それらを挟む歩道の脇を移動している様子。または立ち止まりビル内のモニター、立ち止まってスマホの画面に夢中だ。誰もが笑みを浮かべていない。




 

 僕が足を止め、顔を上げる。そこは一つの店の前だ。喫茶店だ。個人が店の看板を借りて営むフランチャイズ。僕が店に入れば、自動カメラが天井につるされているが目に入った。じろりと赤色のセンサーが僕を認識し、点滅。


 その後放送が入った。



 機械音声。



「お客様、右の発行機から番号札をお取りください」


 目を向ければ番号を発行するための機械。自動販売機よりも小型。飲食店の落ち着く自然を装ってか、淡い肌色で塗装された本体。大口のタッチディスプレイ。反射がほぼない、ノングレアディスプレア上に一人の客、複数の客。席の種類などが表示。ディスプレイの下に番号札が出てくる発行口。



 僕はカメラに向け、横に手を振った。



「待ち合わせだよ」



 機械音声に向け、答えると数秒の時間がたった。その後すぐに機械音声が天井から届く。



「店内の注文モニターにて、お客様の画像を共有してもよろしいでしょうか」



「いいよ」


今の時代は人件費カットのため簡単なAiシステムを取り入れている。労働者人口が少なくなりすぎて、人件費が高騰。また接客などの仕事を労働者が避ける傾向もあった。飲食店の売り上げ、商品の単価引き下げなどもあって案内人はいなくなっていた。注文も音声入力か席ごとに設置されたタブレットでの操作。


 その際待ち合わせとかがあった場合。先に入っていた人がすべきことがある。


 入り口で待ち人がきたさいカメラが写真をとる。そのご店内の各席のモニターに画像を共有。先に席に着いて待ち合わせている人が画像をタップ。自分の待ち人として意思表示。そうなると番号が簡易AIによって、後から来た客に番号を案内。もしくは店内の待ち席に設置されたディスプレイに表示される。

 

 「16番席へ」



 機械音声が短くつげ、僕はうなずいて見せた。



 両手をジャージのポケットにいれて進む。もくもくと食事を営む人の姿はすくない。本当に少なく、先ほどの戦闘行為があるためだろう。ゆっくりと歩めば案内されたテーブル席だ。大きな柱によって通りから死角。また壁際もあって人眼がつきにくい。



 待ち人と会う以上、表情を取り繕う。できる限り礼儀正しくするため、背筋を伸ばしておいた。


「待たせました」



 僕は薄気味悪いほどの愛想を浮かべて相手をうかがった。タブレット上にある僕の画像をじっと凝視していた相手は、声をかけられ体が跳ねた。びくりとソファーの背もたれに背中をぶつけ、すぐピンと背筋を伸ばしていた。タブレットの画面で連れ添いだという項目にチェックが入った僕の画像。


 この僕を不安そうに見る相手。



 これも少女だ。


 薄い桃色の前髪が視界をふさぐほど伸びていて、相手の容姿自体は見えない。また全体的に長くしているのか、心霊番組に出てくる亡霊にも見える。しかし口元や頬の引くつき具合からか表情ぐらいは予想できた。おどおどした様子すら感じ取れるが、それにしては服装が真逆。炎のシンボルを背に描いた赤のジャケット。ジャケットの下にきるシャツも赤。これもシルクとか言われる高級な生地を使用したものに見えた。さすがに服装の生地などは特定できるほど知識はない。だが見た質感は高品質そうだった。




「待ってない、あなたは高梨さんでいいのよね?」



 不安そうに見る相手が数舜遅れで反応。それでいて素性を尋ねてきたわけだ。もちろん僕は大人だ。相手の会話に合わせることは得意。



「ええ、わたくしが高梨と申します」



 ジャージ姿で、礼儀正しく見せる表情の笑み。胡散臭いこの上ない。せめて格好もまともであれば話は違うのだろう。スーツを着ることも多少考えたが、この程度の相手に気を遣う気もなかった。




「前回の依頼について何やら意見があるとのことでしたが」


 僕はそう尋ねながらテーブルをはさんだ向かいの席に座った。どすんと座り、腕を組む。挑発的に頬を尖らせ、相手を見やる。その瞬間相手の前髪がふわりとあがる。一瞬の熱風がこの席、僕相手に届いた。


 魔力による興奮状態だ。待ちわびていた客人を前に表現豊かな様子。



「聞いてない、あの依頼!7大悪が相手だなんて聞いてない!」


 感情が一気に高ぶったのか、相手は魔力が呼び起こす風圧によって前髪がぱさぱさ揺れている、大きな両目を公開。年相応の幼さがありつつも、この僕を睨みつけている。強力な魔力がこの席にのみ展開。


「言ってませんからね、教えてません。それが何か」

 

 それでいて僕は腕を組んだまま偉そうに答えた。相手が僕の態度に腹を立てたか、頬筋に血管が浮き出てくる。感情制御が苦手のようだ。



 この少女。


 これは高梨に命令して、ある依頼をさせた件。今の僕は高梨と偽装して、この場にいるけどもだ。本物の高梨の素性や姿など目の前の相手が知るわけもない。



 この場において僕が高梨で、相手側の文句の元凶に他ならない。




 その元凶になった依頼。鵺の天才科学者を襲撃すると見せかけた、フォレスティンの幹部殺害をもくろんだ依頼。ビジネスホテル襲撃事件を起こした魔法少女だ。その際ザギルツ、フォレスティン、鵺の3悪同盟が結成された直後に爆破が起きた。魔法攻撃、炎系統の爆発魔法による襲撃。



 その魔法の担い手。

 


 魔法少女フレイムスピア。



 実力としては上級魔法少女クラスである。炎系の強力な魔法を使用。炎属性限定とはいえ、範囲魔法から単体の相手にいたるまで攻撃魔法のレパートリーが多い。


 欲しかったのは範囲系の強力魔法。それにもう一つ人間性。


 求めていた人物像とも一致。



 短気で感情的で沸点が低すぎるという弱み。そのくせ情報収集に難があり、基本的に他人を信用しない。他人を信用しないくせに、誰かの意見は簡単にうのみにする。


 そういうチグハグな人間を探して、見つけたのが目の前の少女。



 僕が策略をし、まんまと10億でつられたわけだ。たかが一発の魔法。損害賠償もなく、魔法一発で10億稼げる依頼など怪しさ満点でしかない。しかし実力があって過信するやつほど、受けてしまう。自分の魔法によって敵対者が消えることを確信し、反撃を予想しても距離すらある。そういう逃げも攻撃も準備ができてもだ。


 上には上がいる。その事実を知ってても関係ないと思いあがるタイプ。


 僕が一切めげずにふてぶてしい態度をそのままにしているとだ。相手が頬を引くつきが強くなり、敵意が濃くなってくる。


「よくもだましたわ!今どんなことになってると思ってんの!」



 相手の叫び。感情が一気に爆発して口が動き出す瞬間。僕は片手を前にして、制した。多少は演技よく敬語を使っていこうと思った。だが相手が感情を爆発させた以上、面倒くさくなった。


「君のおかれた状況はしってるよ、フォレスティン、ザギルツ、鵺の3悪同盟に目をつけられたっていいたいんだろ?それがどうしたのかな?たかが7大悪の二つと地方悪一つ程度じゃないか」


 取り繕うのをやめたが、相手は気にした様子がない。それよりも怒りが頭に沸いているのだろう。


「その状況がどれほど危険かしってる!?」



「知らないよ」


 冷めた物言いで応じる僕。冷酷さすら表情に乗せ始めていく。相手がヒートアップしていくたびに、冷たさがます僕の態度。


 僕は頬杖を突く。テーブルに肘をのせ、制した片手はタブレットへ伸びた。備え付けのタブレットの固定は回転式だ。こちら側に向けて、適当にメニューをタップ。注文をしておいた。僕の分だけ頼めば、画面を相手側に向けなおす。



 


「君も頼みなよ、おごってあげるよ。今日生きられるかわからない魔法少女だ。大人の甲斐性ってやつをみせてあげないとね」



 そのあおりに一瞬で火が付いたか。


 一気に髪が赤く変化していく。正しくは仕掛けていた。僕への殺気、敵意が満ちた場。このテーブルのみで魔力が広がらせず、攻撃範囲をしぼる技術はすさまじい。こちら側へ向けた手のひらには一気に魔力が集結。


 服装も魔法少女のものへ一部変化もしていた。



 しかし僕のほうが一手は早かった。


 相手の反応が変わったと同時に身を乗り出していた。伸ばされた手の肘を拳で殴打。側面へ射程を移動させ、膝をテーブルに乗せた。また僕が伸ばした手は相手の左目の付近まで伸びている。まぶたが怒りで大きく開いた一瞬をついた凶行。まぶたを閉じても指が邪魔をする。


 少しでも動かせば左目に触れられる。


 瞬きも許さない凶行を僕はしていた。



「左目とさよならは?」



 僕は残酷な笑みをしていたことだろう。相手が硬直し、事態が呑み込めていない様子。そんな中僕が語り掛ければ、相手の時が動き出した。瞬きもせず、向けられる視線。相手の魔法少女化は止まっており、中途半端な形になっていた。



 先ほどの怒りは、殺気は霧散。



 そこにあるのは未知への恐怖。



「左目にバイバイしなくて大丈夫?そのまま無神経に感傷抜きにして潰そうか?」



 静かに問いかけても息をのむ音しか届かない。少女の表情は事態を見守ることに徹したのか。まだ片目を失う恐怖があるのか、左目付近には涙がわいてくる。瞬きができない乾燥防止か暴力への忌避か。



「お話しする?さようならゲームする?殺し合いでもいいよ。何でもいい。僕は弱いからね、弱いなりに全力を尽くして君を傷つける。魔法少女フレイムスピア、この僕を相手に片目を失う覚悟はあるかな?」




 ゆっくりと少女の口が開かれる。



「…ない」


 相手の瞳に映った姿。


 凶悪なまでに冷酷さを示すジャージ姿の僕が映っていた。


「ならどうするかわかるよね?」



 嘲笑を濃くしたまま尋ねれば、相手は魔法少女化を解いていく。解放しかけた魔力が霧散。戦闘意欲を消失。それを確認した後、僕はゆっくりと指を引いていく。



 その行動に相手が安堵しかけたときだ。引いていった指を深く踏み込ませた。



 爪が左の白目部分に突き立った。薄皮一枚といった感覚で爪が白目の表面を小さく切っていく。


「ん!!!!!!っ」



 相手の強い反応。激痛による表情の苦み。絶叫をしたくても無理やり閉じ込めた相手の口元。僕が向ける狂気をようやく理解したか。否定するように、媚びる視線が届く。


 調子に乗られても面倒。


 左目は奪わない。失明はさせないが、傷はつけておく。そのまま軽く滑らせて、白目を爪で切った。多少深く、かといって眼球内の硝子体などが出てくる深さではない。軽く表面を切りつけただけだ。その切り口を瞼の内側まで広げてしまった。


「い゛!!」


 相手の口元を無理やり抑え、悲鳴をこぼさない。一部表にでてしまったが、飲み物をこぼした程度にとらえられる程度の音量。悲鳴がやみ、嗚咽が口元を抑えた手のひらにあたる。


 赤い血液が垂れていき、視界を赤が染めたことだ。僕はその行為によって満足。口元から手を離した。そのままテーブルに乗せていた膝を戻し、ソファーに背を預けた。



 左目を抑え、テーブルにうつむく少女。


「どうしたの?はやく君も注文しなよ」



 僕はそう尋ねて笑う。満面の笑みだ。それとは対照的に唇をかみしめ、表情が暗く落ちた少女。左目を抑えた指の隙間から赤が垂れていく相手。それでも僕の声を無視できないのか。右目にも垂れ流す涙。恐怖と痛み。この僕を見る目が確実に狂人を位置付けるほどの表情変化。


 無視できないのか。抑えながらタブレットに触れた。



 そして相手も注文。



「うっうっ」


 注文を終え、ふたたびテーブルにうつむきだした。垂れる左目の赤、涙が右目から漏れ出し、テーブルを汚していく少女。



「そんなにおごってもらえてうれしいのかな?感謝の涙をわざわざ2種類用意してくれるなんてね」



 僕はふざけながら答え、相手は苦痛の嘆きを残すのみ。




 やがて注文を乗せた、配達ロボットがやってくる。現在の注文を届けるのもロボットだ。丸みを帯びた形状、地上から1メートルほどにのびたボディー。頭部と思わしき部分は御盆のように平ら。四方につけたセンサーで距離とものを測定。人が通りにいても接触せず、壁にも触れない。


 その配達ロボが僕の席の前で止まった。


「注文の品です」



 感情すら感じる機械音声だ。もはや人間の声と判別が難しい。そこまで進化したロボットから注文を受け取った。あとは重量センサーが頭部にあるため、品物が受け取られれば自動で戻っていく。そうして戻っていくロボットの背中を見守っていく。




 注文したのはコーヒーだ。



 砂糖を大量に入れたコーヒー。湯気すらただよう高めの一杯。



 香りをかぎ、僕は首を傾げた。



「コーヒーの香りなんてわかんないや」



 僕は相手に笑いかけたが反応は帰ってこなかった。わずかな嗚咽がテうつむく少女がこぼすのみ。やがて少女の注文を配達ロボットが持ってきた。うつむき、痛みによる嗚咽に夢中で気づく様子がない。だから僕が受け取って、少女の前に置いた。



「麦茶だなんて健康的だね」



 茶化してもへんじはなかった。


 僕はそれでも問いかけていた。



「さて君の要件は終わりかな?喧嘩を売りにきたと認識でもいいのかな?」



 そう尋ねれば相手はうつむいたまま顔を左右に振った。


 最初は敵意をみせ、魔法少女化までしようとした相手。もし僕がロッテンダストの姿であったら敵意すら見せなかったことだ。この僕がおじさん姿で弱そうだった。だから牙をむきかけた。


 結局人は見た目だ。


 その見た目に沿わず、残酷な暴力を見せれば相手は牙を収める。強者と弱者。ただの一般男性おじさんに片目、白目付近を爪で裂かれた。この事実は永遠に消えない。フレイムスピアと呼ばれた魔法少女は年相応の姿を嗚咽をもって示すのみだった。



 そんな相手に慈悲を見せようと思った。



「実は僕」


 コーヒーをのみながらだ。




「ロッテンダストの上司なんだよ」



 慈悲だった、嘘でもあるけどもだ。


 僕がロッテンダストであるけれどだ。今の姿である以上、ロッテンダストオジサン説を唱えられない。その事実を隠し、嘘を垂れ流す。でも真実味のある嘘だ。その言葉に大きくはね、顔を上げた相手。乾きかけた赤のしずくが左目を抑えた手甲についている。


「…あの、外道魔法少女の…上司?…ロッテンダストは高梨が部下って…えっ、どういう」



 困惑があった。嗚咽と恐怖とにじった濁りきった表情に混乱が見て取れる。ロッテンダスト状態のときに確かこうも言った。


 高梨は部下だと。



 でも高梨は上司であるという今回の言葉。



「あのハートフル魔法少女は平気でうそをつく」


 僕は平気でうそをつき、相手をだます方向へもっていく。口元を柔らかくゆるませつつもだ。表情を微笑みにかえてもだ。



 表にある僕の姿など、裏側の悪意を隠す手段でしかない。



「…あんたも外道魔法少女も同じようなやつじゃない。どっちが上司なのよ」


 数少ない勇気をみせ、なんとか言葉を振り絞る少女。恐る恐るといった態度を隠そうとしている。だけども手に取ってわかってしまう。所詮は浅知恵、悪意あるものを相手にしたことがない。



 たかが怪人を相手にしたぐらいの経験だろう。怪人が率いる組織ぐらいの悪意しかしらない。


 人間は、怪人よりも弱いが強い。悪意の隠し方も笑顔で隠す。本気で楽しんで、裏切ることを容易にする。怪人ですら切り替えが難しいのを人間はたやすくする。


 しかし褒めれるところもある。


 この僕がいったことを一切信用していない点。疑り深い点は人間らしくて高評価だ。



「同じ組織にいるんだから当然。僕は信用ならないやつだよ。外道魔法少女が僕こと高梨を部下といい、僕はロッテンダストを部下といってる。どっちかが嘘をついている。でも真実はどちらかわからない。なら答えは簡単。どっちも嘘をついているってね」



 楽しんで悪事を働くだけだ。立場の違いと優位的な状況で相手をおちょくっているだけの平和的な奴だ。



 

 世の中実力主義。



 そこに嘘も本当もない。



「じゃあ僕は何者かさ、君にとってそんなくだらないこと重要かな?君は言いたいことを言いたいだけなんだから」


 ロッテンダストが外道魔法少女であるならばだ。その上司であるとした僕は何者にみえるか。外道が弱者に従う未来など見えるだろうか。第三者であれば、ロッテンダストの性格や態度の悪さをみればだ。


「…あんたたちの組織しらないから。部下の失態は上司の責任。責任を取る立場の人間にクレームをいれるのは当然でしょ。」



 その少女の態度は我慢をして述べたようだ。言葉ですら無理やりふるった勇気くささがある。部下の失態は上司の責任。その理想的な思想は正しい。



 だが違う。


 

「ロッテンダストが怖いんだろ?」



 突如として煽りだす僕。嘲笑を作り、両手の指を組み合わせた。悪意交じりの頬の吊り上げ方。口端を大きくゆがませる。



「この僕が怖いんだろう?何が上司の責任だ、部下の失態をどうたらこうたら並べるなよ。最初に僕と会ったときに文句をいってたじゃないか。被害にあって、僕が怖くなっただけじゃないか。怖い奴に直接言えない雑魚が」



 相手の言動の矛盾。


 最初の対応は高梨と偽った僕への文句があった。それが左目を傷つけてから社会人の部下や上司の責任問題に逃げた。その理由は簡単。


 この僕が怖いからだ。


 ロッテンダストのことも怖いからだ。


 交渉役を別人にさせたいだけだ。


 危険な相手に直接文句をいうのであれば、別人の何かにいいたい。もしくはこの場をやりすごしたいという逃避行為そのものだ。文句をつけているうちは現実を直視せずにすむ。


 ロッテンダストも外道。また相手からすれば自分の目を傷つけた僕も外道。


 外道な魔法少女とおじさん状態の僕。


 どっちも僕で、どっちもろくでなし。そんなやつが目の前にいる時点で相手は対応を変えざるをえなかった。その矛盾の言い訳が上司部下責任問題というわけだ。


「君が感じる痛みはロッテンダストも通った道さ」



 そうやって口端を大きくゆがめていく僕。その姿に絶句した相手。思考が停止でもしたのか。大きく見開いた右目は閉じることをしなかった。



 相手の考えが手に取るようにわかる。



 ロッテンダストにも同じことをした可能性がだ。この僕がした可能性もあるし、組織全体がやった可能性もある。



 そのわずかな閉塞感。空気すら重苦しい中で、やがて告げられる言葉。



「…あんたたちは悪魔よ」


 誰が加害をしてもだ、組織がしてもだ、真実はどうだっていい。そういう連中とした認識を持ってくれたようだ。

 


「いくらでも言えばいい。背負ったものと立場の違いでしかないからね。所詮、一介の魔法少女ごときが理解できるわけがない。君なんかどうなろうが知ったことでもない。今回の言い分が何かも聞く気がない。こっちは10億だして、依頼を出した。君は引き受け、実行した」



 事実を口頭で並べていけば相手は下唇をかみしめた。




「君の自己責任だ。ザギルツ、フォレスティン、鵺の3悪同盟の報復におびえ続ければいい。寝ている間も学校生活の間も就職活動の間もなんでもいい。未来や過去につながる社会生活の間に起きる行事。それらすべてが報復によって台無しになるかもしれない」




 コーヒーをのみ、喉元を潤す。潤しながら侮蔑の目線をつくっておく。



「家族はどうなるんだろう。両親は?兄弟、姉妹は?今の恋人は?将来の伴侶は?できるかもしれない子供は?友人は?報復によって狙われるかもしれない。君とかかわったものが奪われる覚悟は?」



 事実を強く。


「普通の日常を失った気分は?」


 残酷に。


 愉悦気味に語れば。



 相手の右目に涙がたまっていく。不安になりつつ、青ざめていく様子。感情と現実への恐怖が再発。せっかく乾きかけた血液が、ふたたび手の間から垂れだした。興奮状態によって、凝固しかけた傷口が開きだしたのだろう。



「たった10億で失い、君に残るのは何だろうね」


 現実を突きつけ、再び不安を増長させる言い分。



「うぅぅぅぅ」


 嗚咽が強くなり、不安からか僕のほうすら見なくなった。うつむき続け、涙と血液が入り混じった池

がテーブルにできていた。



 僕は背もたれに身をあずけて見守った。少女の様子をじっと見守った。侮蔑も愉悦も感じない。どうでもいいとすら感じるほど、冷めていた。



 最悪なことにだ。


 3悪同盟はどの組織も軍事力に優れている。支配地域も不安要素はあれど、比較的安定している。


 それでも組織ごとに特徴と問題はあった。だが目の前の少女が逃げれる隙になりはしない。どの組織も怪人を100体以上そろえる、巨大悪。ただザギルツの場合は、僕が暴れたことで結構被害があるだろう。六同社襲撃事件の際、下級怪人が暴れていたやつを消した記憶。凶悪面の怪人もそこそこ暴れた記憶もある。


 そのせいかザギルツの所有怪人は100体を切ってるだろう。詳細はしらないが、ザギルツの生産能力をしったうえでの計算上の話。その数字上は100体いない。



 フォレスティンも上級怪人一体僕が倒したけどもだ。



 鵺はいたって平穏かつ被害なし。



 大首領権限で自分の組織は攻撃しない。



 それでもだ、魔法少女フレイムスピアが3悪組織相手に逃げ切ることは不可能。変身後も変身前も悪は手段を選ばない。選ぶ相手は常に正義の味方が立ちふさがるときだけだ。



 この僕ですら相手が正義であればルールを守る。不意打ちなどしない。不必要な暴力は一切しない。



 正義はそれだけ悪にとって優遇される。



 魔法少女フレイムスピアは正義ではない。



 どれだけ被害がでようと、確実に敵対者は殺す。



 フレイムスピアが追い詰められた依頼。すべて僕が原因ではあるが、そのための大金は与えた。逃げるための命は一度救った。ラフシアに拘束されたものを解放までもっていった。これができる限度のものだろう。





 救いの道などどこにもない。





 

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― 新着の感想 ―
[一言] ピンクの子にとっては高すぎる授業料でしたね この世界に正義の魔法少女はいるんですかね? 魔法少女連盟の動きも気になります。
[一言] ケチなこと言うと10億で受けるなら5億でも受けてくれそう。
[良い点] 良い勘違いですね ロッテんダストも、自分と同じ境遇だったと思わせて親近感を与えるのは。 面白かったです。 まぁ、こんな世界とはいえピンクの子かわいそう…
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