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悪なおじさん少女と優しい世界 6

おかしなところがあれば後日修正

 ヴァルーを殺害。その後僕は正面を軍人たちに向けた。挑発するように両手を掲げ、思いきり空気を握りつぶす。指の隙間から弾ける音をして空気が抜けていく。




 その音。動作に軍人たちが危機を抱いたか僕へと攻撃を開始。




 生き残った軍人が銃口を僕へ向けて発砲。外殻に銃弾が届くこともなく、そらされる。3重転身までしてしまうと弾丸の跳弾方向すらいじれてしまう。ヴァルーと僕との戦闘で呆けている人々。それらの誰かが軍人の人質となった。






 僕は近寄っただけだ。




「無駄だよ」




 僕は足を軽く血に浸す。






 あとは勝手に断末魔が上がる。血液の刃が軍人たちの死角から強襲。軍人たちも僕も互いに血液に足が浸っている。その血海の中で姿もみえずに、相手の靴の中にまでしみこんだ水分が暴発。軍人たちの足の指先をえぐったり、爪だけをひっぺがしたりなどしてみた。






 人質がいようが、銃弾を飛ばそうがだ。






 グラスドールにはダメージがない。こちら側の一方的な攻撃開始。血液操作で相手の死角からの一撃。人質を巻き込まず、テロリストのみを襲撃したのだった。それを連鎖的に広範囲で行う。一つずつかたずけていたら人質の被害が拡大。やるときはいっぺんにやる。




 行使された血の海は僕の目になった。






 どの地点で安全に敵対者を襲撃できるか。その算段はできた。






 


 悲鳴が連鎖。激痛のあまりのたうち回るものも続出。痛みで人質どころじゃない。そんなテロリストにも負い打ち。足を切り落としたり、筋をたつ。また別の相手では足をつらぬき、体内に血液を侵入させていくこともした。そのことで相手本来の血液とも合流。一瞬血液の動きをとめてもみた。心臓から全身へ送り込むタイミング。そこで一瞬とまれば、激痛が胸元から襲うことだ。




 そうされた軍人は銃を落とし、胸に手をあてて冷や汗を垂れ流してもいた。抵抗や攻撃が激痛でできなくなれば別の対象。そうやって無力化していく。この際できる限り殺さないようにはしている。




 犯人が生きてれば、生き残った人質の恨みは都軍とか犯人とかにいく。またニュースをしったやつらも都軍の不手際をたたくのみだろう。こちらの不手際が責められにくくなる。




 この僕が勝手に転身した事実は。




 人質の命を多数救ったことで見逃される。




 僕をたたけば、都軍の不手際が追求される。




 都軍が対処できない相手。それを都軍の備品を使われて、倒される。この無様な現実はどこまでも冷酷に突きつけられる。




 だから僕をたたけない。




 


「人が死ねば死ぬほど、君たちは不利になる。血は武器だ。凶器になるんだよ?」








 


 僕は冷酷に告げ、一番の安全地帯から一方的に攻撃を続行。殺害などはしないが、地上からの血液逆噴射。鉄砲水のごとく一撃はたやすく兵士の手首を破裂させた。






 こうしていくうちに地上の軍人は鎮圧が進みつつあった。人質はほぼ解放。礼を言うやつもいれば、礼を言わない人もいる。安堵やその場にへたり込んで泣きわめくものもいた。戦闘に巻き込まれ、のたうち回った高齢者の大半は死亡。もしくは生存しても老後は悲惨なものやつばかりだ。




 中高年たちも戦闘での被害はほぼない。






 この通りを見下ろすビル群の殺気は止みかけている。銃弾がはじける、発砲音。それらがビル群のあちこちから届いてもいた。都軍によるテロリストの排除だろう。




 こちらは地上を抑えつつあった。




 ただ諦めが悪い奴が一人いた。




 人質の男性。その首を羽交い絞めした軍人。それは少尉だ。ヴァルーを呼び、この惨状を作り上げた士官。人質の側頭部に小銃を押し付けて、必死にわめいていた。








「動くな、何もするな、攻撃したら人質を殺す!!」






 最後の一人になっても変わらない。吠えた少尉の表情には怒りがあった。焦りはあるのだろうが、表情に出ているのは激情のものばかりだった。






 


 僕はそんな様子を見て、鼻で笑ってやった。






「人質をとっても君の未来は変わらない」






 僕は少尉に人差し指を向けた。向けた瞬間には少尉の周囲に血液の触手が前後左右に一つずつ出現。先端を針のように尖らせ、鼓動するように触手表面が脈動する。




 その光景に唖然としている少尉。また人質の表情。この僕が何をする気かわかっていないのか、呆然ともしていた。しかし人質の有無を抱かせない触手の包囲。その包囲に吠えたのは少尉でなく、人質だった。






「助けてください!一緒に殺さないでください。何も悪いことしてないです、私!犯罪歴もありません!こんな形で死ぬ人間ではないんです!!」






 その叫びは本性だろう。人間は追い詰められれば本性が出る。たとえ聖人であっても、悪人であってもだ。自分が助かりたいという願いは誰だって同じ。状況が状況であれば、自分の存在を語るのだ。理屈的か感情的かは別として、必ず自分の非がないことを演出する。








「知ってるよ?」




 僕はあっけらかんとして答える。




「なら!」




 人質と僕との会話。少尉は周囲の触手と僕の様子を見ているようだ。観察されている気配を感じる。いや、もう理解しているのかもしれない。








「君はさ、外へ出るのに覚悟してるかな?」




「はっ?」






 落ち着いて尋ねる僕に相手はわけがわからないといった様子。目を大きく開き、口元すらだらしなかった。








「昔ね、かもしれない運転っていう言葉があったんだよ。車を運転してるとね、人や車が飛び出してきたりとかあったんだよ。人それぞれの行動が社会に満ちていて、危険なんて日常さ。それでも危険を回避するためどうするかだ。危険を事前に予測することだ。予測して注意する指針、かもしれない運転っていう安全予防があったんだよ」




 僕はつづけた。




「外に出る際に、ちゃんとした?かもしれないお出掛けをさ」




 指をちっちと左右に振る僕。






「人混みの中でテロにあうかもしれない。銃弾が飛んでくるかもしれない。怪人が襲来してくるかもしれない。魔物や魔獣が突如現れるかもしれない。人生を楽しんでいたら、それに嫉妬した第三者が危害を加えてくるかもしれない。必需品を買いに店へいったら店員さんが犯罪者かもしれない。お店で食事をしたら監禁されるかもしれない」






 いくつもいくつも、かもしれないを僕は言い続けた。






「外へ出かけるのはリスクなんだよ?かもしれないお出掛けをしないで、テロにあって人質になってさ。これって君たちのリスク管理がなってないんだよ?」




 僕が早々に言葉を紡げば、相手が絶句していく。無茶ぶり内容である僕の言葉。通常であれば無視して、正当な発言を返せばいい。しかし、この状況で力をもつ僕。人質を守るのも見殺しにするのも、命運はこちらが握っていた。




「知ってる?人質の君みたいなやつに送る最高の言葉をさ」




 下手な言い方をすれば僕が気を悪くする。




 弱者の立場は、僕に気を使い、それでいて自分の命を担保する。




 僕は改めてテロの首謀者を見た。




 少尉はなぜか諦観している様子。人質の側頭部に銃口を押し付けているのは変わらずだ。だが押し付ける力が弱まっているようだった。少しずつ下がりつつある銃口。




 人質は恐怖を隠さず、僕へと懇願する眼差しを送ってくる。




 人質は口をつぐみ、恐怖と見捨てられる怯えを全身で表現しきっている。きっと理解しているのだろう。この僕が次につなげる言葉をだ。




 


 再び開こうとした口。




 それを遮ったのは僕でもない。人質でもない。






 少尉だ。




 少尉が両目を閉じ、口端が震えながらも告げた。






「…自己責任だろ?」






「正解」






 僕はそのまま賞賛。






 そして触手が人質ごと少尉を呑み込んだ。もちろん人質も少尉も殺す気はない。血の触手が呑み込むのと同時に液状化。まとめて血液をかぶせて、少尉の顔だけを血のゼリーが覆う。人質はかぶらされた血液の波をうけて、服を赤くそめた。また顔事血液に浸らされて、血液を鼻からでも吸ったのか。




「はぁ、っは」




 人質のせき込み音。また少尉の顔が血のゼリーで覆われたことで、呼吸ができなくなった。その焦りは手に取るようにわかる。水から伝わる映像が伝わってくるからだ。少尉に人質を抑える余裕はない。頭部を包む血のゼリーをひっしに両手ではがそうとするのに夢中。血液であがく少尉の顔には絶望と恐怖が浸っている。




 解放された人質は、地面の血の海に両手と両ひざをつけ咳き込むばかり。






 僕は両手を大きく合わせてたたいた。




 ぱんっとした大きな音を立て。






「一件落着!」




 少尉は窒息状態からの気絶。殺害まではしていないが、意識は奪った。あとの対処は都軍に丸投げしておけばいい。






 血海を排水溝へ誘導。さすがに道路を満たす血液は邪魔だ。変身解除後に靴が濡れるのは好かない。だから血液を操作し、靴が濡れない、道路を埋めないほどまで排水溝へ流した。




 その後道路の表面が見えてきたことを確認。




 変身を解除。姿を現すジャージ姿の僕。だぼだぼのしわだらけのジャージ。アイロンすらかけず、着る際に伸ばすことすらもしない。戦闘後の装甲下のジャージは更にしわができていた。またズボンの裾に血が染みついていた。僕の血じゃないから、この場所の血だろう。




 3本の劣化ギア、タクトを握りしめたまま自分の恰好を見ていた。






「子供たちに怒られそう」




 僕は洗濯なんてしない。生活環境を作るが、そこにある維持や生産的活動をしない。おじさんは常にニートでありたい。この僕の衣服も子供たちがする。院長が管理し、保育をする数人の子供。それらが協力して生活を営んでいる。






 院長も実は洗濯をしない。




 僕も院長も料理すらほぼしない。では誰がするかといえば、これも子供たちだ。子供が考えて人数分作り、僕たちは食べるだけ。その代わり大人の仕事というか、インフラ整備や必要物資の確保などを担当。戦闘労働は人間タイプの怪人にやらせ、院長は管理業務などの頭脳労働。家事関係のもの以外の外仕事を行っている。




 僕は八千代ではほぼ何もしていない。




 ロッテンダストとしては敵対勢力の拷問。凶悪的な対応にて排除もしたりする。でもおじさんとしての僕はニートだ。




 ただ資本を投入して、環境は提供。また院長が僕に対し敬意を見せたり、最終確認を子供たちの前でもしている。その姿を見ているせいか、子供ですら僕の権力をなんとなく察しているようだった。




 孤児院の子供は僕に家事をやらせない。




 労働をさせない。




 邪魔をしない。




 分を弁えたからこそ、価値があることを労働にて示している。




 今の時代生きているだけで儲けもの。子供だって立派な労働力。






 これらは院長が指示した、教育方針。この僕の存在を高く設定する。




 子供たちにも価値があることを、僕に認識させたうえで、簡単に切り捨てさせない。






 そういう院長のたくらみがあることはわかっている。






 なので平気で利用して、僕は楽をさせてもらっている。ただ別の仕事があるから結局のところニートができていない。




 


 


「だからさ」




 この僕が背後に迫る気配に語る。






 後頭部に硬いものが押し付けられた。






 鉄のように冷たく、中心に空洞が一部空いたもの。それらが殺気と警戒をともなって僕へと接触をしてきていた。






「やめておいたほうがいいよ」






 僕は気にすることなく振り返る。その銃口が火花を散らすことを覚悟でだ。撃ち殺したければすればいい。その覚悟と責任を終えるのであればだ。






 だが僕は打たれなかった。




 後頭部から額へと銃口の向く先が変わる。






 体育会系の男。この執行を行い、ヴァルー相手に多少は抵抗して見せた軍人の姿だ。脇腹を片手で抑えながら、苦し紛れににらみつけてくる。そんな男の様子に冷めた表情で見ていた僕。








「君の命を、人々の命を救ったのは僕だ」






 優しく微笑みながら。






「都軍の失態を僕が助けてやったんだ。そんな恩人に銃を向けるのは何かな?」






 挑発を返した。




 額に押し付けられてなお止まることはない。






 そんな僕の態度に、重い口を開くかのように相手が言葉を発する気配。






「…お前、何なんだ。何者なんだ。一体どこの所属で、どこのヒーローなんだ」






 きっと言いたいことはたくさんあるはずだ。この僕の正体もそう、所属組織もそう。このおじさん状態での戦闘能力もそうだ。相手は問いたいことがたくさんあって、それでも全部は言葉にならない思い。頭が回らず、疑念が言語化できないのだろう。




 ようやくできたのがこの言葉だったのか。






「僕は僕だよ」




 そういって僕は銃口をはねのけようと腕を伸ばす。しかし銃口が更に押し付けられていた。痛みすら感じるかもしれない、そのような圧をもって相手は意思表示。






「お前は事情聴取をうける義務がある。この事態と都軍の所有物を無断で使用した件。お前がした複数の多重転身も全部答える義務がある!」






「そんな法律はない。都軍に定められていないよ。事態の説明は必要かもしれない。あくまでこの場に居合わせたことへの聴取のみぐらいじゃないかな。譲歩しても都軍の所有物を勝手に使用したことは説明が必要かもね。でも悪に対しての関連法案の一つ。自分の命の危機に対しての違反行為は、状況を鑑みなければいけないといった趣旨が書かれているよ?」






 僕はつらつらと語って見せる。堂々と大胆不敵にだ。






「多重転身なんて慣れれば余裕だけど、やり方を教える義務は現法律には載ってないよ?手の内を明かせっていうのは個人の秘密でもある。その際の書類などを持ってこないとだめだよ?民間の技術を奪うのは代行政府でも相応の準備が必要だけど?裁判でもする?そしたら都軍の失態を並べていくけど。通常は都軍の情報を公開するのは機密保持違反になる。だけど裁判の場であれば許されるのが法律だからね。被告人も自分の意見を述べていい権利は改正されていないし」






 押し付けられている銃口の圧を、額で押し返すように一歩踏み込む僕。






 相手が一瞬思考を巡らせる。そのわずかの隙に相手と僕の顔が近づいた。








 相手が肘をまげ、銃口と額の間に空きがうまれる。その距離の短さでは、完全に銃口で抑え込むことは難しい。相手はしぶしぶといった感じに銃口を下す。




 その瞬間に下すとみせかけて、腹部へ銃口を押し付けられる。正しくは押し付けられようとした。その動きは読んでいて、僕は相手の銃口に指を突っ込んでおいた。人差し指を突っ込み、銃身を空いた指で握りしめる。そのまま軽くひねれば、相手がもつ手の関節が曲がれない方向だったため、簡単に制御できた。




 少しでも力を籠めれば銃は奪える。






 そのうえで僕は相手の額に自分の額を押し付けた。






「こんな手緩いやり方してるから、あんなのに負けるんだよ」






 僕は侮蔑し、そのまま額を離し、銃からも手を離した。屈辱に塗れた相手から距離をとるように少し離れる。一瞬のうちに相手の間合いに入り込んだ行為。銃を完全に奪わなかったのは公務執行妨害といった罪をさけるためだ。






 距離を離したのも同様。




 あまり公務員相手に至近距離になるのはよろしくない。




 特に都軍といった軍人相手はだ。




 怒りのまま銃口を向けることもしてくるかもしれない。普通の相手であればそう。でも、相手は訓練された正規兵であり劣化ギアとはいえヒーロー部隊だ。銃を握りしめる手に青筋が立ちながらもだ。わなわなと震える相手の怒りの表情。




 そんな屈辱のままで口が動く相手。






「協力に」




 息をのみ、




 怒りを隠さず。






「感謝する。だが事情が事情なだけにさらなる協力を願いたい。あくまで自主的にお願いという形でだ」






 そういっているが、その気配はない。お願いという名の命令。自主的という名の強制。








 僕は返事代わりに握りしめていた3本のタクト。




 それを相手の軽く投げた。その瞬間相手の意識がそこに向き、慌てて抱きとめにかかる様子。僕はすかさず走りだす。真逆のほうにだ。だが相手も馬鹿じゃなかった。タクトを確保することをいったんやめ、すぐさま銃を発砲。




 僕が走り出す足元に火花が散った。






 仕方なしに振り替える。




 


 にっこりと笑いながら僕が告げる。タクトが地面に落ちて転がっている。大切な都軍の所有物の確保よりもだ。この僕の確保に集中してくれたようだった。






「やだなぁ、ジョークだよ、ジョーク」






「協力をお願いする」




 そう怒りをあらわにしつつ、銃口を向けてくる相手。






「事情聴取が済めば、それで終わる。ちゃんと協力金も出すはずだ」






「お金よりも今すぐ帰りたい」








 僕のふざけた抗議は無視された。相手が実力行使にでないのは、僕の戦闘力を見ているからだろう。警戒が全然解けず、敵視が強化されている。






 相手が僕をヒーローとみたのは。劣化ギアが使えたからだ。劣化ギアはオリジナルギアよりもエネルギー効率が非常に悪い。オリジナルギアに転身できるからこといって、劣化ギアに対応できるかは人それぞれ。優秀な装備は効率もスペックも相応で、ある程度の人間も使いこなせる。




 逆に低スペックであればあるほど、人を選ぶ。




 劣化ギアは誰にでも使えず、使える人がいたとしても能力は圧倒的に足りない。それを複数に多重転身してみせ、上級怪人を倒す。




 相手からしてみれば僕は脅威の何者でもない。






 劣化ギアを使用しているからこその経験が相手に警戒をさせている。


 






 しかしこの事態は続かない。






 この場に一人の少女が現れたからだ。この騒動に気づいたか、もしくは鎮圧したことを理解して出てきたか。通りの店の一つ、家電量販店から姿が出ている。無表情ではあるが、事態は把握しているようだ。眉間に小さなしわを作った様子。後ろ髪を一つにまとめたポニーテール。それが揺れる背後には複数の人間がいる。一番目立つのは凶悪面の男だ。またほかにも男女2名ずついる。ただ凶悪面の男は両手が開いているが、男女二名ずつの片手は荷物が握られていた。




 その男女が片手にもつ大きな紙袋。






 衣類や洗剤、嗜好品であったりと生活必需品などが詰められている。片手は護衛のため開けられている。






 八千代を実効支配する武力集団。






 その代表である院長が集団の先頭。こちらを逡巡しやがて動き出す。




 車道にまで歩み寄ってきていた。戦闘の際に破損したガードレール。そこが入口なる形で開かれており、院長はずかずかと進んできた。






 そして僕たちの近くで足を止めた。






「…何しました?」






 いぶかし気に問い詰める口調で言われていた。僕は肩をすくめて、小ばかにした態度をとった。






「暴れていた怪人を倒して、人々を救ったらこうなった」




「…」






 じろりと僕を見据える冷めた目。




 その後大きくため息を院長は吐く。普段の態度としでかす問題が多いためか、間違いなく僕が状況を悪化させたと判断した様子。このままだと話がややこしくなることを悟ったか。院長は人差し指を自身の肩越しの背後へ振った。






「この場はあたしが何とかします」






「任せた」


 


 責任者が責任を取る。八千代にかかわるすべてが院長の責任だ。おじさん状態の僕やロッテンダスト状態で起こす問題ごとも責任を負う。八千代の領地、そこに住まう人々の生活基盤、武力集団の行く先も全て院長次第。






 その代わり、管理する全てに対しての命令権を院長は所有。






 院長の指示である以上、従うことにした。そっちのほうが簡単に済みそうだからだ。






 僕はそのまま歩み去ろうとした。背を向けたが、邪魔をする動作音が耳に届く。その行動に対し金属を持ち上げる音。きっと体育会系の男が銃口を向けかけたのだろう。だが達成されることはなかった。




 突如と広がる刺々しい冷気。






 邪魔されたように空気を叩く音、これは相手の腕を力づくで抑えつけた音だろう。一気に広がる殺気と冷気。死すら覚悟するほどの強烈な気配。






 凶悪面の怪人によるものだ。この僕への脅威と敵意。攻撃動作を見過ごすことはなく、相手の腕をわしづかみにしたことだ。見なくてもわかる。相手に怪我はさせないだろうし、それをするにも院長が認めない。




「浅田さん、この場はあたしがしますが、後は任せても?」




「もちろんさ、僕を信じなよ」








 堂々と自信ありげに答える僕。お互い振り返りもしないが覚悟だけは常に満タン。院長は何も答えず、僕のほうから体育会系の男へと向き直っていた。




「ばいばい」






 僕は振り返ることなく、別れをのべて立ち去った。その背に体育会系の男の視線がしつこく残り続けた。




 あのまま受け入れていたらどうなるか。都軍の願いでの連行。それを聞き届けた場合本人の協力による動向と見なされ、取り調べを受けることになる。その際の相手側からの圧力などを受け止めつつ、抗議しようにも任意という形で許可したのは僕。強くは訴えれない。また取り調べの疲労から、通常ではな言えない発言でもすれば、いろいろと不利だ。






 では今のように、受け入れなかった場合。




 同行した場合、その場での取り調べが行われる。相手の望む展開になりやすい。しかし受け入れない場合は真逆を進む。




 後日の正式な手続きを得ての場合。連行するための書類を作成し、裁判所へ提出。その後しかるべき手続きを介してからの行動になる。その手続きを踏ませるのにも半年近くはかかる。また僕の人権もあるため都軍がことを運ばせるのにも手間がかかる。






 公的権力の要請には時間を稼ぐ。これが何より大事。






 幸い院長が残ってくれた。凶悪面の怪人もいる。それどころか今回連れてきたものも数名いて、自由行動という名の周囲調査をしてくれている。院長が下手を打つこともないだろうし、打ったところでいつでも挽回できる。



 こういう悪知恵は頭にいれておくべきだろう。拘束される展開を回避し、僕は自由を手にしている。

 


 本当の要件を達成しにいく。そうして目的地へ向かっていくのだった

 

優しい未来が皆様を待っている!この小説基準の優しさが皆さんを包むのも時間の問題。

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