悪なおじさん少女と優しい世界 5
ヴァルーが僕たちを粉砕せんとする一撃。それらが到達する前にヒーローとなった。ゆっくりはしていれず、対策をうつ。握りしめたクリスタルタクト。それに闘気をこめていく。こめられた闘気は姿をあらわし、タクトを覆う。それは炎のごとくゆらめく刀身をかたどっていた。
そのまま横なぎにするように振るった。
降る動作と正面を真横に位置変更を連動。僕の体が合った位置に一撃が通り過ぎていく。相手の上腕をたたき切るように側面から反撃。闘気による刀身と相手の純粋な暴力。それらが衝突。こちらの一撃はダメージを与えることはできなかった。
「硬い」
思わずこぼす愚痴。
所詮劣化ギアの力。こちら側の出力が追いついていなかった。
一撃をそらすことしかできなかった。だが相手の意図しない位置にて拳は落とさせた。
そらさなかった場合は、体育会系の男の体がぐちゃぐちゃだったことだ。でも死ぬことはなく、逸らされた拳は着地点のアスファルトを粉みじんにした。落ちた拳の周囲の土壌に亀裂が走り、大型の破片が飛び散った。それらは拡散していく。周囲の軍人が被害を食らった。ちょうど人々の盾になるような立ち位置だった。
人々の盾となって、軍人の体がちぎれた。ちぎれたうえで威力は貫通していく。もろい人体を軽く突き抜けた破片は人々へ伝わった。だが幸いかすめた程度の被害だったのだろう。人々に散乱した破片は、肩口を軽く吹き飛ばしたりだ。あばら骨に当たり、骨折とともに悲鳴が上がる程度しかなかった。
「ああああああ」
「いてぇぇぇぇぇぇ」
「っ!!!!!」
巻き込まれた者たちが苦悶と激痛でのたうち回る。悲鳴と恐怖で人間の尊厳を失った程度。
本来であれば体育会系の男の顔面にも破片は飛んでいた。それは僕が防いでいた。足元に転がる男の腹部へ足をのせ、そのまま軽く後方へ送り出す。滑るように転がって、血の海地獄によって染色。染色と回転を繰り返すことで、全身が血まみれになった。
でも本人のけがじゃない。
先ほどまでいた男の顔面位置には破片が突き刺さっていた。
そのことを思えば安いもの。転がりつつ、勢いが弱くなって踏みとどまる男の体。それらは気配で察した。それでいて僕へと向けられる視線も感じ取った。急な暴挙に対しての抗議の視線だろう。でもだ、相手は軍人だ。ちゃんと周囲を判断するはず。
一瞬気配が和らいだ。
「っ!」
体育会系の男が言葉につまったようだ。急に居場所と蹴飛ばされたこと。また自分がいた立ち位置の副産物。それらを鑑みたうえでの抗議の気配。それが背中に突き刺さる。
男の抗議にこたえようと思った。でもだ。一撃をそらされたヴァルーが僕を見た。目元はないし、眼球もない。口元に生えたイソギンチャクのような触手。頑強な体からの本能を刺激する脅威。
そのヴァルーが僕を認識してしまったようだ。
殺気とまで勘違いするほどの濃厚な監視。じろりと見られている気配。相手がこの僕の全身をとらえて離さない。そう感じるほどの視線だった。
少し時間がたちヴァルーが触手を動かす。
「おまえ、つえぇな」
「弱いよ?」
この僕を認める声だった。思わず否定しておいた。賞賛の隙をついて来ようとしたのか、こちらへ突進。眼前へと一気に肉薄してくる。迫る相手の掌底を闘気の刀の切っ先で迎撃。一撃の重さにこちら側が力負け。軽く闘気がへし曲がり、折れた。折れた闘気は霧散し、半ばまでの切り口がない刀身となってしまっていた。そのまま相手が力をこめていけばいくほど、刀身は霧散していく。
やがてタクトにたどり着くだろう。
たった一撃でこれだ。
しかし受け止める気はない。闘気の刀身を一気に霧散させ、タクト状態に戻す。それで一瞬力と力の張り具合が乱れ、ヴァルーはバランスを崩した。そのわずかなスキをもって、相手へこちらから迫る。踏み出す数歩のうちにこちらが先手を取った。
拳が届きにくい、懐へもぐりこんだ。
相手の懐へ迫ると同時に。
再度タクトへ闘気をまとわせ、刀身を作り上げる。
それを顎から上空へ目指すよう振り上げた。
頑強な骨格をしこんだ外皮。その外皮を打ち崩すことはできず、顎を救い上げた形の一撃しかならない。上空を見上げるヴァルーの頭部。傷つけることはできず、切り裂くことも難しい。一瞬浮きかけた相手の両足。その勢いを利用する形で片足を胸部へねじこんだ。
劣化ギアの力での最高出力。わずかとはいえ、衝撃で浮いた体で受け止められるわけもない。相手の体は対面の歩道へと吹き飛んだ。その際に、破片によって苦しむ軍人たちを巻き込んでいる。ヴァルーの衝撃で流される外側には軍人たちの体。
ガードレールにヴァルーが衝突した。そこには血のアートができている。衝突の際、クッションの役割をはたすかのように軍人たちが最初に衝突。大きくひしゃげたガードレール、血肉をほとばしらせつつ赤を刻む。その上書きとしてヴァルーがぶつかった。
ガードレールが鉄のマフラーになるように丸まった。それでいて衝撃を緩和できず、縁石を砕き、街路樹を何本もなぎ倒す。
人々は絶句。
残った軍人も絶句。
銃口を僕に向けたり、人々に向けたりする軍人。人々は抵抗すべきか、近くにいて隙だらけの軍人を襲うべきか。もしくは逃げるべきか。様々な要因を頭を回していることだ。
だが僕は気にしない。
相手にダメージはない。
これだけでは意味がないことを悟った。
だから追加要素を手に入れることにした。周囲を探索、赤の塗装の中、ひっしに目線のみで探す。その間にもヴァルーは身を起こしていた。ヴァルーが体にまとわりつく、ガードレールのマフラーを内部からきしませた。両手をこじ開けるようにして、引き裂いた。
相手が自由になるのと同時に一つ見つけた。
その位置にゆっくりと僕は歩み寄った。到着し、肩をすくめて相手を待つ。
「いてて、おまえ、やるじゃねぇか」
肩をならしながら、ヴァルーがこちらを認めてくる。その気配は敵に対してのもの。油断も見下しもない、怪人元来の悪意。敵意をもって、僕をほめたたえてきた。
「君ほどの怪人にほめていただき、光栄といっておこうかな?」
こちらは軽口をもって返す。肩をすくめつつもだ。油断をしてはいない。ヴァルーは臨戦態勢そのもの。両足の膝を軽く曲げ、腰を落とす。両手を前へ突っ張るようにした体制。
そして張り手の連動動作。それでいて相手の足は駆け出している。大きな足での踏み込みの深さ。こちらも足元の血の海を蹴り上げる。つま先を組み込ませて再び赤の水滴が空へまう。血にまみれながらも、蹴り上げられた箇所には赤の塗装がはがれている。
外すらも貫く透明なクリスタル。
二本目の劣化ギア。
それをつかんだ。
出力が足りないならばだ。
「知ってる?ヒーローは二度姿を変えるって」
くだらないジョークをこぼす僕。軽口だったのにも関わらず、それを嘘とは思ってくれなかった。相手の表情が怪訝そうに歪んだからだ。
「は?」
相手が予想外といった反応を示した。それでいて張り手が僕へ届きつつある。だが僕は後方へステップし、張り手を回避。回避先にも執拗に迫る相手の肉体と張り手。相手の腕が前方へ伸びきる攻撃のタイミング。その肘を闘気の刀身で迎撃。これは攻撃でなく滑らせるためのもの。
相手の一撃を軽くうかせ、僕は両足を一気に曲げる。その瞬間支えが失って僕の体は地べたへ。体が血の海につくまえに、回転する用意。相手の一撃が頭上をすぎていく一撃の暴風。その防風を感じながら、地上を転がっていき、そのまま相手から僅かに距離をとった。
こちらへ相手が反転する前。
僕は曲げた両足を再び伸ばし、たちあがる。
そのまま二本目のタクトを掲げた。
「二重転身!」
二本目のタクトがこの僕の体に奇跡を引き起こす。透明だったクリスタル状に変化が訪れる。クリスタルの内部から広がる白の液化。外装自体を変えるのでなく、内部だけの色彩の変化。透き通った姿は白一色に染まり上げていく。
関節部分の白は灰色と黒が一部混じっている。
そのくせ目の位置である赤のルビーは黒く汚れ切っていた。
「人間為せば成る」
両腰に手をあて、胸をはって威張る僕。しかしながら相手の反応はなかった。
相手が驚愕し、触手の口元をぽかんと開けている。攻撃などは届きつつ、表情は衝撃にうちのめされた様子。この状態であれば多少は攻撃が届くだろうか。相手の反応が戸惑ううちに全身に力をこめていく。こちらも臨戦態勢をとっていることに、相手も気づくようにはっと体をはねさせた。。
こちらと相手が正面をきって立ち向かう。
出力が足りないならば、足りるまで転身すればいい。簡単なことだ、上書きして転身を行う。出力がすさまじく、体内のエネルギーをかなり奪っていく。
呆気に取られていたヴァルーもこの事態に頭が追いついたようだ。
「劣化ギアってのは何度も使えるもんかぁ?」
「使おうと思えば使えるんじゃないかな」
先手は相手。尋ねながらも張り手が届く。都軍が所有する劣化ギアは有名だ。オリジナルの変身ギア、グラスドール。それらを真似した大量生産品。エネルギー効率も悪く、装着した際の出力も悪い。いいことなしだが、それでもヒーロー。
軍人が劣化ギアに対応するため訓練。
その訓練された軍人が使うヒーローが弱いはずがなかった。相手が上級怪人であるからこそ無様を晒しただけだ。Dランクの一流怪人といった格上相手に追いつくぐらいは強かったのだ。
だから意外と有名でもあった。
相手の拳の軌道を読みつつ、交わしていく。そうして反撃の機会をうかがう。
でもだ、低く落とした相手の姿勢は攻撃する隙がない。防ぐことは難しくもないが、あえて迎撃。かわし続けるだけでは、勝敗がつかない。その賭けに僕は出た。
相手の正面、少し踏み込めば懐。その一歩を踏み込み、相手の間合いへ。迫りくる一撃を受け流す。そのために相手の肘関節を裏拳で殴打。
受け流すように逸らそうとした反撃はうまくいくことはなかった。
相手の一撃と僕の一撃が接触。
「やっぱり劣化ギアだ。オリジナルには程遠い」
苦心に紛れる僕の悲鳴。言葉自体は余裕そうにいっているけどもだ。実態は力が不足しきっている。その現状が態度に出てないだけだ。
こちらのスペックがたりず、受け流しきれない。僕の裏拳が途中で止まった。相手の肘を側面へ叩くはずの抵抗。それが効果をなさない。
ヴァルーが嗤う。
余裕しゃくしゃくといった態度だ。攻撃しているくせに揺れた肩は含み笑いがある様子。
「あたりまえだぁ。このヴァルー様は力自慢。といいたいところだが。自身無くしちまう、劣化ギアごときに決着がついてねえんだぁ」
停滞も続くはずもなく、押し切られていく僕。内側に入り込んでいる僕、相手は腕を伸ばしきっていない。まだまだ込められていく力の前に抵抗むなしかった。
強力な張り手は僕の肩口を殴打。
強い衝撃。
一瞬で意識がとびかける。
こちらが防ぎきれることなく、そのまま車道の馬車たちを薙ぎ払って吹き飛んだ。クッションとしての馬車たちは粉々、わずかにあった自動車たちも屋根やガラスを形も残さず押しつぶしていた。何台も巻き込む事故はやがて止まる。
止まったが、僕の体が地べたに這いつくばった。
その上に影が大きくできる。
クッションにしてしまった車や馬車たちの残骸。それらが勢いよく覆いかぶさってきた。痛みもないし、小さな振動が外殻から伝わってくる。それら人工物よりも劣化ギアの装甲のほうが硬い。
一寸先は暗闇。動けるし、動かせる。また視界も良好。たかが暗闇、光がなくても空間は把握できた。
車と車が重なるようなアート。魔物の部材で作られた馬車の装甲が軽々とひしゃげた姿。それらが暗闇の中でも視界に届いた。
「やりすぎちまったなぁ、劣化ギアごときに本気出しちまった」
また近づく大きな気配。こちらに届くような声量。言い訳がましくも聞こえる。本来であれば一撃で倒せる出力の劣化ヒーロー。そんな僕に数分は時間を稼がれたわけだ。そういった自分の失態をカバーする方法。
それは相手を認めること。相手が強いから自分も本気を出しても恥ずかしくない。言い訳がましさすらあるが、人によっては素直と評されるものでもあった。
「お前さんは強い」
ヴァルーは僕を認めてたたえるわけだ。
ヴァルーがどすんと大きな足をもって地上を歩いている。油断もしていない。この僕がやられていないことを確信しているようだ。どこまでも悪意を、どこまでも戦意を。強く保ち続ける上級怪人。
まだ劣化ギアでの能力を出していないのに、勝手に流れを決められても困る。
僕は無言のまま、あざ笑う。
グラスドール、劣化ギア。劣化ギアに必殺技はない。スキルはほぼないが、あるやつもある。この劣化ギアはスキルが一部組み込まれている。
魔法の真似事ができる
魔獣や魔物を殺せる程度の魔法。属性は複数。固定された属性はなく、ヒーローが魔法使いの力をまねる。その代わり近接戦闘の力加減は抑えられている。出力を防御と特殊攻撃に割り振った劣化ギアだ。しかも魔力じゃなく霊力や気力といったもの。
僕が選んだのは水属性。
「なっ!!!」
相手の苦痛にまみれた声が届く。暗闇の中でもよく見える。簡単な話。人々が死んだことによる血の塗装。それらをヴァルーの進む先、足元にまで浸るよう移動。そこから血を突起の刃に変化させて襲わせた。長い足を思わせる血液でかたどった刃。
それが地上から相手の足を突き刺して拘束。
簡単なことだ。
グラスドールの特性。
全身が目である。
また力を行使する対象すらも目になる。血を対象にした以上、血は僕の目となっている。そのリンクする接触が必要。だが外殻の腹部あたりがアスファルトに浸る血に浸っていた。残骸の下敷きとなって暗闇であってもだ。液体は残骸の隙間をくぐって空間を浸す。
それほどまでに死んだ。
あとは少しばかり誘導もした。グラスドールになった時から血液操作をしていた。どんな環境、どんな戦場にも適した悪意を持ち込む。これが僕の戦闘スタンス。
体を拘束する残骸をはねのけ、拳を地上へ振り上げた。勢いよく振り上げた拳は、覆っていた残骸たちを空へ飛ばす。
地上へ残骸が落下するころには。
僕の姿が再び表舞台を飾る。
ヴァルーの両足をつらぬく血の刃。だがヴァルーは痛みにもだえながらも、この僕をとらえている。
強い敵意。
強い敬意。
それらを気配も顔の形相からも届く。含ませた頬の膨らみは好奇心そのものでもあった。
「おまえ、すげぇ。ただもんじゃねぇ」
賞賛が僕へ届く。この僕は大きく振り上げた拳をゆっくりとおろす。おろすが途中で止めた。ヴァルーへ示すように向けた拳。
その拳をほどき、人差し指を突きつけた。
「それほどでもある!」
自画自賛をもって受け取めた僕。相手がほめてくれるので、素直に受けとるのが流儀。出力不足はもう次の手で解消できる。血の海を操作し、最後の一本。3本目を見つけていた。血の海が波をうち、こちら側へと流れてくる。人々のほうからヴァルーと僕のフィールドへ。
それに流されるようにタクトもこちらへ誘導。
僕が指をならせば、地上から噴射。血液が渦を巻き、鉄砲水の要領でタクトが飛び出てきた。左手をのばし、着地点として受け止める。人差し指と親指の間に挟むようにつかんだ。
そのまま見せびらかすように振った。
ヴァルーは興奮を隠さず、触手をとどろかせて叫ぶ。
「さいこうだぁぁぁ!おまえみたいなやつと会えて!」
足を血の刃で拘束されているのを、無理やり引きちぎる怪人。だが再び血の刃が出現し、相手の足を突き刺さる。それをヴァルーは一歩突き進むたびに引きちぎる。引きちぎっては進む先に血の刃が出現。踏んで、ちぎれて相手の体はズタボロだ。
歓喜に満ちた様子のヴァルー。
悪の組織、怪人ゆえの無邪気さがこの僕と戦いを求めるのだろう。
「こちらこそ、君みたいな素直なやつは久しぶりだよ」
歓迎するようにタクトを振るう。二本目のタクトのほうだ。
何度も地上から飛び出る血の刃。
二重変身をしたことで、特殊攻撃が一部開放されている。グラスドールの特殊攻撃増加性能。この僕のもともとの特殊性能。それらを加算したうえでのものだ。
恭しく手を胸へ当て、腰をかるく落とす。
「気分がいいから見せてあげよう」
顔だけをヴァルーのほうへ上げて見つめた。
胸にあてた右手は、最初のタクト。
左手には二本目と3本目のタクト。
それらを上体を戻し、全部一気にふるう。音楽の指揮をとるように右手、左手を刻む。
「3重転身!」
クリスタルの外殻が灰色へと色彩を変えた。それだけだった。変化は一瞬。しかし力は違う。手にしたタクトに闘気の刀身を覆わせる。それでいて全身を闘気で包んだ。また血の刃は鋭利さを増していく。先ほどまで歯が立たなかった外皮。地上から逆噴射した、血の弾丸。それがヴァルーの顎先を穿った。顎先すらも切り裂くものへと変化したわけだ。
闘気の刀身をもつタクト。
それを軽くふるうことで血の海は引いていく。血のフィールドはやがてアスファルトの地上を取り戻す。どかした血の海は待機をするように固定された。
それは僕からの挑戦状。
「来なよ」
顎をしゃくる。ヴァルーに対し偉そうな態度をもって指し示す。
かかってこいと。
3本のタクトを右手にまとめ、左手で支えるような両手持ち。それぞれ独立していた闘気の刀身。それらは融合し巨大な一つの刀身と変わっていった。
その刀身は上級怪人すら屠るもの。
ヴァルーが歓喜をもって僕をとらえた。とらえた状態で必死に冷静さを取り繕っていくようだ。己の胸に握りこぶしをおき。
ヴァルーが告げる。
「7大悪ハッピーエンド、上級審官長、名はヴァルー」
礼儀をもった自己紹介に僕も応じる。
「所属不明、役職なし、ただのニート」
その名乗りに相手は笑わず、苦笑もせず。真剣そうに受け止めて、いっきにとびかかってくる。強靭な足腰のばねを一気に飛ばし迫る巨体。
振り上げた拳がこの僕へと迫る。
その前に一閃。
両手で握りしめた巨大な刀身が相手の体にずれをつくる。とびかかる勢いがヴァルーの拳を二つに裂いた。また胸部まで突き抜けた刀身がすり抜け、肉体を裂く。体の中心が攻撃点と支え軸がずれて地上へ落下。胸部から上部分が僕へ向かって落ちてくる。
落ちてくるヴァルーと視線があった。相手の目はないが見られた気配と一致。誇ったように頬を動かしていた。
「へへ、おっかねぇやつもいたもんだ」
その称賛を縦への一閃。兜割の応用で対処。相手の頭部から胸部の断面にかけて切り裂いた。相手の命が途絶え、そのまま血肉は地上で転がった。ただ落ちる際に、僕は手を伸ばして掴んだものがあった。兜割をしたさいに飛び出た怪人の魔石。
力の根源を奪取。
「君も中々のものだったよ」
死骸となった肉片たちに言葉を残した。後やるべきことは鎮圧だろうか。怪人を倒したとはいえ、劣化ギアを勝手に使用。都軍の所有物を個人が使うことでの問題。それらの抗議文章や裁判が起きてもかなわない。そうならないよう、相手がしたかったことをする。
鎮圧だ。
こうすることで相手の名誉を傷つけができる。相手ができなかったことを軽々としてしまえば、相手は黙る。たとえこちらに不手際があってもだ。国民の目は軽くない。ルールを間違えたとしても、被害を抑えたのであれば問題にしにくい。
下手に都軍が問題提起すれば、損害賠償や不平不満の声が都軍に向けられる。
あやふやの曖昧作戦。
思惑を隠しつつも動き出す僕。
そうして圧倒的安全性からの鎮圧を開始したのだった。




