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悪なおじさん少女と優しい世界 3

 スマホに電波が入る場所にいた。都会の喧騒が耳に流れ、目にも入ってくる。どこを見ても人、人の流れ。それらを阻害しないよう脇へ移動する僕。ジャージ姿のおじさん姿だ。だぼだぼのジャージは東京でもあまり見ない。どんな社会状況でも身だしなみを整えるのが文明人。


 今の時代ファッションを気にしない人が多いはず。多いはずだが、さすがにジャージは運動する以外の目的では着ないようだった。


 道路側と歩道を隔てるガードレールへ背を預けていた。正面には家電などをうる商店が一つあり、その隣らも別系統の店。芸能人とかのグッズ販売店とかもある。食事処はないように見えるが、大体の日用品から家電まで、一通りのものの店が歩道わきに並ぶ。そんな店が連なる通り、歩道を突き進む人々。仕事疲れや精神摩耗が見られる暗い顔の人たちが多かった。もちろん休日と思わしき、明るい表情を浮かべた人たちも多い。


 東京には様々な顔模様があった。しかもここは大通りだ。


 1000人近くの人間がこの場所にいる。その事実が都会と田舎の差を実感させる。地方の自治体、主に筑西市、結城市といった自治体の人口数。その数がここにいるとなると圧巻。



 活気にみちた店と社会人の暗い顔。遊びにきた人々もどこか周囲を警戒するようにしつつ、表面上笑顔だった。若者も中高年以上の人間もそれぞれいる。男女の年代様々であるけれどもだ。日常がぎこちなくも存在していた。空気はどことなく殺伐ともしている。





 六同社の一件があるため、悪の参入や自暴自棄なテロリストのことを注視しているのかもしれない。



 

 そんな情景をよそにスマホに夢中だった。見ているものは動画サイト。ロッテンダストが投稿してきた動画の再生数、登録数などを確認していた。動画投稿のみをしており、配信はしていない。自身のコンテンツの特徴をわきまえていたからだ


 その場で完結する動画タイプがあっている。


 投稿者が時間をかけ、作り上げた作業の中での一本。それぞれが本気を出して、努力の末に出来上がる一本のほうが価値があると思う。だから配信などはしない。リアルタイムでいろいろできる配信のほうが自由度高い。ただ、配信行為はその場の流れで柔軟に対応するのが面倒。配信の始まりから終わりまでの集客と集金。視聴者が金をだし、配信者はそれに応じる。


 配信はリアルタイムゆえに、カットは難しい。失敗をすれば即炎上。証拠隠滅ができない。配信の切り抜きなんて、失敗を起こせばすぐやられるらしい。炎上リスクとリターンであれば、僕はやらないほうがましと感じてる。高速時間が余計にかかる。配信時間、編集時間。こんなの人間がやる生活じゃない。


 まあ僕はほぼ編集などしない。手抜きばっかり、視聴者に媚びない。だから再生数は非常に少なかった。


 数少ない伸びている動画は戦闘動画。


 大怪人との戦闘および、煽りシーン、経済界の国須に対する疑似脅迫のシーンなどが多くだ。僕関連のものであるけど、直接投稿したものじゃない。放送されたものやドローンで盗撮されたものを切り抜かれたのだ。そういった動画が伸びており、一部とはいえ僕のほうにも利益が流れている。


 ロッテンダストの著作権、商標権は僕が握っている。


 こういった動画が伸びると、人々の方向性がわかってくる。怪人、権力者といった強者に対する鬱憤がたまっているのだ。コメント欄など僕への中傷や罵倒も多い。顔も見えず、声も届かない。安全な場所からの文句は一流の皆様だ。自分たちが勝てない相手に対してだけは、どちらも潰れろといった反応がとれる。僕と権力者、大怪人との共倒れを願うコメントばかり。



 それでもファンはいるようだ。否定的なコメントが9割近くある。残り1割の人間が僕に対し伝えたい意見があったようだ。肯定的なものが少数。疑問を問いかけるものも少数。



 コメントの中で目に付くのがあった。本当ならここで素敵なファンがつくのだろう。でも僕のやっていることに人々はついてこない。


 一部のコメント抜粋


 閉塞的な社会で好き勝手やる貴女が好き。


 私にはできない。嫌われることを想像するだけで怖い。


 人から嫌われると報復が待ってるぞ、恐ろしくないのか?


 悪に目をつけられないの?


 大怪人相手に無双して、経済界にも煽って、怖いものないん?


 鵺って地方悪だろ?ザギルツやフォレスティンよりも強いのか?


 ロッテンダストさん、どうして大怪人を生かして返すの?


 大怪人を殺せ、悪を滅ぼせ


 お金で動くだけの資本主義者。


 自己責任


 お前が嫌い。


 くたばれロッテンダスト


 性格も態度も悪い。もう少し言動を慎んでは?


 他多数の長文コメントもある。だがいちいち気にしてはいない。本当の数少ないファンがいるだけで、ほぼアンチばっかりだ。反対勢力と逆張り勢力ばかりだ。仲間などいないし、したいとも思わない。必要なのは再生数と情報伝達能力。その機能のみだった。




 否定的な9割にも、一割未満のファンに対しても返信は変わらない。ある動画を投稿したのだ。その再生数の確認だった。もちろん好感などを得られる内容にしてない。


 ロッテンダストの姿、八千代の寂れた街をバックに映像はとられていた。何もない、農道とぼろぼろの国道が交差する田舎地点。住宅地すらなく、文明が崩壊したように農地は大穴があいていた。戦闘あとと思わしき傷跡が国道に刻まれている。また道路を囲む縁石なども砕けた箇所多数。


 それを背景に両手を後ろに回したロッテンダスト


 無邪気そうに煽っている。ネットではいい人風評が若干あったロッテンダスト。その風評を悪評に変えかねない動画になった


 映像上のロッテンダストは朗らかに笑ったままだ。


 



「みんな、かわいそう。 一生懸命生きてない。だから他人の行為が目につき、否定したくなるんだよ。失敗が怖くて挑戦できない。それでいて中途半端に賢くあろうとしてる。知識だけを高めているだけで、行動しない。時間を無駄にし、努力をする人を馬鹿にしてる。他人を馬鹿にしている間、その頑張って行動した人たちは経験をつんでる。無為に過ごした時間が徐々に差を開かせるんだよ?」



 肩をすくめた映像上の魔法少女。首を軽くかしげながらも不敵な態度を崩さない。


「君たちは何もせず、他人を否定するだけだ。直接発言するならともかく、心の中でため込むだけなんだ。行動する勇気をもたず、いつもと違う行為を躊躇う。君たちは一歩を進めず、立ち止まっている。君たちの人生に未知も進化もない。時間がたっていくうちに老化し、退化していくだけなんだ。短い人生を無駄に生きていく。そのくせ真面目に生きていると錯覚する」


 人差し指をたて、眼前の前でたてて屈託のない笑みで語る。性格も言葉も悪い魔法少女ロッテンダストが映像上で煽り立てる。

 

 思い違いだよ?と囁くような音質で言った。そのまま紡がれる言葉たち。


 「無言で無表情を取り繕って、周りに合わせているだけだ。意見を求められた際にも何も言わない。話し合いの場でも誰かの意見に自分をすり合わせていく。その際の会話を頭にいれてはいても、記憶していないんだ。やる気がないんだよ。誰かの提案に乗ることもしない人すらいる。重要なことでも聞かないんだ。あとで問題が起きても聞いてないとかいって騒ぐんだ


 君たちは察してほしいのに、察してもらえない。集団に溶け込めない。孤立はしたくないから、端っこでひっそりいる。


我慢して鬱憤をためるんだ。心とかネットなどの自分の得意フィールドで喚くんだ。提案した人、行動した人の文句を抱くんだ。そうしていけば、錯覚するんだ。自分は優秀で物事がわかり、周りは無能。自分は繊細で努力家。ほかの人らは繊細じゃなく、図太くて察しが悪いとかさ。ほかに自分の感情がないって錯覚とかね。感情を外に出さず、ため込むだけ。意見があっても言わないんだもん。そりゃ感情の出し方忘れるよね?でもちゃんとあるんだよ?


 自分は何もしないが、実力がある。証明ができない虚飾の実力。そう願っているだもんね。それって裏返せばプライドが高いってことだよ?認めたくないっていう現実逃避そのもの。わかってくれない周囲が悪くて、自分は悪くない。心の奥底で泥がたまった感覚になるんだ。言語化ができなくなるんだよ?感情の出し方がわからなくなって、実感がわかなくなるの」


 

 長文をひたすら早口で語り煽る映像上の僕。口元が小さく細まり、頬がわずかにしぼむ。でも熱を帯びたかのような眼がカメラ目線で送られた。


 囁き声が間に挟まる、その言葉は最低のものだった。


 君たちは怠け者だと告げ、独り言を続行。


「自分勝手で我儘。協調性もなければ努力もしない。周りを見下して、コミュニケーションといったものを放棄。自己評価が非常に高く、優秀だと錯覚。周囲にひがみをもち、普通の恋愛や仕事話を強く拒絶。周りに溶け込めないのを人のせい。そのくせ君たちは失敗したときは殊勝な態度をとるよね。でもそれだけでおわっちゃう。本人の心情はともかく、実態として反省もしない人間に見えている。危機は抱くが対策しない」


 映像上の僕が口元に指を立てていう。薄気味悪さを感じる微笑をもってだ。


 


「周囲から孤立してるとね、自分が基準になる。だから自分の感性とあわないものは全部見下すんだよ。見下していた相手と仲良くなる気もない。自分が考える効率と合理性。それを伝えもしないのに、相手がしないといら立ち覚えたりね。そのくせ相手から自身の非効率とか非合理性を追求されると不機嫌になるんだ。いい性格してるよ。

 他人の不幸は他人の自己責任。自分の不幸は他人の責任。そういう屑行為を君たちはしてるんだ。自分は他人と違うと思い込んでて、実は嫌われることばっかりしてるってね」



 映像上の僕がくるくる回る。右腕を斜め上へ伸ばし、左手は真逆の斜め下へと伸ばす。一つの線を腕で伸ばして形作る。一人でその場で回る。足元が駒の軸先になるように、くるくる体を回す。


 回転中のロッテンダストの顔がカメラに一瞬移る。口先が動き出した。





 「僕は凡人だ。君たちも凡人だ。人間なんてね、能力自体、平均的なやつばっかりだ。ほんの一部天才がいるだけだ。君たちは天才の立場じゃない、僕と同じ凡人だ。あとは状況次第ってことかな?環境に適応するための教育の場がなければいけない。まともな家庭がない人はしょうがない。そういう運命だでもさ君たちの大半は違うよね?スマホもパソコンもある。衣食住が保証されているだけで、立派なことじゃん。安定した環境にいるのに、頑張らないの?悪の組織や経済界の搾取のせい?憲法も法律も糞なせい?」

 

 映像上の僕の回転が止まる。頬が赤くなり、艶めかしさすら感じる濡れた唇。映像上のロッテンダストが舌を小さくだし、唇をなめる。清潔で、汚れも知らない舌の動きはどこか。大人的な印象すら漂わす、魔性の少女にも見えた。

 

 

「世の中が糞なのと君たちが糞なままは話が違うよ?」


 冷めた顔して汗一つない。挑発的な様子をもって両手を広げて披露。きれいな手だ。しわも汚れもない。幼き手にして、苦難も苦痛も知らないような真っ白さ。タコ一つすらない手が怪人を殴打してるとは考えにくい。それほどの美しき手を見せびらかして、両頬に親指を合わせた。



 


「どんな屑でも立ち直れる。糞な人生を直す気さえあればね。僻みで歪んだ精神を立て直す気があればの話。素直になって頭を下げろ、自分の感情を抑えて、他人の意見を取り入れなよ。自身にも心があるように、他人にも心がある。その当たり前をわかっていなかったことを反省しろ」


 カメラ目線で微笑。頬についた、くぼみのついたえくぼ。年相応以上の幼さと大人の境界線。その雰囲気を演出したままだ。



「他人に感謝しろ、最初はその程度でいいんだ。人間は行動すると徐々に次の課題が見えてくる。それほど高い知能をもったのが人間だよ。君たちは自分の実力を過大評価もしているけど、過小評価もしている。今の君たちは無残なものだけど、未来の君たちは課題と答えを手にしていることだ」



 君が変われば、世界は変わる。


 そう残して動画を打ち切った。

 

 

 ほぼ否定的なコメントでうもった。低評価ばかりもらった。高評価が1割未満、低評価が残り。そんなものだろう。自分より年下に言われたことへの屈辱も感じるコメントばかりだ。素直になれない人間はいつだって損をする。誰だって相手の意見で動くわけがない。他人を変えるなど傲慢だ。そんな時間があるなら自分を変えたほうが効率的だ。


 こういうやつらを切り捨てる。


 それが一番効率的だ。


 否定的な人間は、社会から切り離される。そうやって孤立し、加齢によって相手からも自分からも評価の基準があがる。相手は年相応のことを求め、自分は年を理由に配慮を願う。そのギャップが格差を生み、区別を作る。


 年をとった人間を嫌うほど、現代人は残酷じゃない。

 

 年をとって退化する人間に求められるスキル。とくにコミュニケーション能力の有無。これは年をとってからが本番。スキルの有無がない人間もコミュニケーション一つで成り上がれる。逆に言えばコミュニケーション能力が低いとどうにもならない。


 


 社会は効率を求める。


 コミュニケーション能力が高い人間がいるだけで周囲は仕事がやりやすい。そのやりやすさを作る人間は非常に重宝される。その事実を否定的な人間は理解できない。




 できないやつらだけが嫌われる。


 それが真実なだけだ。



 投稿した理由。


 ほとんどの動画、応援コメントがなかった。アンチコメントばっかりで腹が立った。むかついたから感情のままに撮影し、一切編集せずに投稿してやった。数十とかぐらいの否定コメントなら許した。数百も否定のコメント。顔真っ赤にして怒りに震えたまま、撮影。投稿。


 魔法少女でも可愛い系を目指さず、煽りばかりだ。挑発と暴力と蹂躙ばっかりしかしてない。収益の一つとして動画もとるけどもだ。でも利益など見込んでいなかった。媚びてないし、必要以上の頭を下げない。誰かにとって都合の良いキャラクターを演じる気もない。


 だから伸びない。


 その真実をとっくに受け入れている。



 僕は動画サイトの画面を変えた。適当なニュースでも調べようと入力画面を開いた瞬間だった。


「?」


 


 僕はワイヤレスイヤホンを外した。外の動きが変わった。視界に見える先、見渡す限りには何も変化はない。警戒しながらショッピングを楽しむ人々。スーツを着た社会人の姿、スマホを片手に動画を撮ったりする男女。スマホの画面を二人で共有して笑い合う女性陣。




 そう日常だ。



 だが僕は目を鋭くした。スマホのバッテリーを外す。その凶行にぎょっとする人の視線も届くけど無視。スマホのバッテリーは交換式じゃなく、一体型になった。その一体型のスマホの背面をはがして、バッテリーを取るのは凶行そのものだ



 ちゃんとした理由があるのだけど、たぶん理解はできないだろう。




 上空から届く気配。歩道のガードレール先の道路。向かい側の歩道を挟み込むビル群。ビルとビルの間に挟まれた空間に様々な視線が空から届く。



 殺気に近い。


 また急激に遠くから届く複数の足音。足音が行進するかのように揃っている。数百の足音が綺麗に揃い、視界の端の車道から姿を現す。左右の車線をふさぐのは軍人だ。若者の軍人。15歳以上20歳未満の男女が前を見据え、車道を更新する。



 また逆側の車道からも軍人が姿を現す。

 


 車道だけじゃなく歩道もふさぐように軍人が並ぶ。この大通りが突き進む道が軍人によって遮られた様子。歩行者が軍人をいぶかしげに見て脇をすり抜けようとした。だがその歩行者の肩をつかみ、元居た場所へと突き飛ばす。


「この先は通行止めだ」


 静かに告げられた兵士の命令。その言葉とは裏腹に手段は乱暴だ。



 飛ばされた歩行者が足をもつらせ、しりもちをつく。


 突如の凶行に人々は一瞬静まり返る。


 だが突き飛ばされた歩行者が立ち上がる。状況がのみこめず、一瞬呆然としていた様子だった。だが怒りがわいたのだろう、突き飛ばした兵士まで歩み寄っていた。


「ふざけんな!」



 また車道をふさぐ軍人にも人々の抗議があった。


 

 一部馬車がクラクションを鳴らす。御者の足元に突起したペダルがある。そのペダルを踏むとクラクションが鳴る構造。そのペダルを踏み続けていた。ピーっと耳障りな音が大通りを包む。それでも無視し続ける軍人。御者が怒りのあまり手綱を持ち上げたまま、抗議。


「とっととどけよ!低学歴が!お前たちの給料は税金だろう!将来安定した仕事ができないから、若いうちから公務員にさせてやってんだ!俺たちの邪魔をすんじゃねぇよ!」


 大声を響かせた。その言葉に軍人の視線が集中した。周囲を取り囲む軍人。大通りを封鎖したものや、ビルからの殺気が全部御者に向いた。



 さすがの連携した軍人の集団視線はおびえたのか。わずかに体を震わせながらも御者は強がった様子。


「なんだよ!税金なのは事実だろ?企業の税金、立派に民間で働く労働者の税金で飯食ってんだろ!正論いわれたからって逆切れしてんじゃねぇよ。道路邪魔してんのは、てめぇらだろ」



 集団の軍人。大通りを封鎖して囲む軍人の集団から一人出てきた。その姿に見覚えがあった。確かロッテンダスト状態の僕を逮捕した士官。


 立場は少尉のはずだ。

 

 少尉が御者と軍人の間に立った。


「…税金で食いたくて食っているわけじゃない」


 きわめて冷静さを取り繕った様子。頭を軽く下げたように、震える少尉の体。御者も震えているが、真逆のものだろう。この僕でもわかる。少尉は怒りを抱え、相手への牙をむこうとしている。


 だが軍人の視線だけじゃなく。人々の視線が御者や軍人に向いている。その中で冷静になって手を引けるほど大人というのは甘くない。御者が相手の下げた頭と周囲の視線に後押しでもされたか。



「うるせえよ!お前ら低学歴、お前ら底辺はいつもそういうんだ!憲法で無理やり軍人にさせられたってな!だがよ、国の立場になってみろよ、お前ら失うもの何もねえだろ!そういうやつらがいるだけで、何が起きるかわかったもんじゃねぇよ!恨むなら国や働く俺たちを恨まずに、親や自分を恨めよ!!お前の親もお前たちも努力が足りなかった!」



 吠えた。


 僕は思わず、頬がひきつるのを感じた。別の命の危機を感じたわけじゃない。この場、この瞬間に問題ごとを起きることを避けたかった。


 

 そして御者が告げてしまう。



「自己責任だろ!!」



 その馬車に向け、赤いレーザーポイントが密集する。ビルの上階からの真下の大通りへ。馬車をひとつを狙うには多くの赤い点が集中。



 その点に気づいた御者が戸惑う。


 それでいて気づく。この点の正体に。



「ま、待って」


 その言葉が続くことはなかった。


 返事は炸裂した火薬音が答えたからだ。



 激しい音の雨がなる。弾丸の車線が馬車ひとつを根絶やしにせんと飛び交う。上空からの鉄の雨が馬車を貫き、血を噴出させる。馬車にのっていた人間の悲鳴も響いたが、すぐやんだ。御者の体も腕がちぎれた。足が皮一枚でちぎれて、赤に染まった。


 引いていた魔獣も死んだ。




 その一瞬に静寂が訪れた。



「きゃあああああああああああ!!!!!!!」「うわあぁあっぁぁぁぁぁ!!!!!」


 もはや言語化できないほどの叫びがあふれた。悲鳴が届いた。人々が恐慌状態になり、パニックとかした。歩道を封鎖した軍人が突撃銃の銃口を向けた。人々に対してだ。パニック状態で助かりたい人々。背中をむけて逃げようとするする体には鉄の雨がふりそそぐ。


 そして引き裂かれ、地面を赤く染めた。


 道路にあふれる血の雨は下水溝へ流れていく。



 必死に軍人の包囲を突破しようと騒ぐ人間もいた。その人間は突進して軍人の包囲を崩そうと願ったが、小銃の発砲にて頭部を破裂させられた。


 また歩道の両脇にある店に逃げ込む人々もいる。だが発砲音でその動きは止まった。


 用意周到だ。もともといた客人や店員などには攻撃した様子がない。新しく逃げようとしたものへの攻撃。

 


 うずくまる人々への攻撃はされていない。立ち止まる人々の体を無理やり誘導する動きはあった。だが指示に従う人間への攻撃はなされていない。その様子を見て、僕は両手を小さくあげた。その際に用事がある相手は店中にいた。



 だから首を小さく振って、指示だけはだした。関係がないように顔は向けない。



 やがて一か所へと誘導される。車道の中心。逃げずに、慌てずに、刺激しないよう震える人々。軍人が銃口で行くべき場所を指し示す。そうやって案内されていく。僕ももちろん軍人に誘導されたので、その場所に移動した。



 人々は集められ、車道への中心へと誘導。車道を封鎖され、馬車で逃げようとしたものは射殺。逃げずに立ち止まっていたものは外へ連れ出された。それで同じ個所へ誘導された。車道と歩道をまたがるよう大勢の人々。それら人々を薄く囲む軍人たち。


 軍人たちが銃口を下げているものの、引き上げれば掃射される。


 そんな中でもだ、人々の中に勇気があるやつがいたのだろう。


 軍人に取り囲まれた車道。その中にいる人々。その人々のうち一人が囲む男の軍人に訪ねていた。その男は少尉だ。この場における軍人の最高位の立場。僕を逮捕した責任者だった男は今やテロリスト。


「何が目的なんですか?」


 軍人に恐る恐るといった感じで訪ねていた。だが少尉は言葉の返事をしなかった。少尉の周りにいた年若い男女の軍人が互いに顔を見合わせた。それで嘲笑をもって、尋ねた人へ振り向いた。少尉の前に出て二人は出た。



 答えは暴力だ。


 男の軍人がこぶしを振り上げ、尋ねた人の顔面を殴り飛ばす。訓練をされた兵士のこぶしだ。一般人にはどうしようもなく、地に伏せた。鼻が折れたのか、必死に顔面を片手で覆う。覆った指の隙間から血液が漏れ出ていた。

 男の軍人と入れ替わるように女の軍人が躍り出る。


 その質問者の腹部へ女の軍人が何度も蹴り上げた。



「質問するんじゃねえ」


 男の軍人が嘲笑交じりに見下し告げた。振り上げたこぶしを崩し、懐へ手を忍ばせていた。また女の軍人は執拗に腹部をけり続けていた。愉快気に笑う女軍人も合わせて口を開く。


「何が目的って考えれば?年上は好きでしょ?自分で考えろって、他人や社会に頼るなってさ」


 何度もけり続ける女軍人の肩に触れた少尉。その行動に蹴る行為をやめ、一歩引いた。愉快気に笑う女軍人の視線の先は男軍人の手だ。


 そこに握られたのは小銃。小銃が転がる人へと向けられた。



 その小銃の姿に人々は再び息をのむ。また尋ねた人は転がり痛みの中、必死に懇願。


「質問してごめんなさい!どうか命だけは!」


 涙もそう、蒸気を股間から発生させながらだ。しかしながら慈悲はない。脇から近寄った少尉が腹部を踏みつけ、かがむ。手を肩越しに伸ばし、男の軍人がその手に小銃を手渡した。少尉は銃を眺めた。其のあと、銃口を懇願する人の口に突っ込んだ。



「高学歴で優秀な人間さま。こういう時なんていうか知ってるか?」


 陰湿さを含めた表情の歪み。少尉の表情がそう変化し、懇願していた人は末路を悟った気配。大きく悲痛な声にもならない叫び。


「自己責任だ」



 そして発砲。


 血肉が飛び散った。顎だったものが転がり、頭皮だったものが内容物とともに宙や地上に降り注ぐ。降りかかったほかの人々は絶句。悲鳴すら上げれず、絶望に飲まれていたようだ。

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