少女でおじさんな悪 21
愛と勇気の物語
おかしな点があれば後日修正
結城市の悪にとって滅びの日だ。
筑西市からの攻撃侵攻軍だ。二つの部隊による破壊活動が始まった。二部隊は一部の戦力を筑西市に残しているものの、戦争は侵略側が優勢だ。
上空からの爆撃が最初の挨拶だった。朝の透き通った空気が、燃え盛る排煙とともに台無しになった。
灰色のカラス集団を率いる上級怪人クロウ。鳩部隊が上空を思うがままに飛び回り、地上へ爆撃を開始。魔法攻撃や羽攻撃による精密射撃。様々な空からの落し物が相手の混乱を作り出す。
また陸上からの突撃部隊。屈強な動物系怪人が多数を占める集団。それを率いる上級怪人シャークノバ。空からの掩護爆撃による混乱の中、地上の獲物を刈り取っていく。
戦況は鵺側に終始有利だった。かつては周辺勢力でもまとまった筑西市ですら、八千代の手出しによって解体。中小零細悪の集まりにされた。そこを刈り取られ、鵺の支配下に陥った。それよりもはるかに劣る悪しかいない結城市。
結城市も八千代の介入によって、悪はバラバラにわかれた。一つの組織が複数まみれの悪組織だらけだ。一つの市の中の、複数の悪がまとまった地域最大悪を相手に持ちこたえるわけがない。結城市それぞれの悪がまとまれば、話は別だろう。
だが、まとまるには時間が足りない。
侵略の手が早すぎた。
悪が滅んでいく。零細の悪が消され、中小ほどの悪も消されていく。鵺の侵攻部隊はシャークノバ。上級怪人だ。一つの市に上級怪人一体いれば優れた悪となる環境。そんな中で鵺は上級怪人を何体も抱え込んでいる。
勝負になるわけがない。
悲鳴。
悪側の悲鳴がとどろき叫ぶ。
地獄の宴が弱者に訪れていく。
戦争どころか、ただの殺戮。
爆撃が続く。激しい戦闘音が一方的に引き起こされ、無残な地上社会が目の当たりになる。
結城市の一つの悪、ボスをシャークノバに殺害される。鳩部隊が零細悪を一つ爆撃して崩壊させた。上級怪人という質もまけた。また零細悪がもつ怪人数など一体か二体ほど。中小悪も数体いればいいほどのもの。
鵺の侵攻部隊は戦力を一部残しているようだ。
シャークノバ部隊15体。7体を筑西に残しているようだ。
鳩部隊、12体。10体ほどを筑西に配置しているようだ。
その手抜き戦争ですら、怪人数が追い付かない。全体数であれば追いつくのだろうが、それを支配できる固まった悪はない。
殺戮される悪が悲鳴を上げる。
「ロッテンダストを逮捕したら、鵺が暴走しだした」
結城市悪の誰かがこぼす。殺戮の最中の中で、悲鳴をあげた。
人類への恨み。一都三県への恨み。いくら弱小でも、ロッテンダスト逮捕の情報は流れていた。第三者が流したからだ。それらの情報源は誰かは不明。しかしながらロッテンダスト逮捕によって八千代の力が激減するどころか、周辺は大きく荒れ果てた。
八千代と下妻の停戦。
これを引き起こしたのは逮捕劇からだ。
いがみ合ったままであれば、拡大は起きなかった。それらを解決させたのは、一都三県側のアプローチによるものだ。そうロッテンダストだけが敵じゃない。鵺もまた結城市の悪にとっての脅威だ。
常に戦争は目の前に起きている。
炎が市街に回る。元々廃墟だった建物が崩れていく。手つかずの雑草で荒れ果てた空き地。空き地が火炎によって焼野原になっていく。
死んでいく怪人たちが言葉に乗せた。爆撃という空からの攻撃。手も足も出ない一方的な破壊活動。それの直撃によって、肌が黒焦げとなった怪人たち。死にかけであり、歩みすらままならない。ゆらりと軸がぶれながらも、逃げようとする本能。
どの系統かすらわからないほど傷を負ったものたちだ。そんな無残な怪人が複数逃亡。逃げ道も行く先もわからず、道があるから進むだけだ。
死に迫る怪人たちの誰かがこぼす言葉。
「ロッテンダストが逮捕されなければ」
悪側にすら、求められる始末。
鵺の侵略戦は過激だった。良くも悪くも八千代は手出しはしてくるものの、侵略はしてこない。手をだせば過激に報復される。報復されるが、手出しさえせずにおとなしくしているならば、戦争はなかった。
「ロッテンダストに手を出すなよ、殺されるだろうが」
結城市の悪は今日滅ぶ。複数いた悪もまとめて一掃される。
弱者は蹂躙される。
どこまでも無残に強者のなすがままによってだ。
だが悪もまた、弱者である人類を蹂躙してきた。だからお互い様。お互い様だが、怪人にそこまでの意識はない。あくまでも被害者意識によって非難するのみだ。罵倒をしつつも逃げ出す始末。
黒焦げになりながらも、逃げだす怪人たち。
その前方に最悪が現れた。
人間だ。
8名ほどの巨大な黒狼にのる人間たちだ。誰もが一騎当千の力をもつ、化物集団。八千代の武力たちだ。男女それぞれ4人ずつだ。美貌もモデルのように整ったものたちだ。統一された冒険者のごとく身軽な服装。魔物の皮を使用した耐衝撃のジャケット。同じ素材を使った踝まで伸びたズボン。
そいつらが弓を構えて、乗られた黒狼も鼻息を荒くしている。
今か今かと牙をむきかけている。
魔獣騎兵8体の存在。重圧も脅威も奏でる黒狼の獰猛な息遣い。獲物として見られている。黒焦げになってなお、目的地がわからない避難劇。そのさなかに出てきた恐怖の部隊。
「最悪だ」
再び失意の声を誰かが出した。
敵が。
周辺勢力にとっての悪が怯える、最悪がやってきた。
八千代の武力。ロッテンダスト抜きにしても過剰な武力。少数精鋭でいて、人間のくせに怪人を複数相手にしても平然とする異常者たち。
魔法、肉体戦闘がそこらの怪人よりも超越している。こいつらならば空中を我が物顔している奴らも撃墜できるだろう。鵺の鳩部隊がいくら悪名高くても、八千代で飛べば数時間もしないうちに大打撃を受けることだ。
筑西も結城も、かつてはまとまった悪だ。一つの市に一つずつの悪があった。その親玉を殺し、分裂させた張本人たち。ロッテンダストを使わず、その手先である武力たちがしでかした。
奴らは化け物の集団だ。小さな一つの町に収まる程度の規模で、周辺を荒らしまわる悪夢。
過去を手繰れば、周辺勢力は一つの悪にまとまっていた。思想を同じくし、志も同じ。支配していた悪が同じだったからだ。
下妻、筑西、結城、桜川、つくば、土浦、その他いくつかの自治体を支配した悪。茨城最大勢力だった悪は県西地域、一都三県側に通じる自治体へ侵略の手をかけた。その際、手を出してしまった自治体。
八千代。
この町に手を出すものは例外を除き、滅んだ。
最大悪による怪人60体が攻勢をかけた。当時の悪での怪人60体を動員するのは珍しい。まだ東京7大悪という概念すらない時だ。都市部ですら、悪同士が分裂、吸収を繰り返す時代、まだまとまった悪は少なかった。
戦力規模であれば、当時の上位に入る悪。その大攻勢に耐えれるものがいるわけがない。
八千代の自治体ごとき、すぐさま支配されると思われた矢先
怪人50体が腐敗して、死んだ。
戦力を一極集中し、小出しにすることもない。防備もなければ人もいない。地方崩壊によって人手がいなくなった寂れた町。怪人60もの大軍勢など必要はなかったわけだ。過剰武力は県西地域を掌握し、一都三県へ殴り掛かるためのものだった
一都三県への中継点でしかなかった。
そう圧倒的支配者に理不尽が襲った。
たった一人の魔法少女によってだ。
その死体はすぐ殺されたわけじゃない。体の表面が腐敗させられ、神経も溶け出した状態。呼吸するだけの肉体と化した怪人たち。抵抗できないよう上半身と下半身で分離された状態。ゆっくりと嬲られた。嬲る相手は魔獣。蛆虫のごとく生命が分離部分をゆっくりと咀嚼して、殺害。その凶行はまさに外道。
可愛らしく、指を頬にたてながら外道をなす。
「魔獣も中々便利だったんだね」
侵略者を、茨城最大の怪人部隊をものともしない。まるで初めて魔獣を作って、試した時の様子。陽気さすら感じる頬のゆるみをもって、侮蔑してきたわけだ。
周辺勢力にとっての初めての脅威ができた。名はロッテンダスト。
50体もの怪人を失った悪、名はノヴァ。
また50もの怪人を率いたノヴァの首領は大攻勢のなかで行方不明。外道魔法少女によるノヴァ大虐殺あと、生き残った者たちは撤退。しかしながら下妻領内に撤退した中での独立運動が起きた。独立首謀者は蛙型の上級怪人。
名はティター。
現在は大怪人に至る、鵺の首領。付き従うは羽アリの怪人がそばにいた。
撤退軍を魔法による不意打ち。羽アリ怪人こと鵺の処刑人の初陣があったわけだ。もはや主力をロッテンダストに殺害され、士気もがた落ち。指揮系統すらぐちゃぐちゃだった。そこでの独立運動によって更なる大打撃。
羽アリ怪人による猛進した迎撃。
ティターノバによる魔法の連撃。
これらに耐えれるほどの士気はない。各自ばらばらに逃げ出し、大半が打ち取られた。
一部残ったものたちは、つくば市、土浦市へと逃れた。その撤退指揮官はノヴァ首領の片腕だった怪人だ。その怪人率いるものたちが現在もノヴァと名乗っている。
下妻を独立させたティターもノバを名乗っている。
これは単に鵺がノヴァの後継者であるとの当て名になるわけだ。鵺の首領は、鵺と名乗っている以上別組織である。別組織であるが下妻を支配する際に、利用した形になるわけだ。
人々を支配する際の、旧組織との政治の差を理解させるため。それらには前組織の悪名との比較が必要だ。悪が悪らしく外道をするのでなく。悪が悪らしく、まともな政治をする鵺へ。それでいて後継者を名乗る以上、周辺勢力を食い荒らす大義名分もできる。
ノバの後継者であるのは鵺であり、周辺を侵略しているわけじゃない。自分たちの失った領地を取り戻すためという大義名分。
ティターノバはノヴァの怪人ではない。だが後継者を名乗るのは自由。根拠はノヴァが支配していた土地を奪ったからだ。その土地を根拠に他人が同組織の継承者を名乗り、周辺が大荒れ。好き勝手にいじくり、かつての組織に所属する怪人たちも自由に動き出す。
ノヴァの首領がいなくなった。その中での残った実力者への繰り下げ移管として、トップが変わった形だ。
その権力移行が新しい首領に変わる中での騒動。
下妻が独立すれば、それよりもノヴァの拠点よりも遠い結城市、筑西市も独立。これらもまたノヴァの幹部候補だった怪人が独立をしたわけだ。現在は八千代の干渉によって、ノヴァの元幹部たちは殺害されている。
つまるところ同じ悪同士の争い。
実質的な内部闘争が起きていた。
すべての元凶、八千代。
元凶が結城市に手を出した。この時点で結城市の悪は完全に戦意を失した。黒焦げだった怪人たちが希望すら失い、生存を諦め死んだ。必死に逃げようとして命を紡いだのは意志。その意志が挫ければ、眠るように倒れていった。
逃避でなく、戦うことを決意した怪人もいた。遠目からの八千代の介入を確認したものたちだ。爆撃にも運よく晒されず、鵺の陸上部隊にも攻撃されていないやつらだ。鵺だけであれば逃げることも可能だったのだろう。
だが相手が悪い。
八千代は敵を見逃さないやつらだ。
生き残るなら戦って倒すしかない。
倒すしかないが、皆敗北を予測していた。見たものたち全員が死を覚悟した。今回のは本気の武力介入。
八千代もまた侵略戦争をしてきたと分ったためだ。
黒狼による魔獣騎兵8騎だけじゃない。その後方には自動車が一台。周囲を囲む歩兵部隊5名が待機。それぞれがロングソードを引き抜き、切っ先を正面へと向けている。その囲みの中、自動車のフロントドア前に数名ほどたっていた。
まぶたの上下に切り傷のある凶悪そうな男。黒の短髪であり、薄く角のたつヘアスタイルのやつだ。この場のものから団長と呼ばれ、手を後ろに回して立っている。あたりを睥睨し、警戒していた。その視線の先にいる二人。正しくは一体と一人。
一人は人形のように表情がない少女だ。濃い青色の生地に灰色水玉模様の上下一体のワンピースを着ている。八千代の孤児院をし、武力を率いた長。院長と化物武力集団から敬意を持たれる存在。その隣にいる一体は人間ではない。
迷彩服の軍服を好んで着る軍人かぶれ。紺色のベレー帽も趣味として被る、ピエロの化物。真っ白に染められたような肌。赤い丸鼻に白目が中心で周りが茶の色彩。人間がピエロを演じたようであるが、口元が耳付近まで伸びている。時折見える、巨大な牙。ベレー帽の隙間からあぶれた、ぼさぼさの赤毛。
Dランク中位、怪人ピロット。
結城市の悪にとって、ピエロの立場が状況の変化を悟らせる。
結城市の悪は震え立つ。絶望的状況でしかない。一番の興味を引くのは、八千代の武力を率いるのが最弱だということだ。院長は怪人から見れば弱い。だが悪を凍えさせる。死を覚悟させる。最弱の存在は悪を絶望させる。
八千代の化物を支配しているからだ。支配者らしく態度を変えることなく、いつも見る態度に変わった様子はなかった。
死があふれる中、表情が変わりやしない。
最弱のくせに、強者に怯えもしない。
怪人は人間よりも優れた耳を持つ者が多い。だから遠くの様子が聞こえる奴がいた。その緊迫した侵略される側と違う空気感が相手方に漂っていた。
院長のほそぼそとした声が悪の耳に届く。
「ピロットさん、三和王国の参戦助かりました」
言葉だけは礼を告げているが、一切の感情がこもっていない。軽く横目をながす院長の視線がピエロ怪人、ピロットを見定めている。その無の視線に体を縮こませたピエロ。このピエロは周辺の悪にこう認識されている。
三和王国の首領。
院長の無言の目線に恐れをなしているのか、必死に耐えきる様子。だが必死に取り繕った様子がうかがえた。
「もちろんですよん、八千代のためであれば嵐でも」
弱さを押し殺したようにも見え、元気にふるまうピロット。その怪人の取り繕った感情すらも無言の様子。じろりと観察したあと、大きく一回頷いてみせた院長。結城市の悪からすれば、この時点で力量差が歴然だ。
「助かります、八千代と三和王国はこれからも仲良くしましょう」
感情を一切こめなかった様子。冷徹な眼光がピロットを貫きながらも、言葉だけの友好を示す傑物。これを盗み聞きする悪たちは、言葉を失った。八千代をみて警戒するもの、鵺のせいで黒焦げになったものが諦めて死ぬ。
結城市の悪たちが本日知ったこと。
滅ぶこと。
三和王国は八千代の勢力圏になっていたことだ。
古河市に合併される前の、古河市、総和町、三和町の三つの自治体。その自治体、元三和町が現在の三和王国だ。古河市にとって南が元三和であり、八千代の隣同士。中心は総和、北側が古河。実態の領地は違うけれど、横に三分割すると分りやすいだろう。
古河市、その一部元三和町。古河市一帯を支配する悪から一方的に手元を切った。その代表がピロットであり、怪人は一体のみ。ピロット一体が首謀し、残りの配下は全部魔物だ。人語を話せない魔物はピロットとのみ会話が通じる。
念話を用いて、異種族との会話を成功させる実力者。
三和王国は古河市の悪から独立していた。
そして、八千代の植民地となっていた。結城市の悪にその情報は伝わっていなかった。徹底的な情報隠蔽によっての裏側での植民地。本日表向きに発表されたようなもの。
八千代と三和王国は敵対してはずだった。少なくても結城市の悪が知っていた限りではだ。
周辺勢力を容赦なく切り崩し、ノヴァを叩き潰した。八千代の実績が混乱を周辺に与えた。それが古河市にも普及していたことだ。古河市はノヴァの領地だったことはない。しかしながら、八千代の次は自分たちと危機感を抱いていたのだろう。ノヴァの強さは周辺勢力をはるかに超えるものだったからだ。
だが数少ない八千代にノヴァは敗れた。当時の最大悪のありえない敗北。
ノヴァが弱いわけじゃないことは知っている。なぜなら結城市も筑西市もノヴァの物になるまえに、部隊を派遣してもらっていた。その部隊がノヴァの手によって全滅もさせられている。
すぐ滅ぶであろう自治体が、ノヴァの大攻勢を切り崩した。そのすきに下妻の独立。鵺として新たに誕生し、周辺が内部抗争に陥った。混乱の大本にし、悪に対し一歩も引かない。逆にちょっかいをかけ、周辺勢力の元ノヴァ幹部を撃破。各自治体ごとにあった悪同士が分裂。
古河市の悪も震撼したはずだ。八千代側に調査要員を派遣。その派遣されたものがピロットだ。八千代の戦力を調べ上げ、実態を把握したのち、決断。能力を駆使し、古河市の魔物たちを支配下におさめた。その後すぐ独立。
この情報は結城市の悪も調べて知っていた。
その後独立騒動を認めず、鎮圧するための部隊が派遣。それらは一流怪人が率いるものだった。だが八千代側が地域安定と称して送り込んだ、凶悪面の男、銀髪の令嬢、団長と副長と呼ばれるものたちだ。ほかにも複数名の人間を派遣、鎮圧部隊を撃退。
撃退し、撤退している部隊に対し魔法少女。
ロッテンダストの猛撃によって、数体を残し壊滅。残った数体は現在の古河市悪の幹部たちだ。生き残った有能な怪人による報告があったと推測。上層部へ伝えられたはずだ。どう伝わって独立したかは定かではない。だが生き残ったものたちが必死に説得したはずだ。それらが信ぴょう性をともない、真実と化したのだろう。
自分たちの被害と八千代の武力功績が真実を作った。
古河市の悪は八千代に怯え、独立を承認。
三和王国として独立した。
ここまでしか結城市の悪は知らなかった。知らない所で実態が変わっていたようだ。
三和王国は八千代の植民地だと。
その植民地からも怯えられる八千代。
その支配者は院長だ。だからだろう、ピロットが院長に恐怖を隠してないように見えた。演技でなく本物の感情。必死に掌をつくり、その上に握りこぶしをおいて動かす。ゴマすりをジェスチャーでしているようだが、少女の表情は無のまま。
結城市や筑西の悪を解体。
鵺とも互角に渡り合い。
三和王国の独立を力づくで承認させた。
それらの立役者にして、元凶が院長だ。
軽く拳をふるえば、楽に殺せる人間。その人間が言葉一つで悪一つ壊滅できる権力があった。結城市の悪はロッテンダストよりも、武力集団よりも、院長の出現に絶望していた。圧倒的最弱は怪人から見てもわかる。生物強度というのだろうか、姿、形、態度をみれば存在の強さがわかる。
しかしながら、最弱な存在は八千代の武力から敬意を集めているようだ。あの悪名高きロッテンダストが指示に従っているのだからだ。
結城市の悪にとってつらいことがある。最弱の怖いところだ。
絶対に油断をしてくれない。
どこまでも注視してくる。
この最弱化物が姿を表に見せた時点で、八千代の本気がうかがい知れた。非常に警戒を示す歩兵5名と団長である実力者。魔獣騎兵8騎もいつでも襲えるよう準備すら整えていた。
これは蹂躙だ。少数による圧倒的暴力を結城市で実践する。その見せる相手は敵対者ではない。鵺にでもない。
植民地である三和王国の首領に対して見せるつもりなのだろう。
自分たちを利用してのデモンストレーション
逆らった際の未来を実践する。
結城市の悪たちが盗み聞きする中、院長がピロットに対し語っている。その中身すら届くものがいて、仲間に情報を共有する悪多数。
「鵺も八千代も、他所の土地で好き勝手します。あたしたちは結城市を奪還する予定です。もしかしたら先に攻めてる鵺が多く土地を取るかもしれません。ですけど必要な土地を鵺がもっているならば奪います」
宣言のようなもの。よその悪、この場合結城市の悪の意見もきかず、自分たちのものと驕り高ぶる言葉。だが誰も否定できなかった。八千代はそれができる。強者の自由意思を暴力でなすがままにできた。
「他所の土地なら、いくらでも」
含みを込めた物言い。無表情でいわれるピロット。それらに結城市の悪たちがぞっとする。
「好きなことしていいので」
他所の土地なら、損失はない。だから好き勝手にするという破壊宣言。
「三和王国さんも、あたしたちと同じだといいのですけど」
無の目が、見定めている。最弱がDランク上位である怪人を相手に決断を迫った。侵略される側か八千代側につき侵略する側になるか。参戦というか戦場にこさせたうえで、強要しているようだ。
滅ぶか、従うか。敵になるなら同じことをするという暗黙。沈黙が続く前にピロットが反応を返そうとする素振り。
大きな唇が開き、牙がのぞく。
「へ、へへへ。もちろんオイラたちは八千代と共にあるんよ」
死を突き付けられる時間、生きた心地がしないだろう。相手の機嫌を損ねないよう振舞うピエロ。表情が強張り、体が冷え込んだかのような動き。
結城市の悪が聞き耳を立ててる間の光景だ。遠くからの盗聴でもあるが、同情すら感じる。圧迫した空気の重さだろう。
三和王国と八千代の差。
ピロットは強い怪人だ。結城市の悪がまとまっていた際、古河市の勢力と争ったことがある。その際に戦闘を指揮したのがピロットだ。領地を奪い合うための侵略戦争。攻め手はこちら側。結城市の悪だ。その戦力怪人4体。これらの猛攻を防ぎ、古河市側の主力が到達するまで時間を稼いだ。
怪人相手では役立たずの魔獣、魔物を駆使して逆攻めをしてくるほどだ。
それらによって怪人が一体死んだりもした。防衛側の戦力の4倍を投入し、予備戦力として2体を用意。その2体は逆攻めしてきた魔獣や魔物の対処。対処が終わればメイン戦線へ。
その予備戦力すらも動員したうえで一体の死亡だ。
ピロットは強かった。基準を普通の悪として考えるならばだ。
その基準を八千代側にしてみると浅くなる。
八千代の一般的武力一人とであれば勝てるほどのもの。
いかれた化物たちが八千代にいるから基準がひどくなる。
八千代の武力一人はピロットより僅かに弱いだけだ。二人ほど加われば圧倒される。武力の中の団長、後ろにいる凶悪面の男が相手であれば即座に殺害される。この場にいない副長と呼ばれた令嬢が相手でも同様。
凶悪面の男からの殺気は結城市の悪たちにも届く。距離が離れているのにも気配が届くのは普通じゃない。残り香のようなものに畏怖するほど結城市の悪たちは落ちぶれていない。しかしながら過去の怖さを思い返し絶句するもの一同。
それをピロットは至近距離で浴びせられている。実力の差を感じさせられていることだろう。
ピロットは八千代の圧力に負けていることだ。
結城市は生贄だ。三和王国および八千代。筑西、下妻を支配する鵺。周囲をがちがちに固められた獲物。逃げる方面など栃木ぐらいなものだ。しかしながら面した小山市は一切の手を出す様子がない。鵺と八千代を相手にしたくないというものだ。
そもそも内部闘争である以上、周辺は手を誰も貸さない。
余計な火種を抱きかかえたくない。
そんな思惑が見えてしまうものだ。
また遠くから眺めて、聞き耳を立てていた相手側からの攻撃意図。院長が肩越しで指を前方へ向ける。その後すぐ、院長は両耳を指で抑えた。結城市の悪が行動に疑問に思うより事態が動く
院長の前に凶悪面の男が躍り出た。そのまま息を大きく吸った。
「駆けろ!」
息を一気に吐き出すように叫んだ。その発声主である凶悪面の男。大きく発した指示が戦況に急変をもたらす。前方の魔獣騎兵たちの動きが変化していくこととなった。
今まで抑えていたのか、殺気が戦場にあふれ出す。魔獣騎兵が横一列となって一気に駆け出した。黒狼が獰猛な眼光をもって、結城市の悪を牽制。魔獣は本来怪人には勝てない。だが八千代の黒狼はいかれたことに怪人を嚙み殺す。
現に魔獣騎兵が駆け抜けた市街地は、一気に大きく荒れた。
この地帯にいる怪人はトカゲベースの怪人が主力たちだ。同種族であるが、個体ごとに区別はあるのだろう。だが結城市の悪にとっては区別ができても、八千代側から理解されることはない。
近くにいた怪人たちが一気に首を取られる。様々な表情をうかべるトカゲ怪人たちの首。駆ける速度に合わせた兵がロングソードで通り掛けに首を狩っていく。切っ先が降られ、速度に乗せられた一撃をもってだ。
横一列だった隊列が、戦場をかける際に、3つにばらけた。矢じりのような陣になっていく。前に2騎、後ろに1騎。その組み合わせが2つ。残りは2騎が縦横無尽に周辺をかき乱す。結城市の悪が八千代によって混乱を増す中、必死に狙うは一騎で駆け回る奴だ。だが、その自由さは決して捉えられるものではない。
狩れるやつから狙おうとすれば、矢じりのような方陣の3騎に切り殺される。結城市の八千代側にいた悪は少し前の介入によって滅ぼされている。たった一つの市の悪。それをばらけさせた時点で希望などない。一つの悪として団結してても勝てないが。
死が舞う。
悲鳴が轟く。
駆ける足音が死の行進だ。
首が舞い、体が両断される。黒狼の牙によって噛みつかれてもがく怪人もいた。トカゲベースの怪人でも、赤の外皮。リーダー的立ち位置の奴だった。だが被害者になった。駆け抜けながら怪人の体を振り回し、周囲を甚振る武器と化す。その後、頭部をかみ砕いて殺害。肉片はその場に吐き捨てる始末。
こんなの勝てるわけがない。
誰一人攻撃が当たらない。トカゲの怪人が口から勢いよく水を噴射。鉄板や人の体を容易に貫通する威力。その水鉄砲が届く前に魔獣騎兵が駆け抜ける。届くのは、駆け抜けた後の影。また集団戦においての、背を互いに合わせ、正面を向いて死角を補う円陣。そこからの水鉄砲の同時発射。トカゲベースの怪人が吐き出す水弾丸の周囲攻撃。
それも当たったと思えば風の魔法で防がれている。魔獣騎兵たちが駆けながら展開する風の防壁によってせき止められた水。薄い風の障壁を削らんとする勢いだが、突破できず、威力を落としていく。あとは重力にのまれて地面に水が落ちていった。
インチキもいいところだ。
八千代が暴れまわる中、ゆっくりと歩むものがいた。八千代勢力、三和王国の首領だ。八千代の院長が死を見ながら無をもって観察。時折口元に何かを運び、咀嚼している様子はある。それらは戦場にいる結城市の悪からも見えてしまう。
手元に広げた包み。そこにある粒上のチョコ。一つつまんでは口元へ運ぶ少女の姿。
ピロットが院長に対し、表情を凍らせ、絶句。その様子を戦場から眺めさせられる結城市の悪たち。
この惨状を見て一時の食事をたしなむ化物。怪人が一方的に殺される現場に、堂々とチョコをたしなむ姿。
包みをピロットのほうへ差し出す院長。
ピロットが絶句した様子で、硬直。その硬直もすぐとかれ、遠慮するよう顔の前で手を振った。結城市の悪が滅ぶ間際に見る光景。
力関係は一目瞭然。
結城市の悪の死が、崩壊が、八千代の娯楽になっているようだった。
これらの様子が悪にとって致命的なダメージを与えた。
「ははは」
結城市の悪の誰もが乾いた声をこぼした。絶望しかなく、その先にあるのは確定した滅び。無気力とかした悪側のトカゲ怪人たち。自暴自棄、自尊の崩壊。己の武器や攻撃手段すら放棄、突っ立った。
それらの首が舞う。
空を舞い、死が広がっていく。
八千代の勢力の猛撃。結城市の勢力圏を大きく後退させていく。また逆側から迫る鵺の侵略部隊が空から陸からも同時進行。
土地の大体を抑えられて、多数の悪たちも駆逐された。
戦力も土地もないために、手も足も出ない
そして結城市が奪われた




